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16 痛みを伴う記憶
しおりを挟む――特に、『子供』については。
それを聞いてツキリと耳が痛んだ。
そして思い出す。幸せな生活の中で棘のように刺さった記憶。じくじくと痛むから、抜いて思い出さないようにしていた記憶。
幼い頃。乳母に頼ることなく、毎日添い寝をして私を寝かしつけてくれたお母様。子守歌を歌って優しく頭を撫でてくれた――とてもとても暖かい思い出
でも――それと同時にお母様のすすり泣きも思い出す。
夢うつつに覚えているその切ないその記憶の中で――たった一度だけ、身体に痛みを伴う記憶があった。
優しく私の頭を撫でてくれるお母様。耳に触れてすすり泣きをするのはよくあること。
でも――一度。たった一度だけ、私の目が覚めてしまうほどギュッとそこを握られたことがあった。
大好きなお母様の優しい優しい歌声を拾う為に敏感になっていた耳に与えられた大きな痛みに――当時の私は混乱した。そして、痛みで更に敏感になっていた私の耳は、そこで更に心にも痛みを伴う小さな小さなつぶやきを拾ってしまう。
「この耳が無ければ――この子はあの子じゃない……」
ああ、だから私は、お母様が残してきた家族を思い出して泣いていることを知っていたのか――と納得がいった。
私の家ではその話はタブーになっているので、お母様から話してくれる以外、前の家族の存在が話題に上ることは無い。だから、本来私がソレを知っている筈がないのだ。少なくともあんな幼い子供の時分からそんな事を察せられるはずがない。
……でも、あの衝撃的な経験があったからこそ私は自分の考えに確信をもっていた。
お母様は前の結婚生活で授かった子供を思って泣いている――と。
私は昔から――お母様に耳を握られたあの経験があってから耳が弱い。耳を澄ますと痛みを予想して敏感になってしまうのだ。
今まで忘れていたのは、別の幸せな記憶で棘を抜いた後の痛む傷口を塗りこめて、思い出さないようにしていたからなのだろう。
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