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リリーside

16 自称ヒロイン前例を作る

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 私の前世。ピンク髪・ピンク目を持つ人間はとにかく頑丈だった。だから平均寿命も世界でトップ。病気にはかかるけど、薬さえ買えればよく効くし、ちょっとした交通事故くらいなら軽傷で済んでしまう。流石に私みたいにトラックで突っ込まれでもしたらアウトだけど。
 だから召喚されてしまったあの世界で。クラスで4番目のイケメンが車から子供をかばったくらいで骨折したのが不思議だった。軽なのに。
 頑丈なのは髪も一緒で、物理耐性が高いので魔術でしか染められない。だから、あの世界に魔法がないのなら地毛だろうと思い込んでしまったのだ。

 みんなが疑念に満ちた目で私を見ている。直接は言ってこないが、髪の色が、目の色が、とささやく声があちこちから聞こえてくる。前例がないそうだ。
 ただ、不思議なことに――出産時期が早かったことに言及する者はいなかった。聖女がらみでこちらは前例があるそうだ。

 なるほど。こちらの世界で問題になるのは、前例があるかないか。――私はそこに活路を見出した。



 出産を終え、身支度を整えて赤ん坊と共に待っていると。対面の場に、王子と神官長がやってきた。

 ドアを開け、不安そうな王子の顔が見えたとき。

 ああ、スチルの通りだな、と思った。クリア後のエンドロール。合間に流れる映像にこのシーンがあった。出産後と思われるヒロインの元に駆けつける王子様。不安げな顔は出産に臨んだヒロインを心配して……だと思っていたけど、まさか不貞を怪しんでの表情だとは思わなかった。
 王子の傍らには神官長。赤ん坊に祝福を授けるためについてきたのだろう。そんな神官長の手には記録用水晶があるのもスチル通り――ってあれ?何か違う。あれは……

 真偽の水晶!?

 ゲームのスチルでは記録用水晶だった筈なのに。
 それが、真偽の水晶に変わっていた。


 記録用水晶はゲームでは文字通り記録を残すアイテムだ。自分の好きなキャラとのイベントを記録したり、ムービーを記録したりして自分用のアルバムが作れる。
 そして、現実としてのこの世界では、写真やビデオの代わりに使われている。記録した映像や写真的なものがスイッチ一つで再生できるので、まるで前世の写真立てのように応接間の棚の上に並べられていたりする。

 一方の真偽の水晶はイージーモードでゲームを始めると入手できる魔道具だ。低レベル救済のための隠しイベントに出てくる敵がやたら嘘をついてくるのだが、見破れないと大ダメージを食らう仕様になっている。その時にこの魔道具があると簡単に真偽を見破れる。

 自分がどのモードにいるのか分からなかったが、念のため隠し場所に行ってみたら大量にゲットできた。ただ、この魔道具を使わなくても選択肢は全て暗記しているので特に必要はない。なので試しに売ってみたところ思いのほか高値だったので――大量に売っぱらって、実家のパン屋の業務拡大の資金にした。

 記録用水晶はその使用方法から、座りがいいようにバネのような台座がついているのだが、神官長の持つソレは飾り気のないただの玉。うっすらと乳白色の記録用水晶とは違い、まるで曇り一つ許さないとでもいうようにどこまでも透明で――。
 とにかく、これを持ち出しているということは。今、疑われているということだ。魔道具を使って確かめるほどに。


(大丈夫。あれは真偽を見抜く魔道具よ。つまり、嘘さえつかなければいい)

 実際。ゲームでは三年に上がってからの救済イベントで真偽の水晶でも見抜けないひっかけを使う敵が出てきた。あれを、敵を見習えばいいのよ。


「その……ご苦労だった。可愛い赤ん坊だ。僕には……あまり似てないようだが……髪とか目の……色とか。どういう……ことだろうか?」

「ごめんなさい。私のせいだわ。私が異世界に召喚されてしまったばかりに、その影響が……」

 私の言葉に、王子の目がはっと見開く。

 そう。これは嘘じゃない。こうなったのもすべて、あの世界に召喚されてしまった影響だもの。だって、思わないじゃない。ゲームの世界に転生して、他の世界に召喚されちゃうなんて。きっと、今までこんな前例なかったはず。
 だから、思いつくままに、それらしいことを語っていく。

「殿下もご存じでしょう? 私が召喚されてしまった国の人間が持つ特徴。揃ったように、みんなが黒髪黒目。生活も食べ物も全く違うし、あの国には魔法もなかった。魔力もこちらとは違うのかもしれない。何かしらの――召喚されたことによる影響で、この子が産まれたのね」

 真偽の水晶は――思った通り発動しなかった。

 そうよ、嘘じゃないもの。
 嘘じゃないけど――。

 こうなってしまったことへの不安感から、自然と目から涙がこぼれる。

 これで誤魔化せる?
 赤ん坊は――ユージとの子はどうなるの?

 生まれながらに、この不安定な立場に巻き込んでしまったことへの罪悪感から、私は赤ん坊をそっと抱きしめた。


「ごめんよ、リリー! 僕が間違っていた。どんな外見だろうと関係ない。この子は、僕が認めた僕の子だ。僕が父親として、君とこの子を守っていくよ。だから、一瞬でも疑ったことを許してくれ」

「クリス……! ありがとう! 貴方がこの子と私を認めてくれるなら、私も、私の精一杯で貴方に尽くすわ」

 王子が私と赤ん坊を抱きしめる。どうやら、危機は乗り切ったようだ。

 王子のぬくもりを感じながら――私は決意した。

 軽率な行動が引き起こす結果は身に染みて分かった。だから、王子が認めてくれるなら――信じてくれるなら。今度こそこの人だけを愛していこう、そう思った。



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