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第二章 初級講習

10 再会! 帰ってきた200g

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 俺は両手で持ったアツアツのたこ焼きをとりあえずベンチの上に置いた。まだ湯気が出ていて、すぐ横からいいニオイが漂ってくるがそれどころじゃない。

 俺が出来立てのたこ焼きを後回しにするなどよっぽどのことだ。

 開いた手でポケットから潜望鏡のように顔を出している200gを取り出すと、そのまま両手の上に乗せた。

 200gはたこ焼きが気になるのか潜望鏡状態に変化したままアツアツのそれを目で追っていたが、俺の手のひらに残ったたこ焼きの熱が心地よかったのか、手に触れている部分の形をだらしなく崩した。これは、200gがリラックスしたときにとる体勢だ。
 それでもたこ焼きはあきらめきれないようでガン見している。そんな姿を見て思う。


 おかしい。確実に森の中に置いてきたはずなのに。いつの間にジャージのポケットに入り込んだのだろうか。


 俺は自分の行動を振り返った。

 プロテインバーを丸々一本やって200gを動けなくした後、俺は森を出てインストラクターの元へと戻り、予定通りスライムの討伐をやっていた。

 何度目かのスライムに逃げられたとき、大汗をかくほど熱くなったので、ジャージの上を脱いでしばらく大岩の上に放置した。……あのときか。

 そのまま討伐を続けていたのだが、インストラクターから突然、


「そういえば、会員証は肌身離さずお持ちですか? 転移魔法陣は会員証に組み込まれていますので、うっかり上着のポケットに入れて離れた場所に置き忘れたりすると、上着だけ転移して異世界に置いてけぼりになりますよ」


 …と言われ、慌てて大岩まで戻り、脱いだジャージを身に着けた。冷や汗と共に大汗をかいた。会員証はポケットの中だったから正直焦った。

 異世界に取り残されるなんて冗談じゃない。そういうことは早く言ってくれ、と思ったが。


「そ・ん・な・太田様に朗報です! 実は置いてけぼりにされてしまった時にも安心の『置いてけぼり保険』がございまして。うっかり取り残されてしまった場合などに、月三回までクラブに連れ戻すことができます! 今なら特別に月会費に五百円プラスするだけで加入できますよ」


 そんな風に勧誘されて署名捺印のうえ代金を支払い、その場ですぐに加入した。落ち着いて考えると、あんな広大な異世界でインストラクターがわざわざ保険の申込用紙を持っている時点でおかしいし、異世界にハンコ持っていくように言われた時点でどうかしている。保険への加入を狙っての仕込みだったのかもしれない。

 そんなこともあり、財布が軽くなった分心が重くなったので200gが潜り込んだジャージの重みに気が付かなかった。


「……なんで、戻ってきちゃったんだよ。あっちに居れば、もうつらいダイエットなんてしないで、好きなだけ好きな物食って大きくなれるのに」


 俺がそう語りかけると200gはたこ焼きから視線を外し俺を見た。ぽよん、と潜望鏡の頭の部分を傾げて考え込むようにした後に。200gは形を変えた。


 部屋を転がりまわっているときのようにまん丸になって。その頭からぽよーんと細長い突起を生やした。

 それはまるで。


「たこ焼き……?」


 全身を使った200gの渾身のボディランゲージ。

 ソレが大好物である俺が気が付かないはずがない。俺の声に反応したかのように。手のひらサイズの巨大なたこ焼きは、ぽよんぽよんと身を震わせながら、今度は12個入りのソレに変化した。

 200gしかない状態では質量が足りないかと思ったが、器用に空気を取り込んで調整していた。12個のうちの一つに、たこ焼きのタコのようにスライムの弱点である核が入っているのが見える。目の代わりになっているその部分を時折伸ばしては、俺の右隣に置かれた本物のたこ焼きを見ながら調整している。

 再現度に満足したのか仕上げとばかりに再びぽよーんと核入りの部分に楊枝のような突起を生やした。今なら楊枝一本あれば簡単に討伐できるだろう。無防備な事この上ない。

 半透明ながら、その姿は俺の右側のベンチの上に置いてあるたこ焼きにそっくりだ。

 200gはどうしてだか俺の言葉を理解する。そして、俺も何となく言いたいことが分かる。基本的にコイツは「ぽよんぽよん」言ってるだけなのに。

 どうして戻ってきたのか、に対する200gの答えがコレ。
 つまり――。





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