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4:龍撃の学院

439:烏天狗(シガミー)、コントゥル伯爵さま

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貴殿きでんがカラテェー殿どのか! まことに、きゅうなことではあるのだが――我が全兵力ぜんへいりょく装備点検そうびてんけんを、おたのみしたい!」
 手紙てがみ最後さいごに書かれていた、文言もんごんとおなじ台詞せりふ
 それは、殿様とのさまからの要請ようせいだった。

   §

 まえにおれ、いや烏天狗ぼくがガムランの隣町となりまち捕縛ほばくされ――
 城塞都市そこ冒険者ぼうけんしゃたちの装備そうび一手いってに、修繕しゅうぜんさせられたときのことをおもい出す。
 あのときは一晩ひとばんで済んだけど。
 この大軍勢だいぐんぜいは、城塞都市の高位あのとき冒険者ぼうけんしゃたちの――

 ふぉふぉん♪
『>ざっと見積もっても、約40倍はあるかと』
 だよな。これから寝ずにこんを詰めても、単純たんじゅんに40ばんはかかる。
 昼間ひるま学院がくいんに、行かなければならないのだ。

 しかも、「ふふふふっ、わたくし名代代理みょうだいだいりで来ていますので、一式装備いっしきそうびを受け取るまでは、かえれませんわねぇー♪」
 わら令嬢リカルルの手が、ビードロの水挿みずさしに伸びる。

「シガミー? これ、お代わりいただけるかしらぁー♪」
 彼女かのじょ傍若無人ぼうじゃくぶじんだが、そこまでタチのわるものではない。
 むしろ、世界せかい魔王まおうという生物せいぶつ脅威きょういからまもった英雄えいゆうの――
 振る舞いとしては、ささやかなものだ。

 おれ……ぼくだって彼女リカルルだけなら、お貴族きぞくさまのまがままとおもって――
 いますぐ一式装備作いっしきそうびづくりりをはじめただろう。

 階段途中かいだんとちゅうおどり場から、こっちを見下みおろす給仕服メイドふくが目にはいる。
 彼女リオかおが、いつにもましてしろい。
 あおざめているのだ。
 その背にかくれるタター、レイダ、ビビビーたち。

 彼女かのじょたちは、伯爵令嬢リカルル央都ここ滞在たいざいするにあたり。
 これからとどこおるであろう、ガムランちょうまつりごとに――
 おもいを馳せはだかんじ、おそれおののいているのだ。

 いえかえることなどゆめと化す、ギルド長ちちうえどの忙殺ぼうさつする仕事量しごとりょうに――
 さらには、その後始末あとしまつめいじられ、一族郎党いちぞくろうとう年単位ねんたんい一大事業いちだいじぎょうと化す、その家業かぎょうに――

 というより、おかわりを要求ようきゅうされてるし――
 傍観ぼうかんしてる場合ばあいじゃねぇやな。
 渦中かちゅうに居るのは、おれたちだ。

 奥方さまルリーロからの依頼いらいに、伯爵とのさまからの依頼いらい
 たかが辺境へんきょう町由来まちゆらいの、軍備ぐんびかんする保全ほぜん
 されど、そいつが一度いちどに来てしまえば――

 折角せっかく面白おもしろくなりつつあった央都おうと――まな生活せいかつ
 星神ほしがみ社交しゃこうと――美の女神いおのはらの食い道楽どうらく
 おれたちの本分・・を、ないがしろにするなら――
 ついさっき起きたばかりの――
 世界存亡このよのおわりふたたび、ためされることになる。

 ちゃんとはなしをして、出来できることと出来できないことを――
 はかりにかけて、誠心誠意せいしんせいい――おたのもうす。
 そうすりゃ、いつものように。

「カカカッ――だれにだ?」
 ひとたびかみ合わねぇことが、こうして起きちまえば――
 こうしてやいばうえを、素足すあしわた羽目はめになる。

 解析指南かいせきしなん――ぼくとシガミーと天狗てんぐ、そして迅雷ジンライ
 ほとんどおれだが総動員そうどういんして、万事滞ばんじとどこおりなく――
 全仕事ぜんしごと穏便おんびんに、終わらせるすべはあるか?

 ふぉふぉふぉふぉふぉふぉぉぉぉん♪
『解析指南>通常修繕並びに、レア度の低い装備に関する自動化設備の開発。
      レア度の高い装備における体系別類型型強化方法確立のための、
      『シンシナティック・ニューロネイション超攻略絵巻読本』の開示請求。
      この二件の達成により、作業効率を800%上昇させられます』
 わからん。
 8ばいになっても、たかが知れてるだろう。

「グカカカッ――――師よ! イオノハラさまを、呼んでください!」
 烏天狗ぼくの師(の装束しょうぞくに身をつつむ)である天狗ジンライに、命令めいれいする。
 ひとまず、おれたちの世界せかいのよりどころ――五百乃大角せきにんしゃ喚べ・・

 ふぉんふぉふぉん♪
『>FATSシステム内線#10286を呼び出しています
 >呼び出しています
 >呼び出しています
 >呼び出しています』

 ちっ、はんで押したように――ようがあるときは、かならず出ねぇっ!
 じゃぁ星神ホシガミーを、おれが呼ぶCALL――{>Logon__rpon__Connect>対話型セッション開始 ⚡ 龍脈言語server01.net}
 ぼくは・・・クルリと、身をひるがえした。

わたくしはカヤノヒメ……ではなく、こほ――」
 ぼくは・・・咳払せきばらいをし、その場にかがみ込んだ。

 ふぉふぉん♪
『シガミー>おう、さっきの今で、悪いんだがな。
      そこに五百乃大角いおのはらは居るか?

「{はい、お菓子かしを入れるおさらなかで、お昼寝ひるねをされていますわ、くすくす}」
 自分じぶん念話ねんわされる、奇妙きみょう感覚かんかく
 ――――ィィィィィイィィィンッ!!
 うえから殺気さっきが、落ちてくる――――ぼおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぅわぁっ♪
 仄暗ほのぐらあつくはないが、寿命じゅみょうけずったり爆発ばくはつしたりする、狐火ほのお
 それが的確てきかくに、ぼくをねらって降ってきた。
 ヴッ――ほしがみ錫杖しゃくじょうを取りだし――ガガン!

「クカカカカッ――――――――コントゥル辺境伯へんきょうはくさま。おはつにお目に掛かります。ぼくが烏天狗からすてんぐです
 立てた錫杖しゃくじょううえ高下駄たかげた一本足かたあしで立つ。
 うでを組み、背筋せすじを伸ばす星神カラテェー

 そしてその手甲うでが――かたわらに立つ師を、指ししめした。

「カカカカカッ――――わし此奴こやつの師で天狗てんぐじゃ。よろしく、おたのみもう
 背負せおっていたっていた錫杖しゃくじょうを――ガンと突きたてる。
 片手かたてこしのうしろにまわし――じゃりぃぃぃんと鉄輪てつわを鳴らす。

 お? シャキッとしてくれたな迅雷ジンライ

「もーすもーす、もーすでごわす♪」
 とおくくからそんな、レイダのこえが聞こえてくる。
 いまゴワス・・・は、言ってねぇだろうが。

「にゃみゃがぁ――――
「ひっひぃぃん――――?」
 ぽぽきゅ――♪
 ぽっきゅら――♪
 あー、おまえらは来るな!
 あぶねぇから、うごくな。

 ふぉん♪
『シガミー>大人しくしてたら、
      おまえらが欲しいもんも何か、
      一個ずつ作ってやるから』
「みゃがぁー
「ひひぃん♪」
 がたん、ぺたぽきゅん♪
 もといた椅子いすと地べたに、もどってくれた。

 ふぉん♪
『シガミー>よし迅雷。この大群は何だか、ちゃんと聞いてくれ』
 星神ほしがみまかせてばかりも、居られねぇ。
 家宝かほう納期のうきおくれて、しりたたきに来たわけじゃねーだろうしな。
 ねぇよな?

「して、殿とのよ。コレだけの軍勢ぐんぜいうごかされたと言うことは、いくさか討ち入りでもあるのでござろうかのぅ
 目がえがかれた顔布かおぬのすそを、かすかに揺らす。
 うしろごしに添えられた両手りょうては、微動びどうだにしていない。

「うむ、たたわなければならない危険きけん魔物まものは、活発かっぱつに出現しゅつげんつづけている。だかけっして、いくさ・・・ではない。本日ほんじつおもむいたのは、たんおくさんからの要請ようせいもあり、猪蟹屋予定地ししがにやよていちまでの行軍こうぐんをしてみたかったのだ」
 そういうことか。
 伯爵はくしゃく長髪ちょうはつが、ふぁさりと揺れた。

 かれ、コントゥル辺境伯へんきょうはくは、むすめあまところがあるのだ。
 おおかた、リカルルが滞在たいざいすることを知り、その安全確認あんぜんかくにんため
 もしくは有事ゆうじさい予行演習よこうえんしゅうとして、コレだけの大群たいぐんうごかしてしまったのだろう。

 ふぉん♪
『シガミー>じゃぁ、この大群全部の装備。
      一切合切の修繕と強化を頼まれちまったんだが、
      どうすりゃぁよいかな?
      猪蟹屋の改装も、学院の勉強も、お前さんの神域食堂だって、
      どれひとつも、ないがしろにはしたくねぇ』
 一行表示ティッカーで、そんな現状げんじょううったえると――

 ふぉん♪
『ホシガミー>解析指南による指標もありますので、
       最大三日での完遂が可能であると判断しました』
 一行表示へんじが、即座そくざかえってきた。

 よし、わかった三日みっかだな。
 星神ほしがみがそう言うなら、なんとかなるだろ。

 ふぉん♪
『シガミー>五百乃大角を忘れずに持ってきてくれ。
      今夜から仕事を始めるぞ』
 おれは一行表示ティッカーに、そう文字もじを打ち込んだ。
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