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4:龍撃の学院

463:央都猪蟹屋プレオープン、夜の部

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「やい、シガミー」
 さかずき片手かたてに、首根くびねっこっこをつかまれた。
「どうしたぃ、工房長こうぼうちょう
 折れる折れる。

「どーして央都こっちに、奥方おくがたさまがいやがる?」
「こっちが聞きたいぜ。烏天狗からすてんぐが受けた仕事しごとは、ひめさんがちゃんと届けたはずだ・・・・・・

 出来できたばかりの、央都おうと猪蟹屋ししがにや地下一階ちかいっかい
 洞窟どうくつ喫茶店カフェいや……さけも、どかどか出すめし処・・・
 ガムランちょうへ、とんぼがえりした姫さんリカルルと入れちがいに、今度こんど奥方さまルリーロ央都入おうといり。
 央都猪蟹屋おうとししがにやは、未曾有みぞう大災害だいさいがいに――来客されていた・・・・・・・

「コココォッォン!」
 ぼぼごごぉうわっ――――♪
 いのちを食らい尽くす、ほどではないものの。
 触れれば怖気おぞけはしる、いのち灯火ともしび
 ぞくに言う人魂ひとだまとか、狐火きつねびとかそんな。
 焼かれても、あつくもなければ燃えもしない仄暗ほのぐらほのお

 くちから直接ちょくせつ、そんなものを吐くときというのは。
 もちろん、機嫌きげんが良くないときに決まってる。

「まさか、ぬるい仕事・・・・・をしやがったんじゃぁ、ねーだろろぅなぁ?」
 筋骨隆々きんこつりゅうりゅうな、職人魂しょくにんだましいうなりをあげた。
「まさか! 天狗勢あいつらは、おれよかちゃんとしてる。それと納品のうひんクエストは達成済たっせいずみだぜっ!」
 おれたちが居るのは、檜舞台ぶたいかって左側の席ひだり
 地上ちじょうへの階段かいだんからはとおく、床下ゆかした厨房ちゅうぼうへはちかい。

「コホォン♪」
 洞窟めし処どうくつパブ中央ちゅうおう檜舞台正面ぶたいしょうめん
 ふっさふさの尻尾しっぽが、わさりとゆれる。

「ほ、ほら、お呼びだぜ! 死んでこい!」
 あ、工房長ノヴァドめ!
 背中せなかを押して、おれを人身御供いけにえにしやがった!

「へ、へぃ。ようこそおいでくださいやしたぜわよ!」
 しかたがねぇ。
 猪蟹屋ししがにや前掛けエプロンこしに巻き、かるくこしを落として片足かたあしを引いた。

「来ぃまぁーしぃたわぁー。シガミーちゃーぁーん?」
 ややくら洞窟どうくつ
 奥方おくがたさまの、妖狐ようことしての発露はつろ
 昼日中ひるひなかでもひかる、ギッラギラした月影つきかげ双眸そうぼう

 こえぇんだが?
 やい五百乃大角いおのはら、どこ行った!?
 とっとと出てきて、持てなしてさしあげろやぁ!

 くちから狐火きつねびを吐きつつ、みせに押しこんできたから――
 ヤーベルトとおっちゃんには、衝立ついたての向こうにかくれてもらってる。
 てき出方でかたを見るまでは、きゃく危険きけんさらすわけにはいかねぇからな。

「ここがぁリカッルルちゃんとっ、てん野郎やろうはんがたのしみはったぁ――なんてぇ言わはりましたかぃのぉー?」
 興奮こうふんのあまり、京都訛きょうとなまりが出ている。

対魔王結界たいまおうけっかい、ラスクトール自治領王立じちりょうおうりつ魔導騎士団まどうきしだん魔術まじゅつ研究所けんきゅうじょ管理かんりする施設しせつ。ラプトル第一王女だいいちおうじょ作成さくせいした、超巨大ちょうきょだいゴーレムのおなかなかです」
 さっきまで呂律ろれつまわってなかったリオが、すずしいかおでそばにひかえてやがる。
 あれも、〝女神めがみ祝福しゅくふく〟スキルのちからか?
 もともときもふてぇから、そのせいかもしれんが。

「そぉ、そぅどしたなぁ! そぉないな面白おもしろそうなもんおぉーずうぅっとかくし持ってたあげく、わてぬきで天狗てんぐ野郎やろうはんと差し合う・・・・やなんてぇなぁ――もうもうもうケェーッタケタケタケェーッタケタケタッ♪」
 ぼぼぼぼごごごぅわぁ――――ふわっさふわっさふわさささっ♪
 うれしくて尻尾しっぽを、揺らしているわけじゃない。
 それはかたわらの給仕服リオレイニアの、背筋せすじを見りゃわかる。

「ル、ルリーロさまわぁ、まだ天狗てんぐうらみがあるのかい――でごぜえますわぜ?」
 ひとまず、おさめてくれたんじゃなかったかぁ!?
 リオがすげつら黒眼鏡越くろめがねごしでも、表情ひょうじょうは手に取るようにわかる)でにらむもんだから、丁寧ていねい言葉ことば使つかうわぜ。

「ココォォォォォォォォンッ♪ そないなこと、わざわざ言わんでもわかっとるんとちゃいますかぁっ――とっとと天狗てんぐぅ、つれてこんかぁいぃぃぃっ!!」
 したっ足らずな怒声どせいは、まるでこわくねぇけど――これは駄目だめやつだ。

 けど遠吠とおぼえにどこか、自分じぶん鼓舞こぶするようないろが、混じったのをかんじたから――
 ふぉん♪
『>天狗への復讐よりも、再戦を望んでいるようですね』
 ああ。大方おおかたリカルルが、天狗おまえとの試し斬りたたかい面白おもしろおかしく――自慢じまんでもしたんだろう。

 ふぉん♪
『シガミー>やいだれか、この場をどーにかしてくれ』
 っていうか、五百乃大角いおのはらどこ行った?
 ふぉん♪
『>いっそのこと、辺境伯をお呼びしては?』
 ばかやろーう。
 リカルルがあいだはいってくれてるならいざ知らず、そんなことすりゃ誰かの首が飛ぶ・・・・・・・
 すくなくともリオに、迷惑めいわくを掛けちまうだろうが。

「まずは、一息ひといきつかれてはどうですか
 徳利とっくり猪口ちょくぼんにのせ、リオの反対側はんたいがわから姿すがたをあらわす茅の姫ほしがみ

 じっと金髪猫耳きんぱつねこみみメイドを見つめる、辺境伯夫人へんきょうはくふじんルリーロ。
 どうも、城塞都市じょうさいとしからガムランちょうあそびに来るようになった途端とたんに――
 おれたちが、入れ替わりで央都ここに来ることになっちまって――
 拗ねてるみたいにも……おもえてきたが。
 最悪さいあく場合ばあいに、このなかではたたかえないおっちゃんだけでも逃がさねぇといけねぇから――
 妖怪狐おくがたさまこころ機微きびは、慎重しんちょう見極みきわめめねぇと。

「おひとつ、どうぞ
 無造作むぞうさふところに飛びこむ、かやひめ
 ぼんをテーブルに置き――両手りょうて猪口ちょくを差し出した。

 無言むごんでそれを、受け取る辺境伯夫人ルリーロさま

「けほっ――あまっ、あまい! ココォォン!?」
 一口含ひとくちふくむなり、目を白黒しろくろさせ――ゴクリと飲み込む。
 ひゅっごわぁぁぁぁっ♪
 くちから吐かれた狐火きつねびの、いろがおかしい。
 青白あおじろいのはおなじだが――
 向こうがわ透けて・・・見えねぇ。
 ぶすぶすぶすすっ――テーブルが焦げた。

 危ねぇな! けど――

迅雷ジンライ、いますぐレイダを連れてこい!」
 おれは相棒あいぼうを、天井うえに向かってほうり投げた。

 このさい、〝レイダざい〟のお披露目ひろめといくぞ。
 おこってる手前てまえ話題わだいにしてこねぇけど――
 こんなに綺麗きれいいろの、櫓組やぐらぐみの木材もくざい
 あたしもの好きの彼女かのじょが、気にならないわけがないのだ。

 ヴォヴォヴォォォン――――「ひゃぁぁぁぁぁぁぁぁっ♪」
 階段かいだんの手すりを跳び越え、迅雷ジンライにつかまり直接おりてくる・・・・・・・
 檜舞台ぶたい着地ちゃくちした、生意気なまいき子供こどもが――

「ル、ルリーロさま、こんばんわ」
 こしを落とし、片足かたあしを引いた。

「そこのテーブルに、アレをやってくれ・・・・・・・・!」
 さけさかな宴会芸えんかいげい披露ひろうしろと、言われたとおもったのかも知れん。

「えーいっ♪」
 躊躇ちゅうちょなく子供こどもぼうを振ると、燃えたテーブルの一部分いちぶぶんが――――ギラリィン♪
 闇夜やみよのような蒼色あおいろで、塗り替えられた。
 金属質きんぞくしつかがやくのは、燃えた部分ぶぶんだけ。

「こらぁえらぃ、おどろきましたなぁ♪」
 ふぅ。奥方おくがたさまが、やっとまともなくちをきいてくれたぜ。

「これは迅雷ジンライとレイダがつくった、相当硬そうとうかたい……漆喰しっくいみたいなもんだ。すげぇだろう♪」
 猪蟹屋製品ししがにやせいひんを置いたテーブルから、レイダ人形にんぎょうをすかさず持ってきた。

「こりゃぁ、面白おもしれぇなぁっ♪ まるでてつじゃねぇか!」
 あー、工房長こうぼうちょうが釣れちまった。
 そのいかつい手から、人形にんぎょうをするりと取りかえ猫耳ねこみみメイド。

さきほどの天狗てんぐさまと試合しあうおはなし、この超硬質ちょうこうしつ漆喰しっくい〝レイダざい〟でお決めになってはいかがでしょうか
 おれに人形にんぎょうわたし、すかさず奥方おくがたさまの空いた猪口ちょくに、さけそそぐ。

 ふぉん♪
『シガミー>商魂たくましいのも結構だが、この場を納められるんだろうな?』
 ふぉん♪
『ホシガミー>はい、お任せください』

「ふぅ、強者きょうしゃである天狗テェーングさまとの試合しあいは、いつも物議ぶつぎかもし出しますね。どういうことでしょうか、カヤノヒメさま?」
 黒眼鏡グラサンを手でクイと、持ちあげるリオレイニア。

「このレイダざい見事みごと、斬ってみせたらシガミーさんの勝ち。切れなかったら、ルリーロさまの勝ちということでは、いかがでしょうか? くすくすす
 あおかがやくレイダの人形にんぎょうを、またうばわれた。

「はぁ、こいつを斬れだとぅ?」
 かてえってはなしだが、おにぎりほどじゃねぇだろ?
 つまり斬れるってこった。

「だめーっ、切っちゃやだぁー!」
 茅の姫ほしがみに体当たり、自分じぶん人形にんぎょううばかえすレイダ。

「よし、じゃぁべつためし斬り人形にんぎょうを、おれつくってやるぞ、ガハハハッ♪」
 立ちあがるノヴァド工房長こうぼうちょう
 かれ鋼材こうざいだけじゃなく、木工細工もっこうざいくもお手のものだ。
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