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3:ダンジョンクローラーになろう

276:ダンジョンクローラー(シガミー御一行様)、実食&エラー

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「アレらられろらっ――――!?」
 奇声きせいはっするんじゃねぇやい。
 折角せっかくの、おまえさまご垂涎すいぜんめしだってのに――

しずかに、食いやがれやぁ――!」
 想像通そうぞうどおり、ややこしい名前なまえ見合みあった手間てまがかかった。
 これはもう、飲まなきゃやってられねぇ。

 とぷぽぽぽん――♪
 ちょっとだけ酒瓶さかびんのこってた澄みざけを、木のさかづきそそぐ。
 果物くだものしると混ざっちまったが、コレはコレでうまい。

「シガミーちゃん、お行儀ぎょうぎわるいですよ?」
 となりのフッカさんが、おれをたしなめる。

「そうですね、一時期いちじきはずいぶん、かわいらしくなりつつあったように見えましたが」
 ななめ向かいのエクレアが、良いつらをかすかにゆがませた。

「っていうか、なんでそのフワッフワの金髪きんぱつの、華奢きゃしゃからだ中身なかみが――」
 エクレアの向かいがひめさんで、となりがリオレイニア。
 その向かいが、ニゲル。
 五百乃大角いおのはらが急かすもんだから、せきを向かいにしてやれなかった。
 ゆるせニゲル。

「にゃみゃがにゃーっ♪」
 迅雷ジンライ、さすがにめしどきは、脱がせで良いぞ?
「――レイダ、コの強化服きょうかフくハ着たまマでも食事しょくジが取れマすが、食事時しょクじどきハ脱いダ方が良いか――」

「あたくしさまのぉおにーくーがぁぁ、なぁぁぁぁぁぁぁぁいぃぃぃぃぃぃぃぃぃ――――――――――――!?」

「やかましぃ――――さっきも言ったが、綺麗きれいさっぱり溶けちまった・・・・・・んだから仕方しかたがねぇだろーがっ!」
 まだにくのこってる。それに迅雷ジンライの『大事でぇじもん』のフォルダに、ひとかかえぶん確保かくほしてある。
 それだって、もともと採れるはずだったぶんからしたら、何倍なんばいものりょうだ。

「(あとでまた、溶けねぇようにつくってやるから――いまは我慢がまんしとけ)」
 ふぉん♪
『イオノ>ほんとう? うそついたら、またミノタウさんをたおしてもらうからね?』
「(だから縁起えんぎでもねぇことを言うな、本当ほんとうつくってやるから。それにこのなんだっけ……)」
 ふぉん♪
『>ビーフストロガノフ改め、
  さしずめ〝野菜ゴロゴロシチュー〟です』

 どうも当初とうしょの手はずとは、ちがう仕上しあがりらしい。
 仕方しかたねぇだろ。五百乃大角おまえさま霊刺秘レシピ……つくかたどおりにつくったら、こうなったんだからよ。

「このシチューってぇのか? ひめさんは立派りっぱつくりあげてくれたぜ?」
 うまそーなにおい。あかみがかって色鮮いろあざやかなしる

「――はイ。シガミーが持ツ調理系ちょウりけい薬物系やくブつけい化学系ばケがくけい、そノ他クラフトケいスキルのスベテヲ駆使くシしテつクられタ逸品いっピんチがいはありマせ――」
 この音声ことばは、おれと五百乃大角いおのはらにしか聞こえてない。
 みんなにもわたしてある耳栓みみせんは、全部ぜんぶはなしが聞こえるわけじゃない。
 神々かみがみのあれこれやめし調達ちょうたつまわりの内緒話ないしょばなしは、こうしてうまいことおれだけに割り振られる。

「そ、ソレにかんしましては、ついついミノタウロースのうた没頭ぼっとうして、煮込にこみすぎてしまったというか――――本当ほんとうもうわけありませんでしたわ」
 胸元むなもとを押さえ、ふかくからだまえたお伯爵ご令嬢リカルルリコントゥル
 そもそも、伯爵令嬢ひめさんが手ずからつくってくれたもんだ。
 ニゲルを見習みならって……いや、泣くほどは見習みならわなくてもいいが。

「あ、お料理りょうりはとっても素晴すばらしい出来できよぉ? みぃんなぁ、そしておひめちゃん、ほんとーぅにありがとうふふぅ――――ぐひひひへへへっ♪」
 いつもの調子ちょうしもどったか。いまはその下卑げびわらいもゆるしてやる。

 ふぉん♪
『>どうぞ、ご存分に召し上がり下さい』

「じゃあ――――いただきまーす、ぱくり♪」
 女神めがみくちを付ける。
 御神体からだおおきさからしたら、自分じぶんよりおおきなうつわさじを――
器用きように食いやがるなぁ」
 なんせめしを食うためだけに、この世界うつつつくったヤツだからな。
 それくらいは、お手のものなんだろう。
 とにかく、この場がおさまって良かった。

「じゃぁ、おれも――ぱくり♪」
 ぱくぱくぱくぱく――――もぐもぐもぐ。
 ぱくぱくぱくぱく――――もぐもぐもぐ。
 いきをするのももどかしい――――ぱくぱくぱくぱく、もぐもぐもぐもぐ。

 こいつぁ、前世ぜんせはもちろん。
 この来世らいせでも、お目に掛かったことのない。
 どういうあじ、いや、かんがえなくて良い。
 下手へたかんがえると、〝解析指南かいせきしなん〟しかねねぇ。
 そんなひまがあったら、さじをうごかせ。

 ぱくぱくぱくぱく――――もぐもぐもぐ。
 ぱくぱくぱくぱく――――もぐもぐもぐ。

 だれも言葉こえはっしない。
 かちゃかちゃ、がつがつ、もぐもぐ。
 かちゃかちゃ、がつがつ、もぐもぐ。

「っはぁぁぁぁぁぁ――――ぅぉぃっしぃーかったぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ♪」
 カチャーン♪
 美の女神めがみさじを落とし、うつわが――鳴りひびいた!
 速ぇーよ。さすがはめしかみだぜ。

「「「「「「おいしい、しかもすっごく♪」」」」」」
 強化服二号シシガニャンを脱いだレイダ。
 その他全員たぜんいん総勢六名そうぜいろくめい
 一字一句いちじいっく、おなじ言葉ことば
 その十二じゅうにまなこは、驚愕きょうがくに満ち。
 はー、ふー、はー、ふーぅぅ♪
 二の句が継げずにいる。
 だってなぁ――さじは置いたってぇのにいつまでも。
 吸ういきまでが――うまいのだ。

「ぅぅぅうぅぅぅぉおおおっかわりぃぃぃぃぃぃぃいぃぃっ――――――――――――♪♪♪」
 かみこえわれかえった元給仕長リオレイニアが、パタパタパタ。
 五百乃大角いおのはらの、ひときわおおきなさらを受け取る。

 アレだけの巨大鍋きょだいなべなら――五百乃大角いおのはらに食い尽くされることもない。
 おとこはどっしりとかまえて――がたん!
 立ちあがる青年せいねん――それにつづく、つらの良い大男おおおとこ

 え、待って?
 おとこわぁ、どっしりとだなぁ――おれにも寄こせやぁ!
 がたん――ちいさな手が、おおきなうつわをつかむ。
 そうだぜおれぁ、小娘こむすめだったぜ!
 じゃあ、遠慮えんりょなく!
 やいおまえら、我先われさきむらがるんじゃねぇやい!
 そのめしはおれんだ!

 巨大鍋きょだいなべに向かってうつわを突きだす、そのさまは。
 まるで死霊しりょう
 おれもおまえらも、今生こんじょうの生きものではない。
 ほら、なべの向こうから、美の女神めがみ本物ほんもの)も手を振ってる。

 がぁぁん、ぐわぁぁん、がががっがぐらわらわん――――♪
 突然鳴とつぜんなひびく、杓子しゃくし鉄鍋てつなべたたいたようなおと

「「「「「うわひゃひ!?」」」」」
 うるっせぇ――――!?

「あれ、おれぁ――うつわを持ってなにをやってるんだ?」
 気づけば、巨大鍋きょだいなべまえ
 みんながうつわを手に、リオレイニアに詰めよらんとしてる。

 ふぉん♪
『>シガミーの状態異常無効スキルよりも、
  リオレイニアの仮面並びに鍛え抜かれたメイド魂の方が、
  効果が高いようです』
 ふぅん、そーなんだー。

 ふぉん♪
『イオノ>これ、このお料理。
     人が食べたら、駄目なヤツ?』
 え、そんなことないよう。

 ふぉん♪
『>薬物依存関連分子は検出されていません。
  大脳辺縁系への作用は、純粋なアミノ酸構成によるものです』
 ふぅん、だからぁ、わからんよねぇー。

 ふぅんわぁぁ――♪
 魅惑みわく蠱惑こわく狂乱きょうらんかおりに、ふたたびつつまれる。
 甘露甘露かんろかんろ。そのめしを寄こせ。

一列いちれつならんでください。れつみださないよう――おねがいしますね?」
 しずかなこえ
 仮面かめんした。見えているのは口元くちもとだけだが。
 彼女かのじょ表情ひょうじょうは、手に取るようにわかる。

 すんでのところで踏みとどまった、おれたちは――おとなしく一列いちれつならんだ。

ーーー
大脳辺縁系/大脳の内側にある領域。食欲などの本能や情緒をつかさどる。情動脳、内臓脳ともいわれる。
甘露/天から降る甘い液体。おいしい物のたとえ。甘露水や甘露酒の略。
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