滅せよ！ ジリ貧クエスト～悪鬼羅刹と恐れられた僧兵のおれが、ハラペコ女神の料理番（金髪幼女）に!?～

５：大森林観測村ＶＳガムラン町

６６５：厨房ダンジョンＬＶ２（裏）、ＶＳ三匹の蟹

「シガミーちゃン！　おきテおきて！・」
　ぅるへぇぃ――むにゃわー？

　揺れる視界しかい。
　ぼやけた視界しかいが、像ぞうを結むすんだら――ボッ！
　横よこから突き出る鋏はさみ。
　あの素早さ・・・には、見覚みおぼえが。

「（誰だれが、シガミーちゃンかぁ……迅雷ジンライぃー!?）」
　何なんだぜ、その童わらしみてぇな、しゃべりわぁ？
　ふぉん♪
『＞＞シガミーの覚醒を促すため、感情的反応を隆起する音声ファイルを生成しました。現在４２のうち、６個目のファイルを再生済みです』
　わからん怠だるぃ。

　ボボボボボボッフォッ！
　尚なおも横よこから、突き出される鋏はさみ。

　正面しょうめん、大おおきな平ひらたい蟹かにが見える。
　苦くるしぃ眠ねみぃ。
　回まわる視界しかい、横よこには小ちいさなカニが居――

　おれの体からだが、ひとりでに動うごく。
　ぽっきゅぽぽぉぉん――♪

　腹はらが白しろく、頭あたまから背中せなかと四つ足あしと尻尾しっぽが――
　菖蒲色あやめいろの地色じいろに、紫鳶むらさきとびの縞模様しまもよう。
　そんな虎縞とらじまの奴やつに片手かたてをつかまれ、振り回まわされている。
　辛つらぃ辛つらい眠ねみぃ辛つらい。

　ボッフォッ!!
　ボッフォッ!!
　左右さゆうから突き込まれる、鋏はさみ！
　それを蹴り飛ばし、片手かたてで捌さばく――
　虎型ふ号おれの手足てあし。
　七しちの型かたを放はなった後あとは、碌ろくに体からだを動うごかせねぇから――
　迅雷ジンライ任まかせになるのは仕方しかたがねぇがぁ、ちったぁ加減かげんをしろやぁ！

「やーべーぇー――ニーャーァー♪」
　自分じぶんの声こえと、外そとから聞こえる猫ねこの鳴き声ごえが――
　いーつーまーでーもー、聞ーこーえーてーーくーるーぅーぜーぇー？

「しがみぃちゃぁん、たぁすぅけぇてぇぇ――」
　おれを振り回まわす、虎型ひ号ビステッカが――
　泣き言ごとを、言ってやがる。

「（だれが、シガミーちゃんか？）」
　そんな場合ばあいか、ほら避けろ。
　真上・・から鋏はさみが――とんでもなく、でけぇ鋏はさみが――

　正面しょうめんの蟹かにが、いつの間にか――
　おれたちの、すぐ目の前まえに――
　回まわり込んでいやがった！

　その動うごきは、今いまのおれの目に――
　到底とうてい、追える速はやさではなく――
　うっぷ――ぅげぇぇ！
　ああー、苦くるしぃ。苦くるしぃ。

　ふぉん♪
『＞＞回復薬をどうぞ』
　カッシュン――口元くちもとに、なんか出た。
　何なんだコレ邪魔じゃまだぜ鋏はさみを避けろ――鋏はさみ？
　ヴッ――――ぐるん、ジャッリィィィンッ♪

　ゴギャギュギギィィィィンッ――――♪
　今いまのおれに動うごかせたのは――
　せいぜい片手一本かたていっぽん。
　虎縞どもおれたちへ振り下ろされた鋏はさみを――
　辛かろうじて、錫杖しゃくじょうで受け止めた！

「じがみ゛ぃぢゃぁん、だぁずぅげぇでぇぇ――」
　泣き言ごとを言う暇ひまで、避けろやぁ。
「――――だれが、ジガミーちゃんかぁ、けっほけほっ！」
　吐いちまった物ものが頭あたまん中なか――
　顔かおの周まわりに飛び散った！

　弾はじかれたのとは別べつの、小ちいさい方ほうの鋏はさみで――
　目に付いたゴミを取る、大蟹おおがに。
　その円つぶらな瞳ひとみが、おれたちをじっと――
　見据みすえている。

　あの目は知ってる。
　日の本もとの山中さんちゅうで、出くわした野犬やけんや――
　岩場いわばで出くわした、火吐ひはき狼おおかみや――
　狐耳の母娘コントゥルおやこが――
　おれに向けたのと、同じだ・・・。

　はぁはぁはぁはぁ――吐いたからか。
　いくらか頭あたまが、はっきりしたぜ。

　　　§

「三匹・・の蟹かにに、挟はさまれましたわ――ニャァ♪」
　今度・・は蠍さそりじゃなくて、本当ほんとうに蟹かにだった。
　正面しょうめんに大蟹おおがにと、あとは辰たつと酉とりの方角ほうがくに小せぇのが・・・・・一いっぴき匹ずつ。

「せめて、この場に五百乃大角いおのはらが居なかったのが、幸さいわいだぜ――ニャァ♪」
　居たら必かならず「仕留しとめて、晩ばんのおかずに出して」と言いやがっただろうからなぁ！

　地に落ちたおれたちを待ち受けていたのは――三匹さんびきの甲殻類かにたち。
　蠍さそりと違ちがい、相当そうとうな硬かたさで――
　あの大申女おおざるおんなを以もってしても、「見かけたら、一目散いちもくさんに逃げなさいな」
　そう言わしめる程ほどの、超難敵ちょうなんてき。

　ガキガキガキガキッ――――ゴリッ！
　ちっ、錫杖しゃくじょうをつかまれたぜ！
　蟹かにの鋏はさみってぇのわぁ――こんなに厄介やっかいなもんだったのかぁ！
　〝両刀遣りょうとうつかい〟てのは町中まちなかには居たが――いくさ場じゃ、とんと見なかった。
　仕留しとめた雑兵そうひょうの脇差わきざしを抜いて、近寄ちかよる敵てきに投げつけたりはしたが。

　ガサゴサッガサゴササッ――バゴォン！
　突然とつぜん、姿すがたを消し背後はいごに現あらわれる殺気さっき。
　見る前まえに、横よこっ飛びに避けないと――割れた地面じめんのように、砕かれる・・・・。
　強化服シシガニャンの頑丈がんじょうさを信用しんようはしていても――ニゲルの安物やすものの剣けんっていう、例外もある・・・・・。
　避ける以外いがいの、逃げ道みちはない。

　しかし――
「や、やべぇ！　まだ体からだが動うごかん、迅雷ジンライ、力ちからを貸せやぁ！」
　虎型とらがたひ号ごうを、突き飛ばしたまでは良かったが――
　倒たおれた虎型ふ号おれのからだは、碌ろくに動うごいちゃくれねぇ！

　猫耳頭あたまを、強つよく回まわす――がちり。
　しっかりと襟回えりまわりとくっ付いてるから、それ以上いじょうは回まわらない。
　それでもおれの目は、迫せまり来る〝大蟹おおがに〟を捉とらえた。
　画面モニタが視線しせんを追いかけて、真後まうしろを見せてくれているのだ。

　ふぉん♪
『＞＞遠隔操作するためには、〝裏天狗一式〟を内蔵する必要があります』
　くそう。こんなことなら虎型とらがたの二匹にひきに、裏天狗うらてんぐを仕込しこんでおくんだったぜ！

　ふぉん♪
『超特選厨房蟹【奏者】／
　鋏脚と甲羅を持つ、十足。食用甲殻類としては、最速にして最強種。
　甲羅は硬く、物理・魔法共に弾く。
　中に詰まった身は肉厚で濃厚、特徴的な巨大鋏脚は特に美味とされる。
　甲羅は耐物・耐魔法のレア素材としてだけでなく、
　衝撃⇔筋力強化機能へ転用可能。』

　ふぉん♪
『ヒント＞鋏脚／はさみ。海老や蟹など節足動物の爪。』

　こぉのぉ大蟹おおがにめっ！
　速はやくて硬かたくて、しかも旨うまいと来てやがるぜ！
「（ええ、コレを逃のがした場合ばあいのイオノファラーの機嫌きげんは、地に落ちると思おもわれます・）」

　くそぅ、大申女ロットリンデが言っていたのは、マジ・・だったな！
　このままじゃ、おれたちが餌食えじきにされちまう。
　おれは、ぽきゅごろんと寝転ねころがり――――ギャギチッィイィイィン！
　錫杖しゃくじょうで、巨大きょだいな鋏はさみを受け止めた。

　その大おおきさは、巨大蟹きょだいがにの甲羅からだくらいあって――
　見てるだけで、意識こころを持ってかれる。

　ぶくぶくぶく――――にょきりっ！
　また大蟹おおがにと、目が合った。
　突き込まれる、もう一ひとつの鋏はさみ。

「かえんのたまかえんのたまかえんのたま――かっぎゅ、ひひはい――ニャァ♪」
　虎型ふ号おれを襲おそった小ちいさい方ほうの鋏はさみに、果敢かかんにも挑いどむ虎型ひ号ビステッカ。
　前まえに大講堂だいこうどうで自慢じまんしてた、覚おぼえたばかりの上級魔法かえんのたま。

　だが大蟹おおがには目を僅わずかに、引っ込めただけだった。
　燃えさかる小ちいさな炎ほのおは、見る間に小ちいさくなっていき――
　とうとう虎型ふ号ビステッカは、口くちを押さえて動うごかなくなった。

　かぁ――仕方しかたねぇ！
　迅雷ジンライ――〝滅めつモード〟の撃ち方かたぁ！
　ちゃんと、教おしえろやぁ！
　今撃いまうたねぇと、死ぬ。

「（口頭こうとうで技名わざめいを唱となえてください――どんな技名わざめいにしましょうか？・）」
「（技名わざめいだぁ――〝滅門戸めつモード〟で良いだろぅが！　早はやくしろや！）」
　今死いましぬ、もう死ぬ！

　ふぉん♪
『＞音声入力：滅モード――温泉入浴滅門戸を、滅の太刀自動化モードのショートカットとして登録しました』
「（では〝温然入浴おんせんにゅうよく滅門戸めつもんど〟と唱となえてください・）」

「温然入浴にゃみゃにゃー滅門戸みゃにゃーご！――ニャァ♪」
　ギャギュギギギッ――――!!!!

　ふぉん♪
『【滅の太刀自動化モード／ＯＮ】
　━━━━╋：チャージ　残弾数：４』
　画面モニタの中なか、小ちいさい地図ちずの横よこ。
　抜き身の小太刀かたなの絵が、現あらわれた。
　使つかってみりゃ、読み方かたもわかるだろ。

　　　§

　ドズズズゥゥン！
　地に落ちる巨大きょだいな鋏はさみ。

「よぉぅし！　斬ってやったぜ！――ニャァ♪」
　寝転ねころんだままの、滅めつモード四連撃よんれんげき。
　最後さいごの一太刀ひとたちが辛かろうじて、当たってくれて助たすかった。

　ふぉん♪
『【滅の太刀自動化モード／ＯＦＦ】
　…………╋：チャージ　残弾数：０』
　小太刀かたなの絵は、短みじくなっちまって――
　もう撃てそうもねぇ。

　ぶくぶくぶくぶくっ！
　大蟹おおがにが泡あわを吹いて――
　ガサゴサッガサゴササッと、逃げ出した。

　カサコサッカサコササッ！
　カサコサッカサコササッ！
　小ちいさいのも、その後あとを追っていく。

「厨房蟹ちゅうボうがにノ逃走とうソうヲ確認かくにン。追撃ついゲきしマすか？・」
　金物かなものをひっかいたような、迅雷ジンライの声こえ。

「ふぅぅ、馬鹿ばかを言うな。おれたちも逃げるぞ」
　と言っても、おれの体からだは、もう動うごかんが。

「な、何なんとか生き延びたわ――ニャァ♪」
　画面モニタの小ちいさな枠わくの中なか。子供ビステッカが声こえを張り上げた。

　迅雷ジンライ、鋏仕舞はさみしまっとけ。
　これで、五百乃大角いおのはらへの土産みやげが出来できた。