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3:ダンジョンクローラーになろう

348:龍脈の回廊、化け猫のしくみ

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 だるい。そして生暖なまあたたかい。
 化けねこなかは、うつし出される文字もじあかりで――
 かすかにあかるい。

 けどソレも、じっとしてたらだんだんよわくなり――
 やがてうっすらと見えるだけになった。

 起きてるのか寝てるのかわからない、微睡まどろみ
 ふかい暗闇くらやみなかいろが見えた。

 むらのような、些細ささい濃淡のうたん
 そこへ意識いしきを向けると――
 それは、化けねこみたいなかたちになった。
 これは……おれか?

 もうひとつ、色斑いろむらがみえた。
 暗闇くらやみなかにあるくろ
 茶色ちゃいろがかったそれは――ひとかたち
 ぼんやりとひかながぼうは――手にしたつるぎのようにもみえる。

 なんだこりゃぁ、ゆめかぁ? ゆめだな。
 なんか、ずっととおくのほうには――はしうまみたいなむらも、見えるしな。

 すやぁすやぁ――――なんて心地ここちの良いことか。
 ずっと、いくさ場に身を置いていた身としては、なまくらにもかんじる。
 けどそれが良い。

 ぽぎゅるん♪
「うわ、うるせぇ!?」
 なんだぁい――!?
 妖怪ようかいの鳴きごえみてぇなので、起こされた!

 くらくなっていた目のまえの文字もじが、ひかりを取りもどす。
 ふぉふぉん♪
『FATSシステムメッセージ>目の前に 表示される文章を 声に出さずに 頭の中で 音読してください』

「はぁ? どういう意味いみだぁ」
 からだを起こしあたりを見るも、その文字もじのほかには――
 すみちいさくなった、地図ちずしか見えない。

 ふぉん♪
『ヒント>一冊の本があると想起してください』

ほんだぁ? どこにある?」
 もう一度いちど、あたりを見わたすも、やっぱりなにも無い。

 かたん。
 ふりむくと、簡素かんそだいが置かれていた。
 なんだ? この暗闇くらやみで、なんではっきりと見える?

「よっこらせ」
 立ちあがると、地面じめんたいらだった。
 閉じ込められたのは、足場あしばわり階段かいだんのはずだ。

 ぽっきゅぽぎゅと、だいに駆けよる。

「こりゃぁ、おれがおやま使つかってた文机ふみづくえみてぇなかたちだな」
 ひとつかどが欠けてて、木枠きわくあしがひび割れてる。
「……いやまて、こりゃ本当ほんとうあれ使つかってたやつじゃんか!」
 ひっくりかえしてみたら、うらに『猪蟹なまえ』が書いてあった。

「どーなってやがる?」
 化けねこ、つまりおれつくえのまえにすわると――
 ひとりでに、すぅーと引き出しがいた。
 自分じぶんたちでつくった簡素かんそつくえの引き出しが、こんなになめらかにひらくことはない。

 なかには巻物まきものひとつ。
 マジック・スクロールとはちがう、太巻ふとまきの文書もんじょはいってた。

外題おだいがねぇぞ、密書みっしょかぁ? いやちがうな、ふうがされてねぇ」
 ひもをほどいて、しゅるりと引っ張り、なかを見た。

『一膳の机 引き出しには 一本の巻物 その中には こう書かれている』
 どう書かれてやがるってんだ?

 おさたけにくるくると巻き取りながら、さきをすすめるが――
「おい、なにも書かれてねぇじゃねぇか! まさか、あぶり出しか?」
 こんなくらくてせめところで、火起こし・・・・なんぞ出来できるかってんだ。

 仕方しかたがねぇから、もうすこしさきを読んでみる。

 シュルルル、シュルルルッ――――『何も 書かれていない』。
 『なにも 書かれていない』と書いてあった。
馬鹿ばかにしてんのか?」
 シュルルル、シュルルルッ――――
 またしばらく文字もじがなくなる。

 シュルルル、シュルルルッ――――『何も 書かれていない』
「またあった」
 そっくりおな文面ぶんめん

 シュルルル、シュルルルッ――――『何も 書かれていない』
 シュルルル、シュルルルッ――――『何も 書かれていない』
 シュルルル、シュルルルッ――――『何も 書かれていない』
 シュルルル、シュルルルッ――――『何も 書かれていない』
 かるくしち八回引はちかいひき出すごとに、『なにも 書かれていない』と書いてある。

「まておかしいだろ、引いても引いても終わりがねぇぞ・・・・・・・――この巻物まきもの!」
 うぉらぁ――!
 おれははしをつかんで、巻物まきものをとおくへほおり投げた。
 投げてから暗闇くらやみ巻物まきものさがすのは、大変たいへんかともおもったが。
 きゅうすればつうず――巻物まきもの暗闇くらやみまぎれることなく、灯火ともしびのようにみちを照らしていく。

 暗闇くらやみたいららな地面じめんが、どこまでもつづいている。
 そのいろは、すみながしたような漆黒しっこく
 巻物まきものはなひかり漆黒しっこくに、化け猫おれかげを落とす。

 おともなくころがり、どこまでも逃げていく無限むげん巻物まきもの
 必死ひっしにあとを追いかける。

「まてよ、こいつぁひょっとしたら……こういう種類たぐい地獄なんじゃ・・・・・・ぁ?」
 そうおもったとき――がちん!

 巻物まものあしが止まった。
 半時はんとき……いや小半時こはんときくらいか。
 全力ぜんりょくはしつづけて、ようやく一巻ひとまぶん
 およそひとの世にあらざるものだ。

 慎重しんちょう巻物まきものつかんで、上下じょうげに振ってみる。
 なみが起きて、しゅるるるるると巻物まきもの最後おわりまでとどいた――がちん!
 随分ずいぶんと、かたいじくだな。

 ばっさばさっ――――しゅるしゅるるるるっ――がちん!
 やっぱりじくは、金属製かなものらしい。
 何度なんど遠閒とおまからゆかに、ぶち当ててみたけど――
 べつなにも起こらねぇ。

 この暗闇くらやみは、階段かいだん前後ぜんごふさがれた場所ばしょではない。
 何かが・・・何かの目的で・・・・・・用意よういをした――はず。

 なら、手をこまねいてるのは、時間じかん無駄むだでしかない。
 それにいまは、どうせ化けねこの身だ。
 無造作むぞうさちかより、ひろいあげる。

 それは、精巧せいこうつくられた――菩薩像ぼさつぞうか?
 ふくよかなしたぱらの、人外じんがい天女てんじょ
 うつくしい造形すがた手元てもと背中せなかに、ちいさなはこをたくさん持ってる。

「こんな仏像ぶつぞうは、見たことねぇぞ?」
 だれの手によるぞうだ?
 ひっくりかえして菩薩じくあしを見るが、なにも書かれていない。

 巻物まきものをすこしもどってみると――

『ヒント>アナタのイメージ想起がカスなら、隆起出来ないってことよねん! ダイブオンすること、まかりならないわよ!』
 わけがわからん。
 結局けっきょくここは、何地獄なにじごくだ?

失礼しつれいねっ! ココは地獄じごくじゃないわよっ! ウケケケケケッケエケケケケケケケケケケケケケッ――――♪」
 とつぜんくちをきいた菩薩像ぼさつぞうが――
 けたたましいわらごえをあげた!

ーーー
窮すれば通ず/困り果て事態が行き着くと、予想もしなかった活路がひらける事。
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