上 下
46 / 137
旦那編 marito

45:年初祭 Festa del Mondo

しおりを挟む
 今日は、建国3年年初祭(Festa del Mondo/Auc.03)
 つまりゲーム内のお正月、ゲーム開始から二周年を迎えたということだ。
 正確にいうと、日の出が一日の始まりなので、第一昼刻の開始から年初祭となる。
 街全体もなんだか浮かれているようだ。
 特別に十万リラの支給もあった。お年玉を頂きました。
 
 生命の腕輪に運営からお知らせが送信されている。
------------------------------------------------------------------------
 運営からのお知らせ

 ユーザーの皆様方へ

 建国以来、二周年になりました。
 皆様方の熱いご声援に支えられてここまで来ることができました。
 運営一同、感謝を申し上げます。

 二周年を記念して、記念指輪アネッロ・アンニヴェルサーリオを贈らせていただきました。
 この指輪の性能は、各人の個性に合わせて調整されております。
 皆様が過ごされるゲーム・ライフの一助になることを願っております。
 なお、この指輪は右手中指専用となります。

 また、新たなステージへの拡張も検討中です。
 ユーザーの皆様方がこの終わりのない世界を楽しんで行けますよう、
運営一同あらためて決意しております。
 今後とも、世界イル・モンドをよろしくお願い申し上げます。

                     世界イル・モンド運営一同
----------------------------------------------------------------------------
 ゲーム世界も現実レアーレのように変化して行く。
 直接会うことのない場所から、リアルタイムを集合でき、現実レアーレでは決してできない経験を積重ねる。どちらからも得られる経験自体は同じだ。
 ひょっとしたら、人間は既に幻想世界イルジオーネを手に入れたのかもしれない。

「今日はお休みだね」
 みんなに提案する。
「お正月くらいはのんびりするかのぅ」
 はるっちも賛成らしい。
「せっかくですし、吟遊詩人メネストレッロの演奏会などを見たいですね」ポロロン♪
 いいなぁ、わたしも一緒に行こうかな。
「ワイは、来たばかりなので、街の見物をしたいわ!」
「サブやん、デートですね!」
「腕輪はん、楽しい新年を見て回ろう」
 相変わらずのラブラブ状態だ。サブ、現実レアーレは大丈夫だろうな。
「あたしは、ふらふら歩いてみるわ!」
 エドは散歩かぃ?

 今日はそれぞれ個人行動とした。みんなたまには好きなことをしたいよね。
 この街に来たばかりだし、様子を見て回るのも良いと思う。
 でも、せっかくの機会だし、ジョルジュと一緒に演奏会に行くことにした。
 南東側の酒場あたりでもやってるらしいけど、本格的なものを見ようとベアトリッツ・デ・ディアさんの屋敷まで行って、執事さんに高級店が立ち並ぶ場所にある酒場を紹介して貰う。劇場もあるらしいけど、さすがに入場券は手に入らない。

 立派な店で少々服装が気になったが、紹介状があったせいかなんとか入店させて貰う
 舞台《パルコシェーニコ》も広く、魔法の光でとても綺麗だ。
 そして登場して来たのは、四人のアンサンブルだ。それぞれ違う楽器を持っている。
「珍しいですね。これだけのものが見られるのは、大きな街だけでしょう」
 ジョルジュが楽器を説明してくれる。
 日本の琵琶を少し小さくしたようなギターっぽい楽器がリュートと言うらしい。
 バイオリンのような感じで膝の上に乗せているのがヴィオール、チェロみたいに弾くとのこと。
 縦笛を持っている人がいる。木管のようだ。これもフルートと呼ぶらしい。まぁ親戚なんだろうな。
 最後に打楽器というか、日本のつづみに当たるのだろうか、太鼓の小さいもの。
 どれもこれも見たことない楽器ばかり、ヨーロッパの吟遊詩人たちはこんな感じだったのだろうか?

 太鼓のリズムから演奏が始まる。
 高く低く、大きく小さく、軽やかにリズムを刻む。
 リュートの分散和音アルペッジョが太鼓のリズムに合わせる。鉄弦コルダ・ダッチアイオなのだろう、僅かに混じる雑音のような音色が年代を感じさせる。
 単調だが気持ちに染み入るように響き渡る。
 舞台《パルコシェーニコ》の両側から男女二人の歌手が登壇する。
 ヴィオールとフルートが哀愁帯びた調べを弾く。
 二人は歌い始める。どこまでも澄み切った声で聴く人々を魅了する。

  新しき草がひときわ緑を現すとき
  枝の上にある葉の間に花が咲く
  ナイチンゲールは高く清らにさえずり渡る
  その歌の調べは求める
  彼の喜びと花の喜びを私は知っている
  私の喜びと私の年上の彼女の喜びを知っている
  近くにある全ての喜びが閉じ惹き付ける
  しかしこれは他のどんな喜びも打ち負かす

  何と悲しいことか、郷愁で私は死ぬようだ
  しばしば、苦悩によりそうなってしまう
  盗人たちが私を運び去る
  そして私はしていることに気付かない
  愛、あなたは容易に私を打ち破る
  何人かの友達共に、そして他の男もなしに
  私の女はそのとき、せめてと説得している
  愛の熱望を私が溶かしてしまう前に
  …………

 遠い過去から蘇るような声と調べ。
 激しい歴史の流れの中で生き残った音は美しい。

 夜は花火大会だ。
 第一夜刻の途中で始めるらしい。
 みんな街の郊外、北側に集まる。
 何故に北側? と思ったけど、偉い人たちが街中で眺めるんだろうな。
 今日は特別な日なので満月だ。四元素を司る主星たちも三つの伴星も明るく輝く。
 年に一度しか見ることのできない華やかな夜空だ。

 新年おめでとう! の声と共に一斉に花火が打ち上げられる。
 夜空を背景に色彩豊かな絵や文字が浮かび上がる。
 電子の花火だから、デザインはやり放題だな。
 明日からはどんなゲーム・ライフが待っているだろうか?
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

仮想空間のなかだけでもモフモフと戯れたかった

夏男
SF
動物から嫌われる体質のヒロインがモフモフを求めて剣と魔法のVRオンラインゲームでテイマーを目指す話です。(なれるとは言っていない) ※R-15は保険です。 ※小説家になろう様、カクヨム様でも同タイトルで投稿しております。

Recreation World ~とある男が〇〇になるまでの軌跡〜

虚妄公
SF
新月流当主の息子である龍谷真一は新月流の当主になるため日々の修練に励んでいた。 新月流の当主になれるのは当代最強の者のみ。 新月流は超実戦派の武術集団である。 その中で、齢16歳の真一は同年代の門下生の中では他の追随を許さぬほどの強さを誇っていたが現在在籍している師範8人のうち1人を除いて誰にも勝つことができず新月流内の順位は8位であった。 新月流では18歳で成人の儀があり、そこで初めて実戦経験を経て一人前になるのである。 そこで真一は師範に勝てないのは実戦経験が乏しいからだと考え、命を削るような戦いを求めていた。 そんなときに同じ門下生の凛にVRMMORPG『Recreation World』通称リクルドを勧められその世界に入っていくのである。 だがそのゲームはただのゲームではなく3人の天才によるある思惑が絡んでいた。 そして真一は気付かぬままに戻ることができぬ歯車に巻き込まれていくのである・・・ ※本作品は小説家になろう様、カクヨム様にも先行投稿しております。

ラビリンス・シード

天界
SF
双子と一緒にVRMMOうさー

VRMMO~鍛治師で最強になってみた!?

ナイム
ファンタジー
ある日、友人から進められ最新フルダイブゲーム『アンリミテッド・ワールド』を始めた進藤 渚 そんな彼が友人たちや、ゲーム内で知り合った人たちと協力しながら自由気ままに過ごしていると…気がつくと最強と呼ばれるうちの一人になっていた!?

未来への転送

廣瀬純一
SF
未来に転送された男女の体が入れ替わる話

SMART CELL

MASAHOM
SF
 全世界の超高度AIを結集した演算能力をたった1基で遥かに凌駕する超超高度AIが誕生し、第2のシンギュラリティを迎えた2155年末。大晦日を翌日に控え17歳の高校生、来栖レンはオカルト研究部の深夜の極秘集会の買い出し中に謎の宇宙船が東京湾に墜落したことを知る。翌日、突如として来栖家にアメリカ人の少女がレンの学校に留学するためホームステイしに来ることになった。少女の名前はエイダ・ミラー。冬休み中に美少女のエイダはレンと親しい関係性を築いていったが、登校初日、エイダは衝撃的な自己紹介を口にする。東京湾に墜落した宇宙船の生き残りであるというのだ。親しく接していたエイダの言葉に不穏な空気を感じ始めるレン。エイダと出会ったのを境にレンは地球深部から届くオカルト界隈では有名な謎のシグナル・通称Z信号にまつわる地球の真実と、人類の隠された機能について知ることになる。 ※この作品はアナログハック・オープンリソースを使用しています。  https://www63.atwiki.jp/analoghack/

The Outer Myth :Ⅰ -The Girl of Awakening and The God of Lament-

とちのとき
SF
Summary: The girls weave a continuation of bonds and mythology... The protagonist, high school girl Inaho Toyouke, lives an ordinary life in the land of Akitsukuni, where gods and humans coexist as a matter of course. However, peace is being eroded by unknown dangerous creatures called 'Kubanda.' With no particular talents, she begins investigating her mother's secrets, gradually getting entangled in the vortex of fate. Amidst this, a mysterious AGI (Artificial General Intelligence) girl named Tsugumi, who has lost her memories, washes ashore in the enigmatic Mist Lake, where drifts from all over Japan accumulate. The encounter with Tsugumi leads the young boys and girls into an unexpected adventure. Illustrations & writings:Tochinotoki **The text in this work has been translated using AI. The original text is in Japanese. There may be difficult expressions or awkwardness in the English translation. Please understand. Currently in serialization. Updates will be irregular. ※この作品は「The Outer Myth :Ⅰ~目覚めの少女と嘆きの神~」の英語版です。海外向けに、一部内容が編集・変更されている箇所があります。

暑苦しい方程式

空川億里
SF
 すでにアルファポリスに掲載中の『クールな方程式』に引き続き、再び『方程式物』を書かせていただきました。  アメリカのSF作家トム・ゴドウィンの短編小説に『冷たい方程式』という作品があります。  これに着想を得て『方程式物』と呼ばれるSF作品のバリエーションが数多く書かれてきました。  以前私も微力ながら挑戦し『クールな方程式』を書きました。今回は2度目の挑戦です。  舞台は22世紀の宇宙。ぎりぎりの燃料しか積んでいない緊急艇に密航者がいました。  この密航者を宇宙空間に遺棄しないと緊急艇は目的地の惑星で墜落しかねないのですが……。

処理中です...