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本編

9 悪役令嬢と迎えに来た婚約者

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 翌日。二人が元の世界へと帰国する日。オカルト研究会がまた余計なことをやらかしていた。

 既にある魔法陣を発動させて二人を元の世界に戻すだけで良かったのに、それとは別に二つの魔法陣を作り上げていた。

 なんでも往復魔法陣をあえて二つに分けることにより、エネルギーの充電効率を上げて、往路、復路両方共に本日使えるようにしたそうだ。――で、それを使い第一王子とその護衛が二人を迎えに来るらしい。

 厄介ごとの予感しかしない。

 そうしてやってきた第一王子は文句なくイケメンだった。面差しは悪役令嬢とよく似ている。

 輝くような金髪に神秘的な紫色の目。

 ただ、悪役令嬢の方が少し目の色は薄い。紫色の目は王家の血を受け継ぐ証拠だと言っていた。彼女は王兄の娘と言っていたから、関係的にはいとこになるのだろう。雰囲気が似ているのも頷ける。

 魔法陣から出てきた第一王子は悪役令嬢を見るなり、ビックリしたように目を見開いた。何か意外なものでも見たように、目をパチパチとさせている。

「ヴィーナ……か?」
「お久しぶりでございます殿下」

 久しぶりに彼女のカーテシーを見た。最初のころはよくやっていたが、最近はまったく見ていなかった。それでも完成度は変わっていない。相変わらず自然でとても美しかった。

 俺は召喚当時の生徒会長として、悪役令嬢の世話係としてこの場にいることを許されたが、発言は許されていない。王族がいるので防犯上、少し離れたところから見ているだけだ。同様に、自称ヒロインの世話係の委員長も横にいる。残りの立会人は諸悪の根源のオカルト研究会の連中と、学校関係者。二人の無事な帰国をハラハラと見守っている。

 思ったよりも和やかな様子に安堵したが、それも最初だけだった。第一王子が、魔法陣のある部屋……オカルト研究会の部室に積み上げられた荷物に目をやって、眉を顰めた。

「この荷物はなんだ?」
「ああ、これは『非常用袋』です」

 非常食、体温低下を防ぐ保温シート、救急セット……。その他色々、彼女と俺で吟味して使えそうなものをセットにした。全て、100均で揃えたものだ。ちなみに家に大量に余っていたフリース素材の膝掛けも俺からの提供品として入っている。
 役に立って、片付いて良かった。

「魔物の襲撃が近いですから。これがあれば、国民の被害が抑えられるかと――」
「はあ……」

 段ボールから非常用袋を出して、その中身を真剣に説明する悪役令嬢の言葉に第一王子の顔はみるみる曇り、ついにはあからさまな溜息で言葉を遮った。

「久しぶりの再会だというのに、相変わらず国のことばかりだな。僕には土産一つないのか」
「い……いえ! その、後でお渡ししようと思っていたのですが、殿下にはこれを」

 そう言って悪役令嬢がカバンから出して渡したのは、奇麗にラッピングされた小さな包み。中身は……あのハンカチだ。

 袋からハンカチを取り出した第一王子は、一瞬、その品質に感心したような表情を見せたが、すぐにその表情を変える。

「ヴィーナ……君には失望したよ。高級品さえ用意すれば僕が喜ぶとでも思っているのかい?」
「え……」
「それに、この非常用袋とやら。他国に金を出させて用意したのだろう? こちらの国から、召喚された二人のうちの片方の浪費が酷いと苦情が来ているよ。意図せずこちらへ連れて来られたとはいえ、身分を笠に着るようなマネはどうかと思う。君はもう少し、庶民の暮らしというものに目を向けるべきだ」

「何言って……」
 あまりの言い草に思わず声が漏れた。
 何なんだコイツ、勝手に決めつけて。悪役令嬢は決して贅沢などしていない。非常用袋の購入代金は、支給された生活費を彼女自身が切り詰めて用意したものだ。オシャレしたい年頃だろうに洋服も買わず、昼飯代すら切り詰めて。

 毎日うどん食って節約に励んでいた彼女の苦労を知りもせずにいい加減なこと言うんじゃねえよ。少しでも安く揃えられるようにと100均を回ってた姿、見てもいないクセに……!

 周囲の目が、こちらに向く。ひとこと言ってやろうとしたが、悪役令嬢が小さく首を振って俺を止めた。俺は吐き出したい怒りを、必死に抑え込む。



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