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4:龍撃の学院
459:央都猪蟹屋プレオープン、カスタードプディングと酒天宴火
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「かちゃかちゃ――♪」
流れるようなナイフ使い。
「もぐもぐもぐもぎゅり♪」
淀みのない、力強い咀嚼。
「はぁー。おっちゃんは、五百乃大角側の人間だったのかぁ――――はぁ」
猪蟹屋の前掛けを、脱いで丸める。
空いた席に、どかりと腰を下ろした。
「ほうほ、おはあいあふ♪」
もぎゅりもぎゅり。
ふぉん♪
『>「どうぞ、お構いなく」です』
要らん。
物を食いながら話した言葉ぐれぇ、わからぁ。
おれぁ、五百乃大角の料理番だぞ。
「おははひはぁ、ふうへほひひはほぉぅ?」
わかってる……いや、ちょっとわからなかったが――
おかわりをすぐに、持って来いってんだろ?
「きっかり三人前。三回ずつおかわりできる分を作ってきたから、安心して食えやぁ」
大食らいには、飽き飽きしてるが――
それでもうまいうまいと飯を食う姿は、悪いもんじゃねぇ。
「ほんほぉ? もぎゅもぎゅごくん♪」
冬眠まえの生き物みてぇな、食いっぷり。
「もぐもぐ、ごくん。おいしいおいしい、ふはぁ♪」
それにしても、こっち子供は大丈夫か?
いくらなんでも、食い過ぎじゃねー?
ふぉん♪
『>バイタルに異常は見られません。ただ、マナの基礎消費量が、常人の倍程度有るように見受けられます』
ぬぅ活力か。体格の良い奴が、良く食う理屈はわからんでもないが――
レイダより細い体のどこに入ってくのか、不思議ではあるな。
「もぐもぐごくん。おや、おかわりもいただけるのですか? それは、嬉しいですね♪」
よく見ればおっちゃんは、よく食う奴の下っ腹をしている。
「焼具合は柔らかく、とても良い味付けです。これなら宮廷料理人として取り立てられることも、視野に入れられては?」
なるほどなぁ。仕事が出来る奴は、食うことさえも仕事に出来るってこったな。
新しい献立を考えたら、是非おっちゃんを呼ぼう。
「ふへへ、おっちゃんの見立てなら、まんざらでもねえゃな。宮廷料理人に興味はねぇけどよ」
そして宮廷料理人なら、もう間にあってる。
ガムラン町にひとり、凄腕のが居るんだぜ。
「こらシガミー、なんですか! 目上への態度として、看過できません」
子供たちへの飲み物の配膳が済んだ、美の魔神教員がやってきた。
「うへぇ。おっかねぇのが来ちまったから。おれぁ退散するぜ。このあと、甘い菓子を出すから、腹八分目にしといてくれよなぁ――――!」
前世とまるで逆、神が率先して食い道楽を極めんとしてる。
変な世界だが、飢えず死なず、礼節を重んじる人々が生きている。
ひょっとしたら、いくさ続きだった前の世の、〝続き〟としちゃ上出来じゃねぇかなぁ。
檜舞台には、迅雷が用意してくれた台座。
載せられているのは重ねられた、四角い枡のような透き通った器。
ごとん。
おれは中くらいの、鍋を取りだした。
§
この甘い菓子は、スキルとしちゃ〝かくはん王〟だけでこと足りる。
ただ〝不乱兵衛〟ていう〝正道《せいどう》を行く御仁のような真似は――
後の世で破戒層と呼ばれたであろう、おれにわぁ無理だぜ?
ふぉふぉん♪
『解析指南>キャラメリゼでも糖の酸化作用を促せますが、
炎を使うフランベのほうが、この場には最適です』
伽羅……木所が甘ぇ菓子に何の関係があるんでぇい?
生き方を問われるし、菓子てのは奥深ぇな。
「(シガミー。冷たい魔法と、度数の高い……強い酒です)」
酒だぁ? どっから来た、その話わぁ!
そういやおれの澄み酒は、どのくらいある?
「(ガムラン町に蓄えが、120リットルほどです)」
えーっと?
「(三分の二石になります)」
一石の七割、いかねぇ位か――全然ねぇな。
工房長たちに見つかったら、二晩でなくなっちまわぁ。
今、手元にあるのは?
「(有りません。先の宴会で使ってしまいました)」
いつの宴会かわからんが、ぜんぜんねぇならどうすんだ?
酒が、要るんだろう?
「(必要なのは、お菓子の香り付けに使う程度です。少量を造りましょう)」
酒で香りを付けるだとぉ?
さっきの木所で菓子に、香りを付けようってぇのか?
難しいことを言い出しやがったな。
「(ここに果物酒が有りますので、これを強いお酒に変えてください)」
強い酒か。
エイルって苦くて弱い酒を、急速熟成して超抽出したことはあるが。
「(はい、同じことをしてください)」
じゃぁ別の鍋に、どぱぱぱぱぱぱぱぱぱっ♪
手をかざし、分離倍化、分離倍化、超抽出、急速熟成、急速熟成――
ごぼぼぉぉん――しゅっわっぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!
鍋から霧が噴きだして――しゅぅわぁっ♪
「(アルコール度数58%。酸味が強く出てしまいましたので、もう一度成分を抽出後、香りを加味しましょう)」
香りを足すったって、どーすんだ?
香木を漬けるわけじゃあるめぇ?
『解析指南>バニラビーンズを食品転化後、刻んで撹拌、濾過してください』
何だと問う間で――ごそごそそっ、スタタタタッタ、トトトトトンッ!
ガシャガシャガシャ――プシュシュシュシュゥゥッ♪
スキル任せで、一気に済ませた。
小皿にとって舐めると――確かに甘ぇ。
菓子には使えそうだが――澄み酒と比べて何倍も強ぇ。
舐めただけで喉が焼けるような物を、子供たちには出せんぞ?
ふぉん♪
『解析指南>黄色い主液を冷やし固め――』
解析指南の調理工程が進む。
進んだってことは、必要な道具と材料が揃ったってことだ。
四角い器に流し込んだ黄色い汁。
それを冷てぇ魔法で冷やし固める。
出来た菓子に砂糖をまぶし――
「(軽く熱してから、火を付けてください)」
強くて甘い酒を、ひのたまで温め注ぐ。
これもやったな。
フェスタで、天狗役のおれが。
「(はい。同じことをしてください)」
こんな穴蔵で、大丈夫か?
あの芸は高くまで、酒の炎が登るぞ?
「(問題ありません。ただし横着せずに器につき一つずつ、小さな火種を落として下さい)」
ひのたまを、すべての小鉢に落とすのか。
多重詠唱……日の本式の読経なら、出来ねぇこともねぇが。
「(対象座標の複数設定には視線による、多重ロックオンが使用可能です)」
『◇』――小鉢の上に現われる、ひし形。
『◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇――――♪』
ずらして重ねられ、影になった小鉢にも『◇』が現れた。
ふぉふぉぉぉぉん♪
『>多重ロックオン完了。いつでも攻撃できます。
>滅モード:OFF』
ビキピピピッピィィィィイィッ――――♪
けたたましい鳥の鳴き声が、止まらなくなった。
§
「ひかりのたてよひかりのたてよひかりのたてよ!」
あぶねぇ、大惨事になる所だった。
フェスタのときと比べたら、小せぇ炎が出るだけのハズが――
「やい迅雷! 話が違うぞ!」
火中のおれには、自爆耐性スキルが効いてる。
髪がチリチリになったが、命に別状はねぇ。
この火は、酒精が燃えただけだ。
リオレイニアの〝MAGIC・SHIELD〟で防ふせげる。
出来た菓子が、すこぶる上手に仕上がってくれてなかったら――
また三日くらい、外出禁止にされてたかも知れない。
ーーー
腹八分目/腹八分目で医者いらず、腹六分目で老いを忘れる、腹四分目で神に近づく。消化器官を休める、合理的な体調保全のための指針。
キャラメリゼ/甘い物を焦がし、硬い層を形成する調理技法。
フランベ/酒を掛け火を付け、酒の成分を香り付けとして利用する、見ばえがする調理技法。
伽羅/香木の一種で最高級品。
木所/香木の種類。薬膳の分類として「苦」「甘」「辛」「鹹(かん)」「酸」の五味がある。
読経/経文を声に出して読むこと。
酒精/エチルアルコール。純度が高いと火が付く。
流れるようなナイフ使い。
「もぐもぐもぐもぎゅり♪」
淀みのない、力強い咀嚼。
「はぁー。おっちゃんは、五百乃大角側の人間だったのかぁ――――はぁ」
猪蟹屋の前掛けを、脱いで丸める。
空いた席に、どかりと腰を下ろした。
「ほうほ、おはあいあふ♪」
もぎゅりもぎゅり。
ふぉん♪
『>「どうぞ、お構いなく」です』
要らん。
物を食いながら話した言葉ぐれぇ、わからぁ。
おれぁ、五百乃大角の料理番だぞ。
「おははひはぁ、ふうへほひひはほぉぅ?」
わかってる……いや、ちょっとわからなかったが――
おかわりをすぐに、持って来いってんだろ?
「きっかり三人前。三回ずつおかわりできる分を作ってきたから、安心して食えやぁ」
大食らいには、飽き飽きしてるが――
それでもうまいうまいと飯を食う姿は、悪いもんじゃねぇ。
「ほんほぉ? もぎゅもぎゅごくん♪」
冬眠まえの生き物みてぇな、食いっぷり。
「もぐもぐ、ごくん。おいしいおいしい、ふはぁ♪」
それにしても、こっち子供は大丈夫か?
いくらなんでも、食い過ぎじゃねー?
ふぉん♪
『>バイタルに異常は見られません。ただ、マナの基礎消費量が、常人の倍程度有るように見受けられます』
ぬぅ活力か。体格の良い奴が、良く食う理屈はわからんでもないが――
レイダより細い体のどこに入ってくのか、不思議ではあるな。
「もぐもぐごくん。おや、おかわりもいただけるのですか? それは、嬉しいですね♪」
よく見ればおっちゃんは、よく食う奴の下っ腹をしている。
「焼具合は柔らかく、とても良い味付けです。これなら宮廷料理人として取り立てられることも、視野に入れられては?」
なるほどなぁ。仕事が出来る奴は、食うことさえも仕事に出来るってこったな。
新しい献立を考えたら、是非おっちゃんを呼ぼう。
「ふへへ、おっちゃんの見立てなら、まんざらでもねえゃな。宮廷料理人に興味はねぇけどよ」
そして宮廷料理人なら、もう間にあってる。
ガムラン町にひとり、凄腕のが居るんだぜ。
「こらシガミー、なんですか! 目上への態度として、看過できません」
子供たちへの飲み物の配膳が済んだ、美の魔神教員がやってきた。
「うへぇ。おっかねぇのが来ちまったから。おれぁ退散するぜ。このあと、甘い菓子を出すから、腹八分目にしといてくれよなぁ――――!」
前世とまるで逆、神が率先して食い道楽を極めんとしてる。
変な世界だが、飢えず死なず、礼節を重んじる人々が生きている。
ひょっとしたら、いくさ続きだった前の世の、〝続き〟としちゃ上出来じゃねぇかなぁ。
檜舞台には、迅雷が用意してくれた台座。
載せられているのは重ねられた、四角い枡のような透き通った器。
ごとん。
おれは中くらいの、鍋を取りだした。
§
この甘い菓子は、スキルとしちゃ〝かくはん王〟だけでこと足りる。
ただ〝不乱兵衛〟ていう〝正道《せいどう》を行く御仁のような真似は――
後の世で破戒層と呼ばれたであろう、おれにわぁ無理だぜ?
ふぉふぉん♪
『解析指南>キャラメリゼでも糖の酸化作用を促せますが、
炎を使うフランベのほうが、この場には最適です』
伽羅……木所が甘ぇ菓子に何の関係があるんでぇい?
生き方を問われるし、菓子てのは奥深ぇな。
「(シガミー。冷たい魔法と、度数の高い……強い酒です)」
酒だぁ? どっから来た、その話わぁ!
そういやおれの澄み酒は、どのくらいある?
「(ガムラン町に蓄えが、120リットルほどです)」
えーっと?
「(三分の二石になります)」
一石の七割、いかねぇ位か――全然ねぇな。
工房長たちに見つかったら、二晩でなくなっちまわぁ。
今、手元にあるのは?
「(有りません。先の宴会で使ってしまいました)」
いつの宴会かわからんが、ぜんぜんねぇならどうすんだ?
酒が、要るんだろう?
「(必要なのは、お菓子の香り付けに使う程度です。少量を造りましょう)」
酒で香りを付けるだとぉ?
さっきの木所で菓子に、香りを付けようってぇのか?
難しいことを言い出しやがったな。
「(ここに果物酒が有りますので、これを強いお酒に変えてください)」
強い酒か。
エイルって苦くて弱い酒を、急速熟成して超抽出したことはあるが。
「(はい、同じことをしてください)」
じゃぁ別の鍋に、どぱぱぱぱぱぱぱぱぱっ♪
手をかざし、分離倍化、分離倍化、超抽出、急速熟成、急速熟成――
ごぼぼぉぉん――しゅっわっぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!
鍋から霧が噴きだして――しゅぅわぁっ♪
「(アルコール度数58%。酸味が強く出てしまいましたので、もう一度成分を抽出後、香りを加味しましょう)」
香りを足すったって、どーすんだ?
香木を漬けるわけじゃあるめぇ?
『解析指南>バニラビーンズを食品転化後、刻んで撹拌、濾過してください』
何だと問う間で――ごそごそそっ、スタタタタッタ、トトトトトンッ!
ガシャガシャガシャ――プシュシュシュシュゥゥッ♪
スキル任せで、一気に済ませた。
小皿にとって舐めると――確かに甘ぇ。
菓子には使えそうだが――澄み酒と比べて何倍も強ぇ。
舐めただけで喉が焼けるような物を、子供たちには出せんぞ?
ふぉん♪
『解析指南>黄色い主液を冷やし固め――』
解析指南の調理工程が進む。
進んだってことは、必要な道具と材料が揃ったってことだ。
四角い器に流し込んだ黄色い汁。
それを冷てぇ魔法で冷やし固める。
出来た菓子に砂糖をまぶし――
「(軽く熱してから、火を付けてください)」
強くて甘い酒を、ひのたまで温め注ぐ。
これもやったな。
フェスタで、天狗役のおれが。
「(はい。同じことをしてください)」
こんな穴蔵で、大丈夫か?
あの芸は高くまで、酒の炎が登るぞ?
「(問題ありません。ただし横着せずに器につき一つずつ、小さな火種を落として下さい)」
ひのたまを、すべての小鉢に落とすのか。
多重詠唱……日の本式の読経なら、出来ねぇこともねぇが。
「(対象座標の複数設定には視線による、多重ロックオンが使用可能です)」
『◇』――小鉢の上に現われる、ひし形。
『◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇――――♪』
ずらして重ねられ、影になった小鉢にも『◇』が現れた。
ふぉふぉぉぉぉん♪
『>多重ロックオン完了。いつでも攻撃できます。
>滅モード:OFF』
ビキピピピッピィィィィイィッ――――♪
けたたましい鳥の鳴き声が、止まらなくなった。
§
「ひかりのたてよひかりのたてよひかりのたてよ!」
あぶねぇ、大惨事になる所だった。
フェスタのときと比べたら、小せぇ炎が出るだけのハズが――
「やい迅雷! 話が違うぞ!」
火中のおれには、自爆耐性スキルが効いてる。
髪がチリチリになったが、命に別状はねぇ。
この火は、酒精が燃えただけだ。
リオレイニアの〝MAGIC・SHIELD〟で防ふせげる。
出来た菓子が、すこぶる上手に仕上がってくれてなかったら――
また三日くらい、外出禁止にされてたかも知れない。
ーーー
腹八分目/腹八分目で医者いらず、腹六分目で老いを忘れる、腹四分目で神に近づく。消化器官を休める、合理的な体調保全のための指針。
キャラメリゼ/甘い物を焦がし、硬い層を形成する調理技法。
フランベ/酒を掛け火を付け、酒の成分を香り付けとして利用する、見ばえがする調理技法。
伽羅/香木の一種で最高級品。
木所/香木の種類。薬膳の分類として「苦」「甘」「辛」「鹹(かん)」「酸」の五味がある。
読経/経文を声に出して読むこと。
酒精/エチルアルコール。純度が高いと火が付く。
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