【完結】お4枚鏡

堀 和三盆

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お4枚鏡3

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 気づいた時には僕は病院に運ばれていた。
 不良生徒はあのまま命を落としたらしい。

 学校に忍び込んだ僕も怒られはしたけれど、僕が虐められていることは知れ渡っていたし、何より殴る蹴るの暴行に加え割れた鏡の破片であちこち怪我を負っていたらしく、全身血まみれで見るからに僕の方が重症だったことから、不良の死についてとやかく追及されることはなかった。

 深夜の肝試しに無理やり付き合わされた挙句、幽霊が出なかったことに腹を立てた不良生徒が僕に殴る蹴るの暴行を加え、興奮しすぎて死亡――なんて、そんな無茶な説明が通るほど日頃から不良の素行は悪かったし、それくらいに僕は重傷だったのだ。

 今回の事件が起きて、これまで僕からの相談を無視していた担任教師も厳重注意を受けたし、クラスメイト達は居心地が悪そうにこれまでの態度を謝罪してくれた。……別にどうでもいいけれど。

 そんなことよりも。


『お4枚鏡』を実行しようとした僕を止めてくれた彼女。彼女はあのまま永遠に消えてしまった。

 だけどこれでよかったのかもしれない。
 だって、彼女は最後に笑っていたから。

 安心したように微笑む彼女は今まで僕が見たどの笑顔よりも美しかった。きっと、彼女はあれで『お4枚鏡』の呪縛から解放されたのだ。

 僕が鏡を割っても彼女と同じ場所に行くことはできない。

 彼女にはそれが判っていたからこそ、僕の行動を止めてくれたのだと思う。


「……ねえ、君もそう思わない?」


 そうやって語り掛けると、覗き込んだ破片の中で、ガラの悪い生徒が泣きそうな顔をする。

 あの日、駆け付けた教師が救急車を呼ぶために美術室を走り去った後。僕は意識を失う前に、鏡の破片をカバンに隠した。
 命を落とす前の不良が映り込んだ、小さな破片だ。

 最初は怒りの形相だった彼も、時間が経つにつれて自分の置かれた状況を理解したようだ。
 だから、僕は彼に最新情報を教えてあげることにした。


「君の実家ね、逃げるように引っ越したらしいよ? 妹さんが君のせいで酷い虐めに遭ってるんだって。可哀そうにね」


 不良が何かを叫ぶけれど、僕に彼の声は聞こえない。僕の心の悲鳴は彼女が聞き取ってくれたけれど、この不良には誰もいないようだ。

 彼に虐められていた僕だけが『彼』の状況を正確に理解しているなんて、なんて滑稽なのだろう。

 そうやって毎日小さな破片に話しかけていたけれど、ある日を境に彼の姿が見えなくなった。禍々しい空気が残っているからまだいる筈なのに。

 気付けば僕は15歳になっていた。

 僕は彼が映らなくなった鏡を古新聞で包み、ガムテープでぐるぐる巻きにして、不燃ごみの日の回収に出した。


 4のつく歳に4枚の鏡を割ってはいけない。
 悪いことが起きるから。


 僕を虐めていた不良に代わり、『お4枚鏡』の呪縛から解放された笑顔の彼女。

 僕を虐めていた不良はもういない。
 彼女の番は終わった。次は、不良の番だ。


 僕は『お4枚鏡』の話を誰にもしなかった。
 曰くつきの鏡が割れて無くなった今、先生や生徒の間で細々と伝わっていた怪談話はやがて消え去っていくだろう。

 そうしたら、鏡の中に取り残された彼はいったいどうなるのだろう?


「……まあ、どうでもいいか」


 戻ってきた日常。
 彼女はいなくなってしまったけれど、あの日の笑顔が僕を支えてくれるから大丈夫。

 真っ暗な鏡の中から解放された君は明るい場所に行けたのだろうか?
 ……きっと、行けたはずだ。


「そうだよね?」


 鏡のかわりに僕はあの日の彼女に話しかける。たった一人の僕の友達。……たぶん、僕の初恋の人。


 僕が話しかければ――。


 キャンバスの中で、あの日の彼女が変わらぬ姿で微笑んでくれた。





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