上 下
81 / 137
奥編 moglie

22:海月の恩返し(その1)Il ritorno da medusa:primo

しおりを挟む
「コーリ、今日はお使いの依頼クエストだよ!」
「はーぃ、ご一緒させていただきます」
 町の北西側、歩きで一日行程位の所に牧場がある。今日はそこに届け物をする。
 冒険者ギルドで、箱のようなものと郵便ポスタを預かって出発する。
「地味な依頼クエストだけど、色々やってた方が良いと思う」
「いえいえ、こういうのも楽しいです」
 整備されたとはとても言えない赤土と砂の混じる道をお喋りしながら進む。
 と、いきなり周囲が真っ暗になる。出発したばかりなのこれかぃ!
「何ですか、これ?」
「インスタンスだね」
「あたしって初めてですぅ~」
 二人して暗闇に引きずり込まれる。

 明るくなると同時に、生命の腕輪の効果音エッフェット・ソノーロが響く!
 “ワイド・インスタンス:海月の恩返し„
 えっ! ワイドかぃ! これは面倒になりそうだ。

「暑いですぅ~」
 周囲は真夏だ。
 暑い! あつい!! 熱い!!!
 ここはどこだ?
 どこまでも続く森の中、潮風を感じるので海が近いのかもしれない。
 にしても暑さが我慢できない!
石の連弾アタッコ・ディ・ピエトレ!」
 コーリ何を? と思ったら
「ぐゎぁっ!」
 全身黒ずくめの男が木の繁みから落ちてきた。
 何だこいつは! 男の襟首をがっちり掴んで問い詰める。
「何でボクたちを付け狙ってたのかな? 
「くっ、気づかれていたか。このわしの隠遁の術を見破るとは、なかなかできる!」
「別に、見破ったわけじゃないんですけど」
「へっ?」
「暑さのストレスを呪文で発散させようとしたら、落ちてきたの」
「どうみても悪人だから、締め上げてみよう」
 とりあえず縛り上げて尋問に掛かる。
「さぁ、ネタは上がってますよ。白状しなさい!」
 いや、そんなに杖でシバかんでも
「そのようなことで、わしが口を割ると思っているのか? 次は、逆さ吊りにムチか、それとも三角木馬に滑車か? 石に座らせそろばんを膝に置き、石を抱かせる石責めか? そんなものには屈せぬぞっ!」
「妙に詳しいな」
「こう見えても組織では拷問愛好会の会長を務めておるっ!」
 おぃ!
「しばらく凍ってもらいましょう」
「そうだね。暑いし」
氷の壁ムーロ・ディ・ギアッチョ!」
氷の柱コロンナ・ディ・ギアッチョ!」
 
 氷が溶けた処で尋問を再開する。
「涼しくなったと思うけど、ボクたちに白状する気になったかな?」
「会長さんは、今度は熱くなりたいのですか?」
「わっわかった。白状する」
 意外と根性のない会長さんだ。

 ある組織上層部の命令でこの辺り一帯を警戒していた
 怪し気な二人が現れたので行動を監視し始めたところだった。
 この近くの島に財宝が隠されているという噂があるので、それを狙っているのかと思った。
 機会オッポルトゥニタがあれば始末しても良いと言われていた。

「なるほどねぇ」
「財宝というなら行くしかないですね。生活水準向上にも役立ちます」
 コーリは意外に行動派アッティーヴォ
 とりあえず会長さんを蓑虫状態にして海の方へ向かうことにする。
 放置したから仲間が助けるかもしれないけど、まぁいい。始末する気分にもならない。

 ザザザァ~ ザザザザザァーン
 寄せては返す波の音
 青い空とどこまでも続く砂浜
 遠くに白帆を上げた船が行き交う。
 沖に一つの島が見える。
 聞き込みをしたところ、この島は昔から “神宿る島„ として信仰を集め、海難除けの祈願が行われたという。
 確かに財宝が隠されていたとしてもおかしくはない。
 しかし、この島は六芒星エサグランマの形をしていて、近くでは全く魔法が使えない。しかも全体は絶壁になっており、上陸できる所は一ヵ所しかなく、その上付近の海流は激しく入り組んでおり、船で近付くことも難しい。
 稀に潮が止まることがあり、その時にしか上陸できないが、その日を見分けるのは難しい。
 うーむ、手強そうだ。
「祈願する人ってどうやって上陸してたんでしょうね?」
「潮が止まる時を預言する人が居たらしい。その人の死後は後継ぎが居なくて、現在上陸不可能とか」
「なかなか厳しい設定ですね」
「でも、ここに行かないと、インスタンス・クリアにはならないと思うんだ。何か方法があるとは思う」

「や、これなにー」
「気持ちわるーい!」
 浜辺で子供たちが数人集まって歓声を上げている。
「ぶにょぶにょだぁ~」
 子供たちははしゃぎながら、砂の上に転がった海月くらげを突っついている。
 両手で持ちきれないくらい大きなミズクラゲ
 ほっとく気にもなれないな。と思ってたら、コーリが突進して行く。
「そこの子供たち、話を聞きなさい! 動物をいぢめちゃダメでしょ。それに海月くらげは祟るっていうんだから」
 子供たちがバカにしたような目をして反撃して来る。
「何、おばさん!」
「年増は黙っていて!」
 ピキッ!
 あ、コーリ、抑えて!!
雷迅トゥオーノ!」
 子供たちは全員気絶した。

「すみません。つい前後見境なく…‥」
「まぁ、始末した訳じゃないから、大丈夫でしょ」
 子供たちが居なくなった後には、海岸に横たわる一匹の海月くらげ
「砂まみれになってるけど、生きてるかな?」
 ぴくっ! ぴぴぴぴぴっ! ぴっ!
「クラゲさん、気がついたみたいね。どうしてこんなことになったの?」
 ぴっ!ぴっぴぴっっ!
「ふーん、潮に流されてここに打ち上げられたの」
 おぃコーリ! 海月くらげの言葉が分かるんかぃ?
「分かりますよ。それくらい。常識です!」
 心読まれた?
「顔見てれば分かりますよ」
 コーリ恐るべし!
「大変だったわね。怪我とかない?」
 ぴっぴっぴ
「まだ、なにかあるの? ふんふん、海月くらげは……祟らない!」
 ぴぴーっ!
 コーリのニードロップが海月くらげの頭を直撃する。
「わかってるわよ、そんなこと。助かったんだからいいじゃない」
 こくこくこくこく

 なんとか海に戻してやると、海月くらげらしく波間に漂い始める。
 ぴーぴぴっぴっ!
「えっ、なーにクラちゃん」
 おぃ、名前付けたんかぃ!
 ぴっぴぴぴぴぴっ!
「助けてもらったから、恩返ししてくれるらしいです」
 こくこくこく
「でも、何かあるかな? 海月くらげの酢物は好きだけど」
 ぷるぷるぷるっ!
「コーリ、ちょっと島について知らないか聞いてみてくれない?」
「えーっと、クラちゃんね。この辺に住んでるのよね。“神宿る島„ について何か知らない?」
 ぴぴぴぴぴっ!
「“神宿る島„ は潮の流れが速くって、簡単には行けない」
 ぴっぴぴっぴっぴ
「でも、明日の夜は珍しくの潮が止る日」
 ぴっ、ぴぴぴぴぴっ
「正確な時刻は当日にしか分からない。止まっている時間は一刻くらい」
 ぴぴっぴ、ぴぴぴ
「ふんふん、この辺のクラゲには顔が利くから……運んでくれる」
 ぴっ!
「胸を張るのは良いけど、なーに?」
 ぴぴっ! ぴぴぴぴ、ぴっ!
「三代前からこの辺の海月くらげを取り仕切っている?」
 ぴぴっ!
「名門だってことは分かったわ! 頼りにしてるわ」
 ぴーっ!
 コーリ有能過ぎ……
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

仮想空間のなかだけでもモフモフと戯れたかった

夏男
SF
動物から嫌われる体質のヒロインがモフモフを求めて剣と魔法のVRオンラインゲームでテイマーを目指す話です。(なれるとは言っていない) ※R-15は保険です。 ※小説家になろう様、カクヨム様でも同タイトルで投稿しております。

VRゲームでも身体は動かしたくない。

姫野 佑
SF
多種多様な武器やスキル、様々な【称号】が存在するが職業という概念が存在しない<Imperial Of Egg>。 古き良きPCゲームとして稼働していた<Imperial Of Egg>もいよいよ完全没入型VRMMO化されることになった。 身体をなるべく動かしたくないと考えている岡田智恵理は<Imperial Of Egg>がVRゲームになるという発表を聞いて気落ちしていた。 しかしゲーム内の親友との会話で落ち着きを取り戻し、<Imperial Of Egg>にログインする。 当作品は小説家になろう様で連載しております。 章が完結次第、一日一話投稿致します。

Recreation World ~とある男が〇〇になるまでの軌跡〜

虚妄公
SF
新月流当主の息子である龍谷真一は新月流の当主になるため日々の修練に励んでいた。 新月流の当主になれるのは当代最強の者のみ。 新月流は超実戦派の武術集団である。 その中で、齢16歳の真一は同年代の門下生の中では他の追随を許さぬほどの強さを誇っていたが現在在籍している師範8人のうち1人を除いて誰にも勝つことができず新月流内の順位は8位であった。 新月流では18歳で成人の儀があり、そこで初めて実戦経験を経て一人前になるのである。 そこで真一は師範に勝てないのは実戦経験が乏しいからだと考え、命を削るような戦いを求めていた。 そんなときに同じ門下生の凛にVRMMORPG『Recreation World』通称リクルドを勧められその世界に入っていくのである。 だがそのゲームはただのゲームではなく3人の天才によるある思惑が絡んでいた。 そして真一は気付かぬままに戻ることができぬ歯車に巻き込まれていくのである・・・ ※本作品は小説家になろう様、カクヨム様にも先行投稿しております。

ラビリンス・シード

天界
SF
双子と一緒にVRMMOうさー

VRMMO~鍛治師で最強になってみた!?

ナイム
ファンタジー
ある日、友人から進められ最新フルダイブゲーム『アンリミテッド・ワールド』を始めた進藤 渚 そんな彼が友人たちや、ゲーム内で知り合った人たちと協力しながら自由気ままに過ごしていると…気がつくと最強と呼ばれるうちの一人になっていた!?

未来への転送

廣瀬純一
SF
未来に転送された男女の体が入れ替わる話

SMART CELL

MASAHOM
SF
 全世界の超高度AIを結集した演算能力をたった1基で遥かに凌駕する超超高度AIが誕生し、第2のシンギュラリティを迎えた2155年末。大晦日を翌日に控え17歳の高校生、来栖レンはオカルト研究部の深夜の極秘集会の買い出し中に謎の宇宙船が東京湾に墜落したことを知る。翌日、突如として来栖家にアメリカ人の少女がレンの学校に留学するためホームステイしに来ることになった。少女の名前はエイダ・ミラー。冬休み中に美少女のエイダはレンと親しい関係性を築いていったが、登校初日、エイダは衝撃的な自己紹介を口にする。東京湾に墜落した宇宙船の生き残りであるというのだ。親しく接していたエイダの言葉に不穏な空気を感じ始めるレン。エイダと出会ったのを境にレンは地球深部から届くオカルト界隈では有名な謎のシグナル・通称Z信号にまつわる地球の真実と、人類の隠された機能について知ることになる。 ※この作品はアナログハック・オープンリソースを使用しています。  https://www63.atwiki.jp/analoghack/

暑苦しい方程式

空川億里
SF
 すでにアルファポリスに掲載中の『クールな方程式』に引き続き、再び『方程式物』を書かせていただきました。  アメリカのSF作家トム・ゴドウィンの短編小説に『冷たい方程式』という作品があります。  これに着想を得て『方程式物』と呼ばれるSF作品のバリエーションが数多く書かれてきました。  以前私も微力ながら挑戦し『クールな方程式』を書きました。今回は2度目の挑戦です。  舞台は22世紀の宇宙。ぎりぎりの燃料しか積んでいない緊急艇に密航者がいました。  この密航者を宇宙空間に遺棄しないと緊急艇は目的地の惑星で墜落しかねないのですが……。

処理中です...