29 / 40
29 謎の収蔵品
しおりを挟むデビュタントは結婚式予定日の前日だ。
竜人が持つ嘘感知スキルを含む番問題はオネストの案でどうにか誤魔化せるとしても、当日、リベルタはデビュタントへ出席するために母国へと帰らなくてはならない。
数カ月単位で往復の移動時間がかかることについてはどうにもならないだろう。
まあ、それについては神殿側も協力をしてくれるらしいし、書類上だけ先に婚姻をしておいて、後日、リベルタが成人の儀を終えて帰国してからゆっくり結婚式を挙げる――という形をとるのだろう。
……と、ばかり思っていたのだが。
「いいや? 結婚式も延期しないよ。それだと、神殿関係者に嘘をつかせることになるじゃないか。神に仕える彼らに対し、そんな酷いことをしろとは言えないよ」
「……えっ!?」
「彼らには真相を黙っていてもらうだけだ。その為の協力はしてもらうけど、彼らに嘘をつかせることはしない。――で、僕たちの結婚式はちゃんと予定している日付に挙げる。まあ、時差を利用するために式を挙げる時間は朝イチに変えるし、結婚式が終わり次第、君のデビュタントの為にすぐ新獣人国に移動しないといけないから……全体的な一日のスケジュールは大幅に組み直さなくてはいけないけどね」
「ええー…と。それはつまり、どういう……?」
リベルタは訳が分からなかった。移動だけでも片道3カ月はかかるというのに、結婚式を挙げて、なお且つデビュタントに間に合うように、すぐにリベルタの母国へと帰る……?
たしか、神殿は朝8時からだから、朝一番で式を挙げるのは分かる。『時差』とやらで、その時間リベルタの母国が前日の夜8時なのも理解した。しかし、移動手段が分からない。
時差を利用した日付トリックのタイムリミットは4時間。結婚式にも時間はかかるし、デビュタントの終了時間もあるから、実際には2時間というところか。
たった2時間ではこの国から出ることすら難しい。それをどうやって新獣人国まで移動するというのだろうか。
――リベルタが疑問に思って戸惑いの視線を向けると、オネストはニッコリと微笑んだ。
そして、自信満々に言う。
「『魔法』を使うんだ」
「な……っ、無理よ! 魔法と言ったって、何でもかんでもできるわけじゃないわ」
確かにそんなの魔法でも使わない限り不可能だ。
ただし、豊富な魔力を持つリベルタですら瞬間移動魔法なんてものは聞いたことがない。
ただでさえ魔力を持つ者の数はどんどん減っているし、人間の間では新獣人国以上にその減少のスピードは速い。その分、人間の住む国では魔法の技術も廃れているのだ。
とてもじゃないが、人間ばかりのこの国にそんな最新技術があるとも思えない。
「確かに詠唱魔法ではそうだよね。でも、コレを使えばどうだろう」
そう言って。オネストが指さしたのは宝物庫の地面……ではなく、床に敷かれたカーペット。
カーペットいっぱいに描かれた大きい規則的な図形の中に、複雑な文字のような模様が織り込まれた――魔法陣のようだ。
訝し気にリベルタがそれを見ると、驚くべきことに見覚えのある文字があった。
「『移動用……魔法…陣、獣・……人・国……』 えっ!? 何、どういうこと?」
124
お気に入りに追加
3,699
あなたにおすすめの小説
最愛の婚約者に婚約破棄されたある侯爵令嬢はその想いを大切にするために自主的に修道院へ入ります。
ひよこ麺
恋愛
ある国で、あるひとりの侯爵令嬢ヨハンナが婚約破棄された。
ヨハンナは他の誰よりも婚約者のパーシヴァルを愛していた。だから彼女はその想いを抱えたまま修道院へ入ってしまうが、元婚約者を誑かした女は悲惨な末路を辿り、元婚約者も……
※この作品には残酷な表現とホラーっぽい遠回しなヤンデレが多分に含まれます。苦手な方はご注意ください。
また、一応転生者も出ます。
婚約破棄寸前だった令嬢が殺されかけて眠り姫となり意識を取り戻したら世界が変わっていた話
ひよこ麺
恋愛
シルビア・ベアトリス侯爵令嬢は何もかも完璧なご令嬢だった。婚約者であるリベリオンとの関係を除いては。
リベリオンは公爵家の嫡男で完璧だけれどとても冷たい人だった。それでも彼の幼馴染みで病弱な男爵令嬢のリリアにはとても優しくしていた。
婚約者のシルビアには笑顔ひとつ向けてくれないのに。
どんなに尽くしても努力しても完璧な立ち振る舞いをしても振り返らないリベリオンに疲れてしまったシルビア。その日も舞踏会でエスコートだけしてリリアと居なくなってしまったリベリオンを見ているのが悲しくなりテラスでひとり夜風に当たっていたところ、いきなり何者かに後ろから押されて転落してしまう。
死は免れたが、テラスから転落した際に頭を強く打ったシルビアはそのまま意識を失い、昏睡状態となってしまう。それから3年の月日が流れ、目覚めたシルビアを取り巻く世界は変っていて……
※正常な人があまりいない話です。
[完結]間違えた国王〜のお陰で幸せライフ送れます。
キャロル
恋愛
国の駒として隣国の王と婚姻する事にになったマリアンヌ王女、王族に生まれたからにはいつかはこんな日が来ると覚悟はしていたが、その相手は獣人……番至上主義の…あの獣人……待てよ、これは逆にラッキーかもしれない。
離宮でスローライフ送れるのでは?うまく行けば…離縁、
窮屈な身分から解放され自由な生活目指して突き進む、美貌と能力だけチートなトンデモ王女の物語
番?呪いの別名でしょうか?私には不要ですわ
紅子
恋愛
私は充分に幸せだったの。私はあなたの幸せをずっと祈っていたのに、あなたは幸せではなかったというの?もしそうだとしても、あなたと私の縁は、あのとき終わっているのよ。あなたのエゴにいつまで私を縛り付けるつもりですか?
何の因果か私は10歳~のときを何度も何度も繰り返す。いつ終わるとも知れない死に戻りの中で、あなたへの想いは消えてなくなった。あなたとの出会いは最早恐怖でしかない。終わらない生に疲れ果てた私を救ってくれたのは、あの時、私を救ってくれたあの人だった。
12話完結済み。毎日00:00に更新予定です。
R15は、念のため。
自己満足の世界に付き、合わないと感じた方は読むのをお止めください。設定ゆるゆるの思い付き、ご都合主義で書いているため、深い内容ではありません。さらっと読みたい方向けです。矛盾点などあったらごめんなさい(>_<)
あなたの運命になりたかった
夕立悠理
恋愛
──あなたの、『運命』になりたかった。
コーデリアには、竜族の恋人ジャレッドがいる。竜族には、それぞれ、番という存在があり、それは運命で定められた結ばれるべき相手だ。けれど、コーデリアは、ジャレッドの番ではなかった。それでも、二人は愛し合い、ジャレッドは、コーデリアにプロポーズする。幸せの絶頂にいたコーデリア。しかし、その翌日、ジャレッドの番だという女性が現れて──。
※一話あたりの文字数がとても少ないです。
※小説家になろう様にも投稿しています
『番』という存在
彗
恋愛
義母とその娘に虐げられているリアリーと狼獣人のカインが番として結ばれる物語。
*基本的に1日1話ずつの投稿です。
(カイン視点だけ2話投稿となります。)
書き終えているお話なのでブクマやしおりなどつけていただければ幸いです。
***2022.7.9 HOTランキング11位!!はじめての投稿でこんなにたくさんの方に読んでいただけてとても嬉しいです!ありがとうございます!
聖女のわたしを隣国に売っておいて、いまさら「母国が滅んでもよいのか」と言われましても。
ふまさ
恋愛
「──わかった、これまでのことは謝罪しよう。とりあえず、国に帰ってきてくれ。次の聖女は急ぎ見つけることを約束する。それまでは我慢してくれないか。でないと国が滅びる。お前もそれは嫌だろ?」
出来るだけ優しく、テンサンド王国の第一王子であるショーンがアーリンに語りかける。ひきつった笑みを浮かべながら。
だがアーリンは考える間もなく、
「──お断りします」
と、きっぱりと告げたのだった。
振られたから諦めるつもりだったのに…
しゃーりん
恋愛
伯爵令嬢ヴィッテは公爵令息ディートに告白して振られた。
自分の意に沿わない婚約を結ぶ前のダメ元での告白だった。
その後、相手しか得のない婚約を結ぶことになった。
一方、ディートは告白からヴィッテを目で追うようになって…
婚約を解消したいヴィッテとヴィッテが気になりだしたディートのお話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる