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4:龍撃の学院
575:龍撃の学院、古代魔法と乱入者たち
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紙包みの中には、小分けにされた茶葉が二つと――短い太棒?
「シガミー、字が書ける棒があっただろう、貸してくれるかい?」
墨を使わずに、文字や絵が描ける――黒筆のことか。
そこに字が書ける鉄筆があるが、まぁ良いやな。
ヴッ――取り出したソレを、手渡すと――
置かれた紙の中央。
手書きの大きな丸を描く、女将さん。
その輪に掛かるように、太棒を押し当て――ぽふん♪
複雑な環状の文様の焦げ目が、転写された。
「〝ひのたま〟を使ったってことは、魔法具か?」
寺社印にしちゃ小せぇな。家印の類いか?
わさりっ――かぐわしい香り。
紙に判を押すと、その上に茶葉が現れた。
「大森林観測村在住の、凄腕の古代魔術職人が作った物さね――リオレイニア!」
メイドの中のメイドを呼びつける、木さじ食堂店主。
「興味深いニャァ。構造としては紙一枚。マジックスクロールに酷似しているニャァ♪」
「紙に転写され起動した、収納魔法具の様にも思えませんか?」
顧問氏と顧問秘書の二人は、魔法具解析にも造詣が深い。
「こんなに綺麗で複雑な、輪っかの模様は見たことが無いコォン!?」
「そうにゃ、これはきっと一生に一度あるかないかの、チャンスにゃぁ♪」
喫茶店店主と店員の二人は、我楽多……魔法具仲介も行っている。
「いや、こいつはそんな上等な物じゃぁ無いさね♪」
紙の両端を持ち上げ、湧いた茶葉とやらを――
給仕服の目隠し女に、手渡す。
給仕服は言われるままに茶葉が入った袋と、追加の茶葉を抱えて去って行く。
「うむ。あそこまで精緻な物には、お目に掛かったことは無いが――儂くらいの年齢なら皆、使えるわい」
政敵閣下殿が、そんなことを言い――掌に簡単な図案を描いた。
突き出された光る図案は、鳥の絵のよう。
皆、使えるだとぉ?
ふぉん♪
『シガミー>おにぎり、女将さんから習った古代魔術はどんなだった?』
ふぉん♪
『おにぎり>光の線で絵を描くと、水が出たり火が出たり灯りが灯ったりしたもの♪』
まるっきり生活魔法じゃねぇーか。
ふぉん♪
『>一世代前に用いられていた魔法発動の文法パターンは、図表で構成されていたようです』
ふぉん♪
『イオノ>なるほどねーん。つまりその紙や掌に描く術式が、近代において魔法杖に取って代わったのね。おもしろっ♪』
「ほんの30……ん゛っん゛ん……ひと昔まえまでは、この絵を使う古代魔法の方が主流だったのさ。もちろん強力な魔法を使うときには、魔法杖も詠唱魔法も使われていたけどね♪」
30年か、それだけの時間が過ぎりゃ、世のあり方も相当変わりはするだろうが。
それでも剣や魔法の扱いなんかは、そうそう変わらんとも思わないでもない。
ふぉん♪
『ホシガミー>言語に図案と魔術行使の形態が、一定周期で変わるなんて、まるで流行りすたりみたいですね? くすくす?』
いや、本当に流行り廃りっぽいな。
時代が進めばまた別の、魔法の流行が生まれるんだろうよ。
案外、猪蟹屋の製品である詠唱魔法具が、主流になったりしてな。
ふわぁぁん♪
んぅ――何だぜ、この甘い香りわぁっ!?
「コッヘル夫人。言われたとおり普通に、紅茶の手順で入れてみたのですけれど――」
カチャカチャキュラキュラと運ばれてきたのは、車が付いた小さな台。
「さすがはリオレイニアだね。文句ないよ♪」
リオレイニアが用意したカップは、全部で13個。
政敵派閥である上流貴族たちと、王族の分。
そしてコントゥル家母娘の分。
最後の一つは、もちろんウチの根菜さまの分だ。
気を遣わせてしまって、申し訳ない。
チーン♪
チーン♪
上級鑑定の鐘の音が鳴っているのは、毒味代わりか。
じゃぁおれも――上級鑑定
ぽこん♪
『ソッ茶/未開の大森林や隣接するフカフ村で採れる、超高級茶葉。
コクがあって甘みも強い肉厚な葉は、スープにしてよし、
おひたしにしてよし、ソースにも最適。
味にうるさい時の令嬢を以てして、「王都宮廷付きの料理人の、
スープより美味しいわね」と言わしめた、正に万能食材。』
大絶賛だな、おい。
「うっひゃっ!? なにこれぇ――コーンスープ……いや〝おでんのお出汁〟みたいな感じもするしぃ――――!? 素敵おぃしぃ、超絶ストロング旨いんですけどっ♪」
はしゃぐ、根菜さま。
逆に静かに息を吐く、上流貴族と王族たち。
「このお味は、初めてですららぁぁん♪」
「うむ、十数年越しの……この味――実に旨い♪」
「女将さんっ、これ猪蟹屋でも扱わせて欲しいんだけどぉ――!?」
「ソッ茶の中でも、この〝方陣記述魔法〟を作った彼が選定した物は、高額なソッ草の中でもさらに高値で取引されるんさね。100グラムが5メートル超えのモクブート一匹丸ごとの値段と釣り合うなんて、良く言われたもんさね」
碾茶か。ありゃ、うまい。
ぱららっららっ――「あった、なんだ豚さんじゃんか!」
ふぉん♪
『モクブート/
非常に大きな胴体を持つ四つ足の獣。
体長は3メートルから7、8メートル程度。
中には10メートルを超える個体の発見例があり。
天変地異を起こす地割りスキルを持ち、
そのお味は脂がのった霜降り肉そのもの。
幻の高級肉として高値で取引されている。』
あー、はいはい。
そのうち、獲ってきてやるから、まずは涎を拭けや。
§
傾国|(物理)の美女|(悪漢)と噂された吸血鬼令嬢ロットリンデ。
その寵愛を一身に受ける、男性。
女将さんの幼なじみでもある、件の茶葉と古代魔法の名手。
彼が所有する、鉄の箱。
「お金を入れると……もぐもぐ……物を出す箱ねぇ。それって普通の自販機じゃぁないのぉ?」
根菜さまはリオレイニアを呼びつけ、意地汚くも出し殻となったソッ草を啄んでいる。
「あっ……もぐもぐ……それだ!」
女将さんまで一緒になって、塩を振って食べ始めた。
「え、どれ?」
「たしかに〝ジハンキィー〟って言ってたよ、ロットリンデが」
〝禄人厘手〟ぇ? ふーん……それおれにも、くれやぁ。
手を差し出すと、何と政敵派閥の連中まで、手を差し出して来やがった。
お前さま方は飲んだだろーがぁ、お茶をよぉー!
「ロットリンデ? 何か聞いたことがあるニャン……たしか、この辺ニャァ♪」
大講堂の隅。本棚から取り出されたのは、薄くて大きな本……絵本だぜ。
絵本が出るといつも、碌でもない物も出てきやがる。
歌にもなったミノタウロース、『つののはえたまもの』。
建国の戦いを表しているらしい、『おうさまとりゅうのまもの』。
そして――『けいこくのまもの』。
だが最後のこれは他の二つよりは、いくらか厚みがあって、実際の姿を書き写したような立派な絵が沢山、描かれていた。
「随分と、お綺麗な魔物ですわね♪」
「ららぁん♪」「ほんとぉですねぇー♪」
「ウッケケケケッ――♪」
淑女の茶会に混じる妖怪にも、もう慣れてきたな。
「掛け値なしに綺麗な人ではあったけど……ある意味、魔物さね――」
とおい目をする、コッヘル婦人。
§
ふすん――っ二回目に押した判子からは、ソッ草の茶葉は現れず――
小さな白煙が、立ち上っただけだった。
「彼の目に敵う程の物になると、年に一つまみしか採れない年もあるからねぇ」
落胆の五百乃大角と、政敵頭領。
「フカフ村に行けば新鮮なソッ草をいくらでも、おいしくいただけるんだけど」
「フカフ村?」「いくらでも?」
やい根菜、変な連帯感で結ばれてるんじゃねぇぞ。
「どうぞ、シガミー」
「おう、悪……ありがとう、ごぜぇますわぜ」
リオレイニアとサキラテ家のメイドたちが、別の茶を入れてくれた。
「そもそもの王家に対する不信感の全てが、ゴーレムの外観によるものであり――」
うむ、正論だぜ。耳が痛い王女殿下が、ニゲルを探し――
青年は土煙を上げ、彼方へと消え去った。
「だがお前さん方が撫でてる、そいつらも――ゴーレムだぞ?」
おれは言ってやった。
お貴族さまが興味を持っていた、おにぎりと子馬。
あいつらは様式や術式の違いがあれど、正真正銘――
発掘魔法具や魔導工学で動く、人形だ。
そんな事実に恐れ慄く、上級貴族たち。
「「「「「「「「まさかっ!? こんなに聞き分けが良くて手触りも良くて、何より目が天を突いていない!」」」」」」」」
「ららぁん!?」と王女殿下の恨みがましい目が、おれに突き刺さる。
そのご意見は、甘んじてうけろや。
頑なに目を尖らせたがったのは、王女殿下さまだろうが。
§
白熱し混迷を極めた、『大森林観測村との、貿易協定についての協議会』。
やがてコッヘル商会による、〝王族と上流貴族派閥、双方に益のある提案〟がなされるに至り――
全てが上手く行くかと思えた。そのとき――
ゴドン――ガチャガチャガチャガチャチャチャチャチャッ♪
壇上奥、黒板のとなり。
ちいさめの扉が、その形や大きさを――めまぐるしく変えていく。
ガチャリと扉が開き、姿を現したのは――
「ふふぅん、おれっちのダンジョンと比べたらぁ、質素な佇まいですねぇーん♪」
って、何だぜその――家財道具一式わぁっ!?
おっさん、まさか此処に住むつもりかっ!?
それに〝深遠の囁き〟の三人が。でかい鍋を抱えてる?
バタンと閉じられる扉――
ガチャン、ガシャガシャガシャガシャッ――♪
ひとりでに留め金が閉じられ――
ゴドン――ガチャガチャガチャガチャチャチャチャチャッ♪
もう一度、ガチャリと開く扉――
「あら、娘ー♪ ウチの娘ー、おーぃ♪」
「本当だ、ウチの娘だ! おおぉーい♪」
「おねぇちゃんだぁー! おーぃ♪」
騒々しい連中が、次から次へと――
大講堂へ乱入する――大勢の不審者たち。
「ぷぎゅりゅるるっ――――!?」
あー、蛸之助まで出てこようとしてやがるぜ――おれは力一杯、扉を閉めた。
ぼっつん――――ジタバタジタバタッ!
あ、やべぇ悪ぃ、千切れちまったぜ。
ふぉん♪
『>切断時の痛みや衝撃は緩和出来るようですし後日、謝罪がてら御用聞きに伺いましょう』
そうだな。欲しいものがあるなら、何でも作ってやろう。
じったんばったん、ぐねぐねぶぶるぞわ――!!
じったんばったん、ぐねぐねぶぶるぞわ――!!
「「「「「「「「ひぃぃぃぃぃぃぃっ!? ま、魔物!?」」」」」」」」
上級貴族たちが、暴れまくる蛸足に蹴散らされていく。
「シガミー、字が書ける棒があっただろう、貸してくれるかい?」
墨を使わずに、文字や絵が描ける――黒筆のことか。
そこに字が書ける鉄筆があるが、まぁ良いやな。
ヴッ――取り出したソレを、手渡すと――
置かれた紙の中央。
手書きの大きな丸を描く、女将さん。
その輪に掛かるように、太棒を押し当て――ぽふん♪
複雑な環状の文様の焦げ目が、転写された。
「〝ひのたま〟を使ったってことは、魔法具か?」
寺社印にしちゃ小せぇな。家印の類いか?
わさりっ――かぐわしい香り。
紙に判を押すと、その上に茶葉が現れた。
「大森林観測村在住の、凄腕の古代魔術職人が作った物さね――リオレイニア!」
メイドの中のメイドを呼びつける、木さじ食堂店主。
「興味深いニャァ。構造としては紙一枚。マジックスクロールに酷似しているニャァ♪」
「紙に転写され起動した、収納魔法具の様にも思えませんか?」
顧問氏と顧問秘書の二人は、魔法具解析にも造詣が深い。
「こんなに綺麗で複雑な、輪っかの模様は見たことが無いコォン!?」
「そうにゃ、これはきっと一生に一度あるかないかの、チャンスにゃぁ♪」
喫茶店店主と店員の二人は、我楽多……魔法具仲介も行っている。
「いや、こいつはそんな上等な物じゃぁ無いさね♪」
紙の両端を持ち上げ、湧いた茶葉とやらを――
給仕服の目隠し女に、手渡す。
給仕服は言われるままに茶葉が入った袋と、追加の茶葉を抱えて去って行く。
「うむ。あそこまで精緻な物には、お目に掛かったことは無いが――儂くらいの年齢なら皆、使えるわい」
政敵閣下殿が、そんなことを言い――掌に簡単な図案を描いた。
突き出された光る図案は、鳥の絵のよう。
皆、使えるだとぉ?
ふぉん♪
『シガミー>おにぎり、女将さんから習った古代魔術はどんなだった?』
ふぉん♪
『おにぎり>光の線で絵を描くと、水が出たり火が出たり灯りが灯ったりしたもの♪』
まるっきり生活魔法じゃねぇーか。
ふぉん♪
『>一世代前に用いられていた魔法発動の文法パターンは、図表で構成されていたようです』
ふぉん♪
『イオノ>なるほどねーん。つまりその紙や掌に描く術式が、近代において魔法杖に取って代わったのね。おもしろっ♪』
「ほんの30……ん゛っん゛ん……ひと昔まえまでは、この絵を使う古代魔法の方が主流だったのさ。もちろん強力な魔法を使うときには、魔法杖も詠唱魔法も使われていたけどね♪」
30年か、それだけの時間が過ぎりゃ、世のあり方も相当変わりはするだろうが。
それでも剣や魔法の扱いなんかは、そうそう変わらんとも思わないでもない。
ふぉん♪
『ホシガミー>言語に図案と魔術行使の形態が、一定周期で変わるなんて、まるで流行りすたりみたいですね? くすくす?』
いや、本当に流行り廃りっぽいな。
時代が進めばまた別の、魔法の流行が生まれるんだろうよ。
案外、猪蟹屋の製品である詠唱魔法具が、主流になったりしてな。
ふわぁぁん♪
んぅ――何だぜ、この甘い香りわぁっ!?
「コッヘル夫人。言われたとおり普通に、紅茶の手順で入れてみたのですけれど――」
カチャカチャキュラキュラと運ばれてきたのは、車が付いた小さな台。
「さすがはリオレイニアだね。文句ないよ♪」
リオレイニアが用意したカップは、全部で13個。
政敵派閥である上流貴族たちと、王族の分。
そしてコントゥル家母娘の分。
最後の一つは、もちろんウチの根菜さまの分だ。
気を遣わせてしまって、申し訳ない。
チーン♪
チーン♪
上級鑑定の鐘の音が鳴っているのは、毒味代わりか。
じゃぁおれも――上級鑑定
ぽこん♪
『ソッ茶/未開の大森林や隣接するフカフ村で採れる、超高級茶葉。
コクがあって甘みも強い肉厚な葉は、スープにしてよし、
おひたしにしてよし、ソースにも最適。
味にうるさい時の令嬢を以てして、「王都宮廷付きの料理人の、
スープより美味しいわね」と言わしめた、正に万能食材。』
大絶賛だな、おい。
「うっひゃっ!? なにこれぇ――コーンスープ……いや〝おでんのお出汁〟みたいな感じもするしぃ――――!? 素敵おぃしぃ、超絶ストロング旨いんですけどっ♪」
はしゃぐ、根菜さま。
逆に静かに息を吐く、上流貴族と王族たち。
「このお味は、初めてですららぁぁん♪」
「うむ、十数年越しの……この味――実に旨い♪」
「女将さんっ、これ猪蟹屋でも扱わせて欲しいんだけどぉ――!?」
「ソッ茶の中でも、この〝方陣記述魔法〟を作った彼が選定した物は、高額なソッ草の中でもさらに高値で取引されるんさね。100グラムが5メートル超えのモクブート一匹丸ごとの値段と釣り合うなんて、良く言われたもんさね」
碾茶か。ありゃ、うまい。
ぱららっららっ――「あった、なんだ豚さんじゃんか!」
ふぉん♪
『モクブート/
非常に大きな胴体を持つ四つ足の獣。
体長は3メートルから7、8メートル程度。
中には10メートルを超える個体の発見例があり。
天変地異を起こす地割りスキルを持ち、
そのお味は脂がのった霜降り肉そのもの。
幻の高級肉として高値で取引されている。』
あー、はいはい。
そのうち、獲ってきてやるから、まずは涎を拭けや。
§
傾国|(物理)の美女|(悪漢)と噂された吸血鬼令嬢ロットリンデ。
その寵愛を一身に受ける、男性。
女将さんの幼なじみでもある、件の茶葉と古代魔法の名手。
彼が所有する、鉄の箱。
「お金を入れると……もぐもぐ……物を出す箱ねぇ。それって普通の自販機じゃぁないのぉ?」
根菜さまはリオレイニアを呼びつけ、意地汚くも出し殻となったソッ草を啄んでいる。
「あっ……もぐもぐ……それだ!」
女将さんまで一緒になって、塩を振って食べ始めた。
「え、どれ?」
「たしかに〝ジハンキィー〟って言ってたよ、ロットリンデが」
〝禄人厘手〟ぇ? ふーん……それおれにも、くれやぁ。
手を差し出すと、何と政敵派閥の連中まで、手を差し出して来やがった。
お前さま方は飲んだだろーがぁ、お茶をよぉー!
「ロットリンデ? 何か聞いたことがあるニャン……たしか、この辺ニャァ♪」
大講堂の隅。本棚から取り出されたのは、薄くて大きな本……絵本だぜ。
絵本が出るといつも、碌でもない物も出てきやがる。
歌にもなったミノタウロース、『つののはえたまもの』。
建国の戦いを表しているらしい、『おうさまとりゅうのまもの』。
そして――『けいこくのまもの』。
だが最後のこれは他の二つよりは、いくらか厚みがあって、実際の姿を書き写したような立派な絵が沢山、描かれていた。
「随分と、お綺麗な魔物ですわね♪」
「ららぁん♪」「ほんとぉですねぇー♪」
「ウッケケケケッ――♪」
淑女の茶会に混じる妖怪にも、もう慣れてきたな。
「掛け値なしに綺麗な人ではあったけど……ある意味、魔物さね――」
とおい目をする、コッヘル婦人。
§
ふすん――っ二回目に押した判子からは、ソッ草の茶葉は現れず――
小さな白煙が、立ち上っただけだった。
「彼の目に敵う程の物になると、年に一つまみしか採れない年もあるからねぇ」
落胆の五百乃大角と、政敵頭領。
「フカフ村に行けば新鮮なソッ草をいくらでも、おいしくいただけるんだけど」
「フカフ村?」「いくらでも?」
やい根菜、変な連帯感で結ばれてるんじゃねぇぞ。
「どうぞ、シガミー」
「おう、悪……ありがとう、ごぜぇますわぜ」
リオレイニアとサキラテ家のメイドたちが、別の茶を入れてくれた。
「そもそもの王家に対する不信感の全てが、ゴーレムの外観によるものであり――」
うむ、正論だぜ。耳が痛い王女殿下が、ニゲルを探し――
青年は土煙を上げ、彼方へと消え去った。
「だがお前さん方が撫でてる、そいつらも――ゴーレムだぞ?」
おれは言ってやった。
お貴族さまが興味を持っていた、おにぎりと子馬。
あいつらは様式や術式の違いがあれど、正真正銘――
発掘魔法具や魔導工学で動く、人形だ。
そんな事実に恐れ慄く、上級貴族たち。
「「「「「「「「まさかっ!? こんなに聞き分けが良くて手触りも良くて、何より目が天を突いていない!」」」」」」」」
「ららぁん!?」と王女殿下の恨みがましい目が、おれに突き刺さる。
そのご意見は、甘んじてうけろや。
頑なに目を尖らせたがったのは、王女殿下さまだろうが。
§
白熱し混迷を極めた、『大森林観測村との、貿易協定についての協議会』。
やがてコッヘル商会による、〝王族と上流貴族派閥、双方に益のある提案〟がなされるに至り――
全てが上手く行くかと思えた。そのとき――
ゴドン――ガチャガチャガチャガチャチャチャチャチャッ♪
壇上奥、黒板のとなり。
ちいさめの扉が、その形や大きさを――めまぐるしく変えていく。
ガチャリと扉が開き、姿を現したのは――
「ふふぅん、おれっちのダンジョンと比べたらぁ、質素な佇まいですねぇーん♪」
って、何だぜその――家財道具一式わぁっ!?
おっさん、まさか此処に住むつもりかっ!?
それに〝深遠の囁き〟の三人が。でかい鍋を抱えてる?
バタンと閉じられる扉――
ガチャン、ガシャガシャガシャガシャッ――♪
ひとりでに留め金が閉じられ――
ゴドン――ガチャガチャガチャガチャチャチャチャチャッ♪
もう一度、ガチャリと開く扉――
「あら、娘ー♪ ウチの娘ー、おーぃ♪」
「本当だ、ウチの娘だ! おおぉーい♪」
「おねぇちゃんだぁー! おーぃ♪」
騒々しい連中が、次から次へと――
大講堂へ乱入する――大勢の不審者たち。
「ぷぎゅりゅるるっ――――!?」
あー、蛸之助まで出てこようとしてやがるぜ――おれは力一杯、扉を閉めた。
ぼっつん――――ジタバタジタバタッ!
あ、やべぇ悪ぃ、千切れちまったぜ。
ふぉん♪
『>切断時の痛みや衝撃は緩和出来るようですし後日、謝罪がてら御用聞きに伺いましょう』
そうだな。欲しいものがあるなら、何でも作ってやろう。
じったんばったん、ぐねぐねぶぶるぞわ――!!
じったんばったん、ぐねぐねぶぶるぞわ――!!
「「「「「「「「ひぃぃぃぃぃぃぃっ!? ま、魔物!?」」」」」」」」
上級貴族たちが、暴れまくる蛸足に蹴散らされていく。
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