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34 伴侶の交流
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「あれ? ジョイ君の奥方はあの二人と一緒に店へ行かなかったのか?」
「あ、伯爵様。ええ。私はお弁当を持参してきておりますので。申し訳ございません。お茶を入れるのにお湯をお借りしています」
「それは構わないのだが……もしかしてあの店は気に入らないのだろうか?」
「い、いえ! そんなことはありません。とても素晴らしいお店だと思います。ただ――ジョイはともかく、部外者でしかない私までもが、毎回あのようなお店に同席させていただく訳にはいかないので。その、領民の皆様にも申し訳ないですし……」
「……ティアラか」
何度目かの交流会の日。
いつもの店へと出掛ける二人を見送った後、アナリーズは持ってきた弁当を食べようとしたのだが、水筒を忘れてしまったことに気が付いた。
茶葉は持参しているのでお湯を貰おうとキッチンを借りてお湯を沸かしているところへ、アミティエ伯爵がやってきたのだ。
アナリーズが伯爵からの質問に答えていると、彼は妻の名を口にして深いため息を吐いた。
「……すまない。大方、私の妻が奥方に余計なことを言ったのだろう? 妻の発言を気にすることはない。奥方は部外者などではないし、共に手を取り合って協力をしていく大切な仲間だ。お互いが夫婦として在るためにはこれから長い時間助け合っていかねばならないのだからな。余計な遠慮は必要ない。次回からは君も彼らと一緒に」
「い、いえ! 伯爵夫人のおっしゃることはもっともですから! 後継者問題に関わってくる以上、番であるジョイは仕方ないにしても、部外者でしかない私の食事代まで領民の皆様が治められている税金で支払ってもらうわけにはまいりません。元々伯爵夫妻とジョイで始めた番の交流会に、私の我が儘で参加をさせていただいているだけですし」
「しかし」
「……それに、店に同行しない理由はそれだけではないのです」
確かに、『部外者のクセに』だとか『領民の血税云々~』は、以前アナリーズが伯爵夫人から直接言われたことだ。ただ、それは伯爵にも伝えた通り納得している。
流石に伯爵夫人の態度や言い方についてはどうかと思うが。
「……その、分不相応といいますか。私は平民ですのでマナーもあまり自信がないですし、ああいった高級店には行く機会がないので――――少し、落ち着かないのです」
アナリーズは言葉を選びつつ答える。
一応、学校でも学んだし、社会人として最低限のマナーは心得ているので伯爵夫人に言われたほどアナリーズのマナーが酷いとは思わないが、落ち着かないのは確かだ。
……それより何より。
アナリーズの見ている前でジョイに『あーん』とやり始める伯爵夫人。
他にもジョイの口元に着いたソースを手で拭ってやったり耳元に唇を寄せて内緒話をしたりとやりたい放題。
番を求める本能とやらを満たすために必要な事なのかもしれないが、目の前であんな光景を見せられながら食べたら、どんな高級な食事だって味なんかしない。むしろ、一人で自分の作った弁当でも食べている方が数倍マシだ。
……とは言っても、それも『今頃二人は……』などと考えるだけで食欲なんてスッと消え失せてしまうが。
それでも、ジョイを支えると決めた以上、泣き言ばかりも言っていられない。自分で消化に良い物を用意して、どうにか少しでも食べるようにしているのだ。
「……まあ、確かにあんな光景を見ながらでは落ち着いて食事も出来ない……か」
呟くように言う伯爵の言葉を聞いて、アナリーズはハッとした。
番同士の交流会の度に、
『仕事が忙しいから』
『急ぎの書類があるから』
と言って、昼の時間は執務室に籠っているアミティエ伯爵。思えば、アナリーズがジョイの後をつけたあの日もレストランには二人だけで彼の姿はなかった。
当たり前だ。まともな人間なら、自分が愛する伴侶のあんな姿を見せられながらの食事なんて、喉を通るはずがない。
アナリーズはあえて口には出さなかったが、彼も同じだったのだな……と気付いてホッとする。
なるほど。この交流会には苦悩を共にする伴侶同士の理解を深める側面もあるらしい。
「あ、伯爵様。ええ。私はお弁当を持参してきておりますので。申し訳ございません。お茶を入れるのにお湯をお借りしています」
「それは構わないのだが……もしかしてあの店は気に入らないのだろうか?」
「い、いえ! そんなことはありません。とても素晴らしいお店だと思います。ただ――ジョイはともかく、部外者でしかない私までもが、毎回あのようなお店に同席させていただく訳にはいかないので。その、領民の皆様にも申し訳ないですし……」
「……ティアラか」
何度目かの交流会の日。
いつもの店へと出掛ける二人を見送った後、アナリーズは持ってきた弁当を食べようとしたのだが、水筒を忘れてしまったことに気が付いた。
茶葉は持参しているのでお湯を貰おうとキッチンを借りてお湯を沸かしているところへ、アミティエ伯爵がやってきたのだ。
アナリーズが伯爵からの質問に答えていると、彼は妻の名を口にして深いため息を吐いた。
「……すまない。大方、私の妻が奥方に余計なことを言ったのだろう? 妻の発言を気にすることはない。奥方は部外者などではないし、共に手を取り合って協力をしていく大切な仲間だ。お互いが夫婦として在るためにはこれから長い時間助け合っていかねばならないのだからな。余計な遠慮は必要ない。次回からは君も彼らと一緒に」
「い、いえ! 伯爵夫人のおっしゃることはもっともですから! 後継者問題に関わってくる以上、番であるジョイは仕方ないにしても、部外者でしかない私の食事代まで領民の皆様が治められている税金で支払ってもらうわけにはまいりません。元々伯爵夫妻とジョイで始めた番の交流会に、私の我が儘で参加をさせていただいているだけですし」
「しかし」
「……それに、店に同行しない理由はそれだけではないのです」
確かに、『部外者のクセに』だとか『領民の血税云々~』は、以前アナリーズが伯爵夫人から直接言われたことだ。ただ、それは伯爵にも伝えた通り納得している。
流石に伯爵夫人の態度や言い方についてはどうかと思うが。
「……その、分不相応といいますか。私は平民ですのでマナーもあまり自信がないですし、ああいった高級店には行く機会がないので――――少し、落ち着かないのです」
アナリーズは言葉を選びつつ答える。
一応、学校でも学んだし、社会人として最低限のマナーは心得ているので伯爵夫人に言われたほどアナリーズのマナーが酷いとは思わないが、落ち着かないのは確かだ。
……それより何より。
アナリーズの見ている前でジョイに『あーん』とやり始める伯爵夫人。
他にもジョイの口元に着いたソースを手で拭ってやったり耳元に唇を寄せて内緒話をしたりとやりたい放題。
番を求める本能とやらを満たすために必要な事なのかもしれないが、目の前であんな光景を見せられながら食べたら、どんな高級な食事だって味なんかしない。むしろ、一人で自分の作った弁当でも食べている方が数倍マシだ。
……とは言っても、それも『今頃二人は……』などと考えるだけで食欲なんてスッと消え失せてしまうが。
それでも、ジョイを支えると決めた以上、泣き言ばかりも言っていられない。自分で消化に良い物を用意して、どうにか少しでも食べるようにしているのだ。
「……まあ、確かにあんな光景を見ながらでは落ち着いて食事も出来ない……か」
呟くように言う伯爵の言葉を聞いて、アナリーズはハッとした。
番同士の交流会の度に、
『仕事が忙しいから』
『急ぎの書類があるから』
と言って、昼の時間は執務室に籠っているアミティエ伯爵。思えば、アナリーズがジョイの後をつけたあの日もレストランには二人だけで彼の姿はなかった。
当たり前だ。まともな人間なら、自分が愛する伴侶のあんな姿を見せられながらの食事なんて、喉を通るはずがない。
アナリーズはあえて口には出さなかったが、彼も同じだったのだな……と気付いてホッとする。
なるほど。この交流会には苦悩を共にする伴侶同士の理解を深める側面もあるらしい。
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