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3:ダンジョンクローラーになろう
355:龍脈の回廊、二つの月影
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「いよぉし! やぁぁっと、巻きとったぞ!」
どうしてくれよう、このほとんど何も書いてねぇ巻物。
ぽきゅ、ぽぽきゅきゅ♪
化け猫を探るも、短い毛が生えてるだけで――
袖も懐もねぇから、仕舞っとく場所がない。
「どうしたもんかな。いつも俺のうしろ頭に張りついてたヤツに聞けりゃ、どうにかなる気がするんだがなぁ」
巻物(軸は笑う仏像型)を小脇に抱える。
ぽきゅぽきゅぽきゅ♪
丸々と太った茸か根菜でも、見つかりゃ良いんだが何もねぇ。
化け猫と巻物だけが、なんでか見える。
空に月のひとつも、ありゃしねぇってのに。
「やっぱり、ここわぁ地獄なんじゃねーのかー?」
そう言葉にしたら――
おそらくは――
誰か――
聞いてたヤツが――
帳を巻き上げやがった。
――――スウゥゥゥゥッ。
急に化け猫の影が、わかるようになった。
「あかるくなっ――――!?」
影の出所を振りかえる。
あるのは空一面の――月。
もしコレが天道さまなら、化け猫は消し炭も残らねぇ。
この強いが温かみのない、青みがかった仄暗さは――
人の命を燃やした発露だ。
「うぎゃっわわわわっわっ――――――――!?!?」
こりゃ、理屈じゃねぇ。
おれは再び月に背を向けた!
あんなもんを、あんな月の光を、こんな間近で浴びたら――
身も心も、化けもんになっちまう。
よだつ夏毛を押さえる。
心の臓を、両手と膝で覆い隠す。
どこか隠れられる場所はねぇのか!?
ドコまでも平らで、草ひとつ生えない地面。
なめらかで、堅いのか柔いのかすら、ハッキリしない。
ぽっきゅごむん♪
叩いてみたが、ビクともしない。
それでも今できることは、コレしかない。
ぽぽきゅきゅごごむわん♪
ぽぽきゅきゅごごむわん♪
ぽぽきゅきゅごごむわん♪
ぽぽきゅきゅごごむわん♪
黒い地面に落ちる影が、自分の足下を殴りつける。
それは自分の体を叩いて、押し込めてるみたいで――
「はぁはぁ――こりゃ駄目だ。気が滅入らぁ!」
そのとき――振りあげた拳がスゥゥと、倍に増えた。
増えた拳は背後へ――ばかでけえ月に向かって、流れ落ちていく。
あんなに明るい月に向かって――どうして。
「影が落ちる?」
地面を叩くのを止め、顔を上げる。
見れば一目瞭然、光源は二つになっていた。
平たいだけだと思ってた、地面の先。
ずっと遠くに、山が見えた。
その山も地面と同じ漆黒で。
もう一つの月が、その陰から登っていなかったら――
稜線に気づくこともなかっただろう。
『>この惑星ヒースには、衛星が二つあります』
文字がでた。
二つの月がまたたき、その色を濃くしていく。
『>少し小さい方が真っ青な、ルィノ』
『>少し大きい方が真っ赤な、ウェレ』
文字がでた。
揺らめく大気が、見える気がする。
まるで蘇生薬のような紫色に、染まっていく。
ぽっふきゅっふむん――――♪
月の光を一身に浴びた化け猫が、とうとう悲鳴をあげた。
肘のあたりから脇腹を通って、へそから腰まで。
パァァッ――中から光が漏れだしたのだ。
破けちまったのか――!?
「あぁー、ここまでかー……『もういちど辺りを、よく見るのですよ』?」
そんなことを言われても、まわりにゃ何もねーだろが。
っていうか、なんだこの文字わぁ!?
体中に文字が書かれてるのは見えてたが――
『いいえ、何もなくはありません』
こんどは、反対の手首から背中まで。
光る順に読むと、意味がつながってた。
「んぁ? なんで背中に書かれた文字まで、読めるんでぇい?」
ついつい読んじまったが、化け猫をすかして体が読める!
誰の仕業だぁ!?!
そんなのは決まってる。
おおよそ人じゃあるまい。
うまい飯を食わせねぇえと、へそを曲げて世界を滅ぼす――アイツだ。
『唱えるのです』
なにをだ――?
『〝滅せよ〟と』
なんでだ――?
「おおーい――?」
そこで文字が光らなくなったから――
なんで唱えなきゃいけねぇのかは、わからなかった。
§
「ねぇ、カヤノヒメちゃん――もぐもぐ、ぱくぱく♪」
食事の手を止めず給仕を呼ぶ、行儀の悪い女神。
「なんでしょうか? イオノファラーお嬢さまニャン♪」
幼女が猫の耳を、頭の上にのせで――やってきた。
「なんか、今日わぁ量がぁ多くなぁいぃー? おかわりのぉ手間がぁ省けて良いんだけどさぁ?」
「いえ、ご指示通りの二人前ですけれど、くすくす――ニャン?」
猫手のように、縮めた拳を揃えてみせるカヤノヒメ――ニャン。
「カヤノヒメ、そノ格好ハどうされたのですか?」
「猪蟹屋二号店の業務形態で、央都の方々をお迎えしてはいかがかという話になりまして――ニャフフ?」
「なんか、聞いてたお話しと違いますね――シガミー……じゃなくてカヤノヒメさまは」
それはそうだろう。
まるで、聖女のように可憐で儚げな――幼子。
がさつで行儀が悪いけど――本気のリカルルさまをも退ける強さ。
目のまえの猫耳メイドが、ウワサ通りなのは――外見だけだ。
どうしてくれよう、このほとんど何も書いてねぇ巻物。
ぽきゅ、ぽぽきゅきゅ♪
化け猫を探るも、短い毛が生えてるだけで――
袖も懐もねぇから、仕舞っとく場所がない。
「どうしたもんかな。いつも俺のうしろ頭に張りついてたヤツに聞けりゃ、どうにかなる気がするんだがなぁ」
巻物(軸は笑う仏像型)を小脇に抱える。
ぽきゅぽきゅぽきゅ♪
丸々と太った茸か根菜でも、見つかりゃ良いんだが何もねぇ。
化け猫と巻物だけが、なんでか見える。
空に月のひとつも、ありゃしねぇってのに。
「やっぱり、ここわぁ地獄なんじゃねーのかー?」
そう言葉にしたら――
おそらくは――
誰か――
聞いてたヤツが――
帳を巻き上げやがった。
――――スウゥゥゥゥッ。
急に化け猫の影が、わかるようになった。
「あかるくなっ――――!?」
影の出所を振りかえる。
あるのは空一面の――月。
もしコレが天道さまなら、化け猫は消し炭も残らねぇ。
この強いが温かみのない、青みがかった仄暗さは――
人の命を燃やした発露だ。
「うぎゃっわわわわっわっ――――――――!?!?」
こりゃ、理屈じゃねぇ。
おれは再び月に背を向けた!
あんなもんを、あんな月の光を、こんな間近で浴びたら――
身も心も、化けもんになっちまう。
よだつ夏毛を押さえる。
心の臓を、両手と膝で覆い隠す。
どこか隠れられる場所はねぇのか!?
ドコまでも平らで、草ひとつ生えない地面。
なめらかで、堅いのか柔いのかすら、ハッキリしない。
ぽっきゅごむん♪
叩いてみたが、ビクともしない。
それでも今できることは、コレしかない。
ぽぽきゅきゅごごむわん♪
ぽぽきゅきゅごごむわん♪
ぽぽきゅきゅごごむわん♪
ぽぽきゅきゅごごむわん♪
黒い地面に落ちる影が、自分の足下を殴りつける。
それは自分の体を叩いて、押し込めてるみたいで――
「はぁはぁ――こりゃ駄目だ。気が滅入らぁ!」
そのとき――振りあげた拳がスゥゥと、倍に増えた。
増えた拳は背後へ――ばかでけえ月に向かって、流れ落ちていく。
あんなに明るい月に向かって――どうして。
「影が落ちる?」
地面を叩くのを止め、顔を上げる。
見れば一目瞭然、光源は二つになっていた。
平たいだけだと思ってた、地面の先。
ずっと遠くに、山が見えた。
その山も地面と同じ漆黒で。
もう一つの月が、その陰から登っていなかったら――
稜線に気づくこともなかっただろう。
『>この惑星ヒースには、衛星が二つあります』
文字がでた。
二つの月がまたたき、その色を濃くしていく。
『>少し小さい方が真っ青な、ルィノ』
『>少し大きい方が真っ赤な、ウェレ』
文字がでた。
揺らめく大気が、見える気がする。
まるで蘇生薬のような紫色に、染まっていく。
ぽっふきゅっふむん――――♪
月の光を一身に浴びた化け猫が、とうとう悲鳴をあげた。
肘のあたりから脇腹を通って、へそから腰まで。
パァァッ――中から光が漏れだしたのだ。
破けちまったのか――!?
「あぁー、ここまでかー……『もういちど辺りを、よく見るのですよ』?」
そんなことを言われても、まわりにゃ何もねーだろが。
っていうか、なんだこの文字わぁ!?
体中に文字が書かれてるのは見えてたが――
『いいえ、何もなくはありません』
こんどは、反対の手首から背中まで。
光る順に読むと、意味がつながってた。
「んぁ? なんで背中に書かれた文字まで、読めるんでぇい?」
ついつい読んじまったが、化け猫をすかして体が読める!
誰の仕業だぁ!?!
そんなのは決まってる。
おおよそ人じゃあるまい。
うまい飯を食わせねぇえと、へそを曲げて世界を滅ぼす――アイツだ。
『唱えるのです』
なにをだ――?
『〝滅せよ〟と』
なんでだ――?
「おおーい――?」
そこで文字が光らなくなったから――
なんで唱えなきゃいけねぇのかは、わからなかった。
§
「ねぇ、カヤノヒメちゃん――もぐもぐ、ぱくぱく♪」
食事の手を止めず給仕を呼ぶ、行儀の悪い女神。
「なんでしょうか? イオノファラーお嬢さまニャン♪」
幼女が猫の耳を、頭の上にのせで――やってきた。
「なんか、今日わぁ量がぁ多くなぁいぃー? おかわりのぉ手間がぁ省けて良いんだけどさぁ?」
「いえ、ご指示通りの二人前ですけれど、くすくす――ニャン?」
猫手のように、縮めた拳を揃えてみせるカヤノヒメ――ニャン。
「カヤノヒメ、そノ格好ハどうされたのですか?」
「猪蟹屋二号店の業務形態で、央都の方々をお迎えしてはいかがかという話になりまして――ニャフフ?」
「なんか、聞いてたお話しと違いますね――シガミー……じゃなくてカヤノヒメさまは」
それはそうだろう。
まるで、聖女のように可憐で儚げな――幼子。
がさつで行儀が悪いけど――本気のリカルルさまをも退ける強さ。
目のまえの猫耳メイドが、ウワサ通りなのは――外見だけだ。
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