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クリスside

15 同窓会のお知らせ

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 息子を国外に出してから、リリーは泣いてばかりいた。夜もあまり眠れてないようだ。浅い眠りの中、

「ユージ、ユージごめんなさい」

と、毎日のようにうなされている。そういえばユージンが産まれた頃もよくうなされていた。

 あの頃は、夢に見るほど息子のことを思っているなんて、なんて愛情深い母親なんだと微笑ましく思っていたが、真偽の水晶でそれがユージンの本当の父親の名前であると知った今では憎しみしか覚えない。

 そばにいたくなくて自室に戻ると、僕は大切にしている小箱を手に取った。

 どうせ今夜はもう眠れない。

 こんなときは決まって、ヴィーナが刺繍してくれたハンカチを眺めながら、あり得たかもしれない幸せな未来に思いを馳せるのだ。


 こんな状態になっても寝室を分けることはできない。
 愛はなくとも後継となる子供は必要だ。

 娘に婿を取るか、リリーに新たに王子を産んでもらうしかない。

 前代未聞のそのスピード討伐により、伝説の聖女と呼ばれ、数々の支援で広告塔となっていたリリーは国民からの人気がすごい。とてもじゃないが離婚することは許されないだろう。

 しかし流石にもう信用はできないので監視は厳しくして外出も制限した。


 そんな愛のない生活が数年続いた、あるとき。

「同窓会のお知らせが届いたから行かせてほしい」

 ……とリリーが言ってきた。

 どうやら神殿経由で知らせが届いたらしい。
 心配ならついてきても構わない、同行者も一人までなら連れて行けるし、終わったら送り届けてもらえるから。
 そう、熱心に頼んできた。

 本来なら許されるべきじゃない。

 未来が狂うきっかけになった場所。
 今はもう手元にいない、愛しい息子の本当の父親のいる世界。しかし。

「もちろんヴィーナスさんも出席するわ」

 その言葉に僕は思ってしまった。



 これは、全てをやり直すチャンスだと。






 その後のことは思い出したくもない。

 そして結論だけ言えば。
 リリーは帰ってこなかった。



 その後。
 リリーがいなくなったことに失望した国民は僕を悪者にし始めた。
 ヴィーナにしたように、リリーも異世界に置き去りにしてきたのではないかと。

 リリーに裏切られ一人の女性を深く愛することが怖くなった僕は後宮を作った。そして何人もの側妃を娶った。その生活は気楽で、僕の性に合っているようだった。

 しかし生き写しの娘に嫌われた。

 それから十年。

 隣国から知らせが届いた。王配として追いやった息子と第一王女との間に癒しの力を持つ「聖女」が誕生したらしい。

 あれから我が国に聖女は誕生していない。

 優秀な神官が去った我が国では、魔物の小規模な襲撃ですら耐えるのが難しくなった。

 そろそろ次の大規模襲撃に備えなければならないのに。

 いざというときには助けてもらおうと、隣国の息子に出した手紙に返事はなかった。
 僕は恨まれているらしい。


 僕は間違えてばかりだ。


 ヴィーナの力を独り占めしたいのなら、誰にも言ってはいけなかった。

 未練があるならヴィーナを異世界に置き去りにしてはいけなかった。

 リリーのことを信じると決めたならもう疑ってはいけなかった。

 国を憂う者の命懸けの忠告をなかったことにしてはいけなかった。

 息子を愛するなら手放してはいけなかった。

 ……妃には貞淑な女を選ばねばいけなかった。

 娘には一途な愛情を見せるべきだった。



 ――僕は全ての選択を間違えた。




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