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42 同僚からもたらされた情報

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「それで、私に話って何なの?」

「あー…うん。それなんだけど。とりあえずはお昼を食べてからにしようか。せっかくの料理が冷めちゃうし」

「それもそうね。ふふ、美味しそう! いただきまーす」


 あまり食欲はなかったが、いざランチを食べ始めてみると美味しくて、しっかりと平らげることができた。

 獣人は基本的に大食いで、こうして一緒に食べていると自分までその食欲につられて食べてしまうというのもある。――が、考えてみれば最近は昼休みを使って買い物などの個人的な用事を済ませていたため、ゆっくりと昼食を摂ること自体が本当に久しぶりだった。

 店への往復だけでも時間がかかるので、急いでかきこむか途中で軽く摘まむぐらいしか出来なかったのだ。

 昼休みの一時間。そうやって買い物をするとあっという間だが、昼食だけに使うと時間がゆったりと過ぎていく気がする。これだけでも心が癒される。


(うん。色々と問題があるとはいえ、少し忙しくし過ぎていたのかも。たまにはこうしてゆっくりと食事を摂ることも必要なのかもしれないわね)


「レーベンさん。それで……なんだけどさ。その……言いづらいんだけど、この前買い物をしていたら、君の旦那さんが獣人女性と一緒に居る所を見てしまったんだ。君に言うかどうか迷ったんだけど、すごく……親しそうで」

「……そう。大丈夫よ。たぶん、私も知っている人だから」

「知っていたのか!? もしかして、君がずっと元気がなかったのってそれと関係あったりする?」


 心配そうに。でも、ごまかしは通じない真剣な目で、アナリーズをじっと見つめてくる同僚獣人。日頃あまり目を合わせない獣人の彼らから見つめられると、アナリーズはドキリとしてしまう。

 ジョイに気を使ってあえてアナリーズとは距離をとっていた彼がこうして直接確かめてくるくらいだから、相当心配をかけてしまっているのだろう。

 同僚が言っていることはある程度想像がつく。
 伯爵夫人にシャツを買ってもらったと言っていたジョイ。

 他にも似たようなことがあったとしてもおかしくはない。


 適当に誤魔化すことも考えたが、この先も同じようなことが続くかもしれない以上、下手に隠し立てをしない方がよさそうだ。


「……。……実はね」




 アナリーズは同僚の獣人――フランクにこれまでの経緯を説明した。


 夫のジョイが運命の番と出会ったこと。
 結婚生活を続けるために番と交流の場を持っていたこと。
 ……その効果が薄れて番の隣の部屋に引っ越したこと。

 相手の家庭もあるので、このことは誰にも言わないで欲しいこと。


 今までも同僚のフランクには相談に乗ってもらっていたし、同じ商会で共に働く中でその性格も熟知している。彼ならばむやみに言いふらしたりはしないだろうとの判断だ。



「そんな、事が――」

 流石に予想外だったのだろう。
 いつもは動じない同僚が下を向き、口に手を当てて考え込むように眉を寄せている。かなり動揺しているようだ。


「大丈夫よ。家賃の事とか……考えなくてはいけないことは色々あるけれど、どうにかやりくりできているもの。隣に越してからは交流しなくてもよくなったし」

「交流はしているだろ。町で見かけたんだ。それも、一回や二回じゃない」

「それは……お隣同士だもの。偶然会えば話くらいはするわ」

「わざわざ腕を組んで? だいたい、番を諦めて君を――君との結婚生活を選んだのなら、どうして君の夫は『番の誤認』なんてまだるっこしい方法をとっているんだ? 薬を飲んだ方が手っ取り早いし確実だろう」


 イライラと。しっぽを椅子に叩きつけるように動かしながら話す同僚。日頃、日向ぼっこをする老猫のように穏やかな彼が、ここまで感情を表すことは珍しい。

 それよりも何よりも、アナリーズは同僚商会員の話の中に気になることがあった。


「『薬』?」

「そうさ。番との縁を望まないなら自ら『拒絶薬』を飲んで、番との縁を断ち切ってしまえばいいだけだろう」




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