【完結】もうやめましょう。あなたが愛しているのはその人です

５５ 嫌がらせの結果（ティアラ視点）

　そうやって、ティアラが日々の怒りをどうにかやり過ごしているというのに、あの女の足音が聞こえたのでいつも通り嫌味を言いにエントランスへと急ぐと、あの女がティアラの夫と会話をしていたのだ。

『ソレ』はニセモノとはいえティアラの番なのに――。


　いったい何度言ったらわかるのか。
　けれど、鈍いあの女には嫌味を言ったところで通じない。だとしたら、一体何が効果的なのか。


（ああ、そうだわ。私にあって、あの女にないものがあるじゃない）


　地位と名誉。そして、そこから派生する金銭的な余裕――。

　ジョイの為にと思い切った値下げをさせたけれど、それでも毎月の家賃の支払いがあの女にとってかなりの負担になっている事はわかっている。給料日前になるとため息が聞こえるのだ。


　あの女が安っぽい服を後生大事に直して、洋服一枚買えないくらいに余裕がないことも。ティアラがジョイに仕立ててあげた洋服が二人に暗い影を落としていることも。

　全て全てお見通し――。



　だから、もっともっと経済的に追い詰めるために、ティアラはあの女が勤める商会に嫌がらせをすることにした。取り巻き連中を使って取引先に噂を流させた

　効果は面白いように現れた。あの女の勤め先は獣人用商品を数多く取り扱っているため、取引先も獣人が多い。獣人は伴侶を大切にするから、あの女がティアラの夫に言い寄っていると聞けば、獣人達は嫌悪感を示して勤め先の商会との取引をすぐに停止させた。

　噂はどんどん広がり、そのことで商会に居づらくなったあの女は出勤できずにいるようだ。働けなければ給料は入らない。日々、あの女のため息の数が増えていく。

　あの女がジョイに相談してティアラの名前が出た時は少し焦ったけれど、取り合ってすらもらえないのは爆笑だった。当たり前かもしれない。ジョイの番はティアラなのだから、どちらを信用するかなんてわかり切っている。焦る必要なんてなかったのだ。

　もう少し。あと少しで邪魔な女がいなくなる。
　ジョイも、夫も、ティアラだけのものになる。


　その、はずだったのに――。


　今まで見たことのないような冷たい目で、ティアラを睨みつける夫の姿にティアラは身を震わせた。この時間、夫は仕事中のはずなのに。

　何故、夫がここにいるのか。
　どこまで聞かれたのか。


　どうして、こんなことになってしまったのか――。