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4:龍撃の学院
544:央都猪蟹屋跡地、ロォグと大穴
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「う゛ぁ……ろぉぐ……お猫――ややこしい! ロォグで良いのかぁ――!?」
耳栓は全員がしてるわけじゃねぇから――
「にゃみゃぁん――♪」
とおくでひっくり返るお猫さまが、何て言ってるかは――
一部の奴にしかわかってねぇ。
ちなみに返事は、「――神々しい――適合ニャ♪――」だ。
本猫的に、悪くねぇらしいことはわかった。
「ロォグ? それ、良いんじゃないの。100万回遊べるゲームみたいでさぁ♪」
蜂女に拾われた、御神体さまが宣い――
「にゃみゃ、みゃぎゃにゃぁー、にゃみゃん♪」
『「いやぁ、我輩の名に相応しいとはいえ、照れるニャ♪」って言っ』
猫の魔物(大)がパタンと取り出した板には、猫の魔物(小)のそんな言葉が書かれていく。
「ふぅーん、ろぉぐちゃん……かわいいかも♪」
茣蓙に座る子供たちへ、寄っていくおにぎり。
「――けど精霊にそんなものは、要らないニャ。今、要るのは、ここで一番熱い火ミャ♪――」
ここで、一番熱いだぁ?
「「なら私の――」」
声を重ねたのは辺境伯令嬢と、一番の親友の侍女。
ばつが悪かったのか、侍女は――ヴヴヴヴッと震えた。
「ひぃ――――っ!?」
フッカが悲鳴(小)をあげ、東屋近くの木陰に隠れた。
筋金入りに蜂って言うか、蜂の魔物が嫌いなんだな。
「――そりゃ件の、対魔王結界だろうぜ! がははははっ♪」
工房長が、おにぎりの木板をみて、そう言った。
「工房長が言うなら、そうかもなぁ」
ぽこ――こぉん♪
てちり。
「そうわね。あの火力で、しかも使い放題だから――お料理にも使えそうわね?」
どうもおれの頭の上を、巣かなんかと勘違いしてやがるぜ――美の女神の丸茸の御神体さまわよぉー。
「「んまっ――!?」」
対魔王結界に負けた上、竈の火と比べられたことが余程、心外だったのか――
派手なのと蜂みたいなのが手に手を取り合い、ジトリとした目を向けてきた。
おれじゃねーだろ?
言ったのわぁ工房長と、御神体だろがぁ。
「ここを真っ直ぐ行きゃぁ、対魔王結界がある央都猪蟹屋本店があるぞ」
燃えてレイダ材にされた、央都猪蟹屋(半壊)。
その方向を、指で指してやったら――
手甲を両手に持ち、その籠手先でしっかりとアダマンタイトをつかむお猫さまが――
すててててと、軽快な走りで掛け出した。
「まてまて、おれたちは、その火を止めようとしてるって言っただろうが――っぶねっ!」
猫はまた振り返り――ヴォゥヴォオン!
トトォン――ズサッ!
慌てて飛び退くが、アダマンタイトが、おれの耳をかすった!
「――その火を止める装備を作るためには――その火と同じくらいの火が必要ミャ♪――」
すててってって――逃げていくお猫さま♪
「だめだ、あの火はやべぇ! そうだ、あそこで魔法杖に撓垂れ掛かって浮いてる蜂女に頼めば――」
ガムラン町で白銀の盾を作るときに、ノヴァドがリオレイニアに火を焼べさせてた。
リオの炎でも使えねぇことは、ねぇだろう。
姫さんの〝狐火・仙花〟わぁ、斬るのが本分だから――
アダマンタイトにぶつけたら、何が起こるかわからんがぁ。
「は、蜂女っ!?」
ヴヴヴウッヴッ――!?
震えるガムラン随一の、隠れモテ女。
「プフフフフウフフフフッ――レ……ルガレイニア、言われているわよ♪」
腹を抱えるガムラン最凶の、縁談話はとんと聞かない受付嬢。
「あの毒針みたいな小さい魔法杖といい、浮かぶ姿と言い――なんだか本当に、蜂に見えてきたわね」
ガムラン冒険者ギルド名物受付嬢の、最凶の受付嬢を窘める役を担う鬼族。
その声が、とおくから聞こえてきた。
鬼娘は蜂女を、好敵手として見ている。
馬鹿にした様子はなく、率直な感想なんだろうが――
ヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴッ――――――――!!!
「ぎゃっ!?」
木陰のフッカが、倒れた。
「――了承不可――維持不許可――火力万全……にゃっにゃぁー!――」
ブォブォォン――ヴォォォォォヴォヴォォォン!
首とアダマンタイトを左右に振る、お猫さま。
また古代猫語が出た。
「だから長ぇ棒を振るな! それ寄越せや、おれが持つぜ!」
子供らに当たって、怪我でもしたらたまらんだろうが――
ガガァァンッ――――ガッチリッ!
アダマンタイトをつかんだら――びくりともしなくなった!
「おい離せや?」
ありゃ?
猫が大きな手甲を、外套にしまい込んだ。
おれがつかんだアダマンタイトは――空中に縫い付けられたように動かない。
その場に〝縫い付けられ動かない物〟っていやぁ、轟雷の太刀だ。
だがありゃ、とんでもなくでかい神力が必要な筈で。
つまりこいつぁ――
「よ、妖術かっ!?」
おれぁ、坊主だ。
〝生き死にの埒外も本分〟だが、専門じゃねぇ。
指を離そうとすると、ぐぐぐっ――ヴォヴォン♪
アダマンタイトの先端側が、おれの方を向いて――
ふぉん♪
『>シガミー、指を離さないでください! 接触している指先方向への、ベクトル量を検出しました』
わかってる!
『►►►――――グワジャdギュギtp!』
動体検知が見え隠れし、おれを狙ってるのがわからぁ。
「――にゃぁーふん。どうするニャ?――」
あくびを放つ、お猫さま。
てめぇ、呑気にしやがって!
「五百乃大角、茅野姫でも良いから来てくれやぁー!?」
おれが情けない声を、上げたら――
「どうしたんだい、シガミー?」
ガシリッ――安物の革手袋をしているところを見ると、料理か鍛冶のどっちかを手伝おうとしてくれてたみたいだ。
「どうしたぁのでぇすかぁー、シガミーちゃんららぁん?」
ガッキン――鋏……万能工具でおれを助けようとしてくれる。
普段のおれなら、この長さの棒鉄を担いだところで平気なわけで。
それを知ってるから、二人とも半信半疑な様子だ。
二人が出くわすことは、本当に珍しい。
片や、日の本から呼び出された勇者。
片や、呼び出した召喚者。
おれで言うなら、五百乃大角が召喚者とやらに当たる。
おれは五百乃大角に召喚されたが――
飯の催促を、されるくらいで済んでいる。
それはとても幸運なことだと、良くわかる一例。
ラプトル王女殿下は召喚した青年に、一途な思いを寄せており――
狂気の姿のゴーレムたちを、昼夜問わずにけしかけるに至り――
「ぅっぎゃぁぁぁぁっ――ら、ラップトリュ姫……さまっ!?」
逃げ出そうとする、ニゲル。
名は体を表す好例だが――「待てやぁ――! 手を離すなぁあああああああああっ!!!!」
おれの剣幕に二人の肩が跳ね、緊張が走った!
やべぇ!
辺りにゃ人が、うじゃうじゃ寄って来てて――
そんな中で――前後左右、上上下下右左右左。
定まらない動体検知。
遠くから飛んでくる矢や、物陰に潜む悪漢を前もって知らせてくれる――
神々の頓知の一つが、暴れまくっていた。
△の長さは、たぶん――推進力だ。
ふぉん♪
『>はい。三人の内、誰かが手を離した場合。秒速226M/s、
亜音速で射出されます』
おれの轟雷の背中の大筒と同じ、いやそれよか早ぇか。
そんなとんでもない威力で、このアダマンタイトの鉄棒がすっ飛んでったら――
当然、死人が出る。
「龍脈の物質化というのは、つまりはこういうことになるんだミャァ?」
にゃっふっふ――と笑う、その声。
「ミャッド、助けてくれっ!」
おれは首を向け、懇願した
「これは非常に――興味深いですね」
秘書と合流した、猫の頭を持つ獣人が――
二本足で立つお猫さまのまえに、屈み込んだ。
「ちょっと試したいことがあってね。そのまま、転ばないように歩けるニャ?」
お猫さまを、抱き上げるミャッド。
彼は猫を長草であやしながら――スタスタと歩いて行ってしまう。
「はいっ♪ いつまででもどこまででも、歩いて行きますららららぁぁん♪ 二人で♡」
ばかやろう、おれもいるだろが。
「えっ、いやいやいやいや。無理なんだけど――転んだりしたら、怪我しちゃうじゃんかー?」
だからばやかろう。
誰か一人でも手を離したら、怪我どころじゃすまねぇ。
王女さまもニゲルのことは一旦、置いといてだなぁ――
「それで、どこに行くんだぜ?」
「きゃはぁららららぁぁん♪」
「あっぶないっ! ふざけないでください、王女さま!」
三人で押し合い圧し合い、歩いてるんだぜ。
とても真っ直ぐには、進めなかった。
「すぐそこだニャー♪」
よたよたと、ついて行くと――
それは訓練場の、真ん中あたり。
突如として現れたのは、大きな穴。
その底には先客がいた。
「来たね、シガミー」
地の底で大きな木さじを構えるのは、ボバボーンな体格。
鬼娘とはまた違った感じの、大きな姿形。
大穴は女将さんで言うなら、三人分くらいの深さで――
階段や、梯子の類いはなかった。
「その下まで、降りていける自信はねぇー!」
なんせ、矢印は獰猛に荒れ狂っていたし――
「きゃふゃぁ――♪ あっぶなぁい、転んでしまいそうでしたららぁぁぁ――ん♡」
「あっぶなっ――――ちょっと王女さまっ、気をつけてよ!」
逃げるニゲル青年を、追う王女殿下。
おれたちは、回り出した。
「ばかやろぅ! 死にてぇのかっ、おまえらぁっ!」
はぁはぁはぁはぁ、ぜぇはぁぁーっ!
「いいかにゃ――コッヘル夫人?」
コッヘル夫人というのは、女将さんの名だ。
なんでも故郷では、コッヘル商会って名の大商店を経営しているらしい。
猪蟹屋の商売敵では有るが、今のところ猪蟹屋と客を取り合うことにはなっていない。
「それ行けニャー♪」
長草の毳毳を、さっと振る顧問技師。
「みゃにゃぁーん♪」
お猫さまが穴の底へ飛び込むと――
「あ――?」
指先に掛かっていた力が、ふっと緩んだ。
動体検知の△も、居なくなったぞ!?
おれはそっと、手を離した。
驚いたニゲルと王女も、手を離し――
ゴワラァーン♪
騒々しい音を立てて、アダマンタイトは地に落ちた。
耳栓は全員がしてるわけじゃねぇから――
「にゃみゃぁん――♪」
とおくでひっくり返るお猫さまが、何て言ってるかは――
一部の奴にしかわかってねぇ。
ちなみに返事は、「――神々しい――適合ニャ♪――」だ。
本猫的に、悪くねぇらしいことはわかった。
「ロォグ? それ、良いんじゃないの。100万回遊べるゲームみたいでさぁ♪」
蜂女に拾われた、御神体さまが宣い――
「にゃみゃ、みゃぎゃにゃぁー、にゃみゃん♪」
『「いやぁ、我輩の名に相応しいとはいえ、照れるニャ♪」って言っ』
猫の魔物(大)がパタンと取り出した板には、猫の魔物(小)のそんな言葉が書かれていく。
「ふぅーん、ろぉぐちゃん……かわいいかも♪」
茣蓙に座る子供たちへ、寄っていくおにぎり。
「――けど精霊にそんなものは、要らないニャ。今、要るのは、ここで一番熱い火ミャ♪――」
ここで、一番熱いだぁ?
「「なら私の――」」
声を重ねたのは辺境伯令嬢と、一番の親友の侍女。
ばつが悪かったのか、侍女は――ヴヴヴヴッと震えた。
「ひぃ――――っ!?」
フッカが悲鳴(小)をあげ、東屋近くの木陰に隠れた。
筋金入りに蜂って言うか、蜂の魔物が嫌いなんだな。
「――そりゃ件の、対魔王結界だろうぜ! がははははっ♪」
工房長が、おにぎりの木板をみて、そう言った。
「工房長が言うなら、そうかもなぁ」
ぽこ――こぉん♪
てちり。
「そうわね。あの火力で、しかも使い放題だから――お料理にも使えそうわね?」
どうもおれの頭の上を、巣かなんかと勘違いしてやがるぜ――美の女神の丸茸の御神体さまわよぉー。
「「んまっ――!?」」
対魔王結界に負けた上、竈の火と比べられたことが余程、心外だったのか――
派手なのと蜂みたいなのが手に手を取り合い、ジトリとした目を向けてきた。
おれじゃねーだろ?
言ったのわぁ工房長と、御神体だろがぁ。
「ここを真っ直ぐ行きゃぁ、対魔王結界がある央都猪蟹屋本店があるぞ」
燃えてレイダ材にされた、央都猪蟹屋(半壊)。
その方向を、指で指してやったら――
手甲を両手に持ち、その籠手先でしっかりとアダマンタイトをつかむお猫さまが――
すててててと、軽快な走りで掛け出した。
「まてまて、おれたちは、その火を止めようとしてるって言っただろうが――っぶねっ!」
猫はまた振り返り――ヴォゥヴォオン!
トトォン――ズサッ!
慌てて飛び退くが、アダマンタイトが、おれの耳をかすった!
「――その火を止める装備を作るためには――その火と同じくらいの火が必要ミャ♪――」
すててってって――逃げていくお猫さま♪
「だめだ、あの火はやべぇ! そうだ、あそこで魔法杖に撓垂れ掛かって浮いてる蜂女に頼めば――」
ガムラン町で白銀の盾を作るときに、ノヴァドがリオレイニアに火を焼べさせてた。
リオの炎でも使えねぇことは、ねぇだろう。
姫さんの〝狐火・仙花〟わぁ、斬るのが本分だから――
アダマンタイトにぶつけたら、何が起こるかわからんがぁ。
「は、蜂女っ!?」
ヴヴヴウッヴッ――!?
震えるガムラン随一の、隠れモテ女。
「プフフフフウフフフフッ――レ……ルガレイニア、言われているわよ♪」
腹を抱えるガムラン最凶の、縁談話はとんと聞かない受付嬢。
「あの毒針みたいな小さい魔法杖といい、浮かぶ姿と言い――なんだか本当に、蜂に見えてきたわね」
ガムラン冒険者ギルド名物受付嬢の、最凶の受付嬢を窘める役を担う鬼族。
その声が、とおくから聞こえてきた。
鬼娘は蜂女を、好敵手として見ている。
馬鹿にした様子はなく、率直な感想なんだろうが――
ヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴッ――――――――!!!
「ぎゃっ!?」
木陰のフッカが、倒れた。
「――了承不可――維持不許可――火力万全……にゃっにゃぁー!――」
ブォブォォン――ヴォォォォォヴォヴォォォン!
首とアダマンタイトを左右に振る、お猫さま。
また古代猫語が出た。
「だから長ぇ棒を振るな! それ寄越せや、おれが持つぜ!」
子供らに当たって、怪我でもしたらたまらんだろうが――
ガガァァンッ――――ガッチリッ!
アダマンタイトをつかんだら――びくりともしなくなった!
「おい離せや?」
ありゃ?
猫が大きな手甲を、外套にしまい込んだ。
おれがつかんだアダマンタイトは――空中に縫い付けられたように動かない。
その場に〝縫い付けられ動かない物〟っていやぁ、轟雷の太刀だ。
だがありゃ、とんでもなくでかい神力が必要な筈で。
つまりこいつぁ――
「よ、妖術かっ!?」
おれぁ、坊主だ。
〝生き死にの埒外も本分〟だが、専門じゃねぇ。
指を離そうとすると、ぐぐぐっ――ヴォヴォン♪
アダマンタイトの先端側が、おれの方を向いて――
ふぉん♪
『>シガミー、指を離さないでください! 接触している指先方向への、ベクトル量を検出しました』
わかってる!
『►►►――――グワジャdギュギtp!』
動体検知が見え隠れし、おれを狙ってるのがわからぁ。
「――にゃぁーふん。どうするニャ?――」
あくびを放つ、お猫さま。
てめぇ、呑気にしやがって!
「五百乃大角、茅野姫でも良いから来てくれやぁー!?」
おれが情けない声を、上げたら――
「どうしたんだい、シガミー?」
ガシリッ――安物の革手袋をしているところを見ると、料理か鍛冶のどっちかを手伝おうとしてくれてたみたいだ。
「どうしたぁのでぇすかぁー、シガミーちゃんららぁん?」
ガッキン――鋏……万能工具でおれを助けようとしてくれる。
普段のおれなら、この長さの棒鉄を担いだところで平気なわけで。
それを知ってるから、二人とも半信半疑な様子だ。
二人が出くわすことは、本当に珍しい。
片や、日の本から呼び出された勇者。
片や、呼び出した召喚者。
おれで言うなら、五百乃大角が召喚者とやらに当たる。
おれは五百乃大角に召喚されたが――
飯の催促を、されるくらいで済んでいる。
それはとても幸運なことだと、良くわかる一例。
ラプトル王女殿下は召喚した青年に、一途な思いを寄せており――
狂気の姿のゴーレムたちを、昼夜問わずにけしかけるに至り――
「ぅっぎゃぁぁぁぁっ――ら、ラップトリュ姫……さまっ!?」
逃げ出そうとする、ニゲル。
名は体を表す好例だが――「待てやぁ――! 手を離すなぁあああああああああっ!!!!」
おれの剣幕に二人の肩が跳ね、緊張が走った!
やべぇ!
辺りにゃ人が、うじゃうじゃ寄って来てて――
そんな中で――前後左右、上上下下右左右左。
定まらない動体検知。
遠くから飛んでくる矢や、物陰に潜む悪漢を前もって知らせてくれる――
神々の頓知の一つが、暴れまくっていた。
△の長さは、たぶん――推進力だ。
ふぉん♪
『>はい。三人の内、誰かが手を離した場合。秒速226M/s、
亜音速で射出されます』
おれの轟雷の背中の大筒と同じ、いやそれよか早ぇか。
そんなとんでもない威力で、このアダマンタイトの鉄棒がすっ飛んでったら――
当然、死人が出る。
「龍脈の物質化というのは、つまりはこういうことになるんだミャァ?」
にゃっふっふ――と笑う、その声。
「ミャッド、助けてくれっ!」
おれは首を向け、懇願した
「これは非常に――興味深いですね」
秘書と合流した、猫の頭を持つ獣人が――
二本足で立つお猫さまのまえに、屈み込んだ。
「ちょっと試したいことがあってね。そのまま、転ばないように歩けるニャ?」
お猫さまを、抱き上げるミャッド。
彼は猫を長草であやしながら――スタスタと歩いて行ってしまう。
「はいっ♪ いつまででもどこまででも、歩いて行きますららららぁぁん♪ 二人で♡」
ばかやろう、おれもいるだろが。
「えっ、いやいやいやいや。無理なんだけど――転んだりしたら、怪我しちゃうじゃんかー?」
だからばやかろう。
誰か一人でも手を離したら、怪我どころじゃすまねぇ。
王女さまもニゲルのことは一旦、置いといてだなぁ――
「それで、どこに行くんだぜ?」
「きゃはぁららららぁぁん♪」
「あっぶないっ! ふざけないでください、王女さま!」
三人で押し合い圧し合い、歩いてるんだぜ。
とても真っ直ぐには、進めなかった。
「すぐそこだニャー♪」
よたよたと、ついて行くと――
それは訓練場の、真ん中あたり。
突如として現れたのは、大きな穴。
その底には先客がいた。
「来たね、シガミー」
地の底で大きな木さじを構えるのは、ボバボーンな体格。
鬼娘とはまた違った感じの、大きな姿形。
大穴は女将さんで言うなら、三人分くらいの深さで――
階段や、梯子の類いはなかった。
「その下まで、降りていける自信はねぇー!」
なんせ、矢印は獰猛に荒れ狂っていたし――
「きゃふゃぁ――♪ あっぶなぁい、転んでしまいそうでしたららぁぁぁ――ん♡」
「あっぶなっ――――ちょっと王女さまっ、気をつけてよ!」
逃げるニゲル青年を、追う王女殿下。
おれたちは、回り出した。
「ばかやろぅ! 死にてぇのかっ、おまえらぁっ!」
はぁはぁはぁはぁ、ぜぇはぁぁーっ!
「いいかにゃ――コッヘル夫人?」
コッヘル夫人というのは、女将さんの名だ。
なんでも故郷では、コッヘル商会って名の大商店を経営しているらしい。
猪蟹屋の商売敵では有るが、今のところ猪蟹屋と客を取り合うことにはなっていない。
「それ行けニャー♪」
長草の毳毳を、さっと振る顧問技師。
「みゃにゃぁーん♪」
お猫さまが穴の底へ飛び込むと――
「あ――?」
指先に掛かっていた力が、ふっと緩んだ。
動体検知の△も、居なくなったぞ!?
おれはそっと、手を離した。
驚いたニゲルと王女も、手を離し――
ゴワラァーン♪
騒々しい音を立てて、アダマンタイトは地に落ちた。
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