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5:大森林観測村VSガムラン町

711:ファローモからの依頼、客間にて

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「おかわりっ」「みゃにゃぁー
は、もうひとおなものを」
 風呂上ふろあがりに、つめたい菓子アイス好評こうひょうで――

「「「ひとつきりだと――?」」」」
 わいわい。
「「「なんでもないのに――?」」」
 がやがや。
「「「ふたつになると――?」」」
 むぎゅぎゅぎゅ。
「「「こわものぉ――?」」」
 つめたくてあまものがあると、聞きつけた連中れんちゅうで――
 客間きゃくまぐに、満員まんいんになった。

 ガムラン温泉街同様おんせんがいどうよう湯上ゆあがりは浴衣ゆかた用意よういしたから――
 みんなくつろいでくれてる。着物きものを着た所作しょさ出来できねぇだろうが――
 はだけちまうころには酔ってるか、おひらきになるかするだろう。

 いきを吹きかえした女神御神体いおのはらが、3個目こめのおかわりを要求ようきゅうしたとき――
「これはなんですか、シガミー?」
 眼鏡めがねおんな長机テーブルから、持ち上げたのは――カタン。
 ちなみに彼女かのじょは、いつもの給仕服きゅうじふくだ。

『>ファローモさんからの討伐依頼
  対象:〝二つあると怖い物〟なんだもの』
 と書き込まれた、おにぎりの木板きいた
 ふぉん♪
『>>正確には〝形状変化型表示装置〟、網膜や空間への直接的な投影を必要としない文字盤魔法具です』
 うん? 木板きいたで良いだろうが。

「たぶん、もりぬしさまからの依頼いらいだ。おれぁ……かにはさみだと、おもうぜ」
 二刀流アレはやべぇと、おそおののきつつ――トン、ストトトトットトトトトンッ♪
 子供たちがきどもぶん菓子おかわりを、ならべていく。

「ふたつだとこわもの? そんなの簡単かんたんだよ、ウチのおとうさんの眼鏡めがねだよ!」
 生意気なまいき子供こどもかおに、「あれはやばい。もの凄く、うるさいよ」と書いてあった。
 レイダの父上ちちうえ魔法具めがねか。
 アレはギルドちょうであるかれが、興味きょうみを持ったものが目のまえにあると――
 眼鏡めがねに付いたつまみが、ギギュギュイギギュギュイィィィィィンと、せわしなくうごくのだ。

 手でつくった2つの輪っか・・・を、目に当ててみせる、その子供むすめ
 たしかに眼鏡めがねには、2つのビードロが付いちゃいるが――
 生意気なまいき子供こども真似まねをする、どうじない子供こども大食おおぐらいの子供こども
 ふぅぃ、巫山戯ふざけてやがるぜ。

わたくしとしては、かがみ水面みなもうつ自分じぶん姿すがたでしょうか?」
 上品じょうひん色形いろかたち眼鏡めがねふちを、かるく持ち上げるメイド。
 自分じぶん姿すがただぁ?
 随分ずいぶんと……面妖めんようなことを言いやがる。
 たしかに自分が二人居たら・・・・・・・・おそろしいとかんじるかもしれんが。

 そういや最初さいしょ星神ほしがみ……自分シガミー瓜二うりふたつの姿すがたを見たときは、おどろいてるひまはなかった。
 自前の金剛力パワーアシストためすのに、いそしくてなぁ。

「「ふたつあったら――こわものだとぉ――?」」
 鉄塊てっかいのような金槌かなづちと、おなじく鉄塊てっかいのような鉄杭てっくい背負せおう、工房長こうぼうちょうとその縁者えんじゃ
 見た目はほとんおな背格好せかっこう、つまり大部分だいぶぶんひげだ。
 見慣みなれたひげも、2つになると不意ふいを突かれる。
 わら上戸じょうごのメイドが、からだ多少傾たしょうかたむけた。

「そりゃ、うまさけはいった酒瓶さかびんだぜ! がははっ♪」
 小柄こがら屈強くっきょう髭達磨ひげだるまたちが、かお見合みあわせた。
「そうだな。なんせ、ふたつもあったら、いつまでも仕事しごとが手に付かんからなぁ! がははっ♪」
 そうだな。鍛冶職人かじしょくにんどもは、求不得苦ぐふとくくってものをわかってる。

「そういうことならわたしは、リカルルの仕事机しごとづくえね。あんな魔境まきょうが2つもあったら、当分とうぶん――定時ていじじゃかえれないもの」
 開いた戸口とぐちからあおかおを見せる、一本角いっぽんつの麗人れいじん
 そのうで小柄こがら少女しょうじょが、かかえられている。
 そとからもどったばかりの二人ふたりも、給仕服きゅうじふくを着ていた。

「ちょっと、オルコトリア! それは今言いまい必要ひつようは、無いのではなくって!?」
「おじょうさま、以前仕事いぜんしごとは溜めないと、お約束やくそくしましたよね?」
 いろめき立つ、最凶さいきょうの名を欲しいままにする令嬢れいじょうと――その侍女メイド
 そのメイドのかおに張り付いた、上品じょうひん色味いろみ眼鏡めがねが――ヴュゥン♪
 色濃いろこく変色へんしょくし、周囲しゅうい景色けしきうつし込んでいく。

「ふぅ、オルコトリアさん。あまりリカルルさまを、いじめないであげてくれませんか?」
 小柄こがら少女しょうじょゆかに降り立ち、屈強くっきょう鬼族オーガ見上みあげる。
「そうは言うけど、実際じっさい。あの書類しょるいやまおもうと、こうしてくちをついて出るのよ」
 そう言いながらこしを下ろそうとした、大柄な女性オルコトリア

 そのそでを、くいと引くのは、おれとおなかお少女しょうじょ
「タターさん、オルコトリアさん。こちらをはこぶのを、お手伝てつだねがえませんでしょうか? クースクス
 追加ついかつめてぇ菓子かしぼんかさねて持ってきたのは、星神茅野姫ほしがみカヤノヒメ
「はい、お手伝てつだいしますっ♪」
 あわててぼんを受け取る、メイド少女しょうじょ

「シガミーさんも、こちらへ
 流し目よこめが、わらってねえな。

 わいわいわいわいがやがやがやがや。
 みんなが口々くちぐちに、2つあるとこわものを〝あげつらう〟なか
 遊撃隊ゆうげきたい二人ふたりとおれが、連れて行かれたのは――
 一番端いちばんはしの、五百乃大角いおのはらと、おにぎりと、森の主さまファローモすわるテーブル。

 屏風びょうぶ二枚にまい、ととんと取り出す――浮かぶ棒ジンライ
 どうした、これ?
 ふぉん♪
『>>エレクトロ・モフモ村で採取した未知の苔から、有用な音響ナノマテリアル形状を収得、再現しました』
 うん、わからんな。

 ふぉん♪
『>>〝非線形防音壁〟を一双、作成しました』
 〝防音壁ぼうおんへき〟ならわかる、なるほど?
 モフモフむらで、おとだかひかりだかを遮った奴・・・・つくったんだな。

 カシャカシャカチャキャチャ♪
「ひゃぁっ!?」「ぎゃぁっ!?」
 遊撃班ゆうげきはん二人ふたり襟首えりくびをつかみ上げる、浮かぶ棒ジンライ
 猪蟹屋制服ししがにやせいふくであるあの給仕服メイドふくは、ちょっとやそっとじゃやぶけない。

 ふぉん♪
『>>内密な話をするかも知れませんので、テーブルの隣へ立てて下さい』
 あー、そういうことか。
 遊撃班こいつらがぁ、なん森の主ファローモ狙撃そげきしたのかの確認かくにんがぁまだだったな。

 ふぉん♪
『シガミー>おまえら、何でまた森の主さまを狙った?』
 遊撃班ゆうげきはん二人ふたり耳栓みみせんをしてたから、一行表示ティッカー使つかえる。
 おれははし平机テーブルかこむように、屏風びょうぶを立てた。

   §

「さ、さきほどは、イオノファラーさまやシガミーをねらった刺客しきゃくかんちがいをしてしまい――」
 オルコたちが森の主ファローモねらった理由りゆうには、なん変哲へんてつも無かった。
 片膝かたひざを立て、組んだ両手りょうてはなに押し当てる屈強くっきょうおに
 それは美の女神いおのはらうやま作法さほうだが、れいを尽くしていることは――
 つたわるだろう……多分たぶんだが。

「「――もうしわけありませんでしたー!」」
 あたまを下げるいきおあまって――ゴッツン!
 一本角つの平机テーブルに打ちつける鬼の娘オルコトリアと、となりおなじようにひざまずく――
 給仕服姿メイドすがた少女タター

いえ、気にすることはありません。強者きょうしゃいどむは、生きとし生けるもののさがゆえ」
 冷静れいせいかんがえると剛気ごうきはなしだが――
 向かってきた弾丸たまを、木桶きおけで受け止め――
 酒の肴代わりに・・・・・・・、食っちまうようなやつだからな。

「良かったなオルコトリア。もりぬしさまは、はなせばわかる御仁ごじんだぞ」
 二人ふたりともひたいからなにかを生やしてるし、似たもの同士どうし仲良なかよくやれるだろ。

「シガミーちゃん……ひそひそ……もりぬしさまは、おとこひとなの?」
 少女しょうじょ普段ふだんと変わった様子ようすは無い。
「はぁ? 見りゃ……わかるだろうが?」
 おとここえをしてるが、見た目はやさしそうな珍妙ちんみょうおんなだ。
 本性ほんしょうやまよりもおおきな……鹿しかなにかなんだろうが――

「あふれる活力マナで、よく見えないよ?」
「見えんだと?」
 なにを言って――!?
ひとかたちはしてるから……ひそひそ……〝魔人まじん〟かとおもって、つい――」
 内緒話ないしょばなしに混ざる、鬼娘オルコ
「つい――撃っちまったと?」
 もりぬしを〝魔神まじん〟だと言う、遊撃班ゆうげきはん二人ふたり

 魔人まじんてのは、いまは無き魔王まおうくみする――ひとかたちをした魔物まものだと聞いている。
 したを出した少女しょうじょかおから目をはなし、もりぬしを見た。

 座布団ざぶとんうえ鎮座ちんざましましているのは――
 『もよう』がはいった着流きながしを着た、珍妙ちんみょうおんなだ。
 その姿すがたが――ボロボロとくずれていく。

 ひと姿すがた形作かたちづくっていた、木の葉や木の実とえだつるが――すべて落ちた!

「「「「ぅきゃっ――!?」」」――!?
 度肝どぎもを抜かれる、屏風びょうぶ内側うちがわ

 ヴォロロロロオロンッ――――♪
 座布団ざぶとんすわるのは、うねうねとしたひかりうずだけになった。

 それは、ひとかたちをした活力マナかたまり
 周囲しゅうい景色けしきうつし込む〝使つかい捨てシシガニャン〟の、強烈きょうれつたたずまいにも似ていて――

 たしかにそれは、〝魔神まじん〟と呼ぶに、相応しい姿・・・・・だった。

ーーー
求不得苦/煩悩に根ざした、決して満たされることの無い渇望。それによる苦しみのこと。
一双/二枚で一組になるもの。この場合、屏風。
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