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20 11回目のデビュタント(竜王視点)

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「リベルタはまだか」

 竜王ヴァールは朝からソワソワと落ち着かなかった。


 年に一度のデビュタントの日。リベルタが参加をしなくなってからは、人間国から送りこまれてくる美しい令嬢達との交流くらいしか楽しみがなかったが、この年は違った。

 今年は久しぶりにリベルタが参加をする――いや、権力を使ってヴァールが無理やり参加をさせたのだ。アシュランス伯爵家には脅しをたっぷりとかけたし、リベルタからは参加をする旨の返事が来ている。

 一年程前の成人の儀を兼ねたデビュタントの日。リベルタの義弟が成人を迎え、そこで本来ならリベルタが継ぐべき爵位を放棄して国を出たことを聞かされた。寝耳に水だった。

 後になって確かめてみれば、必要書類は全て正しく提出をされていた。ちょうどヴァールが人間国との交渉に忙殺されていた頃だった。

 ヴァールの母親は人間だ。そのため、人間国との交渉や外交には必要以上に力が入ってしまう。それが、こんなミスを招くとは。


 ヴァールはリベルタが成人していないことを指摘して、彼女が署名した爵位継承権放棄の書類を無効とした。

 新獣人国の成人年齢は16歳だ。国を出る前、リベルタは既にデビュタントを兼ねた成人の儀に10回も出席している。それでも成人と認められていないのは、ただただヴァールがリベルタの番の判別を先延ばしにしているからに過ぎない。

 言いがかりに近い主張ではあったが、国王の権力は絶対だ。実家の爵位をたてに脅せば、心優しい彼女は必ずや家族の為に駆けつけることだろう――ヴァールには絶対の確信があった。

 二人で親しく話す機会はなかったが、観察している範囲で彼女は常に心優しかった。

 通常ならあり得ないことであるが、リベルタは複数回のデビュタントをこなしている。場慣れしている彼女は初めて参加をする年若い新成人の少女たちの相談にのったり、緊張をほぐしてあげたりと、あれこれ世話を焼いていた。

 その姿が今もヴァールの脳裏に残っている。

 思い起こせば最初からそうだった。数限りなくいる他の少女たちのことは何事もなく頭から消えていくのに、彼女のことだけは何故か記憶に残っている。それが、そもそもおかしなことだったのだ。


 記憶の中の彼女はいつだってヴァールにとって好ましいもので――。


 彼女こそ、自分の『番』だったのではないか。


 そう思ったら、自分を止めることが出来なかった。気が付けば権力を使って呼び出していた。



 初々しいリベルタ。
 優しいリベルタ。
 疲れた表情のリベルタ
 少し――悲しそうなリベルタ。


 思い起こすたびにヴァールの確信は深まっていく。今まで、どうして彼女を前に冷静でいられたのか。他の令嬢達との会話を優先できたのか。

 ヴァールは王族であるがゆえに番の判別機能が弱い。
 それゆえ番に対しての憧れや思い入れもあまりないのだろう――と思っていた。だからこそ、いつまでたっても番が見つからないのだろう、とも。

 それでも、リベルタを失うかもしれない、と考えたら居ても立ってもいられなかったのだ。

 今なら彼女に対し番の判別ができる気がする。

 そうして迎えた今日。ヴァールは期待に胸を膨らませていた。『その時』が来るのを今か今かと待ちわびている。

 そうしたら不思議なもので、あれほど魅かれていた美しい人間の令嬢達との会話も楽しめなくなった。
 今もチラチラと、国王と交流する機会を伺っている令嬢たちからの視線を感じているが、ヴァールはそれどころではなかった。

 以前までは。悲しそうな顔をするリベルタに見送られながら、令嬢達の元へと急いでいたのに……それを思い出すたびにヴァールは不安になる。


 ちゃんとリベルタは来てくれるのだろうか。



 既に、今年成人を迎える少女たちの番の判別は終わっている。例年なら政略を目論んで送られてくる人間国の令嬢達との会話を楽しんだり、気が向けばお互い合意の元でお気に入りと会場を抜け出したりしていた頃だ。

 そんな暇があれば、もっと真剣に番の判別に取り組めばよかったのに。そうすれば今頃は――。

 ヴァールの脳裏に浮かぶのは諦めたような顔をしているリベルタだ。……それが、彼女が国を出る前に一番見せていた表情だったから。

 美しく着飾った新成人や、人間の令嬢達が溢れる会場の中で、時間だけが無駄に過ぎていく。ヴァールの苛立ちが募る。


 イライラと。何に対して怒っているのかも分からなくなったヴァールの元に、ようやく待望の知らせが届いた。

 どうやら、遠方よりの移動に思ったよりも時間を取られてしまったらしい。そのせいで準備に手間取っていたようだ。

 ヴァールは耳打ちしてきた側近に対し、柔らかな笑顔を浮かべて指示を出す。


「――すぐに彼女を連れてくるように」




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