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1:輪廻転生、おいでませガムラン町

26:見習い冒険者(幼女)、女神様ふたたび

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「やい、いつのまに注文ちゅうもんだしたんだよ?」
 まるテーブルの上、ところせましと料理りょうりがならぶ。

「まえにも言ったけどぉ、アタシの食事しょくじさまたげるモノは、この世にはそんざいしないのっさー♪」

「はいよ、ぅおっまちー!」
 女将おかみ最後さいごに出して来たのは、〝ムシュル貝のドラゴーラ焼き〟。
「うふん、ありがとう。それじゃ、いっただっきまーす♪」
 ぱくぱくぱくぱく。
 もぐもぐもぐもぎゅ。

 あたりまえに、女将おかみ料理りょうりをだして、かみさんが食べる。
 迅雷ジンライ密談みつだん中みてえに、周りが止まってるわけじゃねえ。

 かみさんがすわるテーブルは、もとから有ったわけじゃなかった。
 その周囲しゅういのモノを、まるく・・・よけて・・・どこかからいて出てきた。

 おれたちがいる長机カウンター女神めがみのテーブルを避けるようにへこんでいて、近くにあった柱も大きく曲がってる。

 神さんの食事のために、店も人も――存在そんざいしていた。

「なによ、これっ! このあいだの、〝おやさい巻いたお肉〟より、おいしいじゃないのよ!」
 一心いっしん不乱ふらんに飯を食う――美の女神めがみ

 たしかによく見りゃ、狐耳ひめさんまと気品きひんあるあでやかさや、鬼娘オルコ端正たんせいかおだちにも引けをとらない。
 美の女神を自称じしょうするだけのことは、たしかにある。

「もぎゅもぎゅもぎゅもぎゅ……ほれへ、ヒハヒーわ、さいひんほんははんひはほほ?」
 なに言ってるか、わからねえ。

「〝それで、シガミーは最近さいきん、どんな感じなのぅ?〟と言っています。」
 お、迅雷ジンライが間に入ると、食いながらでも話ができていいな――
 ――ってふざけてんのか?

「……ぼちぼち、やっていけてる」
 この町の女どもわぁ、ひとくせもふたくせも有って、手や足が先に出るようなのばっかだが――これ・・よかぁ、つつしみがあるぜ。

 がつがつがつがつ、ごっごっごっごごくん、ぷはぁ、う・ま・い♪

「ひゃんほ、ひほえへふははへ? ……もぎゅもぎゅもっぎゅもっぎゅ――」
 だからなに言ってんだ――迅雷ジンライ!?

「〝ちゃんと、聞こえてるからね?〟だそうです。」
 そうだった。かみさんは、心のこえを読むんだったか。

「あー、うん。わりいわりい。別に悪口わるくちじゃねえ。ようするにアレだろ……んーっと、美食びしょく同源どうげんってわけだ、な?」

 おれの修行ぎょうは〝有言ゆうげん実行じっこう〟を体現たいげんするためのもんだ。
 正しい言葉……真言マントラがあって、すべてが現実になる。

かみさんの美貌びぼうも――腹に入れる美食うまいもんも――おなじように美しさを体現たいげんしてるって話だろう?」

「…………いがいと、あたまの回転かいてんがはやいのよね、あなた」
 くちからでまかせも言ってみるも――――いやまて、心を読むんだコイツは。

「し、神仏しんぶつのちがいはあれど、おなじ言葉ことばを話すなら、突き詰めちまえば大抵たいていのモノは似通にかよってくるからな」
 あれ、おなじ言葉? そしたらガムラン町ここは――〝もと〟か?

もと……日本にほん? ちがうわよ?」
 おお盛りだった〝ムシュル貝のドラゴーラ焼き〟をたいらげ、あいた皿を鉄の細腕ほそうでに手わたす。

 女神かみさん背中せなかはこから生える、あの腕みたいなのは、迅雷ジンライからも時々ときどき生えてくるやつだ。

「じゃあ、なんで、ここに居るやつら全員ぜんいん大和やまと言葉ことばをしゃべってんだ?」
 しかもなまりのねえ、みやこ言葉を――――あたりを見渡みわたす。

 どこかうつろな顔のレイダも、客や店員てんいんたちも、おれたちが見えていないようだった。

「そりゃあ、アタシが、よそのくに言葉ことばなんて聞いても、わからないからよ?」
 そんなの、あたりまえじゃないの。そんなつらだ。
 かみ女神めがみ。この世界うつつを作ったにしちゃ、どっか抜けて……いや、へたなことを考えるな。

 美の女神〝五百乃大角《イオノファラー》〟が何者なんでも、おれにこの来世いのちをくれた事に変わりはねえからな。

「もぐもぐもぐもぐ……さっきのかい料理りょうりは、……もぎゅもぎゅもぎゅもぎゅ……なんて言うの?」
「あれは〝ムシュル貝のドラゴーラ焼き〟だ。うめえだろう?」

「この町じゃ、あれが一番かしらね、あ、そういえば女将おかみさんに聞いてくれた? 〝おやさいでお肉を巻いた料理〟……ああ、これこれ、これのレシピ」
 奥にあった皿を一本箸フォークで差ししめす美の女神。
 かみさんの世界せかいにゃ、作法さほうってのがあんまりねえんだな。

「――そちらは〝ウーヌ鹿しか葉羽根はばねき〟です。レシピはクラウドへ転送てんそうみです。」
「そんなだったか。わりいな迅雷ジンライ全然ぜんぜんおぼえてなかったぜ」

「うふふ、仲良なかよくやってるみたいで、安心あんしんしたわ♪」
 ちょっと目をはなしたすきに、テーブルの上の料理りょうりをすべてからにする、大食漢たいしょくかん
 いや、おとこではねえか……大食たいしょく女神めがみか。

 すわるさまは、よくよく見りゃあ、この世のモノとは思えねえくれえの美貌びぼうだ。
 たしかにそうなんだが――

「やっぱり、したっ腹が……」
 いけねえ、つい声にでてた。

「かまいませんよ、アタシは美の女神ですから♪ ウケケケケッ――どろん!」
 けむりがきえたとたんに――――がやがやがやがや。
 周囲しゅうい喧噪けんそうがもどり、ひらひらと伝票が舞い降りてきた。

 なんだよあの笑い声。
 悪鬼あっき羅刹らせつと言われたおれでさえ、身震みぶるいしちまった。

「おや、なんだいこの伝票でんぴょう?」
 まるテーブルに重ねられた皿の山。

女将おかみ、わりい。そいつぁおれがはらう」
 料理りょうりは、しめて4パケタ。
 おお盛りの〝ムシュル貝のドラゴーラ焼き〟が痛かった。

ーーー
大食漢/大めし喰らいの男。
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