滅せよ！ ジリ貧クエスト～悪鬼羅刹と恐れられた僧兵のおれが、ハラペコ女神の料理番（金髪幼女）に!?～

３：ダンジョンクローラーになろう

３９５：美の女神の料理番（シガミー）、火龍と妖狐とレイド村ギルド支部

　タタタッ！
　おれはニゲルが開けた扉とびらから、外そとへ飛び出した。

　ふわっさぁ♪
　風かぜになびく金きんの輝かがやき。
「（わっ、髪かみが邪魔じゃまだぜ！）」
　両耳りょうみみの上うえに生えたままの、木の枝えだみたいな角つのに――すすすと引っかける。

　よし、細足ほそあしを踏み込み――大地だいちを蹴る。
　その足あしが、やたらと速はやいのに気づいたのは、棒ジンライだった。

「（シガミー、運動効率うんどうこうりつが１７４％パーセント上昇じょうしょうしています・）」
　んなこと言われてもなぁ。
　さっきまで研ぎ澄まされてた頭あたまに、霞かすみがかかったようで。
　神々かみがみどものつかう言葉ことばの意味いみは、わかるんだが――
　それをどうすりゃ良いのか・・・・・・・・・が、わからねぇっつうか。

　体からだの向きを曲げてる・・・・・・・と、行き過ぎちまうから――ストォーン♪

「（金剛力こんごうりきを使つかってねぇのに――!?）」
　自然しぜんと、横よこっ飛びのような――トトォォーン♪
　いつもの足あしさばきになる。

「（現在げんざい、解析中かいせきちゅうですが、その枝角えだつのとも関係かんけいがあるかも知れません・）」
　この体からだぁ――もとのシガミーはおろか。
　取られちまった十四じゅうし、五歳ごさいのシガミーより、速はえぇぞっ!?
　一体何いったいなにしやがったんだ、惡神ホシガミーめ。

　ギルド支部しぶの建物たてものをグルリとまわって、正面しょうめんへまわる。
　ソコに居たのは、巨大きょだいな――

「蜥蜴とかげ、いや、龍りゅうかぁ!?」
　伸びろ迅雷ジンライ！

「（ですが、シガミーあれは・――）」
　どこから湧いたのか、逃げまどう村人むらびとたち。

　しゅっかぁぁん！
　さっきの１シガミー越えの長ながさと比くらべると――
　１シガミーは、どうしたって短みじぇ。
　レイダの魔法杖まほうつえの方ほうが、長ぇくらいだからなぁ!!

「（おまえ、もっと伸びやがれっ！）」
　黒い細腕かいながどこまでも伸びるってのに、独古杵ぼうのオマエが伸びねぇ道理どうりはねぇだろう！
「（ＩＮＴインテリジェンスタレットの最大長さいだいちょうは、使用者しようしゃ全長ぜんちょうを元もとに算出さんしゅつされています・）」
　ちぃっ、しかたねぇなぁぁぁぁっ！

　ストトォォ――ン！
　一気いっきに間合まあいを詰めると――龍そのかたわらに、浮かんでいる奴やつがみえた！

「ル、ルリーロさまか……よぅ！」
　へなへなと失速しっそくしたおれは、すっ転ころぶ。
　迅雷ジンライを突きたて、くるくるるんっ――シュタン♪

　じゃぁ、この龍りゅうは――
「（はい、ゲイルです・）」
　火龍かりゅうゲイルはガムラン町ちょうから最寄もよりの火山かざんに、住んでいたヤツで――
　色々いろいろあって、いまは猪蟹屋うちの店員てんいんでもある。

　火龍ゲイルが手にしていた木箱きばこを、どすどすと地面じめんに放ほうり出した。

「あらぁー？　カヤノヒメちゃん、どーしたのぉー？　迅雷ジンライなんて持っちゃってぇー？」
　ちきしょうめ、奥方おくがたさまが居るなら居るって言っとけよなぁ――ニゲルの野郎やろう！

「おれだぜ、おれ！　シガミーだ！」
　声こえを張る。
「えええーっ、シガミーちゃぁんなぁのぉぉぉぉぉっ!?」
　ヴォヴォォォォォォゥン――――♪

　コントゥル領伯爵りょうはくしゃく夫人ふじんが乗る、巨大きょだいな魔法杖まほうつえ。
　〝ルードホルドの魔法杖まほうつえ〟は威力ＭＡＴＫもでかけりゃ、飛ぶのも速はえぇ。
　なるほど、ガムラン町ちょうからはなれたこんな所レイドむらにまで――
　火龍ゲイルを引きつれて、すっ飛んできたのか。

「ほんとぉーにぃー、シガミーちゃんなのぉー？」
　訝いぶかしむ、コントゥル領伯爵りょうはくしゃく夫人ふじん。
　ヴォヴォヴォォォン♪
　距離きょりを取り滞空たいくうする、巨大杖きょだいつえ。

「本当ほんとうだぜ、正真正銘しょうしんしょうめい猪蟹屋店主ししがにやてんしゅ。みんなのアイドル、シガミーさまだぜ！」
　茅の姫ホシガミーが着てた給仕服メイドふくから前掛けエプロンと、猫耳ねこみみの飾かざりを外はずしただけの格好かっこう。
　大おおきく足あしを開ひらいたら、裾すそがまくれ上がっちまった。

「このぉ、お行儀ぎょうぎのぉー悪わるさっ！　本物ほんものぉーだぁ――♡」
　杖つえごと全速力ぜんそくりょくで、飛びこんできたから――
　ギャリリリリィィィンッ！
　迅雷ジンライで力一杯ちからいっぱいはじき返かえした。
　弾はじかねぇと死ぬ。超危ちょうあぶねぇ！

　ふぉん♪
『＞パワーアシストを使用しますか？』
　要らん。
　もうすこし、この体からだを試ためさせろ。

「こんな所ところにまで、やってきて一体いったいどうしたってんだぜ？」
　抱きつこうとする奥方おくがたさまを、やんわりと独古杵ジンライで押しかえす。

「そんなのきまってるでしょぉー？　シガミーちゃんのあぁんなぁ、お姿すがたぁおー見せられたらぁー、もぉぅぅぅっ！　クツクツクツクツ、ココォォォンッ――♪」
　あー、そういうことか。
　おれのあの、鉄鎧てつよろいを着た鬼おにの体からだ。
　あれを見て、血気盛けっきさかんんに――挑みに来た・・・・・と。

　狐耳きつねみみがおれを捉とらえ――ぴくぴく。
　月影つきかげの双眸そうぼうが揺らめく――ォォオォオオォォン。

　ガチャガチャガチャガチャ――！
　そこへ走はしり寄ってくるのは、甲冑かっちゅうの音おと。

「やぁー、シガミー。本当ほんとうに無事ぶじ、元もとの体からだに戻もどれたみたいだね？」
　それは黒くろい甲冑姿かっちゅうすがた。
　兜かぶとの面めんを跳ね上げると、面つらが良い笑顔かおが出てきた。

「エクレアもきたのか？」
　奥方さまルリーロからじりじりと、距離きょりを取りつつ声こえをかけた。

「ええ、出現しゅつげんした巨大変異種きょだいへんいしゅへ対抗たいこうし、その損害そんがいへの救援物資きゅうえんぶっしを運搬うんぱんするために来ました」
　黒いのエクレアが居るって事は――あの木箱きばこの山やまは、魔物境界線まものきょうかいせんの砦おりでから持ってきたらしい。

「けぇどぉーざんねんねーぇ――あのおっきな鎧よろいの鬼おにの姿すがたわぁー、もぉーおぉー、終ぉわぁりぃなぁのぉーねぇー？」
　さっきまでの変異種おれが、もう居ないとわかると――意気銷沈いきしょうちんする伯爵夫人はくしゃくふじん。
　実の娘リカルルと同程度どうていどの、若わかい娘むすめにしか見えねぇが――
　こいつは齢よわい２００を越えた、江戸えどの夜を闊歩かっぽした妖狐ようこだ。
　つまり、日の本生もとうまれの転生者てんせいしゃだ。
　ちなみに、おれもニゲル青年せいねんも同おなじ境遇きょうぐうで――

「あー、それなんだが。おれが元もとに戻もどれたのわぁ、ニゲルのおかげだぜ！　奥方おくがたさまよぅ？」
　ちょっと水みずを向けてやる。
　決けっして、奥方さまルリーロが居ることを言わなかった青年ニゲルへの――仕返しかえしではない。

「そういえばぁ、そうよぉねぇー？　ニゲルくんわぁー、シガミーを退治たいじしたほどのぉー腕前うでまえだったってぇこ・と・よ・ねぇ・ぇ――――！」
　その瞳ひとみにふたたび、月影つきのひかりが宿やどる。
　ヴォォォォォオゥゥン――――♪
　唸うなる巨大魔法杖きょだいまほうつえ。
　伯爵夫人はくしゃくふじんがギルド支部しぶへ、すっ飛んでいった。

　ずっしぃぃん、ずずっしぃぃん♪
　つづいて巨体きょたいも寄ってきた。
　火龍かりゅうゲートルブの大おおきさは、おれの鎧鬼姿よろいおにすがたとそう変わらねぇ。

「よぉー、ゲイル。元気げんきにしてたか？」
　聞いた話はなしじゃ、火龍の寝床ダンジョンでやりあってから、それほど時間じかんは過ぎてねぇけど。

「グゥルル――店主殿マスターよ。大オオけがをしたと聞いていたが、無事ブジで何ナニよりだ」
　こっちを見下みおろす火龍かりゅう。近寄ちかよるとすこし暖あたたかい。
「おう、もう平気へいきだぜ。レイダも来てるから――会ってやってくれ」
　そう聞くなり、大地だいちに爪つめを立てるゲイル。

「ヌオワァ――――フム！」
　ズゴドドドドドゴゴゴォォォォン！
　ぐわらぐらわ、らららわっ！

「「「「「「「「「「うわわわわわっ!?」」」」」」」」」」
　グワラララッ――すっ転ころぶ、レイド村住人むらじゅうにんとおれたち。

「グッギャワオォォォォォォウ――――グルルルッ！」
　荒れ狂くるう炎ほのお。
　蜥蜴とかげの形かたちをした――燃えさかる何か・・。
　その背に乗るのは――『猪蟹屋三号店』の法被はっぴを着た少年しょうねん。

　火龍ゲートルブが消えて――少年ゲイルの姿すがたになった。
　橙色だいだいいろの法被はっぴは燃えていないが、蜥蜴とかげの足下あしもとの雑草ざっそうが――
　ぶすぶすと燃えだす。
　あー、この蜥蜴とかげ。しばらくすると大暴おおあばれしだすヤツじゃねぇーか。
　ゲイルが人ひとの姿すがたに化けるには――邪魔じゃまな活力マナだか熱ねつだかの塊かたまり。

「（どうする迅雷ジンライ？　マナだか熱ねつだがを丸まるごと、ひと呑みに出来できるか？）」
　まえに〝燃える蜥蜴とかげ〟が出たときは、ゲイルが自分じぶんで――土つちを盛って閉じ込めてたが。
　こんな人里ひとざとに置いておける物ものではない。

「（可能かのうですが、おにぎりの収納しゅうのう魔法具箱まほうぐばこが必要ひつよう――」
　そのとき『►►►トラッカー』が赤あかく光ひかった。
　赤あかく光ひかるってことは、殺気さっきを放はなつ誰だれかが――
　近寄ちかよってきてるってことで。

「ごぉーめぇーんーねぇー、わぁーすぅーれぇーてぇーたぁーわぁーあー！」
　舌したっ足らずな声こえが、戻もどって来やがった！

　ヴォヴォヴォヴォヴォヴォオォオォオオヴォヴォォオォ――――ン♪
　今いままで聞いたことのない――――ひどい唸うねり。

　山菜さんさいのような魔法杖ルードホルドの先端せんたんが、ぐにゃりと開ひらかれ――
「杖つえよ――！」
　それは号砲ごうほうだった。

　ドゴッガァァァァァぁァァンッんぅうぅぽぎュぬぅん――すっぽこん♪
　耳みみをつんざく爆発音ばくはつおんが、間抜まぬけたけた音おとにかわり――
　燃えさかる大蜥蜴おおとかげを、吸い込んだ！

　地面じめんに落ちるゲイル。
　大音響だいおんきょうに我われを忘わすれ、逃げまどう村人むらびとたち。

　にゅにゅ――ぅ、ガシャリッ♪
　ふたたびクルリと巻かれる、山菜束まほうつえの先端さき。

「（迅雷ジンライ、念話ねんわは使つかうなよ）」
　おれはもう生身なまみの体からだだから、念話ねんわを発はっしても――狐耳族きつねみみぞくに殺気さっきを放はなたれることはない。
　だが、アーティファクトである迅雷ジンライが使つかうと――
　暗殺あんさつの道具どうぐに間違まちがえられて――返かえり討ちにあわされるのだ。

「了解りょうかイしまシた・」
　手元てもとから、金属質きんぞくしつな声こえが聞こえた。

　ヴォヴォヴォヴォヴォヴォヴォヴォヴォヴォヴォごぉぉぉぉぉぉぉぉ――――――――!!!!
　魔法杖ルードホルドに付いた巨大きょだいな魔石ませき。
　その色いろが、真っ赤に燃えている。

　伯爵夫人はくしゃくふじんルリーロが、炎をたなびかせ・・・・・・・――
　レイド村むらギルド支部しぶへ――
　好敵手ニゲルの元もとへ、すっ飛んでいく。

「ありゃぁ、使つかえるなぁ」
　ふぉん♪
『＞はい。放出ほうしゅつされたマナを熱ねつに変換へんかん、再度さいど、推進力すいしんりょくへと利用りようしているようです』

　この日、変異種へんいしゅの襲撃しゅうげきにも耐えた、レイド村むらギルド支部しぶは壊滅かいめつした。