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4:龍撃の学院
438:満員御礼猪蟹屋(開店前)、伯爵夫人からの手紙
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「ね、だから言ったでしょぉ?」
子供が、得意げな顔をした。
三階建ての猪蟹屋四号店(一階と地下の一部を、店舗にする予定)。
最上階(従業員住居にする予定)の廊下、その一番奥。
『リカルル♪』
ドアにはそんな名札が、貼られている。
「お、遅かったようですね。当面は夏期休暇と言うことで、ごまかします
が……はぁ」
黒眼鏡をくいっと持ちあげる、気丈な美の権化。
彼女が顔から外せなかった、白い鳥の仮面。
あの大形な〝魔眼殺し〟は、彼女のもつ〝魅了の神眼〟を封印する為の物だ。
本来は〝聖剣切り〟リカルル嬢の、〝派手な色の甲冑〟に付随していた装備だったが――
リオレイニアの貞操……というより、彼女の色香に惑わされる老若男女の〝命〟を守るため。
コントゥル家の家宝で有る〝赤と(よく見れば)黄と白の派手な甲冑〟から、借り受けていた物らしい。
そんな魔導光学の粋を凝らしたアーティファクトである、魔眼殺し。
それに取って代わった、新開発の黒眼鏡・魔眼封じ。
作成者は、このおれシガミーだ。
LVは天井止まりしちまったが、神々の新しい理や轟雷を着たときの頭の冴え。
そんな物を総動員すると、こうして今有る物をより便利にしたり出来る。
生まれついての、美しい造形を発露とする――〝魅了の神眼〟。
それは、彼女をひと目みた五百乃大角が――〝女神の祝福〟を授けるほど。
それってつまるところ、生身の美の権化じゃね?
イオノフ教会やギルド物販に、大量に卸しはしたが――
人気すぎて入手困難な、リオレイニア(と根菜)の詠唱魔法具。
あれに描かれた神々しい姿は、誇張なく的確に彼女の本質を捉えているのだ。
「どういうことだわぜ、リオさん?」
さんを付けてみた。
付け焼き刃でも、ねぇよかマシだろ。
「ふぅ、リカルルお嬢さまには、前例があるのですよ」
ふたたび、くいっと持ちあげられる、黒眼鏡。
「前例とわ?」
重心が、うまく取れてねぇのかも。
魔導レンズを加工し、さらに軽くするには試行が足りない。
せめて、蔓の部分を調節してやるかな。
「あれは私が初等魔導学院へ入学する、前日でした。私に付いてきたお嬢さまと、有名菓子店へ立ち寄ったときのことで――」
「有名な菓子? ひょっとして、あの箱入りの焼き菓子か?」
「はい。一口食したら、大層気に入ってしまわれて」
ふぅと息を吐く、給仕服姿の女性。
その背中から、子供がぴょんと飛びおりた。
子供ながらに、彼女の気苦労を感じとったのだろう。
手を引いて、並んだ木箱に座らせてやっている。
「それで……どーなったんでぇい?」
リオの両隣に、レイダとビビビー。
その斜め正面の木箱に、おれとタターが腰掛けた。
「なぜか私と一緒に、学院へ通うことになりました」
「そんな我が儘を、伯爵さまは兎も角……あの学院長と奥方さまが、良く許したな?」
ふぉふぉふぉん♪
『人物DB>ラウラル・ジーン・コントゥル辺境伯爵
コントゥル家現当主
>ロサロナ・ローハイネン
初等魔導学院学院長
>ルリーロ・イナリィ・コントゥル伯爵夫人
コントゥル家名代』
「いえ、それがお嬢さまの、筋金入りの聞きわけのなさ……ではなくて、面倒なまでの負けず嫌い……でもなくて、恐ろしいまでの……そうっ、才能です。あれはもう、才能と呼んで差し支えないかと――」
言葉をいくら選んでも――それは姫さんを表している。
一度決めたら、頑として譲らない。
しかも、ソレを押し通す財力と伝手と――
「何よりも、本人の能力が高かったってことか。はぁ」
ため息交じりに、言い当ててやる。
「よくわかりましたね。飛び級制度の第一号でした。ふぅ」
わかるぜ、そりゃぁ。
一事が万事こんな有様で、その延長線上で魔王(生物)を倒した――
ってことなのかも、知れねぇしな。
「クカカカカッ――――♪」
全体的に疲れ気味のおれたちへ、投げつけられたのは――
不遜な笑い声。
「どうじゃ、小童よ! 貴人を持てなすなど、儂にかかれば造作もないことじゃわい♪」
なんだその、上機嫌。
天狗(迅雷)の声に、廊下を振り向いた。
そこに居るのは――黒づくめの、老獪な修験者・天狗。
「(いや、お前に頼んだのは、おにぎりどもを家に送り届けることだったんだが)――それで、姫さんは今どこでぇい?」
ふぉん♪
『>対魔王結界内で、アイスを利用した
冷たい飲み物を、飲んでおられます』
§
「やっと、戻ってきましたわね。それでぇー、カラテェー君わぁー、見つかりましたのー?」
「いや、不肖の弟子は――まだ到着しておらぬようじゃわぃ」
昨夜、出したままの食卓一式。
収納魔法具箱をあけ、中から透明な瓶をとりだし――
自分の席と決めたらしい、テーブルの一角に腰を下ろす伯爵令嬢。
「にゃみゃがぁー♪」
「ひひひぃぃぃん?」
勝手知ったる猪蟹屋。
件の冷たい飲み物を、猫と馬にも注いでやる、ご令嬢。
「あら、シガミー。久しぶりですわね。お邪魔しているわ♪」
しかし、なんでまた姫さんが、烏天狗なんかを探していやがる?
「やぁ、いらっしゃい。烏天狗に、なにか用事でもあるのか?」
素直に、聞いてみた。
「何って、もちろん。名代からの手紙を届けにきたのでしてよ?」
ごくごくと冷たい飲み物を、飲み干すさまは――
行儀が良いとは言いがたい。
「手紙だぁ?」
取り出したソレを――ヴュパッ♪
『シガミー御一行様方 烏天狗さまへ
コントゥル辺境伯爵領名代ルリーロ・イナリィ・コントゥル』
大写しで見たら、『大至急』なんて判まで押してある。
おい、迅雷。
こりゃふざけてる場合じゃ、ねーんじゃねーのか?
ふぉん♪
『>十中八九、先延ばしにしていた一式装備の催促と思われます』
だよなぁ。
「じゃぁ、おれもその辺、探しに行ってくるぜ!」
ソコソコ長い階段を、一息に駆けあがり――
倉庫がわりの土間へ飛びこんだ。
バサバサバサッ――ガッシャガシャ、ガガガン♪
烏天狗の装束に、着替えた。
「カカカッ――――やぁ、リカルルさま。待たせたね」
大慌てで地下へ戻り、手紙を受け取る。
恐る恐る、中を開くと――
やっぱり、一式装備を引き取りに、ご令嬢を寄こした旨が書かれていて。
小さな花火が――ぽぽん♪
なんだ今のは!?
ふぉん♪
『>手紙に仕込まれていた、魔法具のようです。
最寄りの女神像への通信、ひいては特定の通信魔法具への、
発信が試みられました』
「お館様が、ご到着なされましたぁ――――!!」
対魔王結界への扉が、開け放たれ――轟く一声。
「なんだとぉ――――!?」
見あげりゃ――大軍勢がゾロゾロと、階段を駆け下りて来やがる。
先陣を切るのは、屈強な若者たち。
うぉぉおぉぉぉぉおおぉぉおぉおおぉおぉおぉおおぉおぉぉぉおぉぉおおおぉっ!!!!
対魔王結界内部は、スグに大軍勢で一杯になり――「公の御前である!」
スッと道が開けられる。
「貴殿がカラテー殿か。我が名はラウラル・ジーン・コントゥル。コントゥル家現当主であるぞ!」
現れたのは偉丈夫な男性。
名君と名高いコントゥル辺境伯。
つまるところ彼はガムランの殿様で、姫さんの父上殿だった。
「クカカカカッ――――師よ、何でこんなことに!?」
「カカカカッ――――わ、わからぬぞ、弟子よ!」
おれたちは両手を高く上げ、途方に暮れた。
子供が、得意げな顔をした。
三階建ての猪蟹屋四号店(一階と地下の一部を、店舗にする予定)。
最上階(従業員住居にする予定)の廊下、その一番奥。
『リカルル♪』
ドアにはそんな名札が、貼られている。
「お、遅かったようですね。当面は夏期休暇と言うことで、ごまかします
が……はぁ」
黒眼鏡をくいっと持ちあげる、気丈な美の権化。
彼女が顔から外せなかった、白い鳥の仮面。
あの大形な〝魔眼殺し〟は、彼女のもつ〝魅了の神眼〟を封印する為の物だ。
本来は〝聖剣切り〟リカルル嬢の、〝派手な色の甲冑〟に付随していた装備だったが――
リオレイニアの貞操……というより、彼女の色香に惑わされる老若男女の〝命〟を守るため。
コントゥル家の家宝で有る〝赤と(よく見れば)黄と白の派手な甲冑〟から、借り受けていた物らしい。
そんな魔導光学の粋を凝らしたアーティファクトである、魔眼殺し。
それに取って代わった、新開発の黒眼鏡・魔眼封じ。
作成者は、このおれシガミーだ。
LVは天井止まりしちまったが、神々の新しい理や轟雷を着たときの頭の冴え。
そんな物を総動員すると、こうして今有る物をより便利にしたり出来る。
生まれついての、美しい造形を発露とする――〝魅了の神眼〟。
それは、彼女をひと目みた五百乃大角が――〝女神の祝福〟を授けるほど。
それってつまるところ、生身の美の権化じゃね?
イオノフ教会やギルド物販に、大量に卸しはしたが――
人気すぎて入手困難な、リオレイニア(と根菜)の詠唱魔法具。
あれに描かれた神々しい姿は、誇張なく的確に彼女の本質を捉えているのだ。
「どういうことだわぜ、リオさん?」
さんを付けてみた。
付け焼き刃でも、ねぇよかマシだろ。
「ふぅ、リカルルお嬢さまには、前例があるのですよ」
ふたたび、くいっと持ちあげられる、黒眼鏡。
「前例とわ?」
重心が、うまく取れてねぇのかも。
魔導レンズを加工し、さらに軽くするには試行が足りない。
せめて、蔓の部分を調節してやるかな。
「あれは私が初等魔導学院へ入学する、前日でした。私に付いてきたお嬢さまと、有名菓子店へ立ち寄ったときのことで――」
「有名な菓子? ひょっとして、あの箱入りの焼き菓子か?」
「はい。一口食したら、大層気に入ってしまわれて」
ふぅと息を吐く、給仕服姿の女性。
その背中から、子供がぴょんと飛びおりた。
子供ながらに、彼女の気苦労を感じとったのだろう。
手を引いて、並んだ木箱に座らせてやっている。
「それで……どーなったんでぇい?」
リオの両隣に、レイダとビビビー。
その斜め正面の木箱に、おれとタターが腰掛けた。
「なぜか私と一緒に、学院へ通うことになりました」
「そんな我が儘を、伯爵さまは兎も角……あの学院長と奥方さまが、良く許したな?」
ふぉふぉふぉん♪
『人物DB>ラウラル・ジーン・コントゥル辺境伯爵
コントゥル家現当主
>ロサロナ・ローハイネン
初等魔導学院学院長
>ルリーロ・イナリィ・コントゥル伯爵夫人
コントゥル家名代』
「いえ、それがお嬢さまの、筋金入りの聞きわけのなさ……ではなくて、面倒なまでの負けず嫌い……でもなくて、恐ろしいまでの……そうっ、才能です。あれはもう、才能と呼んで差し支えないかと――」
言葉をいくら選んでも――それは姫さんを表している。
一度決めたら、頑として譲らない。
しかも、ソレを押し通す財力と伝手と――
「何よりも、本人の能力が高かったってことか。はぁ」
ため息交じりに、言い当ててやる。
「よくわかりましたね。飛び級制度の第一号でした。ふぅ」
わかるぜ、そりゃぁ。
一事が万事こんな有様で、その延長線上で魔王(生物)を倒した――
ってことなのかも、知れねぇしな。
「クカカカカッ――――♪」
全体的に疲れ気味のおれたちへ、投げつけられたのは――
不遜な笑い声。
「どうじゃ、小童よ! 貴人を持てなすなど、儂にかかれば造作もないことじゃわい♪」
なんだその、上機嫌。
天狗(迅雷)の声に、廊下を振り向いた。
そこに居るのは――黒づくめの、老獪な修験者・天狗。
「(いや、お前に頼んだのは、おにぎりどもを家に送り届けることだったんだが)――それで、姫さんは今どこでぇい?」
ふぉん♪
『>対魔王結界内で、アイスを利用した
冷たい飲み物を、飲んでおられます』
§
「やっと、戻ってきましたわね。それでぇー、カラテェー君わぁー、見つかりましたのー?」
「いや、不肖の弟子は――まだ到着しておらぬようじゃわぃ」
昨夜、出したままの食卓一式。
収納魔法具箱をあけ、中から透明な瓶をとりだし――
自分の席と決めたらしい、テーブルの一角に腰を下ろす伯爵令嬢。
「にゃみゃがぁー♪」
「ひひひぃぃぃん?」
勝手知ったる猪蟹屋。
件の冷たい飲み物を、猫と馬にも注いでやる、ご令嬢。
「あら、シガミー。久しぶりですわね。お邪魔しているわ♪」
しかし、なんでまた姫さんが、烏天狗なんかを探していやがる?
「やぁ、いらっしゃい。烏天狗に、なにか用事でもあるのか?」
素直に、聞いてみた。
「何って、もちろん。名代からの手紙を届けにきたのでしてよ?」
ごくごくと冷たい飲み物を、飲み干すさまは――
行儀が良いとは言いがたい。
「手紙だぁ?」
取り出したソレを――ヴュパッ♪
『シガミー御一行様方 烏天狗さまへ
コントゥル辺境伯爵領名代ルリーロ・イナリィ・コントゥル』
大写しで見たら、『大至急』なんて判まで押してある。
おい、迅雷。
こりゃふざけてる場合じゃ、ねーんじゃねーのか?
ふぉん♪
『>十中八九、先延ばしにしていた一式装備の催促と思われます』
だよなぁ。
「じゃぁ、おれもその辺、探しに行ってくるぜ!」
ソコソコ長い階段を、一息に駆けあがり――
倉庫がわりの土間へ飛びこんだ。
バサバサバサッ――ガッシャガシャ、ガガガン♪
烏天狗の装束に、着替えた。
「カカカッ――――やぁ、リカルルさま。待たせたね」
大慌てで地下へ戻り、手紙を受け取る。
恐る恐る、中を開くと――
やっぱり、一式装備を引き取りに、ご令嬢を寄こした旨が書かれていて。
小さな花火が――ぽぽん♪
なんだ今のは!?
ふぉん♪
『>手紙に仕込まれていた、魔法具のようです。
最寄りの女神像への通信、ひいては特定の通信魔法具への、
発信が試みられました』
「お館様が、ご到着なされましたぁ――――!!」
対魔王結界への扉が、開け放たれ――轟く一声。
「なんだとぉ――――!?」
見あげりゃ――大軍勢がゾロゾロと、階段を駆け下りて来やがる。
先陣を切るのは、屈強な若者たち。
うぉぉおぉぉぉぉおおぉぉおぉおおぉおぉおぉおおぉおぉぉぉおぉぉおおおぉっ!!!!
対魔王結界内部は、スグに大軍勢で一杯になり――「公の御前である!」
スッと道が開けられる。
「貴殿がカラテー殿か。我が名はラウラル・ジーン・コントゥル。コントゥル家現当主であるぞ!」
現れたのは偉丈夫な男性。
名君と名高いコントゥル辺境伯。
つまるところ彼はガムランの殿様で、姫さんの父上殿だった。
「クカカカカッ――――師よ、何でこんなことに!?」
「カカカカッ――――わ、わからぬぞ、弟子よ!」
おれたちは両手を高く上げ、途方に暮れた。
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