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奥編 moglie
55:砂漠の一夜 Pernottamento nel deserto
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周囲は砂と岩が遥々続く。
うぅむ、困ったなぁ。砂漠の中で迷ってしまった。
"こん?"
黄蘭が左肩の上で首を傾げる。
今日はひとりで砂漠に出て、新型のスリングショット弾を確認しているのだが、ここが何処か分からない。
砂と岩しか見えないので目標がない。
日も傾いて来たの今夜は野宿になるなぁ
黄蘭も居るから警戒は大丈夫そうだ。
今夜の野宿の場所を探す。
少し大きい岩の陰にテント・パックを展開する。
こらこら黄蘭、遊ぶんじゃない!
とりあえず竃を二つ造り、お茶の用意をする。
なんだか、モンスターがほとんど出て来ない。
黄蘭をモフりながら、ちょっとだけ気を許した時だ。
「ここで野宿していいかな?」
はっとして振り向くと、騎乗しているひとりの少女がいた。
全く気配を感じさせない。警戒中の黄蘭ですら気付かなかった。
柚葉色の上下に朽葉色のブーツ、織部色のロングコートを身に着け、白い美しい毛並の一角獣に騎乗している。フードを深く被っていて、顔が良く見えない。
「はぃ、問題ありません」
「ありがとう」
彼女は、一角獣から降り、手慣れた様子で野宿の準備を整える。ロングコートの間から見える剣が非常に凝った意匠なのが気になった。
作業が終わると、近くに座った。
付いて来た一角獣がじっと黄蘭と見合ってる。
「おや、珍しい。“ひとつ„ が警戒してる」
「 “ひとつ„ って?」
「あぁ、この子の名前。額に星がひとつでしょ」
可愛い声で微笑む。
どうぞと言って、淹れたてのお茶を差し出すと、自前のマグカップで受け取ってくれる。
「美味しい。良い茶葉ですね」
フードを取ると、黒髪のショート、栗色の瞳、地味な顔立ちだけど笑顔がとても可愛い。
「どうして近くに野宿を?」
「こういうときは、安全のため人が多い方が良いでしょ」
ロングコートの間から見える略綬は数えきれないほど、ベテランに違いない。
「あの、どうしてこんな所に?」
「いつもふらふらしてるからね」
可愛くはぐらかされる。
日も陰って、段々暗くなって来る。
夕食は簡単に済ませて、早く休むことにする。
「夜に交代で警戒する必要はないよ。ひとつは優秀だから」
彼女は冒険者として、ボクよりベテランだから、言う通りにする。
黄蘭も警戒は優秀だから心配はないだろう。
テントに潜って休む。黄蘭も直ぐに潜り込んで来る。暖かいんだよね。
もふもふしながら横になる。
夜中に黄蘭の様子で起こされる。警戒が尋常じゃない。かなりの大物のようだ。
直ぐに飛び起きてテントから出る。
彼女はもう用意して、敵と対峙していた。
左手に剣を持ち、じっと暗闇を睨んでいる。
砂を掻き分けるような音が聞こえる。気配だけで汗が出るような敵だ。
暗がりの中、三メートルくらいの処に、二つの光の玉が浮かぶ。
「砂竜か」
彼女は手に持つ剣を引き抜く。刃の周囲を紫の光が取巻く。
魔法剣は幾つか見て来たが、紫というのは初めてだ。
「火の加護!」
たぶん地属性だと思って結界を掛ける。
「ありがとう。でも大丈夫だよ。尻尾の攻撃もあるから注意してね」
右手で軽く剣を持ち、緊張の色など全く見えない。
「ふっ!」
彼女はひとつ息を吐くと、空中に舞う。
剣の纏う光が、眩しいほどに輝く。
「ふんっ!」
両手で力強く握った剣を真っ向から振り下ろす。
血が飛散り、砂竜の頭が割れる。
「すごっ!」
軽やかに着地しながら言う。
「まだまだ。しぶとい敵だから、尻尾が来るよ」
言う間もなく後方がら横殴りに尾が飛んで来る。
何とか飛んで避ける。
「なかなか素早いね。それじゃ、ダガーで目を狙って」
言われるまま地面に崩れ落ちていた砂竜に突進し、ダガーをの目に突き立てる。
敵は大きな咆哮を上げ、身体を震わせて倒れ落ち、黄色の光の中に消えて行く。
勝負はついていたとはいえ、こんな敵と戦うのは容易じゃない。
「どうやら終わったみたいだね」
にこにこと話掛けて来る。
「疲れました」
「しようがないかな。でも経験値稼ぎにはなったと思うよ」
「この辺は、こんなものが良く出るんですか?」
「いや、そんなことはないよ。偶にだけど北から紛れ込んで来るんだよね。先に行けば嫌でも出会うようになるけど」
「こんなのが来るとは、ゆっくり寝てはいられませんね」
「もう大丈夫だよ。これだけの大物だと近くにモンスターはいない。今夜は他のモンスターは出ないと思うよ」
「そんなものですか?」
「そんなものです。それでは寝るね」
彼女はテントに引き籠ってしまった。
一角獣はテントの傍で伏せている。警戒を解いているようなので心配ないのだろう。
ボクも寝ることにする。黄蘭と一緒にテントに入る。
翌朝というか、夜明け前、第六夜刻
少しずつ明るくなる頃、空にはまだ地の主星が見える。
テントから起き出してみると、彼女は既に移動の準備が終わっている。
「おはようです」
「はぃ、おはよう」
人懐っこい目でこちらを見ながら応えてくれる。
「それじゃ、私は行くね。気を付けて」
一角獣に騎乗して、彼女は何か気が付いたように話掛けて来る。
「道に迷ったんだって?」
「そうです」
「えとね、北東に進むと良いよ。それほど距離はないから」
「そうですか、助かります」
「砂竜みたいなのは滅多に出ないから大丈夫だとは思う」
「あの」
出発しようと手綱を引く彼女に話掛ける。
「なーに?」
振り向いて笑顔で応えてくれた。
「また会えますか?」
「生きていればね」
あっという間に行ってしまった。まるで朝露のよう
「なんだかすごい人だったね」
黄蘭が少し首を傾げて応える。
黒髪の少女、一角獣に騎乗、竜の意匠の剣……
どこかで聞いたような冒険者のような気がする。
まぁいいか、彼女の言うように、生きていればまた会える。
うぅむ、困ったなぁ。砂漠の中で迷ってしまった。
"こん?"
黄蘭が左肩の上で首を傾げる。
今日はひとりで砂漠に出て、新型のスリングショット弾を確認しているのだが、ここが何処か分からない。
砂と岩しか見えないので目標がない。
日も傾いて来たの今夜は野宿になるなぁ
黄蘭も居るから警戒は大丈夫そうだ。
今夜の野宿の場所を探す。
少し大きい岩の陰にテント・パックを展開する。
こらこら黄蘭、遊ぶんじゃない!
とりあえず竃を二つ造り、お茶の用意をする。
なんだか、モンスターがほとんど出て来ない。
黄蘭をモフりながら、ちょっとだけ気を許した時だ。
「ここで野宿していいかな?」
はっとして振り向くと、騎乗しているひとりの少女がいた。
全く気配を感じさせない。警戒中の黄蘭ですら気付かなかった。
柚葉色の上下に朽葉色のブーツ、織部色のロングコートを身に着け、白い美しい毛並の一角獣に騎乗している。フードを深く被っていて、顔が良く見えない。
「はぃ、問題ありません」
「ありがとう」
彼女は、一角獣から降り、手慣れた様子で野宿の準備を整える。ロングコートの間から見える剣が非常に凝った意匠なのが気になった。
作業が終わると、近くに座った。
付いて来た一角獣がじっと黄蘭と見合ってる。
「おや、珍しい。“ひとつ„ が警戒してる」
「 “ひとつ„ って?」
「あぁ、この子の名前。額に星がひとつでしょ」
可愛い声で微笑む。
どうぞと言って、淹れたてのお茶を差し出すと、自前のマグカップで受け取ってくれる。
「美味しい。良い茶葉ですね」
フードを取ると、黒髪のショート、栗色の瞳、地味な顔立ちだけど笑顔がとても可愛い。
「どうして近くに野宿を?」
「こういうときは、安全のため人が多い方が良いでしょ」
ロングコートの間から見える略綬は数えきれないほど、ベテランに違いない。
「あの、どうしてこんな所に?」
「いつもふらふらしてるからね」
可愛くはぐらかされる。
日も陰って、段々暗くなって来る。
夕食は簡単に済ませて、早く休むことにする。
「夜に交代で警戒する必要はないよ。ひとつは優秀だから」
彼女は冒険者として、ボクよりベテランだから、言う通りにする。
黄蘭も警戒は優秀だから心配はないだろう。
テントに潜って休む。黄蘭も直ぐに潜り込んで来る。暖かいんだよね。
もふもふしながら横になる。
夜中に黄蘭の様子で起こされる。警戒が尋常じゃない。かなりの大物のようだ。
直ぐに飛び起きてテントから出る。
彼女はもう用意して、敵と対峙していた。
左手に剣を持ち、じっと暗闇を睨んでいる。
砂を掻き分けるような音が聞こえる。気配だけで汗が出るような敵だ。
暗がりの中、三メートルくらいの処に、二つの光の玉が浮かぶ。
「砂竜か」
彼女は手に持つ剣を引き抜く。刃の周囲を紫の光が取巻く。
魔法剣は幾つか見て来たが、紫というのは初めてだ。
「火の加護!」
たぶん地属性だと思って結界を掛ける。
「ありがとう。でも大丈夫だよ。尻尾の攻撃もあるから注意してね」
右手で軽く剣を持ち、緊張の色など全く見えない。
「ふっ!」
彼女はひとつ息を吐くと、空中に舞う。
剣の纏う光が、眩しいほどに輝く。
「ふんっ!」
両手で力強く握った剣を真っ向から振り下ろす。
血が飛散り、砂竜の頭が割れる。
「すごっ!」
軽やかに着地しながら言う。
「まだまだ。しぶとい敵だから、尻尾が来るよ」
言う間もなく後方がら横殴りに尾が飛んで来る。
何とか飛んで避ける。
「なかなか素早いね。それじゃ、ダガーで目を狙って」
言われるまま地面に崩れ落ちていた砂竜に突進し、ダガーをの目に突き立てる。
敵は大きな咆哮を上げ、身体を震わせて倒れ落ち、黄色の光の中に消えて行く。
勝負はついていたとはいえ、こんな敵と戦うのは容易じゃない。
「どうやら終わったみたいだね」
にこにこと話掛けて来る。
「疲れました」
「しようがないかな。でも経験値稼ぎにはなったと思うよ」
「この辺は、こんなものが良く出るんですか?」
「いや、そんなことはないよ。偶にだけど北から紛れ込んで来るんだよね。先に行けば嫌でも出会うようになるけど」
「こんなのが来るとは、ゆっくり寝てはいられませんね」
「もう大丈夫だよ。これだけの大物だと近くにモンスターはいない。今夜は他のモンスターは出ないと思うよ」
「そんなものですか?」
「そんなものです。それでは寝るね」
彼女はテントに引き籠ってしまった。
一角獣はテントの傍で伏せている。警戒を解いているようなので心配ないのだろう。
ボクも寝ることにする。黄蘭と一緒にテントに入る。
翌朝というか、夜明け前、第六夜刻
少しずつ明るくなる頃、空にはまだ地の主星が見える。
テントから起き出してみると、彼女は既に移動の準備が終わっている。
「おはようです」
「はぃ、おはよう」
人懐っこい目でこちらを見ながら応えてくれる。
「それじゃ、私は行くね。気を付けて」
一角獣に騎乗して、彼女は何か気が付いたように話掛けて来る。
「道に迷ったんだって?」
「そうです」
「えとね、北東に進むと良いよ。それほど距離はないから」
「そうですか、助かります」
「砂竜みたいなのは滅多に出ないから大丈夫だとは思う」
「あの」
出発しようと手綱を引く彼女に話掛ける。
「なーに?」
振り向いて笑顔で応えてくれた。
「また会えますか?」
「生きていればね」
あっという間に行ってしまった。まるで朝露のよう
「なんだかすごい人だったね」
黄蘭が少し首を傾げて応える。
黒髪の少女、一角獣に騎乗、竜の意匠の剣……
どこかで聞いたような冒険者のような気がする。
まぁいいか、彼女の言うように、生きていればまた会える。
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