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14 家族の襲来

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 そうやって王子妃教育に勤しんでいたある日のこと。
 城内が少し騒がしいことに気が付いた。

 あの日から伯爵家には戻っていないので、私はずっとお城に住み込みで王子妃教育を受けている。
 最初は緊張したものの、日常生活から細かく指導をしてもらえるし、慣れてしまえば余計な移動の時間が取られないため無駄な時間をその分勉強に充てられるので、これはこれで悪くない。

 なんといっても、大好きな王子様のすぐ近くに居られるし。

 ……まぁ、その王子様が『人型』なのにはまだ慣れないけどね。隙を見ては膝に乗ってきていたあの王子様が、隙を見せると私を膝に乗せようとしてくるんだもの。とてもじゃないけど慣れる気がしない。

 今日もいつものように、出来るだけ隙を見せないようにしながら婚約者(仮)であるアスク殿下と勉強の合間のお茶を楽しんでいたら、途中で彼の側近が現れてすぐに席を外してしまった。


 ――――おかしい。


 このお茶の時間はアスク殿下の希望で始まった物だ。

 だから彼はいつもこのお茶の時間だけは誰にも邪魔をさせないし、何なら今日だって急に入ってきた側近からコソッと何か耳打ちをされるまではあからさまに不機嫌な顔をしていた。

 それが、報告を聞いた後は急に何てことない、何食わぬ顔で席を外したのだ。


 ……それを見てピンときた。


 あの顔は彼が猫だった頃。
 嫌がらせを受けた私の為に、こっそりと妹に仕返しを企てたときの顔だ。

 夜中に妹の嫌いな虫を枕元に置いてきて、翌朝になって聞こえてくる妹の叫び声を聞きながら何食わぬ顔で朝の散歩に出かけた時の王子様と同じ表情をしている……。

 何だかメイド達の様子もおかしいし、いつもは『休憩も大事です』とか言って隙あらば私を休憩させようとしてくる教育係の先生が、授業時間を延長してまで指導してくれる大盤振る舞い。

 流石にこれはおかしいと気が付いて、先生への質問を適度に切り上げさり気なく調べたところ、私の父親がお城にやってきていることが分かった。

 王子様は私に余計な心労を与えないように、隠れてこっそりと片を付けるつもりのようだ。


 王子様のこういうところは猫だった時から変わらない。私の為に、隠れて自分が手を汚そうとする。

 だけど――私はこれから王子妃になろうとしているのだ。
 少なくともその為に頑張っている。

 だからこそ今までの様に守られてばかりではいけないし、ことこの件に関しては王子様に任せきり、という訳にはいかないだろう。


 形だけとはいえ自分の家族のことなのだから――。


「――――よし!」


 私は意を決すると、ある場所に行くべく部屋を出た。




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