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5 通じる心
しおりを挟むメイドは身動きすら出来なくなっている私を見て、艶めかしい唇を釣り上げ不敵に笑った。そしてメイドとは思えぬほど美しく整えられたキレイな指を公爵様の下半身へと伸ばし。
「だからどうか閨事のお相手ならこの私をご指名くださ……」
「出て行け」
「ご、ご主人様……?」
「今すぐにこの邸から出て行け。公爵夫人である彼女を蔑ろにする者をこの邸に置く訳にはいかない。ああ、ネックレスは置いて行けよ。……このネックレスは消毒が必要だな。勘違いメイドの穢れが付いてしまった。このままでは穢れを知らぬ彼女に着けられない。まったく仕事をしない上に余計な手間を――」
「な……っ! 御主人様あんまりですわ! いいんですか!? 真実を言いふらしてもよろしいんですわよ? それがお嫌なら……」
「好きにしろ。……ただし、言えるものならな」
「な……っ!?」
「紹介状を書いてもらえると思うなよ。まあ、そうでなくても雇い主に色仕掛けをしてくるメイドを迎え入れたい家などあるはずもない。こちらもしっかりと言いふらしてやらんとな。いや、ネックレスを盗んだことを騎士団に通報した方が早いか……おい、このメイドを連れていけ」
「あっ、も、……申し訳ありません! 申し訳ありません! それだけは勘弁してください……御主人様! 御主人様ああああ…………!!」
騒ぎを聞きつけた使用人がいつの間にか集まってきていたようだ。公爵様が指示を出すと、集まっていた公爵家の護衛騎士がメイドを引きずっていった。
「すっかり冷めてしまったな。おい、誰か新しいお茶を用意してくれ」
部屋に、紅茶のいい香りがただよう。
新たな紅茶を持ってきたメイドはすぐに下がり、部屋には私と公爵様だけとなった。ようやく恐怖からは解放されたが、不安感を拭い去ることはできない。
「……すぐに気が付いてやれなくて済まない。怖かっただろう」
そう言って。私を抱き寄せる公爵様の方が震えていることに気が付いた。どうして? だって、私はお飾りで、メイドに言い返すことすら出来ない役立たずで……。
「もう、私には君のいない生活は考えられない。いいや、考えたくないんだ。あのメイドが君に暴言を吐くのを聞いて、怒りで頭が真っ白になった。もう誰にも傷つけさせない。フェデルタ、私は君を愛している。どうか、最後まで私と一緒に居てくれ……」
公爵……様…………!
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