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クリスside
1 聖女の力
しおりを挟む僕の選択は間違っていなかった――。
婚約者だったヴィーナを国外追放にし、聖女として新たに僕の婚約者となったリリーの戦い方を見て――僕は心からそう思った。
ヴィーナと僕が婚約したのは五歳のときだった。
第二王子だった父が急に後継者として指名され、その混乱の中、僕とヴィーナの婚約も結ばれた。「第一王子の娘であるヴィーナは聖女ではないか」そんな噂が王宮内に広まっていた時期だった。
この世界には数十年に一度、魔物の大規模な襲撃がある。それに対抗できる力を持つ聖女の存在はとても重要視されており、役目を終えた後も大体が王族か高位の貴族と婚姻を結ぶことになる。国に更なる繁栄をもたらすとされているからだ。
急ではあったが、ヴィーナが聖女であるとされた以上、王族である僕と婚約を結ぶのはとても自然なことだったし、特に慌てることもなかった。
それに――。
僕はヴィーナが聖女であることに薄々気が付いていた。
第一王子の子供と第二王子の子供。その違いはあれど、歳が同じだったこともあり、僕とヴィーナは小さい頃から仲が良かった。
虫取りをしたり、かくれんぼをしたり。
王宮内なら自由に遊べたため、僕らはいつも一緒に遊んでいた。そして、ケガをする度に僕は彼女にこっそり治してもらっていたのだ。
ケガを跡形もなく治す。
そんなことはとんでもなく高額のポーションを飲むか、高位の神官に長時間の祈りを奉げてもらうか。それくらいでしかありえない。
それをヴィーナはケガだけでなく、破れてしまった服まで元通りにしてしまうのだ。しかも、一瞬で。
それは不思議な感覚で――ひと言で言えば、とても気持ちが良かった。
暖かいものが体に流れ込んでくるような。
寒い夜に人肌で温めてもらうような。
細胞の一つ一つが喜びに溢れるような感覚を、僕は他に知らない。あまりに心地が良くて、たいしたケガではないときも、大袈裟に痛がって治してもらっていたくらい。
ただ、彼女は何故かその力を隠していて、僕のケガを治してくれるときも「内緒よ」と言うのを忘れなかった。
不思議ではあったけど、その不思議な力を僕にだけ使ってくれる。そのことに満足していたから、僕もヴィーナの力のことは黙っていた。
でも――。
少し大きくなるとそれだけでは満足できなくなって、誰かに自慢したくなった。だから大好きな乳母にだけ、こっそり自慢した。
それで、噂が広まってしまったらしい。
婚約者としての初めてのお茶会で、「内緒って言ったのに――」とヴィーナに悲しそうに言われてしまった。
僕は自慢するときに乳母にちゃんと「内緒だよ?」と言った。だから、僕は悪くない。
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