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81 アナリーズの選んだ幸せ2
しおりを挟む子供の本当の父親であるジョイと同じ猫獣人のフランクに対しては何か感じるところがあるのか、子供もとてもよく懐いた。アナリーズの詳しい事情を知らない新しい商会員たちからは、二人は本当の親子だと思われているようだ。
職場にいる間だけでなく、フランクは休みの日もアパートまで来て子供と遊んでいた。月に一回が月に二回になって。それが毎週になって。気づけば平日もくるようになって。
いつの間にやら友人だったジョイに入り込まれたように、ただの同僚だったフランクもアナリーズの生活にごく自然に入り込んできた。
もしかしたら猫獣人というのは元々こういう性質を持っているのかもしれない。アナリーズは少し呆れたが、何気なく生活に入り込まれたときのように、二人は自然とそういう関係になった。
力持ちで、快く周囲の頼みごとを聞き入れるフランクは大家さんにも気に入られた。『結婚はいつ?』などと聞かれるようになったが、どうもソレには踏み切れなかった。
子供はフランクに懐いている――けれど。
もしも、子供の父親になった彼が『番』に出会ってしまったら?
アナリーズのそんな迷いはフランクのひと言でかき消えた。
「僕に運命の番は存在しないよ。ううん、正しくはもう出会っている――が正解かな。でも、番を見つけたその場で拒絶薬を飲んだんだ。だから、番に対して何ら思うところはないし、相手は気付いてすらいない」
フランクの番はあまり身持ちの良くない女性だったらしい。
街中で男に媚びる様子が目を引いて、ああ嫌だなあ……と思った瞬間に相手が自分の番だと気が付いた。こんなこともあろうかと、常に拒絶薬を持ち歩いていたフランクは相手に気付かれる前にその場で拒絶薬を飲んだ――らしい。
「でも……遠目で見ただけなんでしょう? 実際に話してみたら違ったかも」
「その後、番とは偶然再会したんだけどね。実際に相手と話してみて、ああ自分の目は狂ってはいなかったなって再確認したよ。僕に拒絶薬を持たせてくれたお爺ちゃんには感謝しかない」
それでも結婚に踏み切れなかったアナリーズの背中を押してくれたのはお腹に宿った新たな命だった。
獣人との間に子供は出来づらいと聞いていたのだが――番ではなくても、フランクとアナリーズは相性が良かったらしい。
頑張った甲斐があったなあ、と嬉しそうにアナリーズのお腹を撫でていたフランクからは少々作為的な物を感じたが、幸せだから何も言うことはない。
結婚式には仲の良い商会員たちの他、アミティエ伯爵も出席してくれた。アミティエ伯爵は一緒に食べ歩きをしていた料理人の子爵令嬢と意気投合して結婚し、このとき奥様は妊娠中。
一緒に出席してくれたアミティエ伯爵の奥様とは妊婦同士で話が弾んだ。
少々幸せ太りをしたアミティエ伯爵は今度こそ幸せになれるだろう。彼の運命は意外と近場で見つかったようだ。
上の子の実の父親であるジョイは――現在行方知れずとなっている。
子爵領のあの部屋は、ティアラの浪費グセが直らずに結局手放すことになったらしい。子爵領のグラン商会支部で働いていたジョイも職場を辞めたそうだ。
「アナリーズ、どうしたの? 何か……『以前のような』思い悩んだ顔をしているけど、一体誰の事を考えていたのかな?」
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