14 / 64
クリスside
2 すれ違い
しおりを挟む第二王子だった父が後継者と決まったことにより、ヴィーナの父親である第一王子は王位継承権を放棄して公爵となり、家族と共に王宮を出て新しい屋敷へと移って行った。毎日遊んでいたヴィーナと離れるのは寂しかったけれど、月に一回会える婚約者としてのお茶会が楽しみになった。
この頃の僕は、この婚約をとても前向きに受け入れていたのだ。
七歳になり、ヴィーナの聖女教育が始まってから、全てが変わった。
魔物の大規模襲撃は数十年に一度だが、小規模なものは日常的にある。聖女は魔物との戦い方をそこで学ぶのだ。
ヴィーナがあちらこちらへ行くようになってから、彼女は急に大人びてしまった。
魔物の被害に遭う国民と直に接するようになって、思うところがあったらしい。
聖女教育が進む度、ヴィーナから無邪気な笑顔が消えていく――。
僕はそれが嫌だった。
「国が、民が」とヴィーナがやたらそれを気にかけるようになって。難しい顔をしてそれを言われる度に自分が後回しにされているようで面白くなかった。
あるとき、久しぶりの二人きりのお茶会にバッタが乱入してきた。外でのお茶会はこういうことがあるから面白い。僕はちょっと彼女にイタズラがしたくなり、バッタを捕まえて彼女に見せた。
「お茶会に飛び入りのお客さんが来たよ」
昔、一緒に虫取りをして遊んでいた頃のように「見せて!」とはしゃぐか。その後大きくなるにしたがって虫に触れなくなってしまったから「きゃあ!」と叫ぶか。その反応が見たいだけだった。なのに。
「先日、魔物の討伐で行った穀倉地帯に小規模な蝗害があったそうです。ただでさえ魔物の襲撃で被害があったばかり。国民の為にも広がる予兆でなければいいのですが……」
と、真剣な顔をしてバッタを見ていた。僕はなんとなくつまらなくなって、バッタを逃がした。
魔物は時も場所も選ばない。お茶会の予定を急にすっぽかされたり、パーティーに一緒に出られなかったりと、会えないことが増えてきた。
何年かすると父は王として即位し、僕は正式に王太子という立場になった。僕の王太子教育とヴィーナの王太子妃教育が始まり、忙しくなったのを言い訳にして――僕は、ヴィーナと距離をとるようになった。
すると時折、彼女から刺繍の入ったハンカチが届くようになった。
誕生日や何かの記念日。折につけ届くそれは最初は拙い酷い出来だったが、みるみる上達していき、それは見事な仕上がりになっていった。
ハンカチに添えられている手紙によると、聖女教育や王太子妃教育の合間に僕のために刺しているらしい。
見るからに手の込んだ、時間がかかっていそうな刺繍。どのくらいの労力と時間が、僕の為に使われたのか。目に見えて分かるそれを貰うのは悪くない気分だった。
ヴィーナと距離はとっていたが――これだけは特別な箱に大切に仕舞っておいた。
34
お気に入りに追加
322
あなたにおすすめの小説
二人の男爵令嬢の成り上がり!でも、結末は──
naturalsoft
恋愛
オーラシア大陸の南に姉妹国と呼ばれる二つの国があった。
西側のアネーデス王国
東側のイモート王国
過去にはお互いの王族を嫁がせていた事もあり、お互いにそれぞれの王族の血が受け継がれている。
そして、アネーデス王国で周辺国を驚かすニュースが大陸を駆け抜けた。
その国のとある男爵令嬢が、王太子に見初められ【正しい正規の手続き】を踏んで、王太子妃になったのである。
その出来事から1年後、隣のイモート王国でも、その国の男爵令嬢が【第一王子】の【婚約者】になったと騒がれたのだった。
しかし、それには公衆の面前で元婚約者に婚約破棄を突き付けたりと、【正規の手続きを踏まず】に決行した悪質なやり方であった。
この二人の結末はいかに──
タイトルイラスト
素材提供
『背景素材屋さんみにくる』
ゲームと現実の区別が出来ないヒドインがざまぁされるのはお約束である(仮)
白雪の雫
恋愛
「このエピソードが、あたしが妖魔の王達に溺愛される全ての始まりなのよね~」
ゲームの画面を目にしているピンク色の髪の少女が呟く。
少女の名前は篠原 真莉愛(16)
【ローズマリア~妖魔の王は月の下で愛を請う~】という乙女ゲームのヒロインだ。
そのゲームのヒロインとして転生した、前世はゲームに課金していた元社会人な女は狂喜乱舞した。
何故ならトリップした異世界でチートを得た真莉愛は聖女と呼ばれ、神かかったイケメンの妖魔の王達に溺愛されるからだ。
「複雑な家庭環境と育児放棄が原因で、ファザコンとマザコンを拗らせたアーデルヴェルトもいいけどさ、あたしの推しは隠しキャラにして彼の父親であるグレンヴァルトなのよね~。けどさ~、アラブのシークっぽい感じなラクシャーサ族の王であるブラッドフォードに、何かポセイドンっぽい感じな水妖族の王であるヴェルナーも捨て難いし~・・・」
そうよ!
だったら逆ハーをすればいいじゃない!
逆ハーは達成が難しい。だが遣り甲斐と達成感は半端ない。
その後にあるのは彼等による溺愛ルートだからだ。
これは乙女ゲームに似た現実の異世界にトリップしてしまった一人の女がゲームと現実の区別がつかない事で痛い目に遭う話である。
思い付きで書いたのでガバガバ設定+設定に矛盾がある+ご都合主義です。
いいタイトルが浮かばなかったので(仮)をつけています。
追放された令嬢は英雄となって帰還する
影茸
恋愛
代々聖女を輩出して来た家系、リースブルク家。
だがその1人娘であるラストは聖女と認められるだけの才能が無く、彼女は冤罪を被せられ、婚約者である王子にも婚約破棄されて国を追放されることになる。
ーーー そしてその時彼女はその国で唯一自分を助けようとしてくれた青年に恋をした。
そしてそれから数年後、最強と呼ばれる魔女に弟子入りして英雄と呼ばれるようになったラストは、恋心を胸に国へと帰還する……
※この作品は最初のプロローグだけを現段階だけで短編として投稿する予定です!
【R15】婚約破棄イベントを無事終えたのに「婚約破棄はなかったことにしてくれ」と言われました
あんころもちです
恋愛
やり直しした人生で無事破滅フラグを回避し婚約破棄を終えた元悪役令嬢
しかし婚約破棄後、元婚約者が部屋を尋ねに来た。
婚約破棄の『めでたしめでたし』物語
サイトウさん
恋愛
必ず『その後は、国は栄え、2人は平和に暮らしました。めでたし、めでたし』で終わる乙女ゲームの世界に転生した主人公。
この物語は本当に『めでたしめでたし』で終わるのか!?
プロローグ、前編、中篇、後編の4話構成です。
貴族社会の恋愛話の為、恋愛要素は薄めです。ご期待している方はご注意下さい。
婚約破棄ですか?それは死ぬ覚悟あっての話ですか?
R.K.
恋愛
結婚式まで数日という日──
それは、突然に起こった。
「婚約を破棄する」
急にそんなことを言われても困る。
そういった意味を込めて私は、
「それは、死ぬ覚悟があってのことなのかしら?」
相手を試すようにそう言った。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
この作品は登場人物の名前は出てきません。
短編の中の短編です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる