滅せよ！ ジリ貧クエスト～悪鬼羅刹と恐れられた僧兵のおれが、ハラペコ女神の料理番（金髪幼女）に!?～

４：龍撃の学院

４７４：大陸間弾道卵の謎、ネネルド村直行便

「みんな居なくなっちまった……みてぇだが？」
　出かけるまえまで、あふれかえっていた学者方がくしゃかたがひとりもいねぇ。
　おれたちに飽きてくれたんなら、めでたいことだが。

「それが、奥方おくがたさまがネネルド村むらまで飛んで、「この目でぇー見てきますわぁ♪」と言い出しまして――」
　コツコツコツ、キィー。
　壁際かべぎわまで歩あるいていき、窓まどを開けるリオレイニアメイドさん。
　おれと茅の姫ほしがみも、外そとを見た。

「――こうなった・・・・・わけか」
　ヴォヴォヴォヴォヴォヴォゥゥゥゥゥウン♪
　奥方さまルリーロの魔法杖つえが、いつまでも唸うなりを上げている。
　クルクルとねじれた山菜さんさいを、三本束さんぼんたばねたような形かたち。
　その真ん中先端なかせんたんに付いた魔石ませきは、超女神像ちょうめがみぞうに使用しようした〝マナ宝石ほうせき〟に次いで巨大きょだいなもの。
　コントゥル家の家宝かほうにして、人類最大じんるいさいだいの魔法攻撃力ＭＡＴＫを有ゆうしている。

　そんな特大とくだいの杖つえに黄緑色きみどりいろの魔物まものが四匹・・と、猫頭びょうとうの顧問技師ミャッドとその秘書マルチヴィルと――
　鉄塊かなづちを担かついだ小柄な男ノヴァドに、大盾おおたてを背負せおった大柄な男エクレアと――
　馬うまの形たかちの魔物まものの尻尾しっぽにぶら下がる、少女メイドただのタター。

　わいわいわいわい、がやがやがやがや。
　それに学者がくしゃたちが群むらがり、杖つえは浮かんだり沈しずんだりを繰りかえしている。

　魔法杖まほうつえで跳ぶことに関かんして、天才的てんさいてきな才能さいのうを見せつけてきた辺境ルリーロ・伯イナリィ夫人・コントゥル。
　その彼女かのじょがそばに居て、浮かせているにもかかわらず――
　ガガガッガリガリガリィ――――！
　魔法杖つえは地面じめんに、めり込む始末しまつ。

「ちょっとぉ、皆々みなみなさまがたぁー。これじゃ私わたくしがぁ、乗ーれーなーいーでーしょーおぉーぅ？」
　かくいう妖狐ようこルリーロさまは、両手りょうてをだらりとぶら下げ――
　１シガミーほど空中ちゅうに浮き、自分の得物ルードホルドを……〝毛の先さきほども面白おもしろくない見世物みせもの〟のように見つめている。

「杖つえも無しに、浮いてやがるぜ」
　妖狐ようこといやぁ天狗てんぐに負けず劣おとらず、〝跳ぶ・・〟生き物もの（？）だと聞いちゃぁいたが。
　空中そらに浮く魔法まほうはある。
　リオレイニアが使つかう、重力軽減ふわふわうかべの魔法かるくなれがそれだ。
　けれども、あれはその場に止まっていられるわけじゃない。
　時ときが経てば落ちていく。

　ふわっさぁぁぁぁぁっ――すいすいすぅぅうぅぃ。
　だが妖狐ルリーロは尻尾しっぽを振り、山積みの連中ルードホルドの上うえまで泳およぐように飛んでいく。

「それにしてもよう、リオレイニア？」
「どうかしましたか、シガミー？」
「この世……ガムランや央都おうとの連中れんちゅうは、命知いのちしらずなのか悪わるふざけが過ぎるのか――一体いったいどっちなんだぜ？」
　仮かりにも伯爵夫人おくがたさまに、この仕打しうち。
　しかも相手あいては妖狐ようこだぜ、素そっ首落くびおとされても文句もんくは言えんだろ。

「ああ、それはですね――正当せいとうな理由りゆうがあるなら、奥方おくがたさまは怒らない・・・・からです。身分みぶんによる礼節れいせつはありますが、あくまで目的もくてきが最優先さいゆうせん。この場における目的もくてきとは、なんですか？」
　おれの渋しぶい顔かおから、〝奥方おくがたさまとの距離感きょりかん〟についての説明せつめいをしてくれる。
　彼女リオは有能ゆうのうで綺麗きれいで、指南役しなんやくとしても完璧かんぺきだ。

「目的もくてきだぁ？」
　そういや学者方がくしゃかたに追いかけられるのは、ミャッドの手前協力てまえきょうりょくしているだけで別べつに仕事しごとじゃなかった。

「つい先さきほど決まったのですが――〝阿門戸粔籹ヌガーバー〟のスポット販売はんばいを成功せいこうさせ一過性いっかせいのブームに終わらせずかつ、皆みなさまの健康けっこうを阻害そがいしないよう軽食けいしょくを出すお屋台やたいを出すことになりましたわっ♪・」
　あー、それは目的もくてきじゃねぇ。

「ほら、やっぱり悪巧わるだくみをしていたではないですか」
　ふうと息いきを吐く、美の権化イオレイニア。
「いや、勝手かってに決めちまって悪わりぃ。けど茅かやの姫ひめがどうしてもやりたいって言うから――」

「いえ別べつに、猪蟹屋ししがにやと屋台やたいに反対はんたいはしません。ぜひ進すすめてください。それで、もう一度伺いちどうかがいますが、この場の目的・・・・・・とはなんでしょうか？」
　白しろい眼鏡めがねが、同おなじ顔かおのおれたち二人・・・・・・を見つめる。

「目的もくてき……あっ!?」
　入り口ぐちに立てた看板かんばんが、頭あたまをよぎる。
「卵たまごの狙ねらいと出所でどころの把握はあくですね・」
　そう、そいつだったぜ。

「そうです。杖つえに群むらがる皆みなは、その目的もくてきに向かって邁進まいしんしています。コントゥル家の家訓かくんに合致がっちする以上いじょう、怒おこる道理どうりがないと言うことです」
　淀よどみない解説かいせつ、伸びた背筋せすじ、涼すずやかな声こえ。

「にしても……ありゃ」
　ガガガッガリガリガリィ――――！
　なおも魔法杖まほうつえは、地面じめんにめり込む始末しまつ。
　ふぉん♪
『＞アーティファクトでも有る〝ルードホルドの魔法杖〟が、壊れることはありません』
　うん、久ひさしいな迅雷ジンライ。
　強化服二号レイダの耳みみが一瞬いっしゅん、おれを見た。

「コントゥル家の家訓かくんは、もう一ひとつあります」
　もうひとつ？

　メイド服ふくの腰こしを探さぐるリオ。
　取り出されたのは、平ひらたい小箱こばこ。
　パカリと開けられたそれには――
　何なんらかの呪符じゅふと針はりと糸いとに包帯ほうたい、そして蘇生薬エリクサー。
　そんな物ものが収おさめられていた。

「〝なにがあっても、領民りょうみんは死なすな〟です」
　つまり魔王殲滅まものせんめつと全員生還ぜんいんせいかんが、魔物境界線まものきょうかいせんであるコントゥル領りょうの最優先さいゆうせん。
　命いのちは軽かるいが、反魂はんごんの術じゅつである蘇生薬エリクサーがあると、人ひとの世はこんな風ふうになるんだな。
　本当ほんとうに面白おもしろい世の中なかで、おれは五百乃大角いおのはらに拾ひろわれたことを――
　心こころの底そこから感謝かんしゃし――

「こぉらぁ――――！　そろそろいい加減かげんにしないとぉー、怒おこりますわよぉぉぉぉぉぉぉぉぅぅぅぅっ――――ココォォォォォンッ♪」
　頭あたまから生えた狐きつねの耳みみが震ふるえ、遠吠とおぼえが轟とどろいた。

　ぼぼぼぼぼぼごごごごごごごぉぉぉぉぉぉぉぅわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ――――♪

　わきあがり、杖つえに群むらがる連中れんちゅうを包つつむ巨大きょだいな蒼あおい火柱ひばしら。
　燃やされても、熱あつくはねぇが――怖気おぞけがする狐火きつねび。

　ああああ。面白おもしれぇが、こりゃいけねぇ。
　迅雷ジンライ、みんなを乗せて飛ぶ方法ほうほうを考かんがえてくれや。
　ふぉん♪
『＞そうですね。ネネルド村近郊に一件の女神像検出。
　　直接、人員を搬送することは可能ですが』

　うわあぁぁぁぁぁぁぁぁっ！
　ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ！
　阿鼻叫喚あびきょうかん、ケッタケタケタケタケタッ――――♪
　楽たのしそうだぜ。

「か、家訓かくんも、時ときと場合ばあいと機嫌きげんによりけりということですね――――奥方おくがたさまーっ！」
　自分じぶんの大おおきい方ほうの杖つえを取りだして、窓まどからすっ飛んでいく元侍女長リオレイニア。

　にげろぉぉぉぉぉぉぉぉっ！
　ひぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ！
　散り散りに逃げていく、杖つえに集たかっていた連中れんちゅう。
　ヴォォオォゥン♪
　杖つえは高度たかさを取りもどした。

　炎ほのおに巻かれても平気へいきな黄緑色シシガニャンと子馬こうまたち、そして大柄おおがらな甲冑かっちゅうと――
「わわっ、きゃぁぁぁぁっ!?　あれ、熱あつくない？　むしろ寒さむい!?」
　子馬こうまの尾に絡からまり逃げられない、少女しょうじょメイド・タターが残のこった。