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旦那編 marito
14:吟遊詩人 Menestrello
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嫌な予感を抱きつつ振り向く。
予想通り、竪琴を抱く吟遊詩人らしきお兄さん
さっき酒場で見た人より大分貧相な姿だ。
「これはこれは冒険者さん」ポロロン♪
「小拙こと、ジョルジュ・ド・コルヴェ(Georges de Corvey)と申します」ポロロン♪
「えと、吟遊詩人さん?」
「左様、ゲーム内も世知辛く、なかなか稼げません」ポロロン♪
「ここでひとつ新作の叙事詩を創り上げ、一旗揚げる下地とせねばなりませぬ」ポロロン♪
「何でまたわたしを……」
「貴女を見てピンと来ました」ポロロン♪
「マテ! 竪琴ウザいから止めてくれる!」
「弾かないと語り辛いのですが、貴女がそう仰るのでしたら仕方ありません。涙を呑んで控えることに致しましょう」
「わたしのやることで、叙事詩を創ろうってこと?」
「左様でございます。かのベルナール・ド・ヴァンタドゥールの如く世々謡い継がれるものを」
「何か良く分からないけど、わたしの冒険なんか見てもしようがないよ。今夜の宿も決まってないくらいだから」
「ならば、我が師匠の処へご案内いたしましょう」ポロロン♪
強引やのぅ……まぁしようがない。
先は全く決まってないし、行ってみるかな? 悪い人には見えないしな。
竪琴の音に誘われて――ではないが、後を付いて行く。
中央広場の神殿横を抜けて、町の北西側。ここは個人宅や個人の店があるらしい。
一軒の立派な屋敷に入り、家の人たちには顔パスで、どんどん奥へ行くジョルジュくん
おぃ、いいんかぃ? こんなことして?
文句も言えず付いて行くと、大きな扉をノックもせずに、ずぃずぃ中に入って行く。
付いて行くしかないが、もう何をしても驚かん!
書斎の奥で何か読んでる風の、おっさんとにぃさんの間くらいの人に、いきなり呼びかける。
「師匠! 遂に私を導く光を見つけました」
師匠と呼ばれたにぃさん風――と呼んでおこう――の人は、驚きもせず、ゆっくり振り返って話始める。
「ほう、これは珍しい。ジョルジュくんは、何か心境の変化があったと見える」
一風独特の笑顔が面白い。
「師匠、冒険者 結月琴音 殿をご紹介させて頂きます」
とりあえず挨拶しておこう。
「結月琴音といいます。“ことね„ とお呼び下さい」
「わたくしこと、フュルベール・ド・ブリニョール(Fulbert de Brignoles)と申します」
部屋の隅に置いてある応接用の椅子を勧められて、断る訳にも行かず、ジョルジュくんの隣に座る。
しかし、執事を呼ぶベルを鳴らした途端に、お茶とお茶菓子が出てきたのには驚いた。
師匠と呼ばれたフュルベールさんは雄弁に語り始める。
「ひとくちに叙事詩と言いますが、色々な種類がございます。その中に “ミリィとミル„ という一際長いものがあり、細部まで現実的であり実録近いとされております」
そんなものがあるのか
「数人の吟遊詩人たちが調査に苦労を重ね、また冒険に同行したという者さえ居ます。出来上がった叙事詩は大長編になり、一度に謡うことはまず不可能、そのため一部を謡うことが通例になっております」
段々の熱が入り、声も高らかになって来る。
「この場合 “我伝聞く処によれば„ で始めるのが習わしとなっております」
傍らにあった竪琴を掴んだかと思うと、いきなり演奏を始める。
「このように」ポロロロロン♪♪
我伝聞く処によれば
ある日、ミリィ愛馬に騎乗し
見渡す限りの砂の続く荒野を
「いやいや、実演は」
「あぁ、これは失礼を仕った」
竪琴を置き、座り直したフュルベールさん、お茶を飲んで息を整える。
「さて、叙事詩と言えど、それほど数も種類も多いものではありません。同じものばかりを謡えば聴衆に飽きられてしまいます。そのため、絶世の美女や蝶よ花よと自然を謡ってみるのですが、聴衆の受けはあまり良くありません。やはり冒険譚こそが人気を集めるのです」
なるほどねぇ
「冒険者を一から観察し、新作の叙事詩を創り上げるのは、吟遊詩人の一つの理想形なのです」
フュルベールさん、そんなに鼻息荒げんでも
「ジョルジュくんは、貴女に何か感じるものがあったのでしょう」
「いえいえ、そんなことはないと思います。わたしはまだ駆け出しですし」
「原石を発見することこそ吟遊詩人の醍醐味。わたくしからも是非お願いいたします」
両手を掴んで来て熱弁するフュルベールさんに負けてしまった。
「はぁ、まぁそういうことでしたら」
ジョルジュくん、そんなに喜ばんでも
「ジョルジュくんの言うには、スキルの師匠をお探しとか」
「はぃそうですが」
「わたくしに心当たりがございます。紹介状を書きますので少々お待ちいただけますでしょうか」
「はぁ、はぃ」
フュルベールさん、机に戻ってさらさらと何か書いてくれる。
「これを持って行けば、間違いなく弟子にしてくれるはずです。心配はありませんよ。我が愛弟子をよろしくお願いします。あぁジョルジュくん案内してくれ給え!」
封書を渡してくれ、笑顔で送り出してくれる。
宛先は、ルノー・ド・モントーバン(Renaud de Montauban)?
また渋い名前を……
「この方は弟子を取らないので有名なのですが、師匠は何か感じる処があったのでしょう」
へぇ……不安しかない。
予想通り、竪琴を抱く吟遊詩人らしきお兄さん
さっき酒場で見た人より大分貧相な姿だ。
「これはこれは冒険者さん」ポロロン♪
「小拙こと、ジョルジュ・ド・コルヴェ(Georges de Corvey)と申します」ポロロン♪
「えと、吟遊詩人さん?」
「左様、ゲーム内も世知辛く、なかなか稼げません」ポロロン♪
「ここでひとつ新作の叙事詩を創り上げ、一旗揚げる下地とせねばなりませぬ」ポロロン♪
「何でまたわたしを……」
「貴女を見てピンと来ました」ポロロン♪
「マテ! 竪琴ウザいから止めてくれる!」
「弾かないと語り辛いのですが、貴女がそう仰るのでしたら仕方ありません。涙を呑んで控えることに致しましょう」
「わたしのやることで、叙事詩を創ろうってこと?」
「左様でございます。かのベルナール・ド・ヴァンタドゥールの如く世々謡い継がれるものを」
「何か良く分からないけど、わたしの冒険なんか見てもしようがないよ。今夜の宿も決まってないくらいだから」
「ならば、我が師匠の処へご案内いたしましょう」ポロロン♪
強引やのぅ……まぁしようがない。
先は全く決まってないし、行ってみるかな? 悪い人には見えないしな。
竪琴の音に誘われて――ではないが、後を付いて行く。
中央広場の神殿横を抜けて、町の北西側。ここは個人宅や個人の店があるらしい。
一軒の立派な屋敷に入り、家の人たちには顔パスで、どんどん奥へ行くジョルジュくん
おぃ、いいんかぃ? こんなことして?
文句も言えず付いて行くと、大きな扉をノックもせずに、ずぃずぃ中に入って行く。
付いて行くしかないが、もう何をしても驚かん!
書斎の奥で何か読んでる風の、おっさんとにぃさんの間くらいの人に、いきなり呼びかける。
「師匠! 遂に私を導く光を見つけました」
師匠と呼ばれたにぃさん風――と呼んでおこう――の人は、驚きもせず、ゆっくり振り返って話始める。
「ほう、これは珍しい。ジョルジュくんは、何か心境の変化があったと見える」
一風独特の笑顔が面白い。
「師匠、冒険者 結月琴音 殿をご紹介させて頂きます」
とりあえず挨拶しておこう。
「結月琴音といいます。“ことね„ とお呼び下さい」
「わたくしこと、フュルベール・ド・ブリニョール(Fulbert de Brignoles)と申します」
部屋の隅に置いてある応接用の椅子を勧められて、断る訳にも行かず、ジョルジュくんの隣に座る。
しかし、執事を呼ぶベルを鳴らした途端に、お茶とお茶菓子が出てきたのには驚いた。
師匠と呼ばれたフュルベールさんは雄弁に語り始める。
「ひとくちに叙事詩と言いますが、色々な種類がございます。その中に “ミリィとミル„ という一際長いものがあり、細部まで現実的であり実録近いとされております」
そんなものがあるのか
「数人の吟遊詩人たちが調査に苦労を重ね、また冒険に同行したという者さえ居ます。出来上がった叙事詩は大長編になり、一度に謡うことはまず不可能、そのため一部を謡うことが通例になっております」
段々の熱が入り、声も高らかになって来る。
「この場合 “我伝聞く処によれば„ で始めるのが習わしとなっております」
傍らにあった竪琴を掴んだかと思うと、いきなり演奏を始める。
「このように」ポロロロロン♪♪
我伝聞く処によれば
ある日、ミリィ愛馬に騎乗し
見渡す限りの砂の続く荒野を
「いやいや、実演は」
「あぁ、これは失礼を仕った」
竪琴を置き、座り直したフュルベールさん、お茶を飲んで息を整える。
「さて、叙事詩と言えど、それほど数も種類も多いものではありません。同じものばかりを謡えば聴衆に飽きられてしまいます。そのため、絶世の美女や蝶よ花よと自然を謡ってみるのですが、聴衆の受けはあまり良くありません。やはり冒険譚こそが人気を集めるのです」
なるほどねぇ
「冒険者を一から観察し、新作の叙事詩を創り上げるのは、吟遊詩人の一つの理想形なのです」
フュルベールさん、そんなに鼻息荒げんでも
「ジョルジュくんは、貴女に何か感じるものがあったのでしょう」
「いえいえ、そんなことはないと思います。わたしはまだ駆け出しですし」
「原石を発見することこそ吟遊詩人の醍醐味。わたくしからも是非お願いいたします」
両手を掴んで来て熱弁するフュルベールさんに負けてしまった。
「はぁ、まぁそういうことでしたら」
ジョルジュくん、そんなに喜ばんでも
「ジョルジュくんの言うには、スキルの師匠をお探しとか」
「はぃそうですが」
「わたくしに心当たりがございます。紹介状を書きますので少々お待ちいただけますでしょうか」
「はぁ、はぃ」
フュルベールさん、机に戻ってさらさらと何か書いてくれる。
「これを持って行けば、間違いなく弟子にしてくれるはずです。心配はありませんよ。我が愛弟子をよろしくお願いします。あぁジョルジュくん案内してくれ給え!」
封書を渡してくれ、笑顔で送り出してくれる。
宛先は、ルノー・ド・モントーバン(Renaud de Montauban)?
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