50 / 64
リリーside
16 自称ヒロイン前例を作る
しおりを挟む
私の前世。ピンク髪・ピンク目を持つ人間はとにかく頑丈だった。だから平均寿命も世界でトップ。病気にはかかるけど、薬さえ買えればよく効くし、ちょっとした交通事故くらいなら軽傷で済んでしまう。流石に私みたいにトラックで突っ込まれでもしたらアウトだけど。
だから召喚されてしまったあの世界で。クラスで4番目のイケメンが車から子供をかばったくらいで骨折したのが不思議だった。軽なのに。
頑丈なのは髪も一緒で、物理耐性が高いので魔術でしか染められない。だから、あの世界に魔法がないのなら地毛だろうと思い込んでしまったのだ。
みんなが疑念に満ちた目で私を見ている。直接は言ってこないが、髪の色が、目の色が、とささやく声があちこちから聞こえてくる。前例がないそうだ。
ただ、不思議なことに――出産時期が早かったことに言及する者はいなかった。聖女がらみでこちらは前例があるそうだ。
なるほど。こちらの世界で問題になるのは、前例があるかないか。――私はそこに活路を見出した。
出産を終え、身支度を整えて赤ん坊と共に待っていると。対面の場に、王子と神官長がやってきた。
ドアを開け、不安そうな王子の顔が見えたとき。
ああ、スチルの通りだな、と思った。クリア後のエンドロール。合間に流れる映像にこのシーンがあった。出産後と思われるヒロインの元に駆けつける王子様。不安げな顔は出産に臨んだヒロインを心配して……だと思っていたけど、まさか不貞を怪しんでの表情だとは思わなかった。
王子の傍らには神官長。赤ん坊に祝福を授けるためについてきたのだろう。そんな神官長の手には記録用水晶があるのもスチル通り――ってあれ?何か違う。あれは……
真偽の水晶!?
ゲームのスチルでは記録用水晶だった筈なのに。
それが、真偽の水晶に変わっていた。
記録用水晶はゲームでは文字通り記録を残すアイテムだ。自分の好きなキャラとのイベントを記録したり、ムービーを記録したりして自分用のアルバムが作れる。
そして、現実としてのこの世界では、写真やビデオの代わりに使われている。記録した映像や写真的なものがスイッチ一つで再生できるので、まるで前世の写真立てのように応接間の棚の上に並べられていたりする。
一方の真偽の水晶はイージーモードでゲームを始めると入手できる魔道具だ。低レベル救済のための隠しイベントに出てくる敵がやたら嘘をついてくるのだが、見破れないと大ダメージを食らう仕様になっている。その時にこの魔道具があると簡単に真偽を見破れる。
自分がどのモードにいるのか分からなかったが、念のため隠し場所に行ってみたら大量にゲットできた。ただ、この魔道具を使わなくても選択肢は全て暗記しているので特に必要はない。なので試しに売ってみたところ思いのほか高値だったので――大量に売っぱらって、実家のパン屋の業務拡大の資金にした。
記録用水晶はその使用方法から、座りがいいようにバネのような台座がついているのだが、神官長の持つソレは飾り気のないただの玉。うっすらと乳白色の記録用水晶とは違い、まるで曇り一つ許さないとでもいうようにどこまでも透明で――。
とにかく、これを持ち出しているということは。今、疑われているということだ。魔道具を使って確かめるほどに。
(大丈夫。あれは真偽を見抜く魔道具よ。つまり、嘘さえつかなければいい)
実際。ゲームでは三年に上がってからの救済イベントで真偽の水晶でも見抜けないひっかけを使う敵が出てきた。あれを、敵を見習えばいいのよ。
「その……ご苦労だった。可愛い赤ん坊だ。僕には……あまり似てないようだが……髪とか目の……色とか。どういう……ことだろうか?」
「ごめんなさい。私のせいだわ。私が異世界に召喚されてしまったばかりに、その影響が……」
私の言葉に、王子の目がはっと見開く。
そう。これは嘘じゃない。こうなったのもすべて、あの世界に召喚されてしまった影響だもの。だって、思わないじゃない。ゲームの世界に転生して、他の世界に召喚されちゃうなんて。きっと、今までこんな前例なかったはず。
だから、思いつくままに、それらしいことを語っていく。
「殿下もご存じでしょう? 私が召喚されてしまった国の人間が持つ特徴。揃ったように、みんなが黒髪黒目。生活も食べ物も全く違うし、あの国には魔法もなかった。魔力もこちらとは違うのかもしれない。何かしらの――召喚されたことによる影響で、この子が産まれたのね」
真偽の水晶は――思った通り発動しなかった。
そうよ、嘘じゃないもの。
嘘じゃないけど――。
こうなってしまったことへの不安感から、自然と目から涙がこぼれる。
これで誤魔化せる?
赤ん坊は――ユージとの子はどうなるの?
生まれながらに、この不安定な立場に巻き込んでしまったことへの罪悪感から、私は赤ん坊をそっと抱きしめた。
「ごめんよ、リリー! 僕が間違っていた。どんな外見だろうと関係ない。この子は、僕が認めた僕の子だ。僕が父親として、君とこの子を守っていくよ。だから、一瞬でも疑ったことを許してくれ」
「クリス……! ありがとう! 貴方がこの子と私を認めてくれるなら、私も、私の精一杯で貴方に尽くすわ」
王子が私と赤ん坊を抱きしめる。どうやら、危機は乗り切ったようだ。
王子のぬくもりを感じながら――私は決意した。
軽率な行動が引き起こす結果は身に染みて分かった。だから、王子が認めてくれるなら――信じてくれるなら。今度こそこの人だけを愛していこう、そう思った。
だから召喚されてしまったあの世界で。クラスで4番目のイケメンが車から子供をかばったくらいで骨折したのが不思議だった。軽なのに。
頑丈なのは髪も一緒で、物理耐性が高いので魔術でしか染められない。だから、あの世界に魔法がないのなら地毛だろうと思い込んでしまったのだ。
みんなが疑念に満ちた目で私を見ている。直接は言ってこないが、髪の色が、目の色が、とささやく声があちこちから聞こえてくる。前例がないそうだ。
ただ、不思議なことに――出産時期が早かったことに言及する者はいなかった。聖女がらみでこちらは前例があるそうだ。
なるほど。こちらの世界で問題になるのは、前例があるかないか。――私はそこに活路を見出した。
出産を終え、身支度を整えて赤ん坊と共に待っていると。対面の場に、王子と神官長がやってきた。
ドアを開け、不安そうな王子の顔が見えたとき。
ああ、スチルの通りだな、と思った。クリア後のエンドロール。合間に流れる映像にこのシーンがあった。出産後と思われるヒロインの元に駆けつける王子様。不安げな顔は出産に臨んだヒロインを心配して……だと思っていたけど、まさか不貞を怪しんでの表情だとは思わなかった。
王子の傍らには神官長。赤ん坊に祝福を授けるためについてきたのだろう。そんな神官長の手には記録用水晶があるのもスチル通り――ってあれ?何か違う。あれは……
真偽の水晶!?
ゲームのスチルでは記録用水晶だった筈なのに。
それが、真偽の水晶に変わっていた。
記録用水晶はゲームでは文字通り記録を残すアイテムだ。自分の好きなキャラとのイベントを記録したり、ムービーを記録したりして自分用のアルバムが作れる。
そして、現実としてのこの世界では、写真やビデオの代わりに使われている。記録した映像や写真的なものがスイッチ一つで再生できるので、まるで前世の写真立てのように応接間の棚の上に並べられていたりする。
一方の真偽の水晶はイージーモードでゲームを始めると入手できる魔道具だ。低レベル救済のための隠しイベントに出てくる敵がやたら嘘をついてくるのだが、見破れないと大ダメージを食らう仕様になっている。その時にこの魔道具があると簡単に真偽を見破れる。
自分がどのモードにいるのか分からなかったが、念のため隠し場所に行ってみたら大量にゲットできた。ただ、この魔道具を使わなくても選択肢は全て暗記しているので特に必要はない。なので試しに売ってみたところ思いのほか高値だったので――大量に売っぱらって、実家のパン屋の業務拡大の資金にした。
記録用水晶はその使用方法から、座りがいいようにバネのような台座がついているのだが、神官長の持つソレは飾り気のないただの玉。うっすらと乳白色の記録用水晶とは違い、まるで曇り一つ許さないとでもいうようにどこまでも透明で――。
とにかく、これを持ち出しているということは。今、疑われているということだ。魔道具を使って確かめるほどに。
(大丈夫。あれは真偽を見抜く魔道具よ。つまり、嘘さえつかなければいい)
実際。ゲームでは三年に上がってからの救済イベントで真偽の水晶でも見抜けないひっかけを使う敵が出てきた。あれを、敵を見習えばいいのよ。
「その……ご苦労だった。可愛い赤ん坊だ。僕には……あまり似てないようだが……髪とか目の……色とか。どういう……ことだろうか?」
「ごめんなさい。私のせいだわ。私が異世界に召喚されてしまったばかりに、その影響が……」
私の言葉に、王子の目がはっと見開く。
そう。これは嘘じゃない。こうなったのもすべて、あの世界に召喚されてしまった影響だもの。だって、思わないじゃない。ゲームの世界に転生して、他の世界に召喚されちゃうなんて。きっと、今までこんな前例なかったはず。
だから、思いつくままに、それらしいことを語っていく。
「殿下もご存じでしょう? 私が召喚されてしまった国の人間が持つ特徴。揃ったように、みんなが黒髪黒目。生活も食べ物も全く違うし、あの国には魔法もなかった。魔力もこちらとは違うのかもしれない。何かしらの――召喚されたことによる影響で、この子が産まれたのね」
真偽の水晶は――思った通り発動しなかった。
そうよ、嘘じゃないもの。
嘘じゃないけど――。
こうなってしまったことへの不安感から、自然と目から涙がこぼれる。
これで誤魔化せる?
赤ん坊は――ユージとの子はどうなるの?
生まれながらに、この不安定な立場に巻き込んでしまったことへの罪悪感から、私は赤ん坊をそっと抱きしめた。
「ごめんよ、リリー! 僕が間違っていた。どんな外見だろうと関係ない。この子は、僕が認めた僕の子だ。僕が父親として、君とこの子を守っていくよ。だから、一瞬でも疑ったことを許してくれ」
「クリス……! ありがとう! 貴方がこの子と私を認めてくれるなら、私も、私の精一杯で貴方に尽くすわ」
王子が私と赤ん坊を抱きしめる。どうやら、危機は乗り切ったようだ。
王子のぬくもりを感じながら――私は決意した。
軽率な行動が引き起こす結果は身に染みて分かった。だから、王子が認めてくれるなら――信じてくれるなら。今度こそこの人だけを愛していこう、そう思った。
12
お気に入りに追加
303
あなたにおすすめの小説
公爵令嬢 メアリの逆襲 ~魔の森に作った湯船が 王子 で溢れて困ってます~
薄味メロン
恋愛
HOTランキング 1位 (2019.9.18)
お気に入り4000人突破しました。
次世代の王妃と言われていたメアリは、その日、すべての地位を奪われた。
だが、誰も知らなかった。
「荷物よし。魔力よし。決意、よし!」
「出発するわ! 目指すは源泉掛け流し!」
メアリが、追放の準備を整えていたことに。
婚約破棄されたのたが、兄上がチートでツラい。
藤宮
恋愛
「ローズ。貴様のティルナシア・カーターに対する数々の嫌がらせは既に明白。そのようなことをするものを国母と迎え入れるわけにはいかぬ。よってここにアロー皇国皇子イヴァン・カイ・アローとローザリア公爵家ローズ・ロレーヌ・ローザリアの婚約を破棄する。そして、私、アロー皇国第二皇子イヴァン・カイ・アローは真に王妃に相応しき、このカーター男爵家令嬢、ティルナシア・カーターとの婚約を宣言する」
婚約破棄モノ実験中。名前は使い回しで←
うっかり2年ほど放置していた事実に、今驚愕。
乙女ゲームの断罪シーンの夢を見たのでとりあえず王子を平手打ちしたら夢じゃなかった
月
恋愛
気が付くとそこは知らないパーティー会場だった。
そこへ入場してきたのは"ビッターバター"王国の王子と、エスコートされた男爵令嬢。
ビッターバターという変な国名を聞いてここがゲームと同じ世界の夢だと気付く。
夢ならいいんじゃない?と王子の顔を平手打ちしようと思った令嬢のお話。
四話構成です。
※ラテ令嬢の独り言がかなり多いです!
お気に入り登録していただけると嬉しいです。
暇つぶしにでもなれば……!
思いつきと勢いで書いたものなので名前が適当&名無しなのでご了承下さい。
一度でもふっと笑ってもらえたら嬉しいです。
道産子令嬢は雪かき中 〜ヒロインに構っている暇がありません〜
荒瀬ヤヒロ
恋愛
「レイシール・ホーカイド!貴様との婚約を破棄する!」
……うん。これ、見たことある。
ゲームの世界の悪役令嬢に生まれ変わったことに気づいたレイシール。北国でひっそり暮らしながらヒロインにも元婚約者にも関わらないと決意し、防寒に励んだり雪かきに勤しんだり。ゲーム内ではちょい役ですらなかった設定上の婚約者を凍死から救ったり……ヒロインには関わりたくないのに否応なく巻き込まれる雪国令嬢の愛と極寒の日々。
乙女ゲームの登場人物かく語りき
ぐう
恋愛
乙女ゲームは終わった。登場人物はそれぞれ罰せられ平穏が訪れた。そこにスキャンダルが詳細に書かれた小説本が発行され大騒ぎになった。当然ベストセラーになった。それから続々と小説本の登場人物が発行した出版社を訪れ言い分を言って帰るようになった。文句?訴訟なのか!と怯える社員だがそうでもなくみんな言いたいことがあるようだ。
乙女ゲームの登場人物かく語りき
さて真実はどこに!
最終話まで書き終わってますので、一日二話ずつ投稿してさっさと終わる短編です。
乙女ゲームの世界じゃないの?
白雲八鈴
恋愛
この世界は『ラビリンスは恋模様』っていう乙女ゲームの舞台。主人公が希少な聖魔術を使えることから王立魔術学園に通うことからはじまるのです。
私が主人公・・・ではなく、モブです。ゲーム内ではただの背景でしかないのです。でも、それでいい。私は影から主人公と攻略対象達のラブラブな日々を見られればいいのです。
でも何かが変なんです。
わたしは主人公と攻略対象のラブラブを影から見守ることはできるのでしょうか。
*この世界は『番とは呪いだと思いませんか』と同じ世界観です。本編を読んでいなくても全く問題ありません。
*内容的にはn番煎じの内容かと思いますが、時間潰しでさらりと読んでくださいませ。
*なろう様にも投稿しております。
オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!
みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した!
転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!!
前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。
とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。
森で調合師して暮らすこと!
ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが…
無理そうです……
更に隣で笑う幼なじみが気になります…
完結済みです。
なろう様にも掲載しています。
副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。
エピローグで完結です。
番外編になります。
※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。
モブ公爵令嬢は婚約破棄を抗えない
家紋武範
恋愛
公爵令嬢であるモブ・ギャラリーは、王太子クロード・フォーンより婚約破棄をされてしまった。
夜会の注目は一斉にモブ嬢へと向かうがモブ嬢には心当たりがない。
王太子の後ろに控えるのは美貌麗しいピンクブロンドの男爵令嬢。
モブ嬢は自分が陥れられたことに気づいた──。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる