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48 直接対決
しおりを挟む『何があるか分からないから、なるべく外出は控えるように』
――心配した商会長からそうやって言われてはいるが、アナリーズの休職がいつまで続くか分からないし、その間はずっと収入が0になる。ジョイの給料で足りない分は貯金を切り崩しての生活になるのだ。
それではあまりに心許ないし、不安すぎる。
なので、せめて日々の食費だけは抑えようと、アナリーズは以前に住んでいた地域の商店まで足を延ばすことにした。
近所の商店は高級住宅街ということもあり野菜も肉も眩暈がするほどお高いが、以前に住んでいたアパート近くにある通い慣れた店は財布に優しい。
引っ越してからは昼食の時間に買い物をしていた都合上あまり商会から離れることは出来なかった。そのため、アナリーズは昼休み中に行ける範囲にあるほどほどの店(それでも高級店よりはかなりマシ)で買い物をしていたのだ。
もちろん、その間も仕事が休みの日には以前の地域まで足を延ばしていたが、お店によっては商会の休みと定休日が重なっていたし、肉や野菜は日持ちの問題もある。
休職することになったのはつらいが、新鮮な食材を安く手に入れられるのは数少ない利点かもしれない。――まったく収支は合わないが。
昼間なら人目もあるし大丈夫だろうとアナリーズは馴染みの店でアレコレと買い込み、無事に建物のエントランスまで帰って来たところで。
「あら、アナリーズさん。こんな時間に珍しいわね」
「……伯爵夫人。こんにちは」
まるで。アナリーズを待ち構えていたかのようにタイミングよく伯爵夫人が現れた。
「ジョイだけに仕事をさせて、ご自分だけ昼間から優雅にお買い物だなんていい御身分ね……って、ヤダ、何なのその泥だらけのお野菜!」
「あ……その、すごく新鮮な物を購入できて」
「やめてちょうだい、エントランスが汚れるじゃないの! ……まったく、これだから庶民は。貴女が住んでいるだけでここの評価が下がってしまうわ。そんな汚いものを食べさせられるジョイが可哀想。……ところでぇ」
ニヤニヤニヤ……と、伯爵夫人の口角が上がる。
「こんな時間にウロウロしていらっしゃるということは、とうとうお仕事をクビになったのかしら? あはは、いい気味!」
「……!!」
楽し気に嗤う伯爵夫人の顔が醜く歪む。やはり、アナリーズの前では隠しもしないコチラが彼女の素の姿なのだろう。そして、言葉とその表情から嫌がらせへの関与は明白だ。
怒りに震える手を握り締め、アナリーズは伯爵夫人の目を見据える。獣人に対する配慮などしていられない。
「やっぱり……貴女だったんですね? あれこれ言って、私の勤め先に嫌がらせをしたのは!」
「アハハハ、そうよ? 当たり前じゃない。大体、最初から気に食わなかったのよ。アンタみたいな地味な女が私の番と結婚しているなんて」
「な……!? 伯爵夫人だって、御結婚なされているじゃないですか」
「もちろんよ。当たり前でしょう? うふふ、私はあの人に選ばれたんだもの。愛されているし、私に相応しい暮らしを与えてくれているわ。だから、あの人のことだって頑張って愛してあげているじゃない」
「…は……? 頑張って…愛してあげている……? それって、どういう……」
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