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第一章 体験入会

4 命名! スライムの名前

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 帰宅後は筋肉痛が酷かった。

 熱い。痛い。だるい。ダイエットを始めたという達成感も消え失せ、「やっぱりやめようかな……」などと思ってしまう。もはや何もやる気が起きない。

 家に帰ってからは寝て過ごしているが、そうすると部屋の汚れが気になってくる。しかし、掃除するのすら面倒だ。

 とか思っていたら。


 コロコロコロコロ……コロコロコロコロ……


 放置するわけにもいかないからと連れ帰ったスライムは、何が楽しいのか球状になって部屋中を転がりまわっている。そして気が付いた。


 部屋、奇麗になってね?


 カーペットの汚れは粘着クリーナーをかけたがごとく取れているし、台所の木の床に至っては曇りも取れて、ワックスがけでもしたみたいだ。

 これ、あれか。汚れ食ってくれてんのか。

 漫画や小説なんかでは、こいつらなんでも食うもんな。これは食事代がかからず衛生的で便利だ。

 一通り掃除が終わると、充電場所に戻ろうとするロボット掃除機のように俺の手に甘えてきた。なんかかわいいな。

 しかし。


「ちょっと、大きくなっている気がする……」


 痛む体をなんとか動かし、スライムを愛用の体重計で量ってみれば。


「200g……か。よし、お前は今日から『200g』だ!」


 名前が決まった。本当は248gくらいあったが、体重は切り捨てが俺のポリシーだ。

 ちなみに肉は切り上げ。ステーキを頼むときは250gと300gなら俺は迷わず300gを選ぶ。まあ、滅多に食えないけどな! 金なくて!

 一人暮らしだとつい、カップ麺だのジャンクフードだの、手軽に満腹感が得られる手頃な物を選んでしまう。とか考えていたら、おやつにたこ焼きを食ったばかりだというのにまた腹が減ってきた。

 なので、カップラーメン(大盛タイプ)を食べることにする。ダイエットは気になるが、腹が減ってはダイエットすらやる気が起こらない。


 ズルズルズル……うん、うまい。


 カップ麺は手軽でいいな。特に、今日みたいに動く気が起こらない日は大助かりだ。あと安いし! そうやって夢中で食べていたら。


 ……ぽっよん(ごっくん)


 200gが羨ましそうにこちらを見ていた。

 あっ、そっか。お前たこ焼き一個しか食ってないもんな。元はあの巨体だ。流石にエサが足りないだろう。

 それに、流石にゴミばかり食べさせるのも気が引ける。なので、あと一口、というところで残りを容器ごと200gの前に差し出してみる。食べるだろうか。


 ぽよ、ぽよ、ぽよ……(ズル、ズル、ズル……)


 器用に麺を吸い込み、すすって食べる200g。麺を食べ終わると器用に体を変形させて突起を作り、容器を持ち上げて汁も残さず飲んだ。
 ああ、やっぱりお腹が空いていたのか。

 たこ焼きも食べていたし、エサは何でもよさそうだ。俺の食事を毎食、少し分けてやればいいだろう。


「……って待てよ。これってちょっと残しダイエットじゃん!」


 一人暮らしをする前、実家の姉ちゃんがやっていた。食べたつもりでちょっと残して、カロリーを抑える。痩せたいならこれよ! と姉ちゃんに勧められたけど、俺は食べ物を無駄にするのが嫌なので真似したことはない。

 と、いうより姉ちゃんが残すそのちょっとも俺が食べていた。だからこそのこの体型なのだろうが、これだけは譲れない。

 とはいえ。今みたいに残したちょっとを200gが無駄にせずに食べてくれるというのなら話は別だ。これはやってみてもいいのではないか。

 しかし、それをするにあたって気になることがある。

 ラーメンを食べて満足そうにぽよぽよしている200gを持ち上げて、再び体重計で量ってみれば。


「やっぱり食事した分だけ増えてるな。どうしよう。スポーツクラブに入会するのは月が替わる来週からだから、それまで家で面倒みようと思っていたけど、あんまり大きくなるようだと厳しいな」


 ぽよん!?


 何に反応したのか、200g(現在300g越え)が俺の手を飛び出して、またしても部屋を転がりだした。食べ足りないのか? と思ったが、部屋はもう十分キレイだし食事ではないようだ。

 アパート暮らしなのでうるさいようなら止めるが、柔らかい素材の200gは音もなくコロコロと転がっている。食後のせいか若干動きが遅い。

 まあ、いいか。そう思ってテレビを見たりゲームをしたりしながら放置していたら、再び200gが甘えてきた。

 その姿を見て。


「もしかして……お前、運動してたのか? アレ」


 300g越えだった200gが、元の大きさに戻っていた。量ってみても、247g。なんなら1g減っている。どうやら、摂取して太った分は、運動によって消費されるらしい。

 これなら、手に負えなくなるほど大きくなることはなさそうだ、とホッとする反面。


「やっぱ、魔物でもやせるためには運動するしかないんだなあ……」


 その現実に切なくなった。




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