24 / 40
24 分かたれた未来(竜王視点)
しおりを挟む「……すまなかった。判別が長引いてしまったせいで――私がリベルタ嬢の若さを奪ってしまったのだな」
「い……いえ! 申し訳ありません、こちらこそ余計なことを言ってしまいまして……」
ヴァールが声を荒げたせいだろう。リベルタの顔色が少し悪くなってしまった。ヴァールはそれを申し訳なく思った。
お茶にでも誘って気分転換をさせてやるべきだろうか。いや、成人したのだから、ここは酒でも――と誘うべきか。
判断付かずにヴァールが迷っていると。
「ヴァール様」
懐かしい聞き覚えのある声に名を呼ばれた気がして、ヴァールは声の方向へと振り返る。
視界の先に一瞬母親の姿を見るが――すぐにそれは別人だと分かった。
ヴァールの母と同じ髪色と目の色。
過去に見覚えのある顔だった。名は確か……。
「あ……あの、竜王様っ! 旅の疲れもありますし、私はそろそろ御前を失礼させていただいても……っ?」
「あ……? ああ、すまないな、リベルタ嬢。帰るところを呼び止めてしまった。……アシュランス伯爵家の爵位継承については先ほど言った通り承知した。すぐに対処するから、今日は安心して旅の疲れをとってくれ」
見覚えのある髪色と目の色に……。
記憶の中を探っていたら、答えが出る前にリベルタから問いかけられた。
――何やら急いでいるようだ。ならばちょうどいいか。
ヴァールはリベルタに対し別れの挨拶を返す。
少し心配ではあったが、表情が明るいのでまあ大丈夫だろう。ヴァールはそう判断して声をかけてきた人物の元へと向かう。
そういえば、今年は別のことに気を取られほとんど社交をしていない。人間国からも使者が来ているし、会場へと戻って少しは話さなくてはいけないだろう。
目的の人物に近寄ればすぐにその正体を思い出した。
そして、すぐに名前が出てこなかった理由にも思い当たる。
「ああ、以前、交流事業でお会いしましたね。公爵家の……」
「まあ! 覚えていてくださったのですね。お会いしたのは何年も前ですのに」
すぐに歳をとってしまう人間。若々しかった記憶の中の姿とは違うけれど、その髪色と目の色は忘れない。ちらほらと髪の間に見える白いモノも、ヴァールにとっては温かい記憶の範疇にある。
ヴァールの母親と同じ公爵家出身の令嬢……今では未亡人らしい。一度は嫁いで夫とは死に別れて実家へと戻ったそうだ。
どうやら、新獣人国に詳しいからと、年頃の令嬢達の引率を頼まれたらしい。
令嬢達と話して欲しいと頼まれたが、ヴァールは旧知の元令嬢の方に興味を惹かれた。
若さを失ってなお、ヴァールを惹きつけるものがあったから。
背後から小さな声が聞こえたが……話に夢中になっていたヴァールには聞こえなかった。
その後――
ヴァールは番を見つけることは出来なかった。
竜人としての血が薄まっていたせいもあり、その生涯は約480年。
生まれてから最初の250年ほどは番を探し――残りの人生で4人の人間と結婚をした。
最初の3人との間には子供ができず――最後に結婚した妻との間で一人の子宝に恵まれた。
彼はその生涯で複数の人間を妻に迎えたが、結婚している間は常にその一人の伴侶だけを愛し続け、最後まで看取り、決してよそ見をしたりはしなかったという。
201
お気に入りに追加
3,702
あなたにおすすめの小説
竜王陛下の番……の妹様は、隣国で溺愛される
夕立悠理
恋愛
誰か。誰でもいいの。──わたしを、愛して。
物心着いた時から、アオリに与えられるもの全てが姉のお下がりだった。それでも良かった。家族はアオリを愛していると信じていたから。
けれど姉のスカーレットがこの国の竜王陛下である、レナルドに見初められて全てが変わる。誰も、アオリの名前を呼ぶものがいなくなったのだ。みんな、妹様、とアオリを呼ぶ。孤独に耐えかねたアオリは、隣国へと旅にでることにした。──そこで、自分の本当の運命が待っているとも、知らずに。
※小説家になろう様にも投稿しています
最愛の婚約者に婚約破棄されたある侯爵令嬢はその想いを大切にするために自主的に修道院へ入ります。
ひよこ麺
恋愛
ある国で、あるひとりの侯爵令嬢ヨハンナが婚約破棄された。
ヨハンナは他の誰よりも婚約者のパーシヴァルを愛していた。だから彼女はその想いを抱えたまま修道院へ入ってしまうが、元婚約者を誑かした女は悲惨な末路を辿り、元婚約者も……
※この作品には残酷な表現とホラーっぽい遠回しなヤンデレが多分に含まれます。苦手な方はご注意ください。
また、一応転生者も出ます。
番探しにやって来た王子様に見初められました。逃げたらだめですか?
ゆきりん(安室 雪)
恋愛
私はスミレ・デラウェア。伯爵令嬢だけど秘密がある。長閑なぶどう畑が広がる我がデラウェア領地で自警団に入っているのだ。騎士団に入れないのでコッソリと盗賊から領地を守ってます。
そんな領地に王都から番探しに王子がやって来るらしい。人が集まって来ると盗賊も来るから勘弁して欲しい。
お転婆令嬢が番から逃げ回るお話しです。
愛の花シリーズ第3弾です。
番は君なんだと言われ王宮で溺愛されています
ゆきりん(安室 雪)
恋愛
私ミーシャ・ラクリマ男爵令嬢は、家の借金の為コッソリと王宮でメイドとして働いています。基本は王宮内のお掃除ですが、人手が必要な時には色々な所へ行きお手伝いします。そんな中私を番だと言う人が現れた。えっ、あなたって!?
貧乏令嬢が番と幸せになるまでのすれ違いを書いていきます。
愛の花第2弾です。前の話を読んでいなくても、単体のお話として読んで頂けます。
黒鳥は踊る~あなたの番は私ですけど?~
callas
恋愛
「君は私の運命の番だ」そう差し伸べた彼の目の前には妹のディアナ。
ちょっと待って!貴方の番は私なんだけど!
※お気に入り登録ありがとうございます
【完結】そう、番だったら別れなさい
堀 和三盆
恋愛
ラシーヌは狼獣人でライフェ侯爵家の一人娘。番である両親に憧れていて、番との婚姻を完全に諦めるまでは異性との交際は控えようと思っていた。
しかし、ある日を境に母親から異性との交際をしつこく勧められるようになり、仕方なく幼馴染で猫獣人のファンゲンに恋人のふりを頼むことに。彼の方にも事情があり、お互いの利害が一致したことから二人の嘘の交際が始まった。
そして二人が成長すると、なんと偽の恋人役を頼んだ幼馴染のファンゲンから番の気配を感じるようになり、幼馴染が大好きだったラシーヌは大喜び。早速母親に、
『お付き合いしている幼馴染のファンゲンが私の番かもしれない』――と報告するのだが。
「そう、番だったら別れなさい」
母親からの返答はラシーヌには受け入れ難いものだった。
お母様どうして!?
何で運命の番と別れなくてはいけないの!?
番?呪いの別名でしょうか?私には不要ですわ
紅子
恋愛
私は充分に幸せだったの。私はあなたの幸せをずっと祈っていたのに、あなたは幸せではなかったというの?もしそうだとしても、あなたと私の縁は、あのとき終わっているのよ。あなたのエゴにいつまで私を縛り付けるつもりですか?
何の因果か私は10歳~のときを何度も何度も繰り返す。いつ終わるとも知れない死に戻りの中で、あなたへの想いは消えてなくなった。あなたとの出会いは最早恐怖でしかない。終わらない生に疲れ果てた私を救ってくれたのは、あの時、私を救ってくれたあの人だった。
12話完結済み。毎日00:00に更新予定です。
R15は、念のため。
自己満足の世界に付き、合わないと感じた方は読むのをお止めください。設定ゆるゆるの思い付き、ご都合主義で書いているため、深い内容ではありません。さらっと読みたい方向けです。矛盾点などあったらごめんなさい(>_<)
あなたの運命になりたかった
夕立悠理
恋愛
──あなたの、『運命』になりたかった。
コーデリアには、竜族の恋人ジャレッドがいる。竜族には、それぞれ、番という存在があり、それは運命で定められた結ばれるべき相手だ。けれど、コーデリアは、ジャレッドの番ではなかった。それでも、二人は愛し合い、ジャレッドは、コーデリアにプロポーズする。幸せの絶頂にいたコーデリア。しかし、その翌日、ジャレッドの番だという女性が現れて──。
※一話あたりの文字数がとても少ないです。
※小説家になろう様にも投稿しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる