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番外編

22 引退コンサートと握手会

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 そこからはあっという間だった。彼女は修道院を出ることが決まり、次のチャリティーイベント終了後に引退コンサートが開かれることになった。彼女の希望で、最後に握手会も開催される。


 夕暮れ時。他の修道女の歌やダンスが終わった後、彼女のための引退コンサートが始まった。ここのところ人気に陰りがみられていたが、それでも修道女人気の立役者となった彼女の最後を見届けようと、たくさんの人が集まった。

「みんな~今日は来てくれてありがとう☆ 私の最後のステージ、楽しんでください」

 次々と、彼女の持ち歌が披露された。聞いたことがあるものも、ないものもあった。全盛期の彼女はあまり知らないが、どれも素晴らしいものだ。

 俺はいつもの席でその様子を眺めていた。ただ、この日だけは認識阻害は使わなかった。姿を消したままじゃ握手会に参加できないからだ。何故だかどうしても……俺は彼女と握手がしたかった。周囲の目が少しだけ心配だったが、この日はみんなこちらを気にしてなどいなかった。注目を集めるのはこの日の主役。伝説の修道女モモリーだ。

 神様☆お願い♪……と彼女は歌う。
 
 彼に元気を届けて欲しい。彼女に勇気を届けて欲しい。皆に愛を届けて欲しい。

 そんな願いを……彼女は修道女として。神に、観客に、それを歌で呼びかける。

「「「真実の愛の名のもとに☆」」」 はい!
 ……少しだけ独特な節回しで。 これ好き……トン!

 時折、会場と声を合わせながら――観客と声を掛け合って歌う様子が楽し気で、会場はとても盛り上がった。捕食すると光る、発光スライムを使用した携帯用のライトが観客席から振られていて。
 それに照らされる彼女はとても輝いていた。



 そして、最後の握手会。自身も疲れているだろうに、彼女は観客一人一人に、持ち前の魔力でヒールをかけていた。少しずつ、少しずつ。思えば、歌にも少し魔力がこもっていた気がする。だからこそ、彼女の歌を聞くと元気が出ていたのかもしれないな。そんなことを思っているうちに、あっという間に自分の順番がきた。

 今までたくさん話はしたが、触れ合ったことは一度もない。ずっとずっと彼女のステージは見ていたけれど。……ずっと?
 彼女に向かって手を伸ばす。今度こそ……今度こそ?


 ……もやり……もやり、もやり、もやり、もやり……


 今までにない規模の混乱が頭を襲う。駄目だ、考えるな。あとちょっと、あとちょっとで。

 ぎゅっ♡

 ああ、やっと……。
 待ち望んだ彼女の温もりを右手に感じたその瞬間。


 俺は意識を手放した。




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