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3:ダンジョンクローラーになろう

358:龍脈の回廊、会食の準備

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「うむむ、このいそがしいときに、あたし・・・だけサボってるわけにはいかないわよねぇー?」
 目のまえにはギルド会館かいかん
 五叉路ごさろに生えた、りっぱな立木たちき
 ベンチでひとりたたずむのは――
 つのながさをもともどした、鬼の娘オルコトリア

「かといってギルドちょうには今日明日きょうあすは、よる会食時以外かいしょくじいがいは「ちかづくな」なんて厳命げんめいされてるし」
 ちかくのみせで買った、かたくてあまいお菓子かしを――ばりぼりとむさぼる。

 ドレス姿すがた大股開おおまたびらき。
 しかも彼女かのじょつよ理知的りちてきで、かおも良い。
 大柄おおがらからだつきも、グラマラスと言えなくもなかった。

 ただ、ジリジリと近寄ちかよわか男性だんせいたちは、そのつのをみるや――
 きびすをかえして逃げ出した・・・・・り、あからさまにかたを落として通り過ぎる・・・・・のだ。

「こりゃ! わかむすめがそんな格好かっこうで、あしを広げるもんじゃないよ!」
 とつぜんつえひざを、たたかれた。

「んなっ――んだ、本店ほんてんお向かいの、おばあちゃんじゃないの。おどかさないでよ」
 持ちあげたつのを、ふたたびがくりと落とす、おにわかむすめ

「じゃから、あしを閉じろというとるんじゃ!」
 こんどはあたまなぐられた。

 つのはし雷光らいこう

「おっ? やんのかい? あたしゃぁこう見えてもむかしは、ガムラン小町こまちだなんて言われてたもんさね!」
 くるくるくるるるるっ、ぱしん♪
 そのつえさばきは、なかなかどうったもので――

「あら、やるわね。けど年寄としよりりの冷やみずって知ってるぅぅぅぅ?」
 ご老人ろうじんいたわりつつも売られたケンカは買うのが、冒険者ぼうけんしゃまちガムランりゅうだ。

 ちなみに、こうしたことわざや慣用句かんようくは、この世界せかい多数存在たすうそんざいしている。
 その理由りゆうはいろいろあるが、おもなものとしては――
 某女神曰ぼうめがみいわくく、「あたくしさまがもといた世界せかいもとに、この世界せかいつくられているからぁ」らしい。

つえよぉ――!」
 それは無詠唱むえいしょうはなたれる最速さいそくの――

 こつん――――ごきりっ!?
「んなっ!? わたしこぶしよりはやい!?」
 そのまま撃ち合えば――
 ただの木のつえなんて、おに怪力かいりきで、木っ端微塵ぱみじんだ。

 だがそこはガムランりゅう
「はいはい、まいったわ! 降参降参こうさんこうさん!」
 ふしゅるると、二のうでに溜めた血を開放かいほうした。

 ひらいていたひざを閉じ、にぎったこぶしひらいてみせる。

「ふぅ、わかむすめしとやかにわらってるのが一番いちばんさね――つよければなお良し、ひゃっひゃっひゃ♪」
 ガムラン小町こまちは、颯爽さっそうと去って行き――とおりの向こうで。

「やい、ばばぁ。店番みせばんサボってドコほっついてやがった!? あぁぁん?」
「なんだい、やろうってのかい? ちょっと猪蟹屋ししがにやにオヤツを買いに行ってただけじゃろが! やすみだったけどねぇ!」
 対峙たいじする老夫婦ろうふうふ
 これもガムランりゅうなのだろう。

「ケンカの相手あいてが居るって言うのも、わるくないかも知れないわねぇー」
 などと、そんな面白そうなこと・・・・・・・・・・を、つぶやいてしまったことが――
 彼女かのじょ、ガムラン名物めいぶつ受付嬢うけつけじょう、〝いつもギルドをこわしてるほう〟の――
 うんの尽きだった。

「オルコトリアちゃーん♪ いま、おひまぁー?」
 それは町娘姿まちむすめすがたの、辺境伯名代コントゥルみょうだいであった。

 背後はいごには、荷物持にもつもちをさせられている――
 狐耳きつねみみ少年しょうねんと、猫耳ねこみみ女性じょせい
 二人ふたりのうしろには、なぜかギルド椅子いすが置かれていた。

   §

「まったく、あの兵六玉ひょーろくだまときたらっ!」
 憤慨ふんがいする令嬢リカルル

「どうだったのぉん? 全部ぜんぶニゲルが、やっつけちゃったのぉん
 テーブルじょうでくつろぐ御神体ごしんたい
「いーえ! なんでもとりうしいのししが出て、そのうちの二体にたいたおしたそうですわっ!」
 ああもう、こんなことなら魔王城まおうじょうで斬り捨てておくべきだったかしらっ!
 などと物騒ぶっそうなことを言うリカルルだが――

 〝くやしい〟のおも要因よういんは、ひとえに「わたくしぶん得物えものを、どうしてのこしておかないのかしら――気の利かない」であるようで。
 そんな本音ほんねがぶつぶつと、聞こえてくる。

「おじょうさま、そんなことよりそろそろ、お着替きがえを――」
 ペントハウス付きのメイドが、おともなくしのび寄る。

「えっ!? もうそんな時間じかん!?」
 まだまだ日はたかい。
 会食かいしょく主催者しゅさいしゃというものは、それが女性じょせいならば――
 むらがるメイドたちに、連れて行かれるガムラン最凶さいきょう

「おじょうさまわぁ、たぁいへんねぇーん
 他人事たにんごとの、美の女神いおのふぁらー御神体ごしんたい

ひとごとではありません。イオノファラーさまも、お着替きがえを」
 メイドの矛先ほこさきが、女神メガミへ飛び火した。

「え? 生身なまみからだでもないあたくしさまがぁ、着飾きかざりぃようもぉーなぁいでぇしょぉう
 ぎょっとする御神体イオノファラー全長十数ぜんちょうじゅうすうセンチ)。

「イオノファラーさまにも、替えのお洋服・・・・・・があるじゃ有りませんか――」
 人差ひとさゆびを立て、御神体ごしんたいあゆみ寄るメイド。

「ちょっと……ひそひそ……〝替えのお洋服ようふく〟ってなんだろ
 挙動不審きょどうふしんな、美の女神めがみ
「さァ……ひソひそ……情報じょウほう不足ふソくしていマ
 飛ぶ独古杵どっこしょ迅雷ジンライ女神メガミに寄り添う。

そらを飛ぶたまのことです。アレを使つかえば、等身大とうしんだいのイオノファラーさまのお姿すがたを、ご来賓らいひん皆様方みなさまがたにも見ていただけますので」
 コトリ――スッと貴金属ききんぞくのように、うやうやしく持ち上げられる御神体メガミ
 その所作しょさは、元侍女長もとじじょちょうであるリオレイニア・サキラテに瓜二うりふたつ。

「えぇー、アレさぁー――食べるときさぁ、面倒めんどうなのよねーぇ
 白手袋しろてぶくろ細指ほそゆびに、イヤイヤと抵抗ていこうを見せる。
「そうデすね。プロジェクションボットの配置はいチハ、映像えいゾう頭部とうブダイレクトに・・・・・・食事しょクじをスるわけにはいきません

迅雷ジンライさまにも、お着替きがえを御用意ごよういして御座ございます」
 それは、いつだかギルドちょう正装せいそうしたさいに身につけていた、オレンジいろの垂れぬの

「イや、わタしINTインテリジェンスタレット、形式けいシきナンバーINTアイエヌティーTRTTティーアールティーティー01ゼロワン迅雷ジンライデ――――!?
 とちくるった女神めがみ眷属けんぞくが、なぜか自己紹介じこしょうかいをはじめ――
 メイドたちに取り押さえられた。

   §

「「やっと終わったぁー♪」――らぁん♪」
 ざっと片付かたづけが済んだ大通路おおつうろ
 王女おうじょとメイドが、ぱんぱんと手をはたく。
 おどろいた子馬こうまが、「ひひぃん?」とちいさく鳴いた。

「ちょうど良いですらん。そろそろ、お着替きがえの時間じかんですらぁん♪」
 そんな第一王女だいいちおうじょ言葉ことばに――

わたくしはこのままで良いですけど、レイダちゃんにはあの、取っておきのドレスを着させてあげたいですね」
 ネネルドむらのタターはこたえる。

「取っておき? このまえ着ていたものは、大変可愛たいへんかわいらしかったですけれど――」
 王女おうじょかおが、かすかにくもる。

「あー、あのですね王女おうじょさま。ココはかりにも魔物境界線まものきょうかいせんのガムランちょうです。町民ちょうみんがドレスを一着持いっちゃくもっているだけでも立派りっぱなことなんです」
 掃除そうじ道具どうぐ片付かたづはじめる、メイド姿すがたのメイド。

「そうなんですらん? わたくし世事せじうとくくて――」
 眉根まゆねを寄せる、メイド姿すがた王女おうじょ

「いえ、ガムランちょう実情じつじょうなんて知らなくてあたりまえです。もっともわたしむら裕福ゆうふくではなかったので、ドレスなんてわたしも持っていませんけど――」
 わらってはなすメイドの故郷こきょうは、裕福ゆうふくではないらしい。

 くわっ――ラプトル王女殿下おうじょでんか(メイド)のひとみ見開みひらかれた!
 それは世事せじうと彼女かのじょもってしても――看過かんかできるものではなかったらしい。

   §

「ううん、わたしもこのままで!」
 鼻息荒はないきあらく、仁王立におうだちの子供こども

 トンテンカンテン、トンテンカンテン♪
 ここは猪蟹屋本店ししがにやほんてん勝手口かってぐち
 工房長こうぼうちょうせわしなく修理しゅうりいそしんでいる。

「だめだめ、おんなの子がこんなときにオシャレしなくて、いつするの?」
 メイド少女しょうじょタターにとらえられる、子供こどもレイダ。
「だってドレスを着たら、この子に・・・・またがれないでしょう?」
 ぽむん♪
 子馬こうまをやさしくたたくレイダ。

本日ほんじつ夜会やかいにテンプーラゴウを、連れて行くおつもりですらぁん?」
 すこしあきかおのラプトル王女おうじょ
折角せっかくみんなあつまるんだもん! はやくまちのみんなとも、打ち解けてほしいっ♪」

 ぽっきゅらぽっきゅら♪
「ひっひひひひいぃん?」
 子馬こうまのうしろには、ちいさな荷車にぐるまが引かれていた。

 一人乗ひとりのったらほか荷物にもつが詰めないほど、ちいさなソレには――
 央都おうとラスクトール自治領じちりょう王家おうけ紋章もんしょうが、きざまれている。

「ちょっと、タター。なんですかあの、可愛かわいらしい荷車にぐるまは? ……カワイイ❤」
 くぎ工具こうぐはいった木箱きばこかかえた元侍女長リオレイニア。その口元くちもとほころんでいる。
 彼女かのじょ子馬こうま荷馬車にばしゃ一人用ひとりよう)を大層たいそう、気に入ったようだった。
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