上 下
13 / 64
クリスside

1 聖女の力

しおりを挟む

 僕の選択は間違っていなかった――。

 婚約者だったヴィーナを国外追放にし、聖女として新たに僕の婚約者となったリリーの戦い方を見て――僕は心からそう思った。



 ヴィーナと僕が婚約したのは五歳のときだった。

 第二王子だった父が急に後継者として指名され、その混乱の中、僕とヴィーナの婚約も結ばれた。「第一王子の娘であるヴィーナは聖女ではないか」そんな噂が王宮内に広まっていた時期だった。

 この世界には数十年に一度、魔物の大規模な襲撃がある。それに対抗できる力を持つ聖女の存在はとても重要視されており、役目を終えた後も大体が王族か高位の貴族と婚姻を結ぶことになる。国に更なる繁栄をもたらすとされているからだ。

 急ではあったが、ヴィーナが聖女であるとされた以上、王族である僕と婚約を結ぶのはとても自然なことだったし、特に慌てることもなかった。
 それに――。

 僕はヴィーナが聖女であることに薄々気が付いていた。

 第一王子の子供と第二王子の子供。その違いはあれど、歳が同じだったこともあり、僕とヴィーナは小さい頃から仲が良かった。

 虫取りをしたり、かくれんぼをしたり。

 王宮内なら自由に遊べたため、僕らはいつも一緒に遊んでいた。そして、ケガをする度に僕は彼女にこっそり治してもらっていたのだ。

 ケガを跡形もなく治す。

 そんなことはとんでもなく高額のポーションを飲むか、高位の神官に長時間の祈りを奉げてもらうか。それくらいでしかありえない。

 それをヴィーナはケガだけでなく、破れてしまった服まで元通りにしてしまうのだ。しかも、一瞬で。

 それは不思議な感覚で――ひと言で言えば、とても気持ちが良かった。

 暖かいものが体に流れ込んでくるような。
 寒い夜に人肌で温めてもらうような。

 細胞の一つ一つが喜びに溢れるような感覚を、僕は他に知らない。あまりに心地が良くて、たいしたケガではないときも、大袈裟に痛がって治してもらっていたくらい。

 ただ、彼女は何故かその力を隠していて、僕のケガを治してくれるときも「内緒よ」と言うのを忘れなかった。

 不思議ではあったけど、その不思議な力を僕にだけ使ってくれる。そのことに満足していたから、僕もヴィーナの力のことは黙っていた。
 でも――。

 少し大きくなるとそれだけでは満足できなくなって、誰かに自慢したくなった。だから大好きな乳母にだけ、こっそり自慢した。

 それで、噂が広まってしまったらしい。

 婚約者としての初めてのお茶会で、「内緒って言ったのに――」とヴィーナに悲しそうに言われてしまった。

 僕は自慢するときに乳母にちゃんと「内緒だよ?」と言った。だから、僕は悪くない。



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

私とは婚約破棄して妹と婚約するんですか?でも私、転生聖女なんですけど?

tartan321
恋愛
婚約破棄は勝手ですが、事情を分からずにすると、大変なことが起きるかも? 3部構成です。

国王ごときが聖女に逆らうとは何様だ?

naturalsoft
恋愛
バーン王国は代々聖女の張る結界に守られて繁栄していた。しかし、当代の国王は聖女に支払う多額の報酬を減らせないかと、画策したことで国を滅亡へと招いてしまうのだった。 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆ ゆるふわ設定です。 連載の息抜きに書いたので、余り深く考えずにお読み下さい。

悪『役』令嬢ってなんですの?私は悪『の』令嬢ですわ。悪役の役者と一緒にしないで………ね?

naturalsoft
恋愛
「悪役令嬢である貴様との婚約を破棄させてもらう!」 目の前には私の婚約者だった者が叫んでいる。私は深いため息を付いて、手に持った扇を上げた。 すると、周囲にいた近衛兵達が婚約者殿を組み従えた。 「貴様ら!何をする!?」 地面に押さえ付けられている婚約者殿に言ってやりました。 「貴方に本物の悪の令嬢というものを見せてあげますわ♪」 それはとても素晴らしい笑顔で言ってやりましたとも。

大好きな第一王子様、私の正体を知りたいですか? 本当に知りたいんですか?

サイコちゃん
恋愛
第一王子クライドは聖女アレクサンドラに婚約破棄を言い渡す。すると彼女はお腹にあなたの子がいると訴えた。しかしクライドは彼女と寝た覚えはない。狂言だと断じて、妹のカサンドラとの婚約を告げた。ショックを受けたアレクサンドラは消えてしまい、そのまま行方知れずとなる。その頃、クライドは我が儘なカサンドラを重たく感じていた。やがて新しい聖女レイラと恋に落ちた彼はカサンドラと別れることにする。その時、カサンドラが言った。「私……あなたに隠していたことがあるの……! 実は私の正体は……――」

追放された令嬢は英雄となって帰還する

影茸
恋愛
代々聖女を輩出して来た家系、リースブルク家。 だがその1人娘であるラストは聖女と認められるだけの才能が無く、彼女は冤罪を被せられ、婚約者である王子にも婚約破棄されて国を追放されることになる。 ーーー そしてその時彼女はその国で唯一自分を助けようとしてくれた青年に恋をした。 そしてそれから数年後、最強と呼ばれる魔女に弟子入りして英雄と呼ばれるようになったラストは、恋心を胸に国へと帰還する…… ※この作品は最初のプロローグだけを現段階だけで短編として投稿する予定です!

婚約破棄された悪役令嬢が聖女になってもおかしくはないでしょう?~えーと?誰が聖女に間違いないんでしたっけ?にやにや~

荷居人(にいと)
恋愛
「お前みたいなのが聖女なはずがない!お前とは婚約破棄だ!聖女は神の声を聞いたリアンに違いない!」 自信満々に言ってのけたこの国の王子様はまだ聖女が決まる一週間前に私と婚約破棄されました。リアンとやらをいじめたからと。 私は正しいことをしただけですから罪を認めるものですか。そう言っていたら檻に入れられて聖女が決まる神様からの認定式の日が過ぎれば処刑だなんて随分陛下が外交で不在だからとやりたい放題。 でもね、残念。私聖女に選ばれちゃいました。復縁なんてバカなこと許しませんからね? 最近の聖女婚約破棄ブームにのっかりました。 婚約破棄シリーズ記念すべき第一段!只今第五弾まで完結!婚約破棄シリーズは荷居人タグでまとめておりますので荷居人ファン様、荷居人ファンなりかけ様、荷居人ファン……かもしれない?様は是非シリーズ全て読んでいただければと思います!

護国の聖女、婚約破棄の上、国外追放される。〜もう護らなくていいんですね〜

ココちゃん
恋愛
平民出身と蔑まれつつも、聖女として10年間一人で護国の大結界を維持してきたジルヴァラは、学園の卒業式で、冤罪を理由に第一王子に婚約を破棄され、国外追放されてしまう。 護国の大結界は、聖女が結界の外に出た瞬間、消滅してしまうけれど、王子の新しい婚約者さんが次の聖女だっていうし大丈夫だよね。 がんばれ。 …テンプレ聖女モノです。

婚約破棄された悪役令嬢は聖女の力を解放して自由に生きます!

白雪みなと
恋愛
王子に婚約破棄され、没落してしまった元公爵令嬢のリタ・ホーリィ。 その瞬間、自分が乙女ゲームの世界にいて、なおかつ悪役令嬢であることを思い出すリタ。 でも、リタにはゲームにはないはずの聖女の能力を宿しており――?

処理中です...