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75 伯爵夫人への制裁
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「の……飲んだわよっ! ホラ! これで私と別れるとか言わないわよね!? 離婚を思いとどまってくれたんでしょう!?」
ゴン! と空になった拒絶薬を叩きつけるようにテーブルに置いて。切羽詰まった伯爵夫人の声が部屋に響く。
迷わず拒絶薬を飲んだ伯爵夫人を見て、満足そうにしているアミティエ伯爵。
彼に拒絶薬の存在を教えたのはアナリーズだ。
アミティエ伯爵が伯爵夫人と共に領地に戻る前、アナリーズは伯爵に拒絶薬の事を話していた。勇気が出なくてジョイには話せなかったが、当事者の一人として伯爵には知る権利があると思ったから。
伝手があることも話したが、その後、伯爵から入手を頼まれることはなかった。けれど、アミティエ伯爵は拒絶薬を独自のルートで手に入れていたようだ。
彼女のこの様子なら、勧めていれば伯爵夫人はもっと早くに拒絶薬を飲んだかもしれない。既に手遅れだったとはいえ、ここに至るまで伯爵が拒絶薬の存在を明かさなかった理由は何なのか。
機嫌良さそうに微笑んでいる伯爵の姿に伯爵夫人はホッとした様子を見せている。もしかしたら伯爵はこのまま彼女とやり直すつもりなのかもしれない。
そう、思ったのだが――。
「離婚を思いとどまる? 私はそんなことを約束したつもりはないが」
「は? ……え? ……や……やあねぇ、シュルスったらまだ怒っているの? 大丈夫、拒絶薬を飲んだんだから。私が愛しているのは………………………………………………………………………………………………っ………っ………え? い、言えない!??」
狼狽える伯爵夫人に対し、アミティエ伯爵は穏やかな笑みを崩さないままで、眼鏡を外して悠然とそのレンズを拭いている。ゆったりとした貴族的な動きに、ますます伯爵夫人の焦りが増していく。
「愛してるっ、本当よ、……っ。……っを愛してるの、……っ……っ……愛してる…………っ、愛してるんだってば…………っ。どうして? 私、貴方に言われた通りちゃんとお薬を飲んだわよ!? なのに、何で言えないの? ねえ、シュルス、何でっ? 何でよ!?」
「ああ、言い忘れていたが、ソレは一度でも運命の番と身体を重ねると効果がないそうだ。なるほど、思っていた通りだ。ティアラ、君は既に私を裏切っていたのだな。すっかり騙されていたよ。決まりだな。ティアラ、お前とは離婚だ。でも、大人しく拒絶薬を飲んだご褒美に不貞の慰謝料は勘弁してやる」
「いや……嫌よっ! 離婚なんてしないわ! 私は貴族になったのよ! お願いよ、シュルス……っ……愛しているから、ジョイ……の、次にっ……」
レンズを拭いてキレイになった眼鏡で。
真っ青な顔で懇願する伯爵夫人を見ながら、透けて見える彼女の本心に耳を傾けるアミティエ伯爵。
そして――。
「ああ、そうだ。ついでに良いことを教えてやろう。お前を捨てた両親は別に番に出会ったわけじゃないぞ。それぞれが伴侶以外に恋をして、家庭を捨てて浮気相手に走っただけだ。母親の方は恋人をコロコロと変えて、とうとう既婚者に手を出して刺されたそうだぞ? ああ、お前も私に出会う前に既婚者に手を出していたらしいな。刃物を持って追い回されたらしいじゃないか。ハハハハッ、すごいな、お前は番じゃなくて浮気者の血筋だったわけだ」
「嘘……嘘よ! そんな嘘を言わないで!! 私の両親は番を見つけたの! だから仕方なく私を置いて行ったのよ!!」
「ここにお前の母親の入院先の住所がある。刺されたあげく男に捨てられ参っているらしい。会いに行ってやったらどうだ? 自分の目で確かめてくるがいい。ああ、調査費用の方は気にするな。一度は愛した妻の為だからな。遠慮はいらない。父親の方は行方知れずだが、お前には腹違いの兄弟がいっぱいいるらしいぞ? 全員母親はバラバラだが」
「嫌……嫌よ、聞きたくない! 私は捨てられてなんかいない。番が……番だから……運命だったから……だから…………嘘、嘘よぉおおおお!!」
「ははははは。家族が見つかって良かったな。随分と元気が出たようで私も安心したよ。これで安心してお前と別れることが出来る」
ゴン! と空になった拒絶薬を叩きつけるようにテーブルに置いて。切羽詰まった伯爵夫人の声が部屋に響く。
迷わず拒絶薬を飲んだ伯爵夫人を見て、満足そうにしているアミティエ伯爵。
彼に拒絶薬の存在を教えたのはアナリーズだ。
アミティエ伯爵が伯爵夫人と共に領地に戻る前、アナリーズは伯爵に拒絶薬の事を話していた。勇気が出なくてジョイには話せなかったが、当事者の一人として伯爵には知る権利があると思ったから。
伝手があることも話したが、その後、伯爵から入手を頼まれることはなかった。けれど、アミティエ伯爵は拒絶薬を独自のルートで手に入れていたようだ。
彼女のこの様子なら、勧めていれば伯爵夫人はもっと早くに拒絶薬を飲んだかもしれない。既に手遅れだったとはいえ、ここに至るまで伯爵が拒絶薬の存在を明かさなかった理由は何なのか。
機嫌良さそうに微笑んでいる伯爵の姿に伯爵夫人はホッとした様子を見せている。もしかしたら伯爵はこのまま彼女とやり直すつもりなのかもしれない。
そう、思ったのだが――。
「離婚を思いとどまる? 私はそんなことを約束したつもりはないが」
「は? ……え? ……や……やあねぇ、シュルスったらまだ怒っているの? 大丈夫、拒絶薬を飲んだんだから。私が愛しているのは………………………………………………………………………………………………っ………っ………え? い、言えない!??」
狼狽える伯爵夫人に対し、アミティエ伯爵は穏やかな笑みを崩さないままで、眼鏡を外して悠然とそのレンズを拭いている。ゆったりとした貴族的な動きに、ますます伯爵夫人の焦りが増していく。
「愛してるっ、本当よ、……っ。……っを愛してるの、……っ……っ……愛してる…………っ、愛してるんだってば…………っ。どうして? 私、貴方に言われた通りちゃんとお薬を飲んだわよ!? なのに、何で言えないの? ねえ、シュルス、何でっ? 何でよ!?」
「ああ、言い忘れていたが、ソレは一度でも運命の番と身体を重ねると効果がないそうだ。なるほど、思っていた通りだ。ティアラ、君は既に私を裏切っていたのだな。すっかり騙されていたよ。決まりだな。ティアラ、お前とは離婚だ。でも、大人しく拒絶薬を飲んだご褒美に不貞の慰謝料は勘弁してやる」
「いや……嫌よっ! 離婚なんてしないわ! 私は貴族になったのよ! お願いよ、シュルス……っ……愛しているから、ジョイ……の、次にっ……」
レンズを拭いてキレイになった眼鏡で。
真っ青な顔で懇願する伯爵夫人を見ながら、透けて見える彼女の本心に耳を傾けるアミティエ伯爵。
そして――。
「ああ、そうだ。ついでに良いことを教えてやろう。お前を捨てた両親は別に番に出会ったわけじゃないぞ。それぞれが伴侶以外に恋をして、家庭を捨てて浮気相手に走っただけだ。母親の方は恋人をコロコロと変えて、とうとう既婚者に手を出して刺されたそうだぞ? ああ、お前も私に出会う前に既婚者に手を出していたらしいな。刃物を持って追い回されたらしいじゃないか。ハハハハッ、すごいな、お前は番じゃなくて浮気者の血筋だったわけだ」
「嘘……嘘よ! そんな嘘を言わないで!! 私の両親は番を見つけたの! だから仕方なく私を置いて行ったのよ!!」
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「嫌……嫌よ、聞きたくない! 私は捨てられてなんかいない。番が……番だから……運命だったから……だから…………嘘、嘘よぉおおおお!!」
「ははははは。家族が見つかって良かったな。随分と元気が出たようで私も安心したよ。これで安心してお前と別れることが出来る」
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