上 下
32 / 90

32

しおりを挟む
ライラの視点がしばらく続きます。
お付き合いください。
-----------------------------------



エルの淑女の礼はとても美しかった。
最後まで私を貴族の友達として扱ってくれるエルがエルらしいしかった。
エルはいつも眩しかった事を思い出す。
素直で家族や友達からも愛されていた。
人を疑う事や人を妬む事なんて知らないみたいに、私にとってまるで御伽噺のお姫様のようだった。



私の生まれる前にお父様の事業が成功し、国に貢献した事で一代限りの男爵の爵位を賜った。
私にとってそれは、ただのお飾りにすぎなかった。
どんなにステキなドレスを着ていても、成り上がり、とよく陰口を言われた。
聞こえるように言うのだから陰ではないかも。
そんなことを言われても、気などしなかった。
自分は爵位があろうが無かろうが関係なかった。
だって、エルとジェラールはいつも一緒にいてくれたから。
それがどんなに心強くて嬉しい事だったか二人はわかっていただろうか。
2人がいればそれでよかった。

時が私たちを大人に導くその中で、ジェラールが時々少しだけ疲れた顔をするようになった。
どうしたのか聞けば、なんでもない、といつもの笑顔で返してくれた。
そんな事がしばらく続いた頃、私たちは、ルルラ湖へ行く事になった。
ルルラ湖はジェラールの家であるコーベンヌ伯爵家の所有している領地のすぐ近くだったが、危ないからと行く事を禁止されていた。
何度も行きたいと3人でお願いして、少しだけ背が伸びた私たちにやっと許可は下りた。
でも、3人でルルラ湖へ行く事は叶わなかった。
それは、何度も来た事のあるコーベンヌ伯爵家の所有している領地にある別荘に3人で泊まった朝におきた出来事のせいだった。
その出来事をエルが忘れてしまったから、その出来事を口にする事を禁止された。
そして、それを境にジェラールのエルを見る目が変わった、と私は感じていた。
それまでしていた疲れた顔は、どこか鋭くなった。
そして、ジェラールのお父様であるコーベンヌ伯爵の事業の手伝いを始めたから、忙しいそうでなかなか会えなくなった。
エルも淑女教育が始まったとかで、やっぱり会えなくなった。
私は貴族に嫁ぐ事はない。
どうせ一代限りの貴族の娘なんてだれも相手にしない事はわかっているから。
相手にするのは今にも潰れそうな貧乏貴族、つまりお父様のお金が目当てだ。
そんな人になんて行くのは嫌だし、お父様も爵位には、拘っていない。
この国で同じ仕事をしている人はあまりいないので、爵位を持ってる、持っていないは職種的にあまり関係ないらしい。
それでも、貴族との付き合いを邪険にはできず、お父様の付き合いで夜会には顔を出していた。
エルもジェラールもいない夜会はつまらなかった。
その日も、一通りのあいさつ回りをお父様とした後、庭に面したバルコニーへと出た。
会場にいてダンスなど申し込まれる事はある。
しかし、お飾りの爵位を持つ娘など一夜の相手にしか見えないらしいから、こっちも相手にしなかった。
ふと見れば、続きのバルコニーの先に人影が見えた。
会場の明かりが時折漏れる。
それに照らされた時に見えたのは、正装したジェラールだった。
久しぶりに会えた事がうれしくて、足を向けた。
ボソボソと話し声が聞こえる。
邪魔にならないようにそっと近づいた。
話し声が聞こえなくなったら、声をかけようと近くまで寄ると、ジェラールがポケットから黒い小瓶を出し、それを男の人に渡しているのが見えた。
なんだろうと、それに気を取られてしまい、足元にある小石に気がつかなかった。
パチっと私の足元から鳴る。
小さく比較的堅くない石だったみたいで、私の靴の下で崩れてしまったみたい。
その音に気がつき私を振り向く顔は、ジェラール他に男女が1人ずつ。
とても驚ろかせてしまったようで、3人の目が見開いていた。
とても申し訳ない気持ちになって、口を引き結んでちょこんと頭を下げる。
2人は心配そうな顔をジェラール向けた。
誰かはわからない、私たちよりずーと年上男性と、よく夜会で見かける色恋の噂が耐えないご婦人だった。
その男性の背を押し、立ち去るように顎で促すジェラールが、とても大人に見えた。
2人がいなくなった事をこれ幸いとジェラールに近づく。

「仕事の話し?」

「・・・関係ないよ。」

「そうだけど・・・」

なんか、素っ気無い・・・。
襟を正し会場へと戻ろうとするジェラールの背に声をかける。

「さっきの小瓶・・・なに?」

立ち止まってゆっくりと振り向くジェラールはなんだか無表情。




しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

公爵様、契約通り、跡継ぎを身籠りました!-もう契約は満了ですわよ・・・ね?ちょっと待って、どうして契約が終わらないんでしょうかぁぁ?!-

猫まんじゅう
恋愛
 そう、没落寸前の実家を助けて頂く代わりに、跡継ぎを産む事を条件にした契約結婚だったのです。  無事跡継ぎを妊娠したフィリス。夫であるバルモント公爵との契約達成は出産までの約9か月となった。  筈だったのです······が? ◆◇◆  「この結婚は契約結婚だ。貴女の実家の財の工面はする。代わりに、貴女には私の跡継ぎを産んでもらおう」  拝啓、公爵様。財政に悩んでいた私の家を助ける代わりに、跡継ぎを産むという一時的な契約結婚でございましたよね・・・?ええ、跡継ぎは産みました。なぜ、まだ契約が完了しないんでしょうか?  「ちょ、ちょ、ちょっと待ってくださいませええ!この契約!あと・・・、一体あと、何人子供を産めば契約が満了になるのですッ!!?」  溺愛と、悪阻(ツワリ)ルートは二人がお互いに想いを通じ合わせても終わらない? ◆◇◆ 安心保障のR15設定。 描写の直接的な表現はありませんが、”匂わせ”も気になる吐き悪阻体質の方はご注意ください。 ゆるゆる設定のコメディ要素あり。 つわりに付随する嘔吐表現などが多く含まれます。 ※妊娠に関する内容を含みます。 【2023/07/15/9:00〜07/17/15:00, HOTランキング1位ありがとうございます!】 こちらは小説家になろうでも完結掲載しております(詳細はあとがきにて、)

挙式後すぐに離婚届を手渡された私は、この結婚は予め捨てられることが確定していた事実を知らされました

結城芙由奈 
恋愛
【結婚した日に、「君にこれを預けておく」と離婚届を手渡されました】 今日、私は子供の頃からずっと大好きだった人と結婚した。しかし、式の後に絶望的な事を彼に言われた。 「ごめん、本当は君とは結婚したくなかったんだ。これを預けておくから、その気になったら提出してくれ」 そう言って手渡されたのは何と離婚届けだった。 そしてどこまでも冷たい態度の夫の行動に傷つけられていく私。 けれどその裏には私の知らない、ある深い事情が隠されていた。 その真意を知った時、私は―。 ※暫く鬱展開が続きます ※他サイトでも投稿中

心の声が聞こえる私は、婚約者から嫌われていることを知っている。

木山楽斗
恋愛
人の心の声が聞こえるカルミアは、婚約者が自分のことを嫌っていることを知っていた。 そんな婚約者といつまでも一緒にいるつもりはない。そう思っていたカルミアは、彼といつか婚約破棄すると決めていた。 ある時、カルミアは婚約者が浮気していることを心の声によって知った。 そこで、カルミアは、友人のロウィードに協力してもらい、浮気の証拠を集めて、婚約者に突きつけたのである。 こうして、カルミアは婚約破棄して、自分を嫌っている婚約者から解放されるのだった。

最愛の側妃だけを愛する旦那様、あなたの愛は要りません

abang
恋愛
私の旦那様は七人の側妃を持つ、巷でも噂の好色王。 後宮はいつでも女の戦いが絶えない。 安心して眠ることもできない後宮に、他の妃の所にばかり通う皇帝である夫。 「どうして、この人を愛していたのかしら?」 ずっと静観していた皇后の心は冷めてしまいう。 それなのに皇帝は急に皇后に興味を向けて……!? 「あの人に興味はありません。勝手になさい!」

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめることにしました

結城芙由奈 
恋愛
【余命半年―未練を残さず生きようと決めた。】 私には血の繋がらない父と母に妹、そして婚約者がいる。しかしあの人達は私の存在を無視し、空気の様に扱う。唯一の希望であるはずの婚約者も愛らしい妹と恋愛関係にあった。皆に気に入られる為に努力し続けたが、誰も私を気に掛けてはくれない。そんな時、突然下された余命宣告。全てを諦めた私は穏やかな死を迎える為に、家族と婚約者に執着するのをやめる事にした―。 2021年9月26日:小説部門、HOTランキング部門1位になりました。ありがとうございます *「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています ※2023年8月 書籍化

夫と親友が、私に隠れて抱き合っていました ~2人の幸せのため、黙って身を引こうと思います~

小倉みち
恋愛
 元侯爵令嬢のティアナは、幼馴染のジェフリーの元へ嫁ぎ、穏やかな日々を過ごしていた。  激しい恋愛関係の末に結婚したというわけではなかったが、それでもお互いに思いやりを持っていた。  貴族にありがちで平凡な、だけど幸せな生活。  しかし、その幸せは約1年で終わりを告げることとなる。  ティアナとジェフリーがパーティに参加したある日のこと。  ジェフリーとはぐれてしまったティアナは、彼を探しに中庭へと向かう。  ――そこで見たものは。  ジェフリーと自分の親友が、暗闇の中で抱き合っていた姿だった。 「……もう、この気持ちを抑えきれないわ」 「ティアナに悪いから」 「だけど、あなただってそうでしょう? 私、ずっと忘れられなかった」  そんな会話を聞いてしまったティアナは、頭が真っ白になった。  ショックだった。  ずっと信じてきた夫と親友の不貞。  しかし怒りより先に湧いてきたのは、彼らに幸せになってほしいという気持ち。  私さえいなければ。  私さえ身を引けば、私の大好きな2人はきっと幸せになれるはず。  ティアナは2人のため、黙って実家に帰ることにしたのだ。  だがお腹の中には既に、小さな命がいて――。

私が愛する王子様は、幼馴染を側妃に迎えるそうです

こことっと
恋愛
それは奇跡のような告白でした。 まさか王子様が、社交会から逃げ出した私を探しだし妃に選んでくれたのです。 幸せな結婚生活を迎え3年、私は幸せなのに不安から逃れられずにいました。 「子供が欲しいの」 「ごめんね。 もう少しだけ待って。 今は仕事が凄く楽しいんだ」 それから間もなく……彼は、彼の幼馴染を側妃に迎えると告げたのです。

処理中です...