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8 第一王子参戦
しおりを挟む――あれは……兄上? ガゼボに二人きりで仲睦まじくお茶なんて。もしや王国認定魔女殿と兄上は……うう。どうしよう胸が苦しいよ。あっ! こっち見た! キャ――♡ ――
――大丈夫ですわ、第二王子殿下。ホラ、影が屋根と湖の中と庭師に扮してついております。おそらくはただの作戦会議でしょう。うふふ、照れる殿下可愛い――
「…………」
ジロリ。
……「キャ――♡」……
遠くから黄色い歓声だけが小さく聞こえてくる。その他の言葉は盗聴魔法だ。魔力と引き換えに精霊に言葉を届けてもらっている。結構、魔力使います。はあ……。
「さあ、食べたまえ。この一カ月何の成果もなく無駄な魔力を使い、労力を重ね、さぞや疲れたことだろう」
「いただきます……」
そうか……既に一カ月……。そんなになるのか。魔法書と縁が出来て大概の魔法は使えるようになったけど、魔法を解放するきっかけとなった魅了魔法は第二王子殿下にかかったままだ。
「魔力ベリーのケーキを用意したんだ。ほら、私のベリーも食べるといい。魔力の回復が早まるらしいぞ」
魔力ベリーは魔力を注いで作られたというベリー。それ自体が高い魔力を持つという。魔法が廃れているこの大陸ではエルフ族が家庭菜園で細々と作っている物が稀に市場に出てくるらしい。需要が無い分貴重品だ。
もはや疲れ切っている私はあまり何も考えず、第一王子によってフォークの先に刺して口元へと差し出されたソレを口にした。途端に、悲鳴が運ばれてくる。
――ぴゃっ! あーん! 今、あーんした!! やはり二人は……――
――落ち着かれなさいませ! 公爵家の調べによりますと第一王子殿下が希少な魔力ベリーをお探しだったと報告が上がっていました。ほら、あの鮮やかな赤い実。アレがそうです。おそらく魔女様は何も考えず魔力の回復に努めておられるだけですわ。それだけのことです――
――でも見ていられないよ。あっ、こっち見たキャ――♡ ――
…「キャ――♡」…
少し、黄色い歓声が近づいた気がする。そう、コレは第一王子殿下が立てた作戦だ。あえてよく見える所に私がいることで、あちらからこちらへと近づかせる。
中々にうまくいっているらしい。
あの日。第一王子殿下に協力を打診された私は怪しみつつもそこに縋った。国王陛下から騎士団や王家の影を動かすことは禁止されているが、個人的に誰かに協力をしてもらうことについては許可をもらっている。それが第一王子だっただけのこと。
しかし、彼にどんなメリットがあるというのだろうか。相変わらず無表情の彼からは明確な答えが導き出せない……。
――ああ! 兄上があんなに楽しそうに――
――大丈夫です。ピクリともお顔は動いていませんわ――
――それこそが兄上の感情表現なんだよ。表情が消えるほど別のことに夢中になっているときの! ああっあんなに無表情になるなんて、よほど……。キャ――♡ ――
「よほど……キャ――♡」
「ふむ……大分あちらから近づいてきたようだ。そろそろこちらの会話も聞こえるか。時刻も丁度いいし、少々付き合ってもらおうか。ああ、魔女殿。君はそのままで」
「え……ちょっ、キャ――っ!?」
第一王子殿下が椅子に座っている私を両手で軽々と抱き上げた。
動けないようにガッチリ胸元に抱き寄せられているせいで視認はできないが近くの茂みから声がする。
「キャーって! キャーって言った!! 何だよ、黄色い悲鳴を上げちゃって……。ああっ君、行かないで」
いや……もう、ソレこっちのセリフです……っ!!!
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