上 下
221 / 738
2:カブキーフェスタへの道

221:ギルド住まいの聖女(研修中)、赤いローブの女

しおりを挟む
 舞台ぶたいのこ冒険者ぼうけんしゃは、見たかおだけになった。
 ニゲル、ひめさん、女将おかみさん、短剣たんけん使つかうヤツ、魔法杖まほうつえに乗ったヤツ、そしてぼくの六人ろくにん
 そして、まだ二十匹にじゅっぴきくらいの紙製つかいすてのこってる。

「――む?」
 ニゲルたち、見知みしったかおと目が合った。
 あのかおは、まだ本気ほんきじゃない。
 十中八九じゅっちゅうはっくよわいヤツをさき仕留しとめるつもりだ。

 よし、ならぼくも、よわい……かどうかはわからないけど、短剣たんけん魔法杖つえをはたき落としてやろう。
 一番近いちばんちかくに居たぼくが、地をうようにしのびよる。

「――!」「――!?」
 さすがに、気づかれた。
 ガムランちょうとなり城塞都市オルァグラムつまり魔物最前線まものさいぜんせん冒険者ぼうけんしゃと、央都おうと精鋭せいえいたち。
 コイツらはおおむつよい。
 お祭りフェスタあそびに来た、普通ふつう冒険者ぼうけんしゃとは一線いっせんかくしている。

 短剣たんけんをかまえる、革鎧レザーアーマーおとこ
 魔法杖つえ旋回せんかいさせる、あかいローブのおんな
 この二人ふたりは、レイダやリオレイニアとはなしているのを見たことがある。
 それぞれべつ中級ちゅうきゅう冒険者ぼうけんしゃパーティーに、所属しょぞくしていたはず。
 もちろん手合てあわせするのは、はじめてだ。

 この乱取り戦バトルロイヤルでは、冒険者ぼうけんしゃによる冒険者ぼうけんしゃへの直接的ちょくせつてき攻撃こうげきは、禁止きんしされている。
 体術たいじゅつ場外じょうがいへ投げとばしたり、さやたてなぐったりと、致命傷ちめいしょうになりえない攻撃こうげきみとめられてる。

 おともなく飛んでくる――――くろ短剣たんけん
 ヴォォォォンッ――――うなりをあげ、たかく舞いあがるあかいローブ。

 避け――る間もなく、トストストス!
 割りこんできた作業服つかいすてに、吸いこまれていくくろやいば
 ヒュボボォ――ン!
 しろかみやぶけて、ぼとぼとと中身なかみを落とす。

 ゴガァァァァァン――――ッ!
「なんだ?」
 どうした?
 それはからとどろいいた。

 落ちてくる魔法杖まほうつえと、あか冒険者ぼうけんしゃ
 あー、作業服つかいすてたちを動かすために・・・・・・必要ひつような、やたらとややこしいつくりの魔法具まほうぐ仕込しこんだ――鉄柱てっちゅう
 舞台ぶたい上空うえ設置せっちした、魔法具あれにぶつかったらしい。
 〝聞こえないおと〟と〝ほとばしる陽光ようこう〟をはなつ、おおきな箱《はこ》。
 その一カ所いっかしょが、こわれてくらくなってる。

 すととと、すととと、すとととととととっ。
 気をうしなった女性じょせいを受けとめようと、四方しほうからしろ作業服さぎょうふく……まだ名前なまえがない〝使つかい捨てシシガニャン〟が、一斉いっせいはしりだした。
 参加者さんかしゃ安全あんぜん配慮はいりょした、救助きゅうじょ目的もくてきとした行動こうどうだ。
 けど、かおのないしろねこ魔物まものむらがるさまは――

「――んえっ、あ、きぃぃぃぃぃやぁぁぁぁぁぁぁっ――――!?」
 気がついたのだろう、当然叫とうぜんさけ女性じょせい
 ローブから伸びる手に、つえが吸い寄せられ――ぱしりっ!
 それは彼女かのじょの、おそらくは――取っておき・・・・・

蒼き風Blue wind止まUnstopない雨pable rain大海Drops of の雫the ocean――――!」
 あかいローブから紅蓮ぐれんほのおがわきだして――――ゴォッバァァァァァァァァ――――ヒュゴォォォォォォォォォォォオ!

瀑布火炎ばくふかえんじゅつ――カッ!?」
 いや、似てるけどちがう。
 彼女あかいのとなえたのは真言しんごんじゃなくて、魔法まほう呪文じゅもんだ。

 とりあえず避けないと、ぼくまで燃えちまう。
 しょうがないから、たかく跳んだ。

 火がついた作業服つかいすてたちは、一瞬いっしゅんでで燃えおちていく。
 なんせかみだ。わらわらと逃げまどう作業服かみども

 参加者全員さんかしゃぜんいん場外じょうがいに落ちて失格しっかくになるか、すべての使つかい捨てシシガニャンたちをこわしたら、予選よせん終了しゅうりょうとなる。

   §

 ここはひかしつ
 まいったな。予選通過よせんつうかはしたものの、五位ごいだ。
 ルコルたちの全財産ぜんざいさんもどってくるには、順位じゅんいがふたつ足りなかった。

 ぼくがニゲル青年せいねんに掛けたぶんで、いくらかは取りもどせるけど。
 それだと、ルコルは受け取らないからなぁ。
 ニャミカは遠慮えんりょなく受け取りそうだけど。

 予選よせん終了しゅうりょうした時点じてんのこってた全員ぜんいんが、おにぎりとの勝負しょうぶ参加さんかできる。
 そして、おにぎりに「まいった」させられたら、修験者しゅげんしゃ天狗てんぐとの一騎討いっきうちができる。
 あの変異種バリアントつのウサギを、〝たったひとりでほふった〟、あの・・老人ろうじんとである。

 今夜こんや出し物イベントとしては、作業服つかいすて強化服おにぎり相手あいて演舞的えんぶてき要素ようそおおきい。
 つまりココに居る5めいが、けんつえまじえることはない。

「そーだ、ニゲル。シガミーに言っといて、オーミソーじるってやつ、ウチのみせでも出したいから〝オーミソー〟をくださいってさ」
「えぇー、自分じぶんで言ってくださぁいよぉう。これおわったらぼくまた二号店にごうてん片付かたづけにもどらなきゃならないんでぇすぅよぉー」

 女将おかみさんたいニゲルせんは、ちょっと見てみたかったかも。
 いつもは飛んでくる木さじを、青年ニゲル一方的いっぽうてきにうしろあたまで受けてるけど――
 本気ほんきのニゲルとなら、なかなか良い勝負しょうぶををしそうでさ。

 ひかしつを見わたす。
 このイベントは、ウチの女神めがみさまの仕切しきりだ。
 半分運営側はんぶんうんえいがわみたいなもんだし、このままじゃらちがあかない。
 烏天狗ぼくがこの場を、仕切しきってやろう。

「じゃあ、順番じゅん――どうしましょうか?」
 おにぎりのくびに提げた木の板ヤツじゃなくて、真っくろほういたつくえに置いてある。
 ざつ準備しごとをしやがって、五百乃大角あのやろうめ。

「「「「なんの?」」」」
 もちろん本戦ほんせんで、おにぎりへいど順番じゅんばんにきまってる。

『第一回バトルロイヤルおにぎり杯本戦出場順申請』
 黒板くろいた表示ひょうじされてる申請画面しんせいがめんには、1から5の数字すうじ

ひめ……リカルルさまは、あいつ……〝おにぎり〟を切れる・・・?」
 黒筆ふでさきを、姫さんリカルルに向ける。

「おにぎりちゃん? やってみないとわかりませんわね。げん一度いちど、〝ヴォルトカッター〟をこぶしはじかれていますものっ、くすくす♪」
 取っておきをふせがれたのに、なんでわらってんの?

「じゃあ、女将おかみさ……コッヘルさんは、どうですか? その〝木さじ〟であの毛皮けがわを、こじ開けられる?」
「リカルルひめわざはじくってんなら、〝木さじこれ〟じゃ力不足ちからぶそくだね」
 うでを組み、なにやらかんがえはじめた。

 そういえば、きょうは前掛けエプロンしたに〝しゃらあしゃらしたふく〟を着てる。
 ときどき観客きゃくに向かって片目かためを閉じるたびに、おっさんどもの歓声こえ会場かいじょうとどろかせてたっけ。
 おっさん連中れんちゅうは……むしが好きなのかもな。

「――それこそ、ニゲルのそれでもなけりゃ、切れないだろう――?」
「えー、ぼくぅー? ムリムリムリムリ、こんな錆びたけんじゃ丸太一本切まるたいっぽんきれやしないよ」

 はぁ? シガミーおれが着てた二号にごうを、すっぱすっぱっ切りやがったじゃねぇか!
 そして女将おかみさんはニゲルの実力じつりょくと、あのさびたけんちからに気づいてる。
 さすがは、ガムラン最高さいこうLVレベルなだけはある。

「そうですわ、コッヘル夫人ふじん。いくらなんでも、ニゲルには荷がおもすぎませんこと♪」
 そしてさすがは、ひめさんだ。
 ブレのない、節穴ふしあなっぷり。
 もうちょっとでいいから、ニゲルに興味きょうみを持ってくれ。

「じゃあ、そこのあかいローブ……じゃないね、あれ? 青いローブ・・・・・ひとは、おにぎり……あのねこの魔物まものみたいなのに、勝つ自信じしんはありますか?」
 いまは、本戦ほんせん試合順しあいじゅんを決めかねてるところだけど。
 おにぎりが「まいった」するよりさきに、毛皮けがわを切ってSDKなかみを風にさらしたら、本戦ほんせんはそこで終わる。
 強化服おにぎり中身なかみのSDK《おにぎり》を風にさらすと、〝ふりだし・・・・〟にもどってしまうのだ。

 下手へたしたらたたかえるのは、先着一名せんちゃくいちめいになりかねないわけで。
 こうして、自信じしんのほどをうかがってる――んだけど。

「はぁぁぁぁっ――――物心ものごころついてからコッチ、ずぅぅぅぅぅぅぅっと溜めつづけてきたMPエムピーが……ぶつぶつ……」
 しかしつすみたおれ込んだあかい――あおいローブの女性じょせいが、地獄じごくそこからとどろくようなこえで、ブツブツ言っている。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

今さら、私に構わないでください

ましゅぺちーの
恋愛
愛する夫が恋をした。 彼を愛していたから、彼女を側妃に迎えるように進言した。 愛し合う二人の前では私は悪役。 幸せそうに微笑み合う二人を見て、私は彼への愛を捨てた。 しかし、夫からの愛を完全に諦めるようになると、彼の態度が少しずつ変化していって……? タイトル変更しました。

よくある婚約破棄なので

おのまとぺ
恋愛
ディアモンテ公爵家の令嬢ララが婚約を破棄された。 その噂は風に乗ってすぐにルーベ王国中に広がった。なんといっても相手は美男子と名高いフィルガルド王子。若い二人の結婚の日を国民は今か今かと夢見ていたのだ。 言葉数の少ない公爵令嬢が友人からの慰めに対して放った一言は、社交界に小さな波紋を呼ぶ。「災難だったわね」と声を掛けたアネット嬢にララが返した言葉は短かった。 「よくある婚約破棄なので」 ・すれ違う二人をめぐる短い話 ・前編は各自の証言になります ・後編は◆→ララ、◇→フィルガルド ・全25話完結

仰る通り、貴方の子ではありません

ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは 私に似た待望の男児だった。 なのに認められず、 不貞の濡れ衣を着せられ、 追い出されてしまった。 実家からも勘当され 息子と2人で生きていくことにした。 * 作り話です * 暇つぶしにどうぞ * 4万文字未満 * 完結保証付き * 少し大人表現あり

間違い転生!!〜神様の加護をたくさん貰っても それでものんびり自由に生きたい〜

舞桜
ファンタジー
 初めまして!私の名前は 沙樹崎 咲子 35歳 自営業 独身です‼︎よろしくお願いします‼︎  って、何故こんなにハイテンションかと言うとただ今絶賛大パニック中だからです!  何故こうなった…  突然 神様の手違いにより死亡扱いになってしまったオタクアラサー女子、 手違いのお詫びにと色々な加護とチートスキルを貰って異世界に転生することに、 だが転生した先でまたもや神様の手違いが‼︎  転生したオタクアラサー女子は意外と物知りで有能?  そして死亡する原因には不可解な点が…  様々な思惑と神様達のやらかしで異世界ライフを楽しく過ごす主人公、 目指すは“のんびり自由な冒険者ライフ‼︎“  そんな主人公は無自覚に色々やらかすお茶目さん♪ *神様達は間違いをちょいちょいやらかします。これから咲子はどうなるのかのんびりできるといいね!(希望的観測っw) *投稿周期は基本的には不定期です、3日に1度を目安にやりたいと思いますので生暖かく見守って下さい *この作品は“小説家になろう“にも掲載しています

クマちゃんと森の街の冒険者とものづくり ~転生赤ちゃんクマちゃんのもふもふ溺愛スローライフ~

猫野コロ
ファンタジー
転生したもこもこは動揺を隠し、震える肉球をなめ――思わず一言呟いた。 「クマちゃん……」と。 猫のような、クマのぬいぐるみの赤ちゃんのような――とにかく愛くるしいクマちゃんと、謎の生き物クマちゃんを拾ってしまった面倒見の良い冒険者達のお話。 犬に頭をくわえられ運ばれていたクマちゃんは、かっこいい冒険者のお兄さん達に助けられ、恩返しをしたいと考えた。 冷たそうに見えるが行動は優しい、過保護な最強冒険者の青年ルークに甘やかされながら、冒険者ギルドの皆の助けになるものを作ろうと日々頑張っている。 一生懸命ではあるが、常識はあまりない。生活力は家猫くらい。 甘えっこで寂しがり屋。異世界転生だが何も覚えていないクマちゃんが、アイテム無双する日はくるのだろうか?  時々森の街で起こる不思議な事件は赤ちゃんクマちゃんが可愛い肉球で何でも解決!  最高に愛らしいクマちゃんと、癖の強い冒険者達の愛と癒しと仲良しな日常の物語。 【かんたんな説明:良い声のイケメン達と錬金系ゲームと料理と転生もふもふクマちゃんを混ぜたようなお話。クマちゃん以外は全員男性】 【物語の主成分:甘々・溺愛・愛され・日常・温泉・お料理・お菓子作り・スローライフ・ちびっこ子猫系クマちゃん・良い声・イケボ・イケメン・イケオジ・ややチート・可愛さ最強・ややコメディ・ハッピーエンド!】 《カクヨム、ノベルアップ+、なろう、ノベマ!にも掲載中です》

私をもう愛していないなら。

水垣するめ
恋愛
 その衝撃的な場面を見たのは、何気ない日の夕方だった。  空は赤く染まって、街の建物を照らしていた。  私は実家の伯爵家からの呼び出しを受けて、その帰路についている時だった。  街中を、私の夫であるアイクが歩いていた。  見知った女性と一緒に。  私の友人である、男爵家ジェーン・バーカーと。 「え?」  思わず私は声をあげた。  なぜ二人が一緒に歩いているのだろう。  二人に接点は無いはずだ。  会ったのだって、私がジェーンをお茶会で家に呼んだ時に、一度顔を合わせただけだ。  それが、何故?  ジェーンと歩くアイクは、どこかいつもよりも楽しげな表情を浮かべてながら、ジェーンと言葉を交わしていた。  結婚してから一年経って、次第に見なくなった顔だ。  私の胸の内に不安が湧いてくる。 (駄目よ。簡単に夫を疑うなんて。きっと二人はいつの間にか友人になっただけ──)  その瞬間。  二人は手を繋いで。  キスをした。 「──」  言葉にならない声が漏れた。  胸の中の不安は確かな形となって、目の前に現れた。  ──アイクは浮気していた。

異世界定食屋 八百万の日替わり定食日記 ー素人料理はじめましたー 幻想食材シリーズ

夜刀神一輝
ファンタジー
異世界定食屋 八百万 -素人料理はじめましたー   八意斗真、田舎から便利な都会に出る人が多い中、都会の生活に疲れ、田舎の定食屋をほぼただ同然で借りて生活する。     田舎の中でも端っこにある、この店、来るのは定期的に食材を注文する配達員が来ること以外人はほとんど来ない、そのはずだった。     でかい厨房で自分のご飯を作っていると、店の外に人影が?こんな田舎に人影?まさか物の怪か?と思い開けてみると、そこには人が、しかもけもみみ、コスプレじゃなく本物っぽい!?     どういう原理か知らないが、異世界の何処かの国?の端っこに俺の店は繋がっているみたいだ。     だからどうしたと、俺は引きこもり、生活をしているのだが、料理を作ると、その匂いに釣られて人が一人二人とちらほら、しょうがないから、そいつらの分も作ってやっていると、いつの間にか、料理の店と勘違いされる事に、料理人でもないので大した料理は作れないのだが・・・。     そんな主人公が時には、異世界の食材を使い、めんどくさい時はインスタント食品までが飛び交う、そんな素人料理屋、八百万、異世界人に急かされ、渋々開店!?

BL短篇集

朏猫(ミカヅキネコ)
BL
BLで全年齢の短篇集。SF(少し不思議)だったり妖(あやかし)だったり、その他いろいろ。1話完結、お好みのものをつまみ食いのようにお楽しみいただければ幸いです。他サイトからのんびり転載中。

処理中です...