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17 嘘
しおりを挟む気にかかることを挙げればキリがないが、新たな習慣が馴染めば段々と生活も安定する。アナリーズもまた、夫の変化を受け入れるべく頑張った。
アナリーズは忙しく働く夫を支えるために、休日出勤の日には必ずお弁当を作ることにした。
大小問わず、王都にある商会は週末に休みをとることが多い。そして、そんな商会員を客層にしている商会地区の飲食店は商会の休日に休みを合わせることが多いので、昼食を摂るのに苦労するからだ。
アナリーズの働く商会でも、商会員は休日出勤の際には昼食の確保に苦労していた。アナリーズの場合は弁当持参だからさほど不自由は感じていないが、獣人の商会員は種族によって好みもそれぞれだから、食事場所に困っている者が多いと聞く。獣人の少ない、大手商会が集まるエリアで働くジョイは尚更だろう。
日頃、ジョイの健康を気遣って用意している弁当も、休日出勤の時ばかりは彼の好物を多く入れるようにした。少しでもストレスを感じることなく働いて欲しいからだ。ジョイもそんなアナリーズの気遣いを喜んでくれて、毎回キレイに平らげてくれている。
そんなささやかな楽しみが出来たお陰か、青さばかりが際立っていた休日出勤の日のジョイの顔色も、幾分マシになってきた気がする。
そんな、新たな日常が根付いた矢先――。
「あらやだ、ジョイったらお弁当を忘れてる!」
ジョイの出勤後。テーブルの上には持っていくはずだったお弁当が残されていた。どうやらカバンに入れ忘れたらしい。
今日はジョイのリクエストで少し手のかかる鳥料理だ。ジョイはアナリーズの作る弁当を前日から楽しみにしていたのに……。
週末の為、アナリーズの仕事は休み。ジョイ以外のエリート商会員の目は気になるが、幸いこの日は休日。出勤している者も少ないだろう。何より昼食を摂りっぱぐれてしまったらジョイが可哀想だ。
そう思ったアナリーズは勇気を出して、作った弁当を手にジョイの勤める商会を訪ねることにした。
王都にある商会地区には数々の商会が立ち並んでいる。アナリーズが所属する商会は中央から離れてかなり端の方だが、ジョイが働く大商会は商会地区の中でも一番華やかなエリアにある。
ジョイが所属する商会は貴族をメインの客層としているだけあって、建物も重厚感があり近寄りがたい雰囲気がある――と感じてしまうのはアナリーズが根っからの庶民だからだろうか。
一応、大商会を訪ねるのに恥ずかしくない程度の格好はしてきたが、用事を済ませたらすぐに立ち去った方がいいだろう。
そう思って、アナリーズは入り口に立つ警備員にジョイの名前を伝える。
――が。
「申し訳ありません。本日、出勤している商会員はいないはずですが」
「…え……?」
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