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3:ダンジョンクローラーになろう
402:美の女神の料理番(シガミー)、一攫千金ミノタウ温泉
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「奥方さま、お嬢さま。会食の準備が、もうすぐ整います」
『指揮官』の腕章を外したリオレイニアが、そっと近づき耳打ちする。
「はぁい。よろぉしぃーですよぉ♪」
座ったままでは、端まで見渡せないほど長大なテーブル。
「よくってよ♪」
その中央に並んで着席する、コントゥル家母娘。
「王女さま、王子さま。会食の準備がもうすぐ出来ます」
新米メイド・タターが、そっと近づき耳打ちする。
「タターさん、ニゲルさまはどちらに? 見かけないですらぁん?」
クロスの掛けられた長大なテーブルは、もう一つあり――
「ティル、まだ彼のことを諦めていなかったのか……ふぅー」
その中央に並んで着席する、ラスクトール自治領王家兄妹。
「あにゃ? シガミーたちがいないニャ?」
コントゥル家令嬢に、ほど近い席。
「ほんとだコォン♪」
猫耳と狐耳のコンビが立ちあがり、巨大な集会所を見わたしている。
「シガミーたちなら、さっき村はずれの方で見かけましたけれど?」
窓を振りかえる、リカルル・リ・コントゥル。
そのドレスはいつもの派手さとは打って変わり、楚々とした風情。
「イオノファラーさまに、カヤノヒメちゃんもいないよ?」
コントゥル家名代に、ほど近い席。
子供がフォークとナイフを持ったまま、立ちあがった。
とりあえずの食事の準備が整った頃、美の女神御神体の紛失に気づく、ガムラン勢。
「イオノファラーさまがいなくては、〝本日のメイン〟をお出しできませんね」
深刻な様子のリオレイニアに、黄緑色の腕章を付けた侍女たちが集まる。
がやがやがやや――?
歓談していた、央都とレイド村の面々までもが、ざわつき出した。
執事や侍女や指揮官が、右往左往する中。
「ところで、アレはどーなったんだい、ティル?」
そわそわした様子の兄王子。
「お兄さま、アレとは何ですらぁん?」
首を傾げる妹王女。
「大きな赤い鬼族と剣士の試合の結末に、決まってるじゃないかっ♪」
興奮の第二王位継承者。
手には女神像が印字した半券。
『レイド村近郊バウト:掛け金 600パケタ
投票 木さじ食堂所属/剣士ニゲル』
それによるなら、彼はニゲルに大金を賭けている。
そわそわ、がやがや。
どこか落ち着かない、央都側のテーブル。
「「「「「「「「「「「あ、すっかり忘れてた」」」」」」」」」」」
レイド村救援に真っ先に駆けつけた、ガムラン勢は――
村復興に心血を注ぐうちに、賭けの存在自体を忘れていたようだ。
「ああもう、騎士団長に顧問まで! みんな必死ららぁぁん!」
そういう彼女も、ニゲルに大金を掛けている。
「ええと、変異種討ば……あの勝負は……どうなったんだったかしら?」
頬に手をあて思案に暮れる――鳥の仮面の侍女。
彼女は、変異種であった巨大鎧鬼へ、全財産を投入している。
そのとき、ゴゴゴゴゴッ――突き上げるような揺れに、襲われるレイド村!
どごがぁぁん――とおくで何かが破裂したような音も聞こえてくる。
また変異種でも出たのかと、全員が外に出てみれば――
その視線が一点に、集中する。
その先にあるのは、村はずれから立ちのぼる――
巨大な水柱だった。
§
「どぉぉぉぉぉわぁぁぁぁっ――――ニャァ!?」
熱湯に突き上げられる鉄鎧鬼。
その影になり、数メートル飛ばされただけですんだのは――十四、五歳のシガミー。
その手につかまれた御神体が、「何ごとよっ、コラーッ!!」と怒り心頭。
体を起こす二人の神のまえに――ドッズズズズズズズズズズズズズンッ!!!
あたまから落下し、地に刺さる鉄鎧の体。
痛くはねぇが土に埋もれて、メイン画面が死んだ。
ビュヒュパパパパパパッ――――相当遅れて、画面が復帰する。
ぐるんぐるん、ぐるるん――――天と地が倒になる。
それは、突き上げられた衝撃で、上空に吹き飛ばされた――
「にゃにゃぁ、みゃんみゃみゃやーみゃにゃんにゃにゃー!」
鉄鎧鬼の中身、特撃型10号改――つまり、おれが見ている景色だ!
ふぉふぉん♪
『>鉄鎧鬼の制御は、まだ私にありますので、いま立ちあがります』
膝をつき必死に、頭を抜こうとする鉄鎧鬼。
そろそろ鉄鎧鬼ってのも味気ねぇ、お前さまでも扱えるってんなら、そうだなぁー。
その鉄鎧の名は、さしずめ轟く雷――
つまり轟雷だぜ。
ふぉん♪
『>了解しました。以後、轟雷(ゴウライ)と呼称します』
おれの背……いや、轟雷の背に――ガガァァンッ♪
鉄下駄を高らかに奏で、ニゲル青年が着地した。
「痛ぇ――ニャァ!」
痛くはねぇが、言うだけ言っとく。
真っ逆さまに落ちていく、猫の魔物たち――ひゅろろろぉぉぉ――♪
青年は反射的に、猫の魔物の片方を――受け止めようとした。
両手を広げ、まちかまえる青年。
一匹はおれだと気づいたから、受け止めようなんて真似をしたんだと思う。
ぽぎゅばきぃぃん!
二匹の魔物に蹴られ、青年が押しつぶされた。
「ぐえええ」とか言ってるから、たぶん平気だろ。
「ひっひひぃぃぃぃぃんっ!?」
上から振ってくる謎の声――「「みゃにゃぁ?」」
見あげる猫の魔物たち。
その目(付いてない)に最後に映ったのは――
蹄も付いていない、夏毛が生えただけの足の裏。
ぽぽぎゅぎゅむむゅるっりっ♪
子馬に踏まれたおれたちは、その場に倒れ込んだ。
地に崩れ落ちた鉄鎧。その上で伸びてる青年。
その背に倒れ込むのは、二匹の猫の魔物。
頂点に君臨するのは――
「ひひひぃぃん?」
紛れもなく、図体のでかい子馬だった。
カシャララッ――パッシャリッ♪
ニゲルから落ちた、青板がそんな音を奏でた。
§
ふぉふぉふぉぉん――ガチャガチャガチャチャチャチャッ、ガチィン♪
『レイド村近郊バウト/掛け金総額:3パケタ
的中>子馬ゴーレム:223倍
払い戻し:669
※払い戻しは各地のギルド支部女神像、
または自動発券魔法具にて行えます。
※有効期限は勝敗成立後、90日です。
お早めに払い戻ししてください。』
各地の女神像の箱や女神御神体の頭上に、そんな表示が現れた。
的中者の冒険者カードにも、同様の表示が現れるはずだが――
唯一の的中者である彼女は、冒険者登録はしていない。
天変地異により中断されていた――
女神像を介した掛けは、たったいま決着が付いた。
女神像ネットワークは、天文学的なプール金を獲得し――
ネネルド村の少女タターは――
彼女にとって生涯賃金に匹敵する大金を、手にすることとなった。
賭け事に目がないらしいサウルース・ヴィル・ラスクトール王子殿下は、殊の外、新米メイド・タターを気に入ったようで――
リオレイニアを呼びつけ、何やら耳打ちした。
次に呼びつけた妹王女の「〝テンプーラゴウ〟の造形に、一家言いただきましたらぁん♪」という証言に、目を丸くする。
ガムラン町で王女殿下付きだった、新米メイドの少女。
彼女が新型ゴーレムの、可愛いらしい造形にも〝関与〟していることを知り――
「ふふふっるぅん♪」
王子殿下は不気味……奇抜な微笑みを浮かべるのだった。
§
惑星ヒースは、活力あふれる星へと大変貌。
女神像の周囲には天変地異も起きなかったので、人々の生活に深刻な影響はない。
レイド村周囲の深い森には、食材や武具道具の素材となる――
高レベルの魔物が、大量に発生し――
魔王討伐以降、下火になっていた魔物素材への渇望――
それが――呼び起こされた。
魔物分布の中心となった、レイド村。
村は新たな魔物境界線として、機能していく。
活力溜まりの解消により変異種発生サイクルが大幅に伸びた、という研究結果もその後押しをした。
そう、一大冒険者ブームの到来である。
§
それは――川辺で目を覚ました。
「ごぉぉぉぉぉ――――――!」
バッギャギィィンッ!
壊れる――胸部搬出口。
大角を生やした、小さな鬼のような生物は――
数回の突進、数回の「順路探索」。
しいて言うなら星神の、本能とでも言うべき存在。
強制順路検索のための、探査針。
龍脈の循環をうながす、試金石。
一匹につき、約500グラムの希少部位をもつ――
ダンジョンクローラーは、やがて――
周囲に猫の魔物一匹いないことを確認し、うずくまった。
それは彼もしくは彼女が、存在してから初めての――
深い眠りであった。
表裏一体、星神の片割れが目覚めることは――もうない。
少なくとも、日の本生まれの誰かが、天寿を全うするまでの間は――
『指揮官』の腕章を外したリオレイニアが、そっと近づき耳打ちする。
「はぁい。よろぉしぃーですよぉ♪」
座ったままでは、端まで見渡せないほど長大なテーブル。
「よくってよ♪」
その中央に並んで着席する、コントゥル家母娘。
「王女さま、王子さま。会食の準備がもうすぐ出来ます」
新米メイド・タターが、そっと近づき耳打ちする。
「タターさん、ニゲルさまはどちらに? 見かけないですらぁん?」
クロスの掛けられた長大なテーブルは、もう一つあり――
「ティル、まだ彼のことを諦めていなかったのか……ふぅー」
その中央に並んで着席する、ラスクトール自治領王家兄妹。
「あにゃ? シガミーたちがいないニャ?」
コントゥル家令嬢に、ほど近い席。
「ほんとだコォン♪」
猫耳と狐耳のコンビが立ちあがり、巨大な集会所を見わたしている。
「シガミーたちなら、さっき村はずれの方で見かけましたけれど?」
窓を振りかえる、リカルル・リ・コントゥル。
そのドレスはいつもの派手さとは打って変わり、楚々とした風情。
「イオノファラーさまに、カヤノヒメちゃんもいないよ?」
コントゥル家名代に、ほど近い席。
子供がフォークとナイフを持ったまま、立ちあがった。
とりあえずの食事の準備が整った頃、美の女神御神体の紛失に気づく、ガムラン勢。
「イオノファラーさまがいなくては、〝本日のメイン〟をお出しできませんね」
深刻な様子のリオレイニアに、黄緑色の腕章を付けた侍女たちが集まる。
がやがやがやや――?
歓談していた、央都とレイド村の面々までもが、ざわつき出した。
執事や侍女や指揮官が、右往左往する中。
「ところで、アレはどーなったんだい、ティル?」
そわそわした様子の兄王子。
「お兄さま、アレとは何ですらぁん?」
首を傾げる妹王女。
「大きな赤い鬼族と剣士の試合の結末に、決まってるじゃないかっ♪」
興奮の第二王位継承者。
手には女神像が印字した半券。
『レイド村近郊バウト:掛け金 600パケタ
投票 木さじ食堂所属/剣士ニゲル』
それによるなら、彼はニゲルに大金を賭けている。
そわそわ、がやがや。
どこか落ち着かない、央都側のテーブル。
「「「「「「「「「「「あ、すっかり忘れてた」」」」」」」」」」」
レイド村救援に真っ先に駆けつけた、ガムラン勢は――
村復興に心血を注ぐうちに、賭けの存在自体を忘れていたようだ。
「ああもう、騎士団長に顧問まで! みんな必死ららぁぁん!」
そういう彼女も、ニゲルに大金を掛けている。
「ええと、変異種討ば……あの勝負は……どうなったんだったかしら?」
頬に手をあて思案に暮れる――鳥の仮面の侍女。
彼女は、変異種であった巨大鎧鬼へ、全財産を投入している。
そのとき、ゴゴゴゴゴッ――突き上げるような揺れに、襲われるレイド村!
どごがぁぁん――とおくで何かが破裂したような音も聞こえてくる。
また変異種でも出たのかと、全員が外に出てみれば――
その視線が一点に、集中する。
その先にあるのは、村はずれから立ちのぼる――
巨大な水柱だった。
§
「どぉぉぉぉぉわぁぁぁぁっ――――ニャァ!?」
熱湯に突き上げられる鉄鎧鬼。
その影になり、数メートル飛ばされただけですんだのは――十四、五歳のシガミー。
その手につかまれた御神体が、「何ごとよっ、コラーッ!!」と怒り心頭。
体を起こす二人の神のまえに――ドッズズズズズズズズズズズズズンッ!!!
あたまから落下し、地に刺さる鉄鎧の体。
痛くはねぇが土に埋もれて、メイン画面が死んだ。
ビュヒュパパパパパパッ――――相当遅れて、画面が復帰する。
ぐるんぐるん、ぐるるん――――天と地が倒になる。
それは、突き上げられた衝撃で、上空に吹き飛ばされた――
「にゃにゃぁ、みゃんみゃみゃやーみゃにゃんにゃにゃー!」
鉄鎧鬼の中身、特撃型10号改――つまり、おれが見ている景色だ!
ふぉふぉん♪
『>鉄鎧鬼の制御は、まだ私にありますので、いま立ちあがります』
膝をつき必死に、頭を抜こうとする鉄鎧鬼。
そろそろ鉄鎧鬼ってのも味気ねぇ、お前さまでも扱えるってんなら、そうだなぁー。
その鉄鎧の名は、さしずめ轟く雷――
つまり轟雷だぜ。
ふぉん♪
『>了解しました。以後、轟雷(ゴウライ)と呼称します』
おれの背……いや、轟雷の背に――ガガァァンッ♪
鉄下駄を高らかに奏で、ニゲル青年が着地した。
「痛ぇ――ニャァ!」
痛くはねぇが、言うだけ言っとく。
真っ逆さまに落ちていく、猫の魔物たち――ひゅろろろぉぉぉ――♪
青年は反射的に、猫の魔物の片方を――受け止めようとした。
両手を広げ、まちかまえる青年。
一匹はおれだと気づいたから、受け止めようなんて真似をしたんだと思う。
ぽぎゅばきぃぃん!
二匹の魔物に蹴られ、青年が押しつぶされた。
「ぐえええ」とか言ってるから、たぶん平気だろ。
「ひっひひぃぃぃぃぃんっ!?」
上から振ってくる謎の声――「「みゃにゃぁ?」」
見あげる猫の魔物たち。
その目(付いてない)に最後に映ったのは――
蹄も付いていない、夏毛が生えただけの足の裏。
ぽぽぎゅぎゅむむゅるっりっ♪
子馬に踏まれたおれたちは、その場に倒れ込んだ。
地に崩れ落ちた鉄鎧。その上で伸びてる青年。
その背に倒れ込むのは、二匹の猫の魔物。
頂点に君臨するのは――
「ひひひぃぃん?」
紛れもなく、図体のでかい子馬だった。
カシャララッ――パッシャリッ♪
ニゲルから落ちた、青板がそんな音を奏でた。
§
ふぉふぉふぉぉん――ガチャガチャガチャチャチャチャッ、ガチィン♪
『レイド村近郊バウト/掛け金総額:3パケタ
的中>子馬ゴーレム:223倍
払い戻し:669
※払い戻しは各地のギルド支部女神像、
または自動発券魔法具にて行えます。
※有効期限は勝敗成立後、90日です。
お早めに払い戻ししてください。』
各地の女神像の箱や女神御神体の頭上に、そんな表示が現れた。
的中者の冒険者カードにも、同様の表示が現れるはずだが――
唯一の的中者である彼女は、冒険者登録はしていない。
天変地異により中断されていた――
女神像を介した掛けは、たったいま決着が付いた。
女神像ネットワークは、天文学的なプール金を獲得し――
ネネルド村の少女タターは――
彼女にとって生涯賃金に匹敵する大金を、手にすることとなった。
賭け事に目がないらしいサウルース・ヴィル・ラスクトール王子殿下は、殊の外、新米メイド・タターを気に入ったようで――
リオレイニアを呼びつけ、何やら耳打ちした。
次に呼びつけた妹王女の「〝テンプーラゴウ〟の造形に、一家言いただきましたらぁん♪」という証言に、目を丸くする。
ガムラン町で王女殿下付きだった、新米メイドの少女。
彼女が新型ゴーレムの、可愛いらしい造形にも〝関与〟していることを知り――
「ふふふっるぅん♪」
王子殿下は不気味……奇抜な微笑みを浮かべるのだった。
§
惑星ヒースは、活力あふれる星へと大変貌。
女神像の周囲には天変地異も起きなかったので、人々の生活に深刻な影響はない。
レイド村周囲の深い森には、食材や武具道具の素材となる――
高レベルの魔物が、大量に発生し――
魔王討伐以降、下火になっていた魔物素材への渇望――
それが――呼び起こされた。
魔物分布の中心となった、レイド村。
村は新たな魔物境界線として、機能していく。
活力溜まりの解消により変異種発生サイクルが大幅に伸びた、という研究結果もその後押しをした。
そう、一大冒険者ブームの到来である。
§
それは――川辺で目を覚ました。
「ごぉぉぉぉぉ――――――!」
バッギャギィィンッ!
壊れる――胸部搬出口。
大角を生やした、小さな鬼のような生物は――
数回の突進、数回の「順路探索」。
しいて言うなら星神の、本能とでも言うべき存在。
強制順路検索のための、探査針。
龍脈の循環をうながす、試金石。
一匹につき、約500グラムの希少部位をもつ――
ダンジョンクローラーは、やがて――
周囲に猫の魔物一匹いないことを確認し、うずくまった。
それは彼もしくは彼女が、存在してから初めての――
深い眠りであった。
表裏一体、星神の片割れが目覚めることは――もうない。
少なくとも、日の本生まれの誰かが、天寿を全うするまでの間は――
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