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94 泥棒猫の見る夢5(フランク視点)

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 とりあえず、やたらと仲の良い娘と息子には念のために拒絶薬を飲ませよう。

 恋敵によく似た生意気な息子も、フランクによく似たちゃっかりものの娘も、フランクは同じくらい愛している。

 ――――そして、誰より妻の事も。


 拒絶薬を飲んだ自分の決断をフランクは後悔していない。

 そのお陰でなんの憂いもなく大好きなアナリーズを手に入れられたし、素晴らしい家族にも恵まれたのだから。


 番だった祖母の死後。
 祖父はよく、ポカポカ陽気の下で幸せそうに微睡んでいた。

 研究をしているときは難しい顔をしていた祖父だけど、学びに来る子供たちを相手にしているときと昼寝をしているときだけは穏やかな顔をしていたのをフランクは覚えている。

 祖父の数少ない癒しだったお昼寝の時間。
 祖父はいったいどんな夢を見ていたのだろうか。

 夫に番が見つかったショックで自ら命を絶ったという、祖父が愛した人間の妻か。その後に長年連れ添った運命の番だった祖母か。はたまたフランクやフランクの母といった少々歪な家族の事か。

 日々微睡む時間が伸びていき、そのまま祖父が女神様の元へと旅立ってしまった今となっては、祖父が見ていた夢の内容など知る術もない。

 けれどこれだけはハッキリと言える。

 フランクが昼寝中に見るのはいつだって家族の夢だ。愛する妻と愛する息子と愛する娘。降り注ぐ太陽の下で、家族皆が楽しそうに笑っていて――。


 くすくすくす……。
 くすくすくす……。


(…………なんだ?)

 昼寝中。頭に妙な感触がして、フランクが耳をピクピクと動かしていたら楽しそうな笑い声が聞こえてきた。

 夢の中と同じ幸せそうな笑い声。


「うふふ……! お父さんたらお耳の動かし方がお兄ちゃんにそっくりぃ」

「あたりまえだろ。俺は大好きな父さんに育てられたんだからな!」

「しーっ、二人とも静かにね。うるさくしたらお父さんが起きちゃうでしょ?」

「えぇー? お母さんが花冠を乗せたから起きちゃったんだよーだ」


 くすくすくす……
 くすくすくす……



(ああ、そうか。時折耳を掠めるくすぐったいコレはアナリーズが僕の為に作ってくれた花冠だ……)


 夢現の中。フランクがスンスンと鼻を鳴らせば、花のいい香りと青葉の爽やかな香り……そして、それに交じって幸せそうに笑う大好きな家族の匂いがする。

 どうやら愛しい妻は、眠っているフランクに完成した花冠を載せる悪戯をしたらしい。


(うぅーん…早く見たいなぁ……)


 ポカポカ陽気は心地よいけれど、フランクは夢に癒しを求めていた祖父とは違う。目を開ければ幸せな夢の続きが待っている。


 お揃いの花冠を被った子供達。
 そして、それを嬉しそうに見守る愛しい妻。


 そんな大好きな家族をフランクは力いっぱい抱きしめるのだ……妹や弟を心待ちにしている子供達の為にさりげなく妻のお腹を気づかいながら。

 ――それは、なんて幸せな光景なのだろう。




 だから夢よりも魅力的な夢の続きを楽しむために。
 泥棒猫は今日もいそいそと、心地よいお昼寝から目を覚ますのだ。



(おわり)




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