滅せよ！ ジリ貧クエスト～悪鬼羅刹と恐れられた僧兵のおれが、ハラペコ女神の料理番（金髪幼女）に!?～

４：龍撃の学院

５０７：魔導騎士団寮、猪蟹屋一味

「猪蟹屋一味ししがにやいちみだぁ!?　冗談じょうだんは止してくれっ！　ただでさえガムラン近辺きんぺんじゃ「滅めっせよ」禁止扱きんしあつかいなんだぜ！」
　これ以上いじょうの悪目立わるめだちは商売しょうばい、ひいては食材しょくざいの調達ちょうたつに影響えいきょうが出る。

　ヴォォゥン♪
『ヒーノモトー国からの来訪者はガムラン町内において、
　戦闘特化型呪文の使用を全面的に禁止する。
　コントゥル領領主代理　リカルル・リ・コントゥル■
　コントゥル家名代　ルリーロ・イナリィ・コントゥル■』
　目の端がめんに表示ひょうじされたのは、そんな看板かんばんの映像すがた。

　少すくなくともガムランの町中まちなかに、この〝滅めっせよ禁止きんし〟を謳うたう看板かんばんが四枚よんまいも設置せっちされている。

「あらそれを・・・禁止きんしされてるのは、日の本勢ヒーノモトーの方かたたちだけですわ♪」
　〝戦闘特化型呪文めっせよ〟を使つかうのは、主おもにおれだ。
　姫さんリカルルや奥方さまルリーロが使つかうことがあっても、「滅せよそれ」を当てにした戦たたいはしていない。

「何なんと言うことでしょう、群雄割拠ぐんゆうかっきょの央都おうとはこれから……商売しょうばいどころでは……なくなってしまいますね、ぐすぐすん？・」
　肩かたを落とす茅野姫ほしがみ。
　黒板横こくばんよこの扉とびらが、ひらいていた。

「ふふ、ご安心あんしんなさってくださいな。私わたくしコントゥルの名を汚けがすつもりは毛頭もうとう、御座ございませんでしてよ……そしてレーニアがお世話せわになる猪蟹屋ししがにやのぉ名ぁもぉ、クツクツクツクツ――ココォォン♪」
　ぼっわっ――目から炎ほのおが、小ちいさく流ながれた。

　名を汚けがすつもりはなくても、家宝の甲冑よつあしを着てる以上いじょう――
　１００％かならず、荒事あらごとはするつもりだ。
　というより既すでに、塔とうを一ひとつ壊こわして来てる。

「そうだよねっ、王家おうけが封印ふういんしてたマナの源流げんりゅうを更地さらちにしたくらいじゃ――猪蟹屋ししがにやはまったく全然ぜんぜんこれっぽっちも、揺るがないよねっシガミー♪」
　馬鹿野郎ばかやろう、アレをやったのは、おにぎりだろうが――
　揺らぐ揺らぐぜ、猪蟹屋《ししがにや》ぁ。
　大講堂だいこうどうがざわつき、『魔神対策本部』の看板かんばんが、かたりと傾かたむいた。

　不穏ふおんな空気くうきが満ちたこの場を、なごませようとして――
　子供レイダがいつものように、余計よけいな口くちを挟はさんだだけだったが。

「あれっ？　なんか、騒々そうぞうしくなっちゃった？」
　オロオロするレイダを、ビビビーと魔神リオがなだめる。
　わかってるよ、悪気わるぎなんかねぇのわぁ。

　それにレイダはおれに出来できた、来世らいせで初はじめての友達ともだちだ。
　そんな不安ふあんな顔かおを、向けるんじゃねぇー。
　ふぉん♪
『シガミー＞迅雷、轟雷の準備だけはしとけ』
　ふぉん♪
『＞轟雷ならすでに修理、調整済です』
　よし。

「みなさぁーん。ソレにつきましてわぁ私わたくしぃー、第一王女だいいちおうじょの名において、既すでに事故じこだったと証言致しょうげんいたしていますららぁぁん♪」
　ゴーレム王女おうじょは未いまだに、央都ここでは畏怖いふされているようで。
　静しずまりかえる大講堂だいこうどう。
　
　今回こんかいばかりは、マジで助たすかった。
　彼女かのじょのゴーレム工房こうぼうへ納品のうひんする予定よていの、軍用ぐんよう全天球《ぜんてんきゅう》レンズ。
　頑張がんばって夜業よなべをして、遅おくれないようにするとココに誓ちかう。

「シガミー！　さっきレーニアが顔かおに巻いてた黒くろい布ぬの、ここに居る全員分ぜんいんぶん、用意出来よういできるかしら？」
　止めろ止めて、舌したなめずりをするな。
　コントゥル家次期当主けじきとうしゅのそんな横顔よこがおをみて、頬ほほを染めるのは――
　〝万年まんねんルーキー〟と噂うわさされる、彼ニゲルくらいのものだ。

　黒くろっぽい制服せいふくに、安物やすものの装備一式そうびいっしき。
　髪かみから靴くつまで総そうじて黒くろく、黒騎士くろきしの異名いみょうを持つ護衛騎士エクレア（新婚しんこん）とは別べつな意味いみで黒くろずくめ。

　他ほかにも〝ガムランの狼おおかみ〟、〝メンテナンスフリー〟、〝ＬＶ不詳事レベルふしょうじ〟などと揶揄やゆされる安物装備やすものそうびで固かためた彼かれは――
　正直しょうじき、この場に居る誰だれよりも強つよい。
　だがそれを確信かくしんしているのは、まだおれだけだ。

「では一枚いちまい、３キーヌで、くすくす♪・」
　茅野姫かやのひめが大講堂だいこうどうの入り口付近ぐちふきんに、いつの間にか店を広げていた・・・・・・・。
　折りたたまれた黒頭巾くろずきんが、次々つぎつぎと叩たたき売られていく。

「あっ、居たですじゃぁ！　カヤノヒメさま、我々われわれも、お手伝てつだいいたしますじゃぁ♪」
　わわわわららー♪
　どたたたたっ！
　あーあー、神域惑星しんいきに繋つながるドアを通とおって、ネネルド村村民むらそんみんまで傾なだれ込んできちまった。

　このままだと、央都猪蟹屋おうとししがにやは天狗郎党てんぐろうとうとして、再編さいへん。
　ココに居る全員ぜんいんが、黒頭巾くろずきんをかぶり――
　今回こんかいの火龍狙撃ゲイルそげきに端たんを発はっした事件じけんに――
　立ち向かっていくことに、なりかねねぇー！

「んなわけにぃーいくかぁーっ！　おれぁ一人ひとになっても抵抗ていこうするぞ！　猪蟹屋ししがにやは五百乃大角いおのはらがうまい飯を食うため・・・・・・・・・に、おれが作つくったもんだぜ！」
　何なにがなんでも五百乃大角いおのはらへのおかわり・・・・を、平穏無事へいおんぶじによそってやる。
　それが出来できなきゃ、この世が続かん・・・・・・・！

　　　§

　なんて思おもっていた時期じきが、おれにも有りましたとさ。

「なるほど。顔つらがわからなきゃ、多少たしょうの無理むりも利くってわけだな」
　だが。
「おなじ黒頭巾くろぬのじゃ、天狗てんぐと烏天狗からすてんぐの立場たちばが悪わるくなるだろーが！」
　やっぱり、だめだだめだ！

「そんなこともあろうかと、クスクース？・」
　ニタリと笑う行商人かやのひめが、手にした黒頭巾そいつを――
　ぶわさりと裏返した・・・・。
　黒地くろじの裏うらは真っ白しろで――
「これなら天狗てんぐさまたちに、迷惑めいわくも掛からないでしょう？・」

　がさごそ。がさささごそそそそっ。
　早速さっそく、黒頭巾くろずきんをしてた奴やつらが、白頭巾しろずきんへと替わっていく。
　がさごそ、きゅっ、カチャリ――ピピッ♪
　教卓きょうたくの下したで、頭巾ずきんを巻き直なおした魔神リオも立ちあがる。

　その様子ようすは、だいぶ変わっていた。
　黒地くろじに鏡かがみの眼鏡めだま。
　それは悪しき者ものを彷彿ほうふつとさせたが――
　白地しろじに鏡かがみの眼鏡めだまは――
　どこか神々こうごうしさというか。

「ではコレより我々われわれは――何なんと名乗なのりましょうか？　イオノファラーさま」
　赤あかい甲冑かっちゅうがコッチを向いた。

「そうわねぇ……ふむむむむぅーっ？」
　おれの頭上ずじょう。定位置ていいちに陣取じんどる、美の女神いおのはら御神体ごしんたいが――
　大講堂だいこうどうを見わたす気配けはい。
「きめたっ♪　〝白天狗党しろてんぐとう〟なんてぇー、どぉおぅかぁしぃる――むぎゃっ!?」
　頭あたまの上うえから根菜めがみを、ばりばりと引っぺがす。

「だめだだめだ、五百乃大角いおのはらめ！　〝天狗てんぐ〟って入はいっちまってるじゃんか！」
　天狗てんぐも烏天狗からすてんぐもおれの大事だいじな、別べつの姿からだだぜ。
　使つかえなくなったら、あとが面倒めんどうになる。

「では、魔導騎士団まどうきしだん直属ちょくぞくの近衛兵部隊このえへいぶたいと言うことでは、いかがかるるぅん？」
　あ、王子殿下おうじでんかだ。
　いたのか、忘わすれてたぜ。

　大事だいじがあってはいけないからと、王女おうじょとリカルル以外いがいのお貴族きぞくさま（サキラテ家除けのぞく）には――
　自分じぶんたちの央都別邸べっていへ、引っ込んでもらっている。