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50 夫との出会い(ティアラ視点)
しおりを挟むティアラはアミティエ伯爵領に住む獣人夫婦の元に産まれた。けれど、ある時両親が相次いで失踪してしまい、孤児院へと預けられた。都会と違い、まだ獣人が少ない伯爵領内のこと。
捨て猫だ、お前は捨てられたんだ、と近所の子供達からいじめられたりもしたけれど、そもそも同じ孤児院の子供達は似たような境遇ばかりでそんなことは珍しくも無かったし、何よりティアラは獣人として頑なに信じていることがあった。
(…私は捨てられたんじゃない。運命の番が見つかったから両親は番の元へと行っただけ。いつか、自分の元にも自分だけを愛してくれる運命の番が迎えに来てくれる)
自分は獣人だから仕方がないのだと。他の子達とは違うのだと。『運命の番』がどういう存在なのか良く解らぬままにそうやって信じていたのだ。
孤児院を出る年齢になったのに、ティアラは仕事がなかなか見つからなかった。ただでさえ孤児院出身者は色々と大変なのに、ティアラは獣人。けれど、猫好きの食堂の店主夫妻がティアラを気に入ってくれて、ティアラは仕事を得ることが出来た。
食堂での仕事を始めると美しいティアラはよくモテた。店主夫妻はそんなティアラのことを心配してくれたけれど、特に気にすることなくティアラは気の向くままに色々な人間と付き合った。
今度の人こそ自分の番に違いない、とそう信じて。
けれど、遊びはするものの、実際に結婚をするとなると恋人たちは獣人のティアラではなく別の女性を選んだ。
あらかた付き合うと近所から適齢期の男がいなくなった。
それならと妻帯者と付き合った時に奥さんから刃物で追い回されて怖い思いをしたのと、食堂の店主夫妻からいい加減見捨てられそうになっているのに気が付いて、ティアラはそれまで適当にやっていた食堂の仕事を一生懸命にやり出した。
そんなときに、ティアラはアミティエ伯爵に見初められたのだ。
カッコイイな、とは思ったけれど妻帯者はコリゴリだしティアラとは年齢が離れていることもあって、最初はあえてお客さんとして接していた。けれど、相手が領主であることと妻とは死別していることを聞いて考えを変えたのだ。
彼が、番に違いない。
そう思ったティアラは子猫を見るような目で眺めてくるだけだった彼に積極的に話しかけるようになったし、食の細い伯爵に差し入れを持って行ったりもした。
本当は面倒な料理なんて大嫌いだったけれど、これまでの経験から男性に好かれるには手料理を振る舞うのがすごく効果的だと知っていたから。それもあって、料理だけは手を抜かずに店主夫妻から習っていた。
そして、いつの間にか伯爵のティアラを見る目に熱が灯る様になって、プロポーズされたのだ。
それまで遊んでいたせいで色々言ってくる人間はいたけれど、『私が獣人だから悪く言われるだけ』と言えば信じてくれたし、妻帯者と思い込んでいたせいで最初のうちは相手にしていなかったこともプラスに働いた。
年上で少し痩せてはいるけれど、カッコいいしお金はあるし、何よりティアラを愛してくれる。ようやく運命の番に出会えたのだ。それも貴族。
ああ、幸せ。これが番と出会うってことなのね!
――そう、思っていた。
あの日、ついて行った商会でジョイに出会うまでは。
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