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4 リベルタの番

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「いつまでこんな状態が続くのかしら……」

 キャッキャ、うふふ、と恋への希望を語らう判別を終えたばかりの年若い娘たち。まだ見ぬ番、もしくは既に居る番への愛の言葉が尽きることはない。美しく着飾り正式に恋を許された娘たちはキラキラと輝いて見える。

 その中で、一人だけが年齢的にも立場的にも浮いている。そう思ったリベルタは、そっと娘たちの輪から離れた。


 終わらぬ番判定に、リベルタの心は沈んでいた。


 そもそも竜人の番が同じ竜人であるとは限らない。別の種の獣人や、人間であることもある。新獣人国初代国王であるヴァールの祖父の番も人間だった。

 優秀な子供を残せる可能性――そういったものが番の判定基準だと言われているが、真相は分からない。
 人間以外の――番判別器官を持つ獣人や竜人が感じることの出来る感覚に頼っているのに過ぎないのだ。

 ヴァールの祖父は番を得たが、お互いに再婚で適齢期をとうに過ぎていたため、二人の間に子供はいない。晩年になり、連れ合いに先立たれてから番判別器官に頼ることなく婚姻に至った本当の意味での偶然の出会いなので、跡継ぎ問題とは無関係だった。
 そのため、ヴァールにもその父である先王にも番の血は入っていない。

 ヴァールの父の結婚相手――つまりはヴァールの母も政略で結ばれた人間なので、代を進むごとに竜人としての習性は更に薄まっていると思われる。

 その影響か政略結婚でもそれなりに子供が生まれるようになってきているようだ。寿命の長い王族は寿命の短い人間相手ならばチャンスも多い。

 本来であれば、竜人は番以外とは子を授かりにくい筈なのに。

 番を得れば力が強まり本来の能力が開花すると言われているが――既に、人間の中で長く生活してきた王族にとっては、習慣も好みも人間に近くなっている。

 そんな中、ごく自然に政略結婚を受け入れていたヴァールの祖父が晩年とはいえ番を得たことの方が奇跡に近かった。

 それでも番以外の人間との婚姻では血が薄まるばかりだ。本来の力を取り戻すためにも、番の血を王家に取り入れる必要がある。
 だからこそ、国王も番を探すこと自体をやめることは出来ない。


 リベルタ自身は既に番との婚姻は諦めている。だからこそ、早く結果が欲しいのに。


 今年も番を見つけられなかった竜王ヴァールは、政略を目論んで送られてきた美しい人間の令嬢達との華やかな交流を楽しんでいる。

 神々に譬えられるほどに竜人の容姿は美しい。王族は過去に政略結婚で人間の王族と婚姻を結んできたことから血統的な魅力もある。それに加えて種族的に知能も高く他種族国家である新獣人国をまとめ上げるほどの政治的手腕を持つ――美しく由緒正しき竜人であるヴァール。

 異種族であるという点を含めてでも彼と縁を結びたがる国は多い。ヴァールを狙う令嬢達もあわよくば――の精神なので積極的に関わりあいを持ちに行く。

 それを目の当たりにする度に――リベルタは自身の一部が壊れていくのを感じていた。

 伯爵家とはいえ、領地も貧しくあまり家格の高くないリベルタは竜人一族から生まれた訳ではない。完全な先祖返りだ。

 しかも、王族が人間国へと送られてからというもの、中堅貴族だった先祖はその地位と責任に縛られ、旧獣人国の外に出ることはなかった。それゆえ、先祖は人間ではなく自治領内に住む他の獣人のなかに結婚相手が見つかってきたので、番の判別機能も損なわれてはいない。

 だからこそ、リベルタはデビュタントの際に初めてヴァールと顔を合わせた時に気が付いたのだ。


 ああ、この方こそが自分の番で間違いないと。




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