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82 ポカポカ陽気の下で
しおりを挟む「えっ、あ……フランク! お兄ちゃんと一緒にボール遊びをしていたんじゃ?」
ふと気が付くと、唇を尖らせたフランクがアナリーズのすぐ目の前に立っていた。
フランクは当然のようにアナリーズの隣に座り、広場でお揃いの花冠を頭に被って楽しそうに笑う仲良し兄妹を眩しそうに見つめている。
「残念ながら可愛い娘にとられちゃったよ。あーあ……あの素敵な花冠は僕に編んでくれたと思ったのにな」
「ふふ……やっぱり拗ねたのね」
「――で? アナリーズはいったい誰の事を考えていたの?」
「ゔ…………ごめんなさい……」
「まったく、僕の奥さんは油断も隙も無いんだから。幸せが足りないみたいだから、ちょっとこっちおいで」
そう言ってアナリーズをぎゅうぎゅうと抱きしめてくるフランク。
「ちょ……ちょっと、ちょっと! こんな公園のど真ん中で恥ずかしいわよ」
「聞こえませーん。余計なことを考えないように、しっかりと僕の奥さんだって判るようにしておかないとね!」
そう言って、フランクはアナリーズの首元にスリスリと頭を擦り付けてくる。
別の部屋の話し声さえ聞き取る獣人の彼が、この距離で聞こえない筈ないのに白々しい。彼が甘えるように頭を動かすたびに、フランクの触り心地の良い髪の毛がアナリーズの頬を掠めていく。
「っふふ……あはは! ちょっと、フランクくすぐったいわよ、もう」
「おっと、ようやく幸せが身に染みたかな? 君は商会に入った頃から笑顔が一番素敵だったんだから、いつもそうやって笑っていてよ」
フランクと付き合うようになって気づいたが、日向ぼっこをする老猫のような姿は彼のほんの一部分にすぎない。
本当の彼は結構なヤキモチ焼きだし、長年、営業職を続けてきたせいか人の表情を読むのに長けた彼は、アナリーズが他の男性の事をチラリと考えただけでもすぐに気付いて嫉妬する。
匂いだけを執拗に気にしていたジョイが可愛く思えるほどだ。
表面上にこやかにはしていたが、二人の結婚式に現れたアミティエ伯爵に対してすらフランクは嫉妬心を露わにしていたから。
「………………アナリーズ?」
……ほら。もう気づいた。
いつの間にか。
アナリーズの家に、アナリーズの心の中に、当然のように入り込んで居座っていた優しい同僚……だった旦那様。
アナリーズの危機には必ず手を差し伸べて。
次々に安心と幸せをくれる貴方を、当然のように願いを叶えてくれる貴方を、アナリーズだって幸せにしてあげたい。
――素敵な笑顔に癒されて。心惹かれたのはアナリーズだって同じ。
「ねえ、さっき娘に言われたわ。『お父さんはお母さんの番だから、お父さんの分の花冠はお母さんが作ればいいと思うの』――って」
「おっ! 流石は僕の娘だ。よく解っているじゃないか」
「ふふふ……じゃあ、飛び切り素敵なのを作るから待っていて」
「うん。じゃあ、出来るまでちょっとお昼寝でもしようかな。流石は僕の息子だよ、元気いっぱいで疲れというものを知らないんだ。でも、もう若くないお父さんはヘトヘトだよ……」
そう言って。ポカポカ陽気の下で幸せそうに眠る夫の姿をアナリーズは愛おしいと思う。
彼とは本当に相性がいいようで、既にお腹には彼との二人目の子供がいる。まだ彼には伝えていないが、多分、察していると思う。色々と手加減のないフランクが、アナリーズのお腹を気遣う様子が見られるから。
アナリーズはこの幸せを守りたい。次々に新たな幸せをくれるこの男性が幸せそうに微睡む時間を守りたい。
アナリーズが余計なことを考えると彼はきっと起きてしまう。彼の本能はいつだってアナリーズと家族を守ることだけに向いているから。
だから――。
――余計なことを考えるのはもうやめましょう。
元気な子供達と――愛しい夫。
これからは目の前にあるこの幸せだけに目を向けたい。
ポカポカ陽気の下で、幸せそうにお昼寝をするフランクに素敵な花冠を被せよう。きっと起きた時にすごく喜ぶし、子供達も笑ってくれる。
その為の花冠を編みながら。
愛する夫を目に焼き付けながら。
アナリーズは心から思うのだ。
私が愛しているのはこの人です――――――と。
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